連載小説「ペンフレンド」 -25ページ目

連載小説「ペンフレンド」

男女2人の作家による1話掛け合い形式の連載ブログ小説です。東京に住む女性と神戸に住む男性がメールによるバーチャルな恋愛ストーリー。行きつく先は・・・。


― 優也さん



― 今日はいかがお過ごしですか?


― 東京は雨が降り出しました。


― 雨、好きです。


― 木や葉っぱが喜んでいる!


― (優也さんってどこにお住まいでしたっけ?関西のどのあたり?)



― 木綿子



「短い文面だったかしら」と、少しだけ後ろめたい気持ちで、私はコンピューターをシャットダウンした。


 寝室からキッチンに向かう廊下に出ると、雨の香りを感じた。 


 ダイニングルームの窓をすべて開け放してあったので、そこから雨の香りが我が家に入り込んだのだろう。墨のような、埃のような、湿った何ともいえないにおいがする。


 雨を好きな理由は、この何ともいえないにおいだ。


 晴れている時とは明らかに違うにおい。


 布団を干すのが好きだった母の声が右耳の上あたりで響く。


「今日はお布団を干したから、シーツがお日様の香りよ」


 母の台詞の後には、母の笑顔が現れた。目じりにしわがよって、笑った口元から銀歯が少しだけ見える母のやさしい笑顔。まるでお日様みたいな。


 だから、お日様の香りは、大好きな母の香りだ。


 でも、私は雨の香りも好き。


「彼は、雨を疎ましく思う人でないといいな」


 私は、心の中でそう思った。


 雨を疎ましく思わない人だといいな、というよりも、雨を疎ましく思う人でないといいと思う。ニュアンスが微妙に違うのだ。


 雨を疎ましく思わない人は、雨をどうにも感じていない人と思えるから。雨という存在を認めている人が好きだから、雨を疎ましく思う人以外がいいと思う。


「彼は、どうなのかしら・・・」


 私は、そうつぶやくと、廊下に振り向いた。


 そして、足早に寝室に戻って、コンピューターを立ち上げた。メーラーを開いて、あるメールの返信ボタンを押す。


 私は、「追記」とタイトルして、本文を打ち始めた。



― 優也さん



― 「雨を疎ましく思わない」「雨を疎ましく思う人ではない」の違いってわかりますか?



― 木綿子



送信ボタンを押すと、なぜだかため息が漏れた。






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