「地上最強の傭兵が異世界を行く-3-09-69」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

pegasusnotsubasa3383のブログ

ファンタシー小説です

「戦場の悪魔」

 戦場はリトール共和国の北東、キャロル峡谷と言われる所だった。そこは唯一隣国バルーシア共国と行き来出来る渓谷だ。隣国バルーシア共国とは約150キロに渡って国境を接しているがその殆どが険しい山岳地帯であり踏破は困難だった。

 その渓谷を挟んで毎年の様にここでは両国の諍いがあった。ただ地形が地形なのであまり大規模展開の戦闘は出来なかった。そのバルーシア共国の南にはグルミア連邦と言う国があったがこの国はどちらの国にも組していない。中立を保っていた。

 今年もまた冬が終わって春先になって戦闘が始まった。言ってみれば年中行事の様な物だった。その様子を崖の上から眺めていたゼロはおやっと思った。

 何故かリトール共和国側の緊張感が尋常ではなかった。ゼロは戦争のプロだ。この戦争が年中行事の戦争ならどんな様相を呈するのかは凡そわかる。所がそうは思えない緊張感が伺えた。

 そして東側のバルーシア共国の兵士達からは何故かどす黒い戦意が感じられた。あれは何だ。人か。人の軍隊なんだろうか。だからと言ってかってゼロが見た獣魔兵の様なものではなかった。あくまで人は人だ。しかし何かが違う。

 リトール共和国側では正規軍に混じって傭兵軍も見えた。彼らの一部は、いやその多くが最前線に回されていた。無理もないだろう金で雇われた臨時の兵士だ。当然危険地帯での雇用となる。

 彼らは正規軍の様に統制は取れてはいない。最低限の規律で制御されているだけで後は個々の技量に期待されていた。ラズドリアの町の冒険者ギルドでやっていた戦闘力検査試験の結果がこれだ。言ってみれば使い捨ての傭兵だった。

 ゼロ自身も傭兵をやっていただけあってその当たりの事情はある程度分かるがそれにしてもこれは酷いなと思った。そこには戦略も戦術も何もなかった。あれではゲリラ戦術だ。

 しかしゲリラ戦術と言うものは森の様な身を隠せる場所にあって初めて効果を発揮出来るもの。この様なオープンな戦場では意味がない。個々にどれだけの戦力があろうとも大戦力の前ではただの烏合の衆と化した標的だ。

 それをわかってリトール共和国の指揮官は使っているのだろうか。それはそれで問題だがバルーシア共国軍の異常さもまた気になった。

 軍隊としての体も戦術もある。だがあの高揚感、統率の雰囲気は人のそれではなかった。何かに操られた人形の軍隊。ゼロにはその様に見えた。

「クリア、バルーシア共国軍の方を見てみろ、何か感じるか」
「はいゼロ様、あれは・・・もしかすと」
「何だ、言ってみろ」
「はい、魔族、いえ悪魔人の匂いがします。以前に暁のダンジョンで出会ったあの悪魔人と同じ匂いが」
「悪魔人か、面白い」

 いくら魔族と言えどもこの距離からそこまでは感じ取れないのが普通だ。しかし今のクリアはゼロに鍛えられて相当な範囲をカバーするセンサーを身に着けている。しかも同族だ。その分良くわかるのだろう。

 それにしてもこれは一体何だ。これが戦闘か。これではまるで双方の消滅戦ではないか。ぶつかっては引きぶつかっては引きを繰り返しているだけだ。その為か遺体が方々に散らばったままだ。回収すらしていない。

 こんな事をいつもやっていたのか。それでは双方の戦力を削ぐだけでどちらの優位にもならない。いや、待てよ。双方の戦力を削いでどうなる。そうか、もしこの戦争を誘導しているのが悪魔ならどちらがどれだけ死んでもいいと言う事か。要は人族の殲滅。そう言う事か。

 その視点でもう一度バルーシア共国軍を見てみるとある事がわかった。彼らは別に強化魔法を掛けられている訳ではなかった。しかし強い。

 それは人としての限界のストッパーを外されているからだ。それなら肉体的には普段出せないような強い力が出せる。しかしそれは諸刃の刃だ。ストッパーを外すと肉体に無理が生じる。速く解除しないと体の崩壊に繋がる。

 確かに冒険者達の運用は理にかなったものではないがそれでも中にはBランクやCランクもいたはずだ。それなのに何故敵軍の前線を崩せないで苦戦したいたのかがこれで分かった。

「これはいかんな。クリア、隠蔽魔法をかけろ」
「はい、敵の前線突破ですか」
「そうだ、行くぞ」
「はい」

 ゼロとクリアは戦いを他所にバルーシア共国軍の中心、総司令官の元に向かった。バルーシア共国軍の戦士達はやはり精神コントロールを受けている様だ。そしてその中心がここ総司令官のテントにあった。

 ゼロ達は戦場の中いとも簡単に敵将の陣屋に辿りついた。しかしもし本当に実力のある魔法使いならこれ位の事は出来るだろう。ただその後何が出来るかだ。辿り着くだけでは意味がない。そこでどのような攻撃が出来るかと言う事になる。

 問題は一人でもクリアが使った様な隠蔽魔法で長距離を移動するにはそれなりの魔力量を消費する。まして数人にこの魔法を掛けての移動ともなると尚更だ。

 それに辿り着いた所に相手の魔法使いがいないとも限らない。自分よりも上位の魔法使いならこんな魔法など直ぐに見抜かれてしまうだろう。そうなれば当然そこには腕利きの兵士もいるだろう。それらの問題をどうクリアするかという問題がある。

 普通はその様な冒険は避けようとする。だから今まで誰もこの様な事は試さなかった。しかしもしゼロの様な力があれば話は別だ。

 そのテントには強力な結界が施されていた。これでは隠蔽魔法を掛けたままでは中に入れない。更にテントの前には数人の屈強な衛兵達が守っていた。そして魔法使い達もいた。

 なかり上位の魔法使いだろうがそれでもクリアの隠蔽魔法は見抜けなかった。それだけクリアの実力が上だったと言う事だろう。しかしあの結界の前では進行もここまでだ。

「まぁ仕方ない。正面突破と行くか。

 ゼロとクリアは隠蔽魔法を解いてテントの前に現れた。
「何だ貴様らは。何処から現れた」
「それはお前達が知らなくても良い事だ」

 二人の魔法使いはそれぞれに火魔法と風魔法を放ってゼロ達を消滅しようとしたがクリアの結界魔法に阻まれた。それだけクリアの防御力は強く成っていた。

「上出来だ。クリア」
「あっ、はい、ありがとうございます」
「何故だ、何故我らの魔法が通じぬ。我らはAランクだぞ」
「それは俺達の方がお前達よりも上だと言う事だろう」
「そんな馬鹿な、そんな事があってたまるか」

 瞬時にその魔法使い達は無力化され、衛兵達もゼロの前には何もする事が出来なかった。そしてゼロはその結界も壊して中に入った。

 この司令部で最大のテントだ。中には執務室に作戦会議室に司令官の個室も用意されてあった。執務室の中央に今回の作戦総大将たるグレムトン中将とその参謀たる腹心のアムスレン准将がいた。

「何だ貴様らは」
「俺か、俺は冒険者でゼロと言う。そしてこっちがクリアだ」
「何故冒険者風情がこんな所にいる。表の衛兵はどうした」
「あいつらには眠ってもらった。ここの大将に会いたかったんでな」
「ここは貴様らごときが来て良い場所ではないわ。わしが叩き出してやろう」
「いいのか、悪魔の手先がそんな事を言って」
「な、何だと、何を言っておるのだ貴様は」
「だからお前の大将は悪魔だと言っている」

 ゼロがそう言った瞬間テントの中の雰囲気が変わった。何かどす黒い重たい空気に満たされた。

「このワシを悪魔だと。その証拠でもあるのか」
「ああ、こいつは魔族でな。そう言えばわかるだろう」
「ほーこの地に魔族がいたのか、それは珍しい。ならばお前も俺の配下になってもおうか」
「ゼ、ゼロ様こいつは何を言ってやがるんですかね」
「お前が欲しいんだとよ。笑わせるな」
「黙れ下郎が。成敗してくれるわ」

 アムスレン准将の魔力が一瞬にして膨れ上がった。それは完全に人間の領域を超えたいた。これもまた人としてのスポッパーを外されていたようだ。しかも彼は魔法剣士だ。魔法力も同時に上昇した。

「ほーこれは凄いな。Sランクに近いか」
「驚いたか、要するにお前達ではどうあがいても俺には勝てないと言う事だ」
「クリア、しばらくこいつと遊んでろ。俺はこの悪魔の相手をする」
「わかりました。ゼロ様」

 クリアとアムスレン准将はテントを飛び出し外で戦闘を始めた。テントの中ではゼロと悪魔のグレムトン中将は対峙し見えない火花を散らしていた。

「お前はゼロと言うのか。確か以前にグリーンメイルの腕を切ったヒューマンがいたと聞いたが、まさかあれはお前か」
「そう言えばそんなや奴がいたな。まだ生きてるのか」
「ああ、生きてるとも、お前を殺すと言ってな」
「それは結構な事だ。まだ死んでもらっては困るからな」
「何だと、それはどう言う事だ」
「お前には関係のない事だ。お前もどうやら悪魔人と言うものらしいな。元は魔族か」
「ふふふ、もはやあ奴の意識は既にないがな。体はワシがもらった」
「ならば尚更成仏させんといかんな」

 グレムトンの魔力が更に膨れ上がると同時にゼロの気力も膨れ上がった。その威圧はグレムトンの魔力を凌駕した。

「ば、馬鹿な、何故ヒューマンにそれほどの魔力を出す事が出来る」
「それはちょっと違うな。俺は魔力など使ってはいない。俺には魔力がないんでな」
「そんな馬鹿な事があるはずがない。魔力のない生物など。それではまるで○△✕ではないか」
「ごちゃごちゃとうるさいんだよ。これでお前は終わりだ」

 ゼロの手に握られた黒阿修羅の一閃が悪魔人の首を刎ねた。それは肉体と同時に悪魔の精神生命力さえも絶った。この悪魔はもう二度と復活する事はないだろう。

 表ではクリアとアムスレン准将との戦いが繰り広げられたいた。その時には周囲にいた数十の兵隊達が二人の闘いを取り巻いていが誰一人として中に割って入る事は出来なかった。それほど二人の魔力は物凄くちょっとでも近づけば体が消滅してしまっただろう。

 アムスレン准将の攻撃に対してクリアは制空圏を用いて全ての攻撃をいなしていた。しかももはや無理も無駄もない完全な空の領域で。

 そして時々放たれるクリアの魔弾丸でアムスレン准将がクリアの制空圏の外に弾き飛ばされる。しかし致命傷とはならずアムスレン准将は更に力を込めてクリアを攻めている。そんな構図だった。

「おい、クリア。もう終わらせてもいいぞ」
「いいんですか。了解です」
「何だと。お前、グレムトン中将閣下はどうした」
「もう死んだよ」
「なに、そんな馬鹿な」

 その時クリアの制空圏の中では着実に最高魔法の核幕爆裂が用意されていた。グレムトン中将が最強の魔法剣を放とうとした時にクリアの魔弾丸によって核幕爆裂が発動された。その時の光は周囲全ての者の視界を奪い後には何も残らなかった。

「クリア行くぞ」
「はいです」

 その後、テントの中でグレムトン中将の軍服を着た悪魔の体を見た兵士達は何をどう考えどう行動したのか。それはゼロの知る所ではなかった。少なくともバルーシア共国兵の精神支配が解かれた事だけは確かだった。

『さて次だな』