初めてたんばらに引っ越してきた冬、家の裏で遭難しかけた話の続きです。
時期は多分、一月半ば。今から考えれば雪の少ない年だったんだと思います。
生まれも育ちも三重県の私は、友達に騙されて連れていかれた(この話もいつか機会があれば……)スキーをきっかけに雪の世界に魅せられ、それでついには雪山に引っ越してきました。
当時雪山のことは全く知りませんでした。
だから、ふと、ある暇な午後、家の裏の森の中へ探検に行ってみたい、と思い立ったのです。
かなり雪が少なかったようで、長靴でもがんばれば歩けるくらいの積雪でした。
それで私は、ペンションの裏の緩やかな斜面を降りていきました。
その時は、それまで暗く曇っていた空から、ちょうど雪が舞い始めたときでした。
雪はだんだん激しくなってきます。
「ああ、やっぱり雪国の降り方はちがうなぁ」
なんて、私はのんびり考えていました。
そのまま、ほんの数十メートル進むと、斜面がきつくなってきます。
そこで私は、何かの雑誌で読んだとおり、斜面をまっすぐに降りるのではなく、ジグザグに降りていきます。こうすれば、かなりの斜度でも降りられます。
でも、しばらく進むと、さすがにそれ以上長靴で降りるのは困難になってきました。雪も激しくなってきていたので、すこし不安でした。
これ以上進むと危なそうなので、家に戻ろうと来た方向を振り返りました。
ところが、その時には降雪はますます強くなり、あたり一面真っ白で、ジグザグに歩いてきた私は、どっちから来たのか全く分からなくなっていました。
「そうか、こういう時は自分の足跡をたどればいいんだ!」
これも多分何かで読みました。
でも、激しい降雪は、すでに私の足跡をほとんど消していました。
だんだん吹雪が激しくなって、その時にはホワイトアウト寸前。
当時は携帯電話もない頃です。
私はパニックになりました。
自宅から数十メートルで遭難!?
寒いのに冷汗が出てきました。
『無知なペンションオーナー、ペンションの裏で遭難』
新聞の見出しまで頭に浮かんできました。
その時!風向きが変わったのでしょう、スキー場のスピーカーから陽気な音楽が聞こえてきました。
あっちがゲレンデだ!自分の家だ!
音の方向に、長靴の中を雪まみれにしながら必死に歩いて事なきを得ました。
土地勘のない雪の森に、コンパスも持たずに雪の日に長靴で入っていくなんて、今から考えるとバカみたいな話です。
でも、私はそれ以降、雪が降る日は森には行けなくなりました。