「地上最強の傭兵が異世界を行く-3-06-66」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「クリアの実力」

 今回のダンジョン攻略の目的はあくまでクリアを鍛え攻撃能力を身に着けさせる事だ。

 だからダンジョン踏破が目的ではない。時間がかかっても納得の行く成果が出るまで何度でもやる。

 多くの魔物を狩る事、魔石を集める事、そしてどれだけ深くダンジョンに潜れるか、そう言う事は二の次だ。しかし成果が出れば結果としてそれらはついて来る。

 今日もまた低階層でクリアは魔功円と魔弾丸の練習をしていた。魔力の濃いこのダンジョンの中でならクリア自身の魔力もまた強くなる。ゼロ達の使う瞑想には周りの魔力と融合し取り込む能力もあった。

 それを上手く活用すると魔力切れを起こす事なく長時間の戦闘も可能だ。勿論予備として十分な魔力ポーションや治癒ポーションの準備もしてある。

 攻撃対象も徐々に小型魔物から中型魔物へと移って行った。的が大きくなれば当たる確率も増える。しかしその分魔弾丸に威力がないと当たっても魔物を倒す事が出来ない。

 この魔弾丸には三つの要素がある。一つはスピード。これは素早い小型魔物相手にやっていたものだ。次が威力。中型魔物以上にはこれが絶対に必要な条件となる。そして最後は魔弾丸の質だ。

 残念ながらクリアはまだこの第三の段階には達していない。今は如何に魔弾丸に魔力を詰め込み威力を上げるか、それに専念している所だ。

 ただそれでも倒した魔物の数は徐々に増え魔石の数も増えて行った。これなら十分に今夜の宿代と食事の分は出るだろう。

 そんな事を考えながら進んでいると岩陰の向こうから悲鳴が聞こえた。恐らくまた自分達の手に負えない魔物に出くわしたんだろう。死人が出てなければいいがと思いながらゼロ達はそこに向かった。

 そこにいたのは4人組のパーティだった。まだみんな若い。ここは15階層だ。ここまで来たと言う事は全くの初級ランクではないだろう。それなりの経験は積んでいるはずだ。

 しかし4人で一匹のミノタウロスを倒せないと言う事はDランク辺りか。しかも二人は既に傷ついていた。まだ死んではいないようだがこのままではいずれ全員殺されるだろう。

 これは良い実験台だとゼロは思いクリアにぶつけてみる事にした。

「よー大丈夫か。良かったら助太刀するが、どうだ」

 ダンジョンでは勝手に相手の獲物に手を出す事はご法度だ。ただし相手が承諾するかもしくは緊急事態以外では。

「お願いします。仲間が死にそうなんです」
「クリア、お前があのミノタウロスの相手をしろ」
「ええっ、僕がですか。それってちょっときつ過ぎませんか」
「出来ない事はないだろう。やれ」
「ほんとうにもう人使いが荒いんだから。死んだらどうするんですか」

 クリアが戦っている間にゼロは傷ついた二人の手当てをしていた。一人は腹部をもう一人は肩から斜めにミノタウロスの剣で切られてはいるが致命傷と言う訳ではなかった。今ならまだ助かる。

 ゼロは治癒ポーションを与え血止めの処置をしておいた。しかしかなりの血を流しているのでまだ立ち上がる事は出来ないだろう。もう少し回復には時間がかかる。

 だからここは何が何でもクリアに頑張ってもらわなければいけない。勿論ゼロが戦えば直ぐに決着はつくだろうがそれではクリアの練習にはならない。それにミノタウロスなら色々と戦略を考える上でいい練習になるだろうと思っていた。

「あのーあんな小さな子供を一人で戦わせていいんですか。貴方の息子さんじゃないんですか」
「あれは俺の息子じゃない。パートナーだ」
「パートナーですか。あんな小さいのに」

 戦力においてはやはりミノタウロスの方が上だ。ただ機敏さ、機動性、瞬発力ではクリアが勝る。しかし決定的な威力が足りない。このまま戦っていてはいずれじり貧になってしまう。だからこその戦略だ。

「クリア、幻想魔法でそいつを攪乱しろ」

 クリアの幻想魔法はゼロの残像拳とは少し違うが似たような効果はある。自分の虚像を作り出し、そこに攻撃させておいて死角から反撃をすると言うものだ。

 わかっている攻撃ならそれなりの対処も出来るだろう。しかし見えない死角から攻撃されたら防御が間に合わない。当然耐久性も落ちる。それが狙い目だ。

 切り殺したと思った相手が急に姿を消し、思わぬ所から攻撃を受けた。ミノタウロスは驚愕と共にダメージを受けてしまった。それでもまだ致命傷ではない。これ位なら問題ないと思っていた。

 しかしそれが何度も続くとダメージがかさみ命も危なくなる。そこでミノタウロスは全魔力を剣に結集して広範囲斬撃を飛ばして来た。しかも倒れている冒険者達に向かって。

 防がなければ傷ついている二人の冒険者達が、いや4人全員が死んでしまう。しかしそこにはゼロがいる。ゼロ様ならあんな攻撃位簡単に防げるだろう。

 しかしとクリアは思った。これは僕に課せられた課題だ。それとこう言う場合、ゼロ様と言う人はあの4人を助けるだろうか。ゼロ様は必要となればいつでも非情になれる人だ。それは何度もこの目で見て来た。

 ならばあの人達を助けるのは僕しかいない。しかしあの途方もない魔力波をどうすればいい。

 ゼロ様に教えてもらった瞑想は単に空を求めるものではなかった。外界の魔力との融合だ。そしてそれを吸収する事。それなら魔功円で同じ事が出来ないか。

 クリアはミノタウロスと冒険者達との間に現れそこに魔功円を築いた。そして襲って来るミノタウロスの魔力波を魔功円の中に吸収し出した。これには途方もない精神力がいった。少しでも意識が逸れたら自分が消滅する。

 そして吸収したミノタウロスの魔力を凝縮して魔弾丸を作り、そこに自らの魔力も加えてミノタウロスに撃ち返した。

 それは途方もない威力となってミノタウロスを一瞬で消滅させてしまった。この時クリアの目が赤くなったのを見た者は誰もいなかった。

「あ、あのー。彼は一体何をしたんですか。あんなの見た事もないんですが。あれは魔法ですか」
「魔法か、魔法と言えば魔法と言えるかも知れんが、魔法でないと言えばまたそう言えるかも知れんな」
「何なんですか、それは」
「ともかく俺達は助かったんだ。今はそれでいいだろう」
「は、はい。ありがとうございました」

 その後クリアもまた倒れてしまった。恐らく体力も魔力も尽き果ててしまったんだろう。ゼロは心の中で『よくあれに気づいた。大正解だ』と言った。

 しかしそれはまだクリアに取っての第二段階でしかなかった。

 ゼロ達は二人の回復を待ってラズドリアの町に戻る事にした。

 彼ら4人のパーティは「剱山の輝き」と言う名前でみなDランクだと言った。リーダーはクロムと言い、傷ついた一人の魔法使い、ジャスリンとは同じ村の出身だと言った。

 後の二人、傷ついたもう一人の前衛の剣士、ヤルーンと付与魔法を使うカルギンは後からこのパーティに参加したらしい。しかしパティーとしてはよく調和がとれて活動しやすいパーティのようだ。

 ここまで順調に魔物の討伐が出来ていたが今回が初めての敗北だった。まぁ無理もない。相手があんなミノタウロスでは。あれはCランク・パーティが少なくとも2組、3組で当たらなければ勝てない相手だ。

 単騎で倒すにはBランク上位かAランクの実力がいる。それをクリアは一人でやった事になる。あの逃げ隠れしてたクリアがだ。

 みんなで冒険者ギルドに顔を出し、それぞれの獲得した魔石を買い取ってもらった。ただそこで誰もが驚いたのは特大のミノタウロスの魔石だった。

 こんなもの何処で誰が倒したんだと言う事になった。それをこの小さな子供が倒しただなんて誰も信じなかった。しかし「剱山の輝き」の証言がある以上認めない訳には行かなかった。

 その功績を持ってここのギルドマスターのグレインウッドの計らいによりクリアはDランクに昇格した。この歳でのDランクは異例の事だ。

 今回の功績を考えればCランクに上げても良かったんだが流石にクリアの歳を考えると周りとの兼ね合いもある。2段階特昇だけでも良しとしなければならない。それとここの冒険者ギルドから2段階特昇を出したと言う事はギルドマスターの評価にも繋がるのだろう。

 ただ問題はその後で起こった。親同然のゼロが何もせずに、歳羽も行かない子供に魔物退治をさせて自分は「左団扇」でのうのうとしている角兵衛獅子(これに似たようなもの)の親方の様な奴だと言う評判が立った。

 実際ゼロは何もせず毎回クリアに戦わせていた。だからそう言う評判が立っても無理はないだろう。

 中にはあいつはCランクだと言うが本当は子供の成果を横取りして自分だけCランクになったんだろうと言う者も出て来た。

 ゼロに取ってそんな事は痛くも痒くもない事だがクリアが少し気にしていた。

「いいんですかゼロ様、世間では色々言ってますが」
「放って置け、雑魚の戯言だ」

 その程度で済んでいた内はいいのだが、その内許せん天誅だとゼロに挑みかかって来た者もいた。全ては一瞬で片付けられてしまったが、今日もまた一組、厳つい男達4人がゼロに挑んで来た。

 俺達が勝ったらその子を開放しろと。本音は逆にクリアを取り込んで自分達が楽をしようと言う腹だろう。

 ただ面白いのはこの4人の男達はみんな無手だった。ゼロは格闘技の心得でもあるのかなと思った。それぞれ攻撃は雑だったがそれなりには型になっていた。

 この町で誰かこんなものを教えている者がいるのか。少し調べてみるのも面白いとゼロは思った。

 この4人はどうやら剛法系の技を使うらしい。それは日本の空手に似た動きだった。突き、蹴り、裏拳、それに廻し蹴りまで混ぜて来た。面白い。全てはゼロのカウンターテクニックで粉砕されてしまったが、それなりにゼロの興味を引いた。

『どっちみちクリアには接近戦の闘法を教えなければいけないと思っていた時だ。一つここの武術と言うものを見てみるか』