「地上最強の傭兵が異世界を行く-3-07-67」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「道場での腕試し」

 ゼロが冒険者ギルドに戻って、この町の武術道場の事について尋ねた所、この町には二大流派があると言う事だった。一つは源心流と言い、もう一つが体現流と言った。

 何だか日本の武術流派の名前のように聞こえる。もしかするとかってこの世界に来た日本人達が始めた流派なのかも知れない。

 ともかくその場所を訪ねてみる事にした。まずは源心流だ。そこは町の中心から少し外れた住宅街と商業街との中間付近にあった。場所としては悪くない。

 表に大きな鳥居の様な門がありその中に正に日本家屋の様な木造式の母屋があった。中に入ってみると板の間の広い道場があり、そこで30名ほどの人間が練習をしていた。

 型をしている者もいれば別の所では組手をしている者達もいた。それぞれに指導者がついて指導をしていた。動きは剛の動き、それこそ日本の空手によく似ていた。そして若干ボクシングの様な動きも混じっていた。

 少し複合されていると言う事か。中の一人がゼロ達の見学に気が付いたようでその事を奥にいる人物に知らせに行ったようだ。

 すると奥から師範代、いやこの道場の主と思しき人物がゼロ達の方に向かって来た。

「失礼だが冒険者でゼロと言われる方ではないだろうか」
「そうだがどうして俺の名を」
「いや申し訳ない。我が門下の者が無礼を働いたと冒険者ギルドの方から連絡があり申してな」

 どうやらこの前ゼロを襲った4人の冒険者達の事を冒険者ギルドから連絡を受けたようだ。その事に関してはゼロが冒険者ギルドに報告を入れていた。

 ゼロにしてみれば謂れのない言いがかりで一々襲われてはたまったものではない。それで一応釘をさす意味でギルドに報告を入れた。

 冒険者ギルドの外での私闘だ。本来なら冒険者ギルドが関与する事ではない。しかしその4人がこの源心流一門の門人だった事もあり、ギルドとしてもこの流派には冒険者への格闘指導を要請している手前、あまり悪い評判が立っては困るので道場主に連絡を入れていたのだろう。

「いや、もう済んだ事だ。二度とこう言う事がない様にしてもらえれば俺としても文句はない」
「わかった善処しよう。それにしてもあの者達を無手で手玉に取るとは大したものじゃな。あれでも一応我が一門では黒帯クラスでの」

 この道場主にしてみれば謝罪云々と言うよりもゼロの手並みの方にこそ興味があったようだ。この流派はこの地にしかない。だから無手で戦える者は限られている。

「失礼だがゼロ殿、お主はその技を何処で習われたか良ければ聞かせてはもらえんだろうか」
「何処でと言われても特にはない。冒険者をやりながら身に着けたものだが」
「さようか。どうだろう、うちの者に一手披露してはもらえぬだろうか。きっとうちの者にもいい勉強になると思うのだが」

 始めは稽古と称して意志返しでもやるつもりかと思ったがどうやらこの人物、武術に関してはなかり純粋な気持ちを持っているようだった。そこでゼロも興味があったので立ち会ってみる事にした。

 出て来たのはここで師範代と呼ばれる者だった。大柄な男で少なくとも190センチ近くはあったろう。厳つい体で十分に鍛えられていると言うのが道着の上からでも見て取れた。

 道場の中央で対峙したゼロはリラックスして特に構えは取っていなかった。相手は左前に構え、左手を前、右手を後ろに引いた典型的な空手の形だった。

 なるほどそう言う事かとゼロはそのまま、まるで散歩でもするように相手の方に歩て行った。師範代は一瞬意表を突かれたが直ぐに気を取り戻して右の上段突きから右の逆蹴りへと繋いできた。

 それは無駄のない良い動きだった。もし当たればかなりのダメージになっただろう。ゼロはそれを受けるでも捌くでもなくそのまま素通りするように相手の拳1センチの横を通る抜け、蹴りが出て来るタイミングに合わせて相手の蹴り足の外側に捌いて、相手の右腕の内側から右手を入れて下から掌底で相手の顎を突き上げそのまま下に叩き落した。

 相手は後頭部から板の間に叩き落されることになり、更にはその前に掌底で既に意識は飛ばされていた。だから受け身が取れずそのままでは相当なダメージを受ける所だった。そこで頭が床に当たる寸前で左の甲で相手の頭を受け止めてやった。これでダメージも大分削減されるだろう。そしてそれは一瞬の出来事だった。

「なるほどうちの者達が手も足も出なかった訳がようくわかり申した。本当にその技は何処ぞで習われたものではないのか」
「ああ、我流だ」
「それはまた、いや本当にご無礼つかまつった」

 何とも時代がかった言い様だが何故かそれに違和感がなかった。ここで道場主が出てくるかと思ったがそれはなく、迷惑料だと言って金一封を包んできたがゼロはそれを断った。

 道場主は我らも更に精進させていただこうと言う事でその場は収まった。どうやら道場主は今の一瞬の攻防でとても勝てる相手ではないと理解した様だった。その辺りはまだ見る目があるようだ。

『あの技、恐ろしい男だ。我等が奥義に似た技。しかもその技量は達人クラスか。一体あの男は何者なのだ』

「ねぇねぇゼロ様、何だったんですかね、あれは」
「まぁ一種の腕試しだろうな俺の」
「そうなんですか。でもみんなで襲って来なくて良かったですね」
「ああ、そうだな」

 ゼロが道場の中央に立った時から二人の立ち合いを見ていた門下生達には冷や汗が流れていた。それだけゼロの発する気が、いや魔気が凄まじかった。師範代はそれによく耐えた。流石は師範代と言うべきか。道場主もそれがわかっていたからこその対応だった。

「では次に行くぞ」
「まだ行くんですか」
「それはそうだろう。片方だけでは失礼だろう」
「それってなんか可哀そうな気がするんですが」

 そして次に向かったのは体現流と言う道場だった。そこも似たような家屋だったが一つ違う所は床が板の間ではなく日本の畳の様な物が敷き詰められていた。

 入り口で礼をし、中に入って見学席についた。ここはそう言う事なのかとゼロは理解した。ここの技は柔法系、つまり投げ技や関節技を中心とした合気道と柔道を混ぜ合わせた様な武術体系だった。

 ただ日本の様な袴ははいていない。前の道場と同じようなズボンだ。ただしここは源心流の白とは違い紺色だった。

 ここも似たような生徒の数でみんな組打ち練習をやっていた。その様子を見てゼロは実力的には源心流と似たようなものかと思った。

 ここでは誰かがここの道場主に知らせに行く事はなかったが門人の上級者の一人と思われる者が道場に入門希望の方かなと聞いて来た。

 いや、そうではない。ただの見学だと言うとゼロの容姿から冒険者だと判断したのだろう体験希望なら受け付けると言った。

 体験希望か、それは面白い。少しはこの流派の力が見られるかと思い希望した。すると今話していた者が相手をすると言った。

 道場の片隅の空いた場所で体験試合は始まった。この人物、道場では席次3席の者だった。ゼロに突きの攻撃の型をさせこの様に防ぐのだと言う説明をしていた。

 ならば普通の速さでこの攻撃を仕掛けてもいいかとゼロが問い、いいでしょうやって見なさいと言われて同じ攻撃を少し速めに仕掛けてみた。

 それでもゼロとしては死ぬほど遅い攻撃だった。その突きを手を交差させて受け直さまゼロの腕を逆に固めて真後ろに投げ落として来た。最後の部分は合気道の四方投げに似ていた。

 ゼロはその動きに逆らわず、流れを利用して空中で一回転して立ちそのまま投げ返した。それは本来ゼロがそうなるはずの形で3席が倒された。

 正直その3席には何がどうなったのかわからなかった。何故ならこの流派にはその様な返し技はなかったからだ。

 その様子を目の端に止めた道場主が師範代に目で合図をした。師範代は二人の所に行き、練習試合をご希望かそれとも道場破りがご希望かと聞いて来た。言葉は丁寧だが敵対心満々だった。

 道場側としても3席ともあろう者が倒されてそのまま帰す訳には行かないと言う所だろう。ゼロにその気はなかったがこうまであからさまに挑戦されては受けない訳には行かなかった。

 それで急遽練習は中止になり道場の中央でゼロはここの師範代と対峙する事になった。この道場としてもこう言う事には慣れているのだろう。

 この連合国と言う所は戦争の多い地域だ。こう言う道場の看板を掲げている以上腕試しや道場破りは日常茶飯事と言った所なんだろう。

 ならばこそより実践的でなければならない。しかしゼロにはここの技はとても実践的だとは思えなかった。  

 一つには何故当身を使わないのかと言う事だった。まずは相手の気勢を割き次に技を掛ける。しかも回避不可能な技を。その為に当身は必須だろうと思われた。

 ゼロは組打ちと同時に相手の前襟を掴むと見せかけて肘で中段に当身を入れた。それだけで相手は既に戦闘不能に近い状態になっていた。

 そこから右手を相手の咽喉に当てがったまま投げを打って相手を後頭部から落とすと同時に前腕部で相手の首に腕刀打ちを入れた。まさに首の前後を挟む様な攻撃だった。これで立ち上がって来れる者はいない。まさに実践的とはこう言う事を言うのだろう。

 ゼロの使う技を見て道場主は唸った。それはかって先代から言い伝えられていた奥義の一つ。何故この男がその技を使うのか。

「待って頂きたい。其方は我が体現流の源流をご存じの方か」
「さー、そんなものは知らん」
「ならばその技、何処で身に付けられたのかお話願えないだろうか」
「これは俺の我流の技だ」
「そんなはずは・・・いや、そうなのか。失礼した」

 今回も乱闘に発展する事なく無事に終わった。

しかし事はやはりそれだけでは終わらなかった。