ウェルギリウスのアエネイス-10 最終回トゥルヌスの死 | サーシャのひとり言

サーシャのひとり言

音楽や絵画など日々見たり聴いたりしたことの備忘録的ブログです。

ラティウム軍が追い詰められる中、戦いは最終段階に。
戦局が不利になり、遂にトゥルヌスはアエネアスからの一騎打ちの挑戦を受けて立つ決意を固めます。
しかしこれに対し、ラティーヌス王は静かに諌めるのです。
〜お前は大事な親族だし、妃が可愛がっているから言えずにここまで来たけれど、本当は神託によってラウィーニアは異国から来た者に嫁がせなければならないと言われているのだよ。
神々の勧める婚約者に娘を嫁がせず大義に背く戦争に加担してしまったから今の状況があるのだ。〜と。

そなたが死んで同盟を結ぶより、そなたが生きている間に戦争を止めたい、そう王に言われ、王妃もトゥルヌスが殺されてしまったら私もこの世を去るつもり、捕虜になって娘を嫁がせるなんて我慢できません、と涙ながらに訴えますがトゥルヌスは一騎打ちの決意を変えません。


この決闘はトゥルヌスに不利、そう思ったユノはトゥルヌスの妹ユトゥルナを焚きつけて果たし合いを妨害させる事にします。
ユトゥルナはユピテルに身を捧げた返礼に沼と川を守る名誉を与えられ水のニンフとなっていました。

ユトゥルナ。トゥルヌスの妹さん、美人です。




いよいよ決闘が行われようとしていたその時、
ユトゥルナはルトゥリ軍の勇猛な武将カメルスに姿を変えると兵士たちに呼びかけます。
〜侵入してきたトロイア人とギリシアから移住してきたアルカディア人の為に、我々はトゥルヌス一人を危険に晒して恥ずかしくないのか?祖国を失えば高慢な者たちの奴隷になるのだぞ。〜

更にユトゥルナは、飛んできた鷲を白鳥達が追い返すという吉兆を皆に見せます。

刺激されたラティウムの人々は休戦と決闘の取り決めをそっちのけで槍を投げ始め、両軍は再び戦闘状態に陥ります。


思わぬ乱闘に驚いたのはアエネアス。
自軍の兵士達を制しようととします、と、その時!
どこからか飛んできた矢がアエネアスを射抜くのです。


怪我をして自陣に連れ戻されるアエネアス。
一方、残されたトゥルヌスは好機到来とばかりに暴れまわります。


息子が怪我をしたのを見て母ウェヌスは薬草を取ってきます。そして霧に身を包むと薬を煎じている大鍋にそっと加えました。
老医イアピュクスがその薬液を使うと、たちます肉に食い込んでいた矢の穂先がひとりでに取れ血も止まるのでした。

母ウェヌスが助けに来る図

アエネアスは一刻も惜しむように鎧に身を包むと再び戦場へ。


アエネアスが戻ったトロイア軍は勇気百倍、俄然勢いを取り戻します。
ただトゥルヌスだけを探すアエネアス。
一方、ユトゥルナはトゥルヌスの御者に姿を変え兄の戦車に乗り込むと、兄を誰とも戦わせないように戦車をひたすら爆走させます。


この乱戦の中、ウェヌスが息子アエネアスに暗示を与えます。
〜人影疎らな敵の城壁を急襲しなさい〜

そして不意を襲われたラティウム市民は仰天。
急を告げられた王妃も屋上に登って見渡します。
〜トゥルヌスもルトゥリ軍も居ない。もうトゥルヌスは死んでしまったのだろうか・・〜
絶望した王妃は真紅のガウンを引きちぎり縊死を遂げます。
それを知らされたラティーヌス王も敗れた衣のまま、呆然と城を出て行きました。


ユトゥルナの兄を守りたい一心の策略で戦場の隅の方で戦っていたトゥルヌスにも既に生気はなく・・そこへ城下のただ事ではない喧噪が届きます。
それでも御者のふりを続ける妹にトゥルヌスは
〜初めからお前の事には気がついていたよ。〜
そして自分の為に散っていった多くの盟友を思い返すのです。

「死者の霊達よ、好意をお示し願いたい。
私は天の神々に見放されてしまいました。
汚れのない魂のまま、あなた達が嫌う卑怯な行為をせずに、先祖達に恥ずかしくない子孫として、あなた達の元へ降りて行きたい。」

そこへ救援を求める仲間が、落城の危機と王妃の自死を告げます。
〜何と面目無い事よ・・そしてラウィーニア・・〜

今にも崩れ落ちそうな塔を見やりながらトゥルヌスは妹に話します、
運命の流れは変えられない。
死の覚悟はできている。
死ぬ前にせめて思う存分に暴れ回ってみたい。
最後の願いだ、見逃してくれ。




寂しく見送る妹を後に城へ戻ったトゥルヌスはアエネアスに元からの一騎打ちを申し込みます。

そして最後の果たし合い。
激しい闘いのあと、遂にトァルヌスが大きく振りかぶった剣を打ち下ろします。
が、剣はアエネアスの盾に当たると折れてしまいました。
出陣の時、誤って自分の愛剣ではなく従者の剣を持ってきてしまっていたトゥルヌス。
人間の作った剣ではウルカヌスが鍛えたアエネアスの盾にかなうはずがありません。

武器を失い濠と城壁の間に追い詰められるトゥルヌス。
負傷で走ることができないアエネアスは槍に頼るしかありませんが、その槍が切り株に刺さって抜けなくなってしまいます。
元々は森の神ファウヌスの聖木であったものをトロイアの兵士が決闘場を広げる為に根元から切ってしまった切り株だったのです。


その機を逃さずトゥルヌスの妹ユトゥルナが再び従者に姿を変えて、兄に愛剣を渡します。
これを見て怒ったのはウェヌス。
女神も切り株から槍を引き抜いて息子アエネアスに渡しました。


天界からはユノとユピテルがこの様子を見ています。
ずっとトロイア憎しで邪魔をしてきたお前だが、もうこのくらいにしておきなさい。
ユピテルの言葉に、とうとうユノもトロイア人の邪魔を諦めることを了承します。
但し、ラティウムはこのまま存続させ、元々の言葉や文化を変えさせず、トロイアの方から同化していって欲しいと願いながら。



ユピテルが死を告げる魔女ディーラをトゥルヌスに送ります。
鳥の姿をしたディーラを見てユトゥルナも悟ります、これが逆らえないユピテルの考えなのだと。
そして兄をこれ以上救えないことを嘆きながら流れの住処に帰って行きます。
自分がユピテルに乙女の体を捧げた代わりに不死の女神になったことを恨みながら。



一方、鳥となったディーラに不吉な歌を歌われ、翼を盾に打ち付けられたトゥルヌスはいつもの力も出ず、声を出そうにも言葉が出ずに進退極まってしまいます。


トゥルヌスの脚にアエネアスの槍が刺さります。


負けを認め最後の嘆願をするトゥルヌス。
せめて亡骸となったあとでも良いので年老いた父ダウヌスの元へこの身を返してくれ。
憎しみはこれで収めてくれ。


アエネアスは一瞬、剣を持つ手を緩めます。
ところが次の瞬間、彼の目に入ったのはトゥルヌスの肩に掛けられた紛れも無いパラスの剣帯。


パラスを亡くした悲しみと憤りの記憶ががアエネアスに蘇ります。
わしの大事なパラスの帯を着けているお前を赦すことはできん!

一撃と共にトゥルヌスの体は地に沈み、アエネイスは終わります。






散文調で訳されている為、とても読みやすかったです。正直、想定外の面白さ!
未完ということで、ラストはトゥルヌスが息をひきとる場面でぷっつりと終わりますが、それもまた無常な感じが際立って良いと思います。


前半はディドの悲恋、後半はやはりトゥルヌスですね。
絵画を探しながら読んだのでそれも大変楽しめました。
ウェルギリウス先生、ダンテの神曲の案内人くらいとしか認識していませんでした。
いつか岩波文庫版がKindle化されたらそちらもチャレンジしてみたいものです。