「地上最強の傭兵が異世界を行く-3-08-68」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「クリアの進化」

 ゼロとクリアが体現流の道場を後にした辺りから後を付けてくる者達がいた。ほうもう来たか。ゼロの意識は彼らの力をほぼ把握していた。

『しかしあいつ等はどちらの道場の門下生でもないな。一体何者だ。まぁいい、少し付き合ってやるか』

「ゼロ様」
「わかったか」
「はい、10人程いますがどうしましょう」
「そうだな、襲って来るまで知らん顔をしておけ」
「はいです」

 ゼロとクリアは敵と知りつつ自ら人気のない所に誘い込んだ。この辺りなら民家からは少し離れ人通りも少ない。襲うには打って付けの場所だろう。

 そう思った瞬間何かがゼロの頭目掛けて飛んで来た。それを後ろも見ないでかわし掴んだゼロの手には矢が握られてた。しかもその矢じりは黒く毒が塗り込まれている事は一目瞭然だった。

 なるほど刺客か。どうやら暗殺を専門にしてる者のようだな。しかしそんな奴はあそこにはいなかったはずだが。

 初手をしくじったと見るや阿吽の呼吸で刺客達はゼロ達を取り囲んだ。手にはそれぞれの暗器が握られていた。なるほど暗殺部隊に違いない。

「俺達に何か用か。俺達はただの冒険者だ。お前達に襲われる謂れはないが」
「敵に回って危険な者は早めに死んでもらおう」
「敵と言ったか、なるほどな。お前達の国の敵と言う事か」

「何なんですかそれは、ゼロ様」
「要するに今この国と戦争をしている国の敵と言う意味だろう」
「でも僕達はまだ傭兵に参加してませんが」
「参加されたら困ると言う事だろうな」
「そう言う事だ。戦力になり得る者は速い内に潰しておいた方が良いからな」

 それはこの国の中にかなりの数のスパイが潜り込んでいると言う事になる。恐らくあれらの道場の門下生の中にもいたんだろう。そいつらが連絡を取ったと言う事だ。

「面白い、ではお前達の腕を見せてもらおうか」
「調子に乗るな。あんな畳水連に勝ったからと言って実戦で勝てると思うなよ」
「さてそれはどっちかな」

 その言葉が終わるか終わらない内にゼロの姿は消えていた。そして取り巻いていた一人の男の頭が消し飛んだ。もう一人はクリア魔弾丸で吹き飛ばされた。こちらも木っ端みじんだ。

 まるで幽霊を相手にしているように相手の姿が見えないまま次々と仲間が倒されて行った。それはゼロの高速移動。縮地によるものだった。クリアは制空圏を展開して全ての攻撃をかわしていた。そして相手の虚をついて魔弾丸で倒した。

 正直戦いにすらならなかった。
「まさかここまでとは」
「お前がボスか。話してもらおうか俺達を狙た者の正体を」
「答えると思うか、死ね」

 死を覚悟した攻撃もゼロには蚊の羽音にすらならなかった。一瞬で利き腕をへし折られ頭を鷲掴みされて指一本の抵抗すら出来なかった。これが「戦場の死神」の実力なのか。

 頭を鷲掴みした手はそのまま相手の意識に入り込み記憶を探った。まさにサイコダイバーだ。

「ゼロ様、大丈夫ですか」
「ああ、大丈夫だ。相手の正体がわかった」
「では倒しに行くんですか」
「いや、まだだな。その前にしなくてはならない事がある」

 ゼロの言うしなくてはならない事。それはクリアを更に鍛える事だった。今のままではまだ戦争の渦中に入るには力不足だ。

『もう一度ダンジョンに戻ってみるか』

 翌日からゼロ達はまたダンジョンに潜った。戦争はそう簡単には収まりそうもなさそうだ。仮に終わったとしても倒す相手がいなくなる訳ではない。それはいつでも倒せる。「死神」に狙われた相手に明日はないと言う事だ。

 ダンジョンの中ではクリアの魔弾丸のスピードと威力を増す練習と共に制空圏の範囲を広げる練習をしていた。現在クリアは5メートル四方まで広げる事が出来るがゼロは最低でも30メートルまでは広げろと言った。

 これはクリアに取っても厳しい要求だった。ただ単に広げればいいと言うものではない。広げつつもその意識円を維持し飛来する攻撃にも意識を向けて避けなければならないのだから。

 更にゼロは魔弾丸の質その物の変化も要求して来た。物理攻撃として爆裂用、貫通用、広域爆裂に散乱攻撃、連射攻撃と各種。そして精神攻撃用に攪乱や幻想と言ったクリアが得意とする魔法を魔弾丸に込めて撃てと言う。もう滅茶苦茶な要求だった。

 しかしそうしないと生き延びれない様な対象の魔物相手には工夫して開発し使うより仕方がなかった。そうでなければ自分が死ぬ。ゼロはそう言う練習を課した。

 そしてダンジョンに潜らない時はクリアに至近戦の格闘術を教えた。それはまさに源心流と体現流とを合わせた総合格闘技の様なものだった。しかもより実践的な殺人術と化していた。これもまた「戦場の死神」持つ戦場の技だ。

 ゼロとクリアはもはやダンジョン内で地下45階層に辿り着いていた。このダンジョンは50階層までだと言われている。勿論まだ誰も踏破した者がいないのでそれが確かだとは言えないが文献の中にその様な事が書かれてあったとか。

 この45階層最強の魔物はスカイシャークだった。シャークでありながら空を飛ぶ。しかもその速度は目では追えない。正にゼロの縮地を空中で使ってる様な物だた。これでは誰もあのシャークを倒す事は出来ない。

 しかもヒレには全て鋭い刃がついており触れるだけで切断される。そして口からは氷の槍を撃つ。この氷は鋼の強度を持ち並みの盾では守る事も出来ない。まさに鉄壁の攻撃マシーンだ。

 クリアも制空圏でシャークの攻撃を防ごうとしたがあまりにも相手が速過ぎて軌道を捉える事さえ出来なかった。クリアの意識センサーを持ってさえ捉えられないものをどう捉えろと言うのか。

 クリアもシャークの攻撃を受けて体中に切り傷が出来ていた。このままでは自滅する。どうすればいいのか。

 クリアは今出来る最大限に制空圏を広げた。辛うじて半径25メートル位にはなった。そして意識を集中してみると辛うじてシャークの軌道が見えた。しかしかわすのはまさにぎりぎりだった。そして制空圏を出たシャークには一切の魔弾丸が当たらない。

 これではどうにもならない。もし攻撃出来る可能性があるとすればシャークが制空圏内にいる時となるがそんな事が可能なんだろうか。しかしこれしか手がないとなればやるしかない。

 クリアはシャークの軌道を捉えて魔弾丸の貫通弾を撃った。しかしそれは外されたしまった。その魔弾丸は制空圏の幕に当たり暴発が起こった。これはまさに自爆行為だった。

 シャークにも多少のダメージはあったがクリアの方がはるかに大きかった。これではシャークが倒れる前に自分が倒れてしまう。どうすればいい。

 でももしあの爆発を防ぐ事が出来れば攻撃は出来る。そうか、そう言う事か。クリアは最大魔力で魔弾丸を練った。そして感覚を最大に上げてシャークの動きを捉えた。

 今だ。とシャークに最大限の爆裂魔弾丸を撃ち同時に自分の身の回りに内部結界を展開した。魔弾丸は見事シャークに命中し、シャークを爆破させると同時に物凄い爆発が制空圏内で起こった。しかしその爆発はクリアの内部結界によって防がれた。ただしギリギリで。

 遂にクリアは核幕爆裂と言う途方もない魔力闘法を身に着けた。これはまさに捨て身の戦法だ。しかし相手を捉えて確実に死に至らせる必殺技でもあった。

『やっとここに辿り着いたか。時間を掛けやがって』

 最後の階層、ラスボスの部屋には途方もなく大きな双頭の犬、地獄のケロベロスがいた。確かにケロベロスは強い魔物だ。しかし高位の冒険者が倒せない魔物ではない。しかしこのケロベロスは違った。

 まるで魔力量が違う。そして禍々しい空気を纏っていた。そこにいるだけで空気すら歪んでしまいそうな、人間など立っている事どころか息すら出来ないだろう。まさに地獄の番犬。いや悪魔の番犬と言ってもいいかも知れない。

「これは珍しいバケモノだ」
「ゼロ様、これはちっときつですね」
「クリア、二重結界を張れ。物理結界と魔法結界だ」
「はい」

「人の分際でワレの前に立っていられる者がいるとはな」
「お前、普通の犬ではないだろう。まぁ悪魔付きの犬と言った所か」
「ほーワレの姿を理解するか」
「何故悪魔がここにいる」
「悪魔とは争いを好む物よ。嫌悪や怨念が魂がワレらの餌になる」
「どうしようもない屑だな」
「お前らも恐怖の心を抱くがいい。それもまた美味なものよ」
「そうか。ならお前が恐怖を抱いたらどうなる」
「その様な事、あり得る事がなかろう」

 ゼロは自らの気を開放した。人間のゼロとしての威圧ではなく「戦場の死神」としての威圧を。それは途方もない力でこの部屋全てを満たした。

「ば、馬鹿な。この様な魔力、今まで感じた事がないぞ。まさかこれは魔王様の、いやそんなはずはない。貴様何者だ」
「死んで行くものに言っても仕方ないだろう」

 ゼロは縮地でクリアの元に戻り、クリアに手を添えてクリアの魔力を増大した。そして最大パワーで制空圏を張らせた。その制空圏は完全にこの空間を捉えた。

「いいかクリア、お前の持つ最大パワーでさっきの核幕爆裂を使え。いいな」
「はい」

 ゼロの威圧のより逃げる事が出来なくなっていた悪魔にクリアの最大攻撃魔法、核幕爆裂を放った。それは目も眩む様な光を放って臨界点を突破し内膜で核爆発を起こした。

「ば、馬鹿な。何故だー」

 勿論まだクリア一人ではここまでの威力は出せなかっただろう。ゼロの助力があってこそではあるがその基礎はクリアの中にあった。そして悪魔は完全消滅した。

 ここで達成不可能と思われていたこのダンジョン踏破が完成した。

 これによりクリアの肉体も精神も強化されて行った。もはやあの弱弱しかったクリアの姿はそこにはなかった。しかしそれでもまだクリアの心の在り様はクリアのままだった。それが唯一の救いと言えるかも知れない。

 それでは完全な戦場の兵士とは言えないがゼロはそれでいいと思っていた。ただ確実に自分を守れる人間に。何も戦闘マシーンを作る気はなかった。戦闘マシーンは自分一人で十分だと思っていた。

 この結果を受けてクリアは冒険者ギルドのギルドマスターの推薦によりCランク冒険者となった。

『さてこれからだ。それでは戦場に行くか』