「狂えるオルランド」(1)アリオスト 著、脇 功 訳、名古屋大学出版会 | サーシャのひとり言

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「狂えるオルランド」

ルドヴィコ・アリオスト 作

脇 功 訳

名古屋大学出版会

 

ルドヴィコ・アリオスト(1474-1533)はイタリア・ルネサンス期の詩人。

フェラーラ(フェッラーラ)の君主エステ家に仕えていた父ニコロの長子として生まれ、自身も成長してからは同家の枢機卿イッポリト、後にイッポリトの兄アルフォンソに仕えました。

 

フェラーラのアルフォンソ公と言えば、「解放されたエルサレム」の作者タッソーを庇護しゲーテの「トゥルクワート・タッソー」にも登場するアルフォンソ公(2世)を思い出しますが、こちらのアルフォンソ公はアリオストの仕えていたアルフォンソ公(1世)の孫にあたります。

 

アリオストの生きた時代はまさに豪華絢爛なルネサンス盛期。

ミケランジェロやティツィアーノ、ラファエロとほぼ同時代にあたり、親交のあったティツィアーノの描いたアリオストの肖像画が残っています。

 

世界史的には、イタリアにとっての激動の時代の始まり。

1492、フィレンツェのロレンツォ・デ・メディチの死と共に、ミラノ・ヴェネツィア・フィレンツェ・ナポリ・教皇庁の5大勢力の均衡が崩れ、イタリアの政情は混沌化。

孤立したミラノがフランスを利用しようとシャルル8世の軍をイタリアに呼び入れたのが大きな間違いで、以後イタリアは神聖ローマ帝国カール5世(ドン・カルロスを霊廟に引っ張り込んだ祖父)とフランスのフランソワ1世の抗争に巻き込まれ主戦場となってしまいます。

 

アリオストが仕えたフェラーラ公国はルネサンス文化の中心地の一つではありましたが、あくまで小国でしかなく、アリオストも周辺都市や教皇への外交使節団に加えられ、書斎に座る暇もなくあちこち遣わされたようです。

(アリオストは使節としてそれほど有能ではなかったようですが、穏やかで冷静、ユーモアに富んだ人だった為、重宝がられたようですね。自意識過剰で被害妄想的なタッソーとはかなり違います)

 

そんな風に公務に忙殺されながらも執筆された畢生の大作「狂えるオルランド」。

この作品のメインな登場人物の一人ルッジェーロと男装の闘う麗人ブラダマンテ夫妻こそ、エステ家の始祖。

発表直後から大ベストセラー作品となり、当時としては異例の二十万部以上が発行されたといいます。16世紀初頭の出版事情や人口、識字率などを考えるとすごい数字ですよね。

 

元はと言えば、フェラーラのボイアルドが書いた「恋するオルランド」(未完。1495)を土台にし、その続きとして書かれた「狂えるオルランド」ですが、作品としての完成度は既に独自のものと考えて良いでしょう。  

単に空想上の世界としてだけではなく、各地に使節として派遣されイタリアの現実に心を痛めたアリオストが同時代の諸事件を多々取り込んで書かれた「狂えるオルランド」。

 

物語は包囲された故国カタイのアルブラッカの街から自分を助け出してフランスへ連れて行って欲しいという王女アンジェリカの願いを叶えるため(アンジェリカは片思い中のリナルドに会いたい一心で)、オルランドが彼女を伴いピレネーの麓シャルルマーニュ軍のテントに戻ったところから始まります。

 

 

 

昨日聴いたCD。

シューマンのヴァイオリン協奏曲。

クリストフ・エッシェンバッハの指揮、トーマス・ツェートマイアーのVn。

フィルハーモニア管弦楽団。

天使の主題がシューマン的美しさとしか言いようがない第二楽章。

抑えが効いて上品なツェートマイアーのアプローチも非常に好感が持てます。

 

カップリングはブラームスのヴァイオリン協奏曲です。