― 優也さん
― 今日はいかがお過ごしですか?
― 東京は雨が降り出しました。
― 雨、好きです。
― 木や葉っぱが喜んでいる!
― (優也さんってどこにお住まいでしたっけ?関西のどのあたり?)
― 木綿子
「短い文面だったかしら」と、少しだけ後ろめたい気持ちで、私はコンピューターをシャットダウンした。
寝室からキッチンに向かう廊下に出ると、雨の香りを感じた。
ダイニングルームの窓をすべて開け放してあったので、そこから雨の香りが我が家に入り込んだのだろう。墨のような、埃のような、湿った何ともいえないにおいがする。
雨を好きな理由は、この何ともいえないにおいだ。
晴れている時とは明らかに違うにおい。
布団を干すのが好きだった母の声が右耳の上あたりで響く。
「今日はお布団を干したから、シーツがお日様の香りよ」
母の台詞の後には、母の笑顔が現れた。目じりにしわがよって、笑った口元から銀歯が少しだけ見える母のやさしい笑顔。まるでお日様みたいな。
だから、お日様の香りは、大好きな母の香りだ。
でも、私は雨の香りも好き。
「彼は、雨を疎ましく思う人でないといいな」
私は、心の中でそう思った。
雨を疎ましく思わない人だといいな、というよりも、雨を疎ましく思う人でないといいと思う。ニュアンスが微妙に違うのだ。
雨を疎ましく思わない人は、雨をどうにも感じていない人と思えるから。雨という存在を認めている人が好きだから、雨を疎ましく思う人以外がいいと思う。
「彼は、どうなのかしら・・・」
私は、そうつぶやくと、廊下に振り向いた。
そして、足早に寝室に戻って、コンピューターを立ち上げた。メーラーを開いて、あるメールの返信ボタンを押す。
私は、「追記」とタイトルして、本文を打ち始めた。
― 優也さん
― 「雨を疎ましく思わない」「雨を疎ましく思う人ではない」の違いってわかりますか?
― 木綿子
送信ボタンを押すと、なぜだかため息が漏れた。
To be continued・・・ Written by 鈴乃
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