「パパ!こっちこっち!」
日曜の朝、娘の雪の大きな声が北野坂の路地に響きわたる。
ぼくと妻はそんな雪にせかされるように風情ただよう石畳の道を歩いていた。
神戸北野の異人館通りは我が家からすぐのところにあり、休みの日はこうして家族でこのあたりを散策するのが日課のようになっている。
神戸電子専門学校の角を西に曲がり、バプテスト教会を抜けると大通りにでる。すると目の前に緑と白が印象的な異人館風の大きな建物が見えてくる。今、北野のデートスポットで人気のあるスターバックスカフェ神戸北野異人館店だ。
あまり家族向けの雰囲気ではないんだが、雪はここがたいそう気に入っているようで、いつも彼女のリクエストはここだ。雪はまだ小学生だが彼女の大人びている理由は、おそらく妻の薫のクールな性格や感性が遺伝しているのだろうとぼくは思っている。
ぼくたちはいつものようにスタバに入り、2Fの奥の部屋に陣取る。
薫と雪は女性雑誌を見ながら談笑している。
東側の大きな窓から朝陽が差し込み、2人の顔をあざやかに映し出す。あたたかな日常がそこにあるようで、そんな2人の顔を見ながら飲むコーヒーはとてもやわらかく安堵の香りがただようようだ。
それにしても年々薫の雰囲気に似てくる雪を見ていると、何だか不思議な気持ちになる。
威風堂々とした仕草や喜怒哀楽をあまり出さない表情・・・。だからなのか、時折見せる屈託のない笑顔にぼくはやられてしまう。
まるでぼくが薫に初めて恋をした時のように・・・。
薫と夫婦になって今年でちょうど10年になる。
もうあの頃に見せた屈託のない笑顔を見ることはないが、それでも夫婦仲が悪い訳でもなく日々の何気ない時間を幸せであると感じながら、お互いに生活をしている。まぁそんな感じだ。
ぼくはiPadを取り出し、フェイスブックのページをひらく。
知り合いの投稿へいいね!ボタンを押しながら、家族でカフェしてます・・・なんてコーヒーカップを撮影して自分自身も投稿する。
しばらくして、ぼくはメールの受信をチェックするが、仕事の要件や楽天などのメールがきているだけで、彼女からのメールはなかった。
木綿子さんとは気が向いた時に送りあってるだけだから、返信がきていない事に対してどうという事はないんだが、前のメールで書いたぼくの返事についての木綿子さんの気持ちが気になるところがあって・・・。
― 雨を疎ましく思う人にはなりたくないな- ・・・なんて、ちょっと遠まわしな言い方をしたものだから。
「そこの雑貨屋さんで見たいものがあるんだけど」
薫の言葉にぼくは頷き、iPadを閉じた。
薫と雪について階段を下り、スタバの表にでる。
真っ青な青空と初夏の香りただよう空気が一気にぼくたちを包みこんだ。
To be continued・・・ Written by 琉咲 凌