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連載小説「ペンフレンド」

男女2人の作家による1話掛け合い形式の連載ブログ小説です。東京に住む女性と神戸に住む男性がメールによるバーチャルな恋愛ストーリー。行きつく先は・・・。


― 優也さん


― 初っ端からへんなことを言ってしまうけれど、聞いてほしいの。



 私は、エンターキーを押して改行すると、キーボードの上の指を止めた。


 次の文章に進もうとした時、窓の外から聞こえる鳥のさえずる声にはっとした私は、慌ててデリートキーで文章を消した。


 そうして、画面には送信先の「優也さん」という宛名だけが残った。


(挨拶もしていないのに、私ったら何を書こうとしているのかしら)


 私は、キーボードから指をはずして、ライティングデスクに頬杖をついた。そして、コンピューターの画面とにらめっこした。


 すると、急に「優也さん」という文字がすごい存在感を放って私の目に飛び込んできた。驚いた私は、宛名までも消してしまった。


 メーラーの記入欄はブランクになった。


 私は「もう・・・」と心の中で思った。明らかに自分を責めている心の声である。


 鳥のさえずりが聞こえなかったら、私は我を取り戻すことなく、返信が遅れた理由を書いたことだろう。


 私が初っ端から言おうとしたへんなこととは「あなたとのメール交換が日々の楽しみになるのがこわくて返信できませんでした」といった言い訳だった。


(それがへんなこと?・・・そうよ、へんなことよ。だって、なぜ楽しみがこわいわけ?)


 私は、心の中で自問自答した。


 私は、メーラーを開いたまま、席を立つと、ベッドに仰向けに倒れこんだ。そうして、行き場のない何かをからだの奥のほうに感じて、その存在が身を潜めていることに苛立った。


「もう!」


 私は、声に出してその苛立ちに対して怒りを表した。そうして、うつ伏せにからだを返した。


 枕に顔を突っ伏したまま、私は首を左右に振った。


(私ったら、どうしたというの・・・)


 そう、最近の私はへんなのだ。


 秘密の小箱が誰にでもあるとしたら、私のその小箱の中はぎゅうぎゅうなのだ。何か余計なものを取り出さないと蓋が閉まらないといった感じなのだ。


 蓋をしないで放っておくと、どんどんたまる秘密が箱からあふれ出して、収拾がつかなくなる。


 苛立つのは、散らかったものに対するもの。自分の中が整理できていないのが非常に悔しく思う。


(深く考えずに普通に書けばいいのよ)


 私は、心を整えるために、なだめるように自分に言い聞かせた。そして、思い立ったかのように、ベッドから身を起こしてライティングデスクに戻ると、メールの文章を再びうち始めた。



― 優也さん 



― お久しぶり。


― お久しぶりって、忙しかったわけじゃないのです。


― 私は元気です。



 私は、文章をうってからまた考えた。


(まるで、優也さんが私を心配していたかのような文章・・・)


 私は、デリートキーで削除してから、少しの間考えた。でも、考えれば考えるほど、文章が出てこない。私は、優也さんからの直近のメールを読み直した。


 その文章に安堵の気持ちを感じて目を閉じると、行ったことのない神戸の街並みが頭の中に現れた。


 私は、小さく深呼吸すると、そっとキーボードに両手を置いた。そうして、ゆっくり、ゆっくり、文章をうち始めた。



― 優也さん



― お元気でしたか?


― 私は、相変わらずお料理の研究にいそしんでいました。


― 優也さんにはまだお話していなかったけれど、料理研究家としてレシピブックを出すための企画書を作っています。


― 優也さんのメールがヒントとなったの。


― 春夏秋冬の自然の恵みに合わせた食材を使って、季節ごとのおもてなし料理の本を作ろうと思って。


― 優也さんの「自然の摂理に身を合わせて生きていくことが大切」って文章が私の心に響いたのです。


― あ、でも、家にいてばかりではありませんでしたよ。


― お鮨屋でおいしいサヨリをいただいたり、家にお友達を呼んで小さなパーティーを開いたり、それなりに楽しい時間を過ごしていました。


― 優也さんは、どんな日々を過ごしていたのかしら。



― PS 


― 私の質問に対する優也さんの回答について。


― 雨を疎ましく思う人になりたくないということは、自分はどっちつかずということね?


― 雨を疎ましく思う時もあるかもしれないという意味でとりました。


― そう言う私も実はどっちつかずの人間なの。


― 先日の雨で汚れた白いパンツの裾のしみがクリーニングでとれなくてショックを受けていたところ(笑)


― 人間って難しい生き物ね。


― わがままで、自分本位で。



―木綿子



To be continued・・・   Written by 鈴乃
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