東側の窓から射し込む強い朝の陽ざしで目が覚めた。
ぼくは妻と子供を起こさないように、そっとベッドから立ち上がり窓をあける。雨上がり特有の湿り気を含んだ匂いと海からの汐の香りが混ざりあって、部屋の中へはいりこんできた。
ぼくの大好きな夏がそこまで来てるように感じた。
ぼくはリビングにおり、コーヒー豆を挽く。
今朝は恭介のカフェでもらった「神山(しんざん)」という豆だ。神山はインドネシアのバリで無農薬栽培されたティピカ種のコーヒー豆。昔ながらの製法で、一粒一粒を手で摘み、完熟の実のみを選別する。そして天日乾燥させ、さらに大きい豆だけを厳選し出荷されるそうだ。
「だから美味しいんだ」
と、いつもの恭介のうんちくにいつものように圧倒され、ぼくはこの豆を買った。
確かに恭介の言うことは、たいてい正しい。ただ女性関係のことだけは、どうにもあてにならないんだが。
そんな恭介お勧めのコーヒーを入れたマグカップを持ち、自分の部屋に入った。
パソコンの電源をつけ、コーヒーを一口。深いコクと柔らかな苦みは、まさにぼくの好みの味だ。さすが恭介だな。
パソコンを見ると、彼女からのメールが届いていた。昨夜の雨はもう東京までいってしまったのか。
― 木や葉っぱが喜んでいる!
はは、何とも彼女らしい表現だな。そうか、ぼくの住んでるところ、まだ教えてなかったんだっけ。
ん?もうひとつメールがきてる。
ぼくは「追記」という件名のメールをクリックした。
― 「雨を疎ましく思わない」「雨を疎ましく思う人ではない」の違いってわかりますか?
ぼくは一瞬呆気にとられたが、それが彼女らしい独特の世界観である事に微笑ましく思えた。そして、彼女がどちらの答えを期待してるのかを考えた・・・。
― 木綿子さんへ
― 今朝は東側の窓から射し込む朝の陽ざしがとても強くて、それで目を覚ましました。
― 朝陽を感じて起きるなんて、健康的でしょ?(笑)
― ぼくの住んでるところは、神戸。汐の香りを感じる海辺の街です。
― 昨夜まではこっちも結構降ってたんだけど、今はすっかりイイ天気になってもう夏を感じるくらいの青空です。
― 気持ちイイね。
― 木綿子さんはどの季節が好き?
― ぼくはね、夏が大好きなんです。そして海が大好き。
― 特に夏の海は好きだな。ジリジリと照りつける太陽と青い海がすべてを振り払ってくれるようで。
― でもね、冬の海も悪くはない。
― ぼくたちは四季の移ろいの中で生かされてるから、春も夏も秋も冬もそれぞれの感情を持ってる。
― そして、晴れの日もあれば雨の日もあって、そこにもまた様々な想いを持ってるよね。
― 大自然の中では、ぼくたち人間なんてちっぽけなもんだと思う。
― だから自然の摂理に身を合わせて生きていくという考え方が大切だと思うんだよ。
― ちょっと話がそれちゃったけど、
― ぼくは雨を疎ましく思う人にはなりたくないな・・・なんて思います。
― 答えになってたかな?
― それでは神戸の空から想いをこめて・・・
― 優也
To be continued・・・ Written by 琉咲 凌