ぼくがそのメールに気づいたのは、午後3時を少しまわった頃だった。
今日は仕事の商談で大阪の阪急百貨店に来ている。打ち合せ時間より少し早めに着いたぼくは、近くのカフェに入った。
奥のソファ席に座り、iPadを取り出す。1通のメール受信。そのメールは仕事モードだったぼくを一瞬にして穏やかな感情で包みこみ、ぼくはそのままソファに深く腰をおろした。
- 先日の雨で汚れた白いパンツの裾のしみがクリーニングでとれなくて、ショックを受けていたところ(笑)
ははは。木綿子さんらしい。
ぼくは哲学的なところと少女的なところの両方を持つ彼女の世界観に心地よさを覚えている。
それはたぶんぼく自身がそうだから。
ひとつの文章を少し詩的に、また少し哲学的に解釈しあえるような関係性が木綿子さんとの間に存在しててそこが気に入ってるんだけど、さらにそこで少女的なかわし方をするものだから、何かしら穏やかでやさしい空気がその中に生まれてくるのを感じるんだ。
- 雨を疎ましく思う人になりたくない。
そんなぼくの発言は、彼女の屈託のない汚れた白いパンツの話で見事に終結された。
- 優也さんにはまだお話していなかったけれど、料理研究家としてレシピブックを出すための企画書を作っています
料理研究家?レシピブック?
ぼくにはあまり馴染みのない言葉に彼女の仕事が今ひとつピンとこなかったが、何となくお金持ちのマダムというイメージがぼくの脳を覆っているように感じた。
でも感性が豊かな彼女らしい世界観の仕事であるようにも感じ、そこにあまり違和感を感じることはなかった。
そう言えば、まだぼくの仕事も伝えてなかったっけ。
コーヒーをひとくち流し込み、ぼくはiPadに向かった。
- 木綿子さん
- 早速返信します^^
- 今ね、仕事で大阪に来てて次の商談まで少し時間があるからカフェにいるんです。
- で、iPadあけたら木綿子さんのメールがきてね。いいタイミング。
- 木綿子さんは料理研究家だったんだね!
- 仕事内容はよくわからないけど、とってもマダムな空気は感じるよ(笑)
- 最近よくテレビに出てる森崎友紀も確か料理研究家だったよね。
- あんな感じなのかな?・・・って、森崎友紀の事も詳しくわかってないんだけど。
- でも料理の本を作るってすごいね。
- 頑張ってね。遠い西の空から応援してるよ。
- そうそう、ぼくの仕事もまだ言ってなかったよね。
- ぼくはインテリアファブリックを製造販売してるメーカー勤務。
- カーテンとかレースとか、クッションとかを扱ってる。
- 神戸の北野に本社があって、お客様は全国の百貨店や専門店。
- ぼくは営業だから、全国を飛び回ってるよ。
- 愉しみと言えば、仕事帰りにジャズバーに寄ることくらいかな。
- 神戸はね、ジャズの発祥と呼ばれるくらいジャズが盛んな街。
- 古く歴史のあるジャズバーがいっぱいあるんだ。
- ジャズの生演奏聴きながらやるウイスキーは最高だよ。
- ぼくはバーに人生で背負い込む重たい色んなものをね、いつも少しだけ置いてかえる。
- バーのカウンターって、結構分厚い一枚板のものが多いんだよ。
- 何故かって言うと、バーに立ち寄る人の哀しみや想いを吸収するためらしい。
- だからバーっていうのは、独りが合うんだろうね。
- バーでやる一杯のウイスキーは、ぼくにとって生きる術のようなもの。
- 人生を迷わないためにね。
- さぁそろそろ商談の時間だ。
- 頑張ってくるよ。
- じゃね。
- 優也
To be continued・・・ Written by 琉咲 凌