太陽に照らされキラキラと輝く水面を眺めている。
木曜の朝。
ぼくは少し仕事をさぼって須磨の海に来た。
いつもの古い木のベンチに座り缶コーヒーを飲みながら、ただあてもなくその海の輝きを見つめている。30代も半ばにさしかかると、これから先のこと人生のことを色々と考えてしまうものだ。
このままでいいんだろうか・・・。
まだ他に違う自分のステージがあるんだろうか・・・。
何も考えず遮二無二走り抜けた20代。
でも30代になると少し世間が見えはじめ、そして会社というものが見えてくるものだ。職場では、ある程度の仕事を任せてもらえるようになり、やりがいが無いとは言えないが、何となく会社の未来を考えると、疑問、不安・・・というものが脳を支配してくるようになる。
でも、そこを飛び出す勇気はない。
だから余計にジレンマになり、ついつい自分を自分以上の自分に作り上げてしまったりする。
ぼくは、こんなんじゃない・・・なんて。
そんな時ぼくは、人は自然の中で生かされている・・・という言葉を、何度も何度も脳に叩きつける。そして冷静に、客観的に自分自身を見つめ直すんだ。
神戸の海はそんなぼくの人生の機敏をいつもあたたかく見守ってくれる大切な存在だ。
そんな事を考えていると、目の前に砂浜を仲むつまじく歩く初老のカップル。ぼくはあわてて鞄からiPadを取りだした。青い空と青い海、そして太陽に照らされた初老の夫婦・・・。まるでドラマのワンシーンのようなその情景を撮り込み、ぼくはフェイスブックに投稿した。
「仕事の合間にちょっと一服。大好きな神戸の海にいます。」
iPadをあけると、木綿子さんからのメールが届いていた。
自分探し、引っ越し、癒し・・・・。
木綿子さんのメールに書かれた単語からは、何となく複雑に折り重なったような木綿子さんの心の揺れが、何か、こう、とても弱々しくぼくの心に響いた。
ぼくは木綿子さんの感性豊かでチャーミングな無邪気さに魅かれている。そしてその無邪気さは、ぼくの日常にとても大切な癒しとして存在しているように思う。
でも「どうしたの?」なんて言葉で返信するのも、何か違うような気がして・・・。 ぼくはぼくらしく、木綿子さんの引っ越しのお祝い、そして自分探しの旅への門出を祝したメールを送ることにした。
- 木綿子さんへ
- 今、神戸の海に来ています。
- 今の時期が一番気候的にはいいんだろうね。すごく気持ちがイイ。
- 青い空、そして青い海・・。キラキラ輝いている水面を見ながら木綿子さんへのメールをうってます。
- 木綿子さん、引っ越しするんだね!
- 自分探しの旅!いいんじゃない?応援するよ。
- ぼくは何もしてあげられないけど、東の空に念をおくっときました。
- さぁぼくの念は今いったいどのあたりを進んでるのかな。
- ついさっき、お花の花粉に乗ってゆらゆらと東へ旅をスタートしました。
- まだ一度しか訪れたことのない花の都大東京を夢見ながら・・・。
- 『ぼくからぼくの念へ<指令書>』
- 東京に着いたら、すぐにお花屋さんを探すんだ。
- 花粉の妖精たちが、きっとステキなお花屋さんを教えてくれるだろう。
- そこで抱えきれない程の薔薇の花をGETしたら、次はケーキ屋さんだ。
- しくじるな!ショートケーキじゃなくて、ロールケーキだぞ。
- そして最後に文具屋さんに寄るんだ。
- そこで万年筆と万年筆の書き味を追求したようなこだわりの便せんを。
- そこまで買い物が終われば、スタバにでも寄ろうか。
- いつものあったかいコーヒーをマグのショートで飲めば、少しは落ち着くだろう。
- 大東京の雰囲気にのまれるなよ。
- そこは、神戸のスタバと同じスタバなんだから。
- 一番奥のソファ席に座ればイイ。
- そこでさっき買った便せんと万年筆の出番だ。
- いいか、ぼくの大切なペンフレンドへ書く手紙だ。キチッと書いてくれよ。
- こうだ。
- ------ 親愛なる木綿子さんへ --------
- 木綿子さん引っ越しするんだね。
- おめでとう。
- ネットをはじめてから、いろんな人との出会いがありました。
- それぞれのアプローチからそれぞれなりのお付き合いの発展がありました。
- でも、木綿子さんは何か違うんですよね。
- どう表現したらいいのかわからないけど、
- 尊敬できるというか、切磋琢磨できるというか、すごくプラスの要素が多い。
- なかなかそれまでに感じたことのない感覚なんです。
- 面白いね。
- これからどんな風な関係になっていくかわかりませんが、
- きっと何かいい発見があって、それが何かにつながるような気がしています。
- 今日は、ぼくの念がお邪魔しました。
- お邪魔虫はすぐに退散します。
- ステキな旅立ちになりますように。
- --------- by YUYA -----------------------
- よし、いいぞ。
- そこまで書けたらすぐにスタバを出発だ。
- ぐずぐずしてると、ケーキがとけちゃうからな。
- さぁ、ぼくの指令はここまでだ。
- 無事に木綿子さんに届けられたら、東京でゆっくりしてくるとイイ。
- 決して木綿子さんに手なんてだしたらダメだぞ。
- じゃ、検討を祈る。
- 優也
To be continued・・・ Written by 琉咲凌