「地上最強の傭兵が異世界を行く-3-04-64」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「ラズドリアの町の思わぬ再会」

 医療ギルドの1級薬師が北欧連合国では今戦争が起こっていると言っていた。それならそれでまた面白いかも知れないとゼロはその北欧連合国に足を向けた。

 ただ何処と何処がどう言う戦争をしているのかゼロは知らない。まぁ行けばわかるだろうと気楽に考えていた。

 それと最後に立ち寄ったハミングトーンの冒険者ギルドでここから一番近い北の北欧連合国の一つ、リトール共和国にはダンジョンがあると聞いた。

 取りあえずはそれを目的の一つにした。それはクリアを鍛える為だ。今回の事でクリアの力ではまだまだ対戦闘能力が劣る事がわかった。これを何とかしなければならない。

 ただそれでも人には向き不向きと言うものがある。クリアのそれはマーカスの様な力で押して行くタイプのものではない。

 むしろ対極にあると言って良いだろう。ならば剛に対する柔の技。防御の技が似つかわしいだろうとゼロは考えていた。

 防御の技と言っても馬鹿にしたものではない。使い方によっては剛をも上回る。ゼロはそれをクリアに伝授しようとしていた。

「ゼロ様、今度は何処に行くんですか」
「取りあえずはリトール共和国と言う所だ」
「そこって大丈夫なんですか。あの1級薬師が北欧連合国では今戦争が起こってるって言ってませんでした」
「ほーそう言う事はよく覚えてるんだな」
「それはそうですよ。身の安全が第一ですから」
「それは正しい。ただ時には『虎穴に入らずんば虎児を得ず』と言うことわざもあってな」
「何ですかそれは。何かやばそうですね」

 ゼロ達二人はリトール共和国との国境線に近づき入国門に向かった。この世界にはパスポートもビザも何もない。

 商用以外で個人が入国出来るかどうかは門番の判断に掛かってると言っても良かった。

 それは正式な身分証明であったり金であったりそれ以外だ。それ以外と言うのはちょっと問題だが、この世界はみんなそんなものだ。

 ゼロ達は冒険者カードを提示し入国金と称して幾ばくかの金を門番に手渡した。すると簡単に入国を認めてくれた。その時に簡単な情報を収集しておいた。

 戦争をしているのはこの国と東隣にあるバルーシア共国と言う所らしい。ただ今戦場になっているのはもっと北の国境線付近であるらしい。だからまだこの辺りには影響は出ていないと言っていた。

 それとダンジョンはこの国の南西部にある町ラズドリアの近くだと言った。それだけわかれば十分だ。ゼロ達はまずそのラズドリアに向かった。

 ラズドリアまでは国境門から5日位の距離だ。この間も当然森での生活だ。そこでいつもやっている瞑想をもっと意識化させて体の周囲の気功円をより実体化させる事にした。

 ただ気功円と言ってもクリアに気が扱える訳ではないのでこれはあくまで比喩であって本当は魔力を用いた魔功円だ。今クリアは半径2メートル程の魔功円を作る事が出来る。

 その魔功円を残留思念を用いて無意識化で常駐させる。これは簡単そうで難しい。しかしこれが出来なければ先には進めない。

 ちょっとでも集中を切らすと魔功円は直ぐにきえてしまう。だからと言って意識し過ぎると今度は実体が上手く動かなくなる。

 そのバランスが実に精妙なものになってくる。しかしゼロは精神魔法の得意なクリアなら出来るだろうと思っていた。

 始めは苦労していた様だが後半には何とか維持出来るようになってきた。今度はそれを維持したままその魔功円を通して周りの動きを感じ取らせた。正直これはもっと難しい。

 魔功円とは一種のフィルターだ。それを介すると感覚が鈍る。それでも尚感じろと言う。それは一種の魔力と感覚の分離を意味する。

 魔力を持つ者に取って魔力は既に体そのもの精神そのものになってる。それを分離して使えと言う。それはこの世界の摂理に反する事だった。

 しかしそれでもクリアは努力を続けた。あの時の教会での自分の不甲斐なさを感じていたのだろう。そしてようやく風の騒めきや空気の流れ、そう言うものが感じられる様になってきた。

 ここまで来てゼロはやっと第一段階に達したかと思った。それなら次の段階だ。当然魔功円の拡大もまた課題の一つとして要求していた。

 森での生活を終え、やっとラズドリアの町に辿り着いた。さてでは冒険者ギルドを目指そうと町の中を歩いていると何だか人が多い。それも冒険者や傭兵と言った感じの厳つい連中だ。

 どうやら戦争に加担しようと言う傭兵志願と言った所か。戦争地域では必ず起こる現象だ。どちらの陣営も戦力が欲しい。

 自国軍で足りない所は外部の義勇兵なり傭兵を雇うのは世の常だ。ゼロ自身もそう言う人生を歩んできた。

 そう言う目で見れば小さな子供を連れたゼロは何となく場違いな気がしないでもない。そう言う男達の間を抜けてようやく冒険者ギルドに辿り着いた。

 しかしここでも傭兵志願者が多かった。しかし冒険者ギルドでは戦争への斡旋はしないはずだ。

 ギルドは国とは一線を画す全ての国にまたがる別組織だ。そんな組織が一国に肩入れすれば問題になる。

 ではここで何をやっているのか。様子を見ているとみんな割り札の様な物を持って地下の練習場に行くようだ。

 受付嬢に聞いてみると地下では戦闘力検査試験をやっていると言う。つまり各自の戦闘能力を計って評価を出しているのだ。

 そんなものを一体何に使うのか。つまり軍隊入隊時の立場や金額、それに配置の査定に繋がるらしい。

 特に戦闘能力値の高い者は最前線に送られる可能性が高いがその分報酬が良いと言う。まぁ安全をとるか金を取るかは本人次第だ。

 基本的にはランク試験と同じようなものなので冒険者ギルドとしては手慣れているのでこれも仕事の一つとしてやっているようだ。

 どうやらこの為に冒険者ギルドに支払われる金は国から出ているらしい。良いのか悪いのかはわからないが。

 ゼロも興味が出たのかその試験会場に足を踏み入れた。いるわいるわ強者どもだ。ゼロとクリアは試合場の上に設けられた見物席で見る事にした。

「ゼロ様、なんか凄いですね。みんな強うそうですよ」
「まぁ見かけはな。しかし本当に強い奴は一握りだな」
「そうなんですか。僕にはみんな強そうに見えますが」

「クリア、瞑想する時の意識で、お前がやる隠形魔法の魔力を逆に外に向けて薄く流して見ろ」
「はい、あれーなんか色が見えます。各自の色が」

「その中で強い赤い色は剛力の強い奴だ。そして青い色の強い奴は魔法力の強い奴。赤と青が重なって強い奴は両方に強い」
「へーそんな事がわかるんだ。知らなかったです」
「今までのお前では出来なかった事だが今のお前なら出来る」

「そうなんですか、何か凄いです。でもゼロ様には色がありませんが」
「俺は魔力を持ってないからな。当たり前だ」
「うそ、そんなのってありですか。あんなに強いのに」

 その時査定を受ける者の中に何処かで見た事のある顔があった。

「クリア、あそこにいる赤い髪の毛の男、覚えてないか」
「えっ、えーっと。ああ、あの人ですか。そう言えばどっかで。あっ、そうだ。あれですよ。暁ダンジョンにいた人です」

「やっぱり覚えていたか」
「でもあの人って勇者で、今はお尋ね者じゃなかったですか」
「まぁ、一応はそうなってるな。しかし何でまた」

 しばらく様子を見ていたがその男、正木は派手な勝ち方をせずに力をそこそこに押さえていた。まぁ、この中では上の下と言う所か。

 査定が終わった時点でゼロ達は下に降りて行き、帰ろうとしていた正木に声をかけた。

「よう、お前は正木とか言ったか。元気だったか」
「あっ、あなたはゼロさん、でしたよね」
「ほー覚えていたのか。まだ恨んでいるのか」
「さーどうでしょう。仮に恨んでいてもあなたには勝てませんし、僕も色々学びましたから」

「そうか、それは結構な事だ。しかしお前は何をしてるんだ。傭兵にでもなるつもりか。戦争は人と人との殺し合いだぞ。お前がやってはいけないと言っていた事ではないのか」
「そうですが、僕達も生活して行かなければなりませんので」

「お前まさか、金だけもらって前線で何もしないつもりじゃないだろうな。それは戦線離脱と同じ扱いで軍隊じゃ銃殺刑だぞ」
「そ、そうなんですか」
「お前な、戦争を舐めるんじゃないぞ。みんな生き死にがかかってるんだ。まぁいい。それじゃーな」

 ゼロがそこを離れようとした時、正木は踏ん切りがついたのか、
「あのー良かったら家に寄ってもらえませんか。狭くて汚い所ですがきっと裕子が会いたがると思いますので」
「何だ一緒に住んでるのか。でも良いのか」
「はい、今日は家にいると思いますので」

 ゼロとクリアは正木の誘いに乗って彼らの家に向かった。それは町の外れにある本当に小さな山小屋の様な家だった。案内されて入ると中で家の片付けをしている裕子がいた。

「裕子、お客さんだ」
「客さん?裕也どう言う事よ客さんだなんて」

「悪いな邪魔して」
「えっ、ゼ、ゼロさんですか。本当にお久し振りです。その節は本当に失礼しました」

「お前も元気そうで安心したよ」
「それでそちらのお子さんは」
「ああ、これは俺の今の相棒だ」
「相棒ですか。冒険者の」
「そうだ、クリアと言うんだ。宜しくな」
「クリアです。よろしくです」
「ええ、こちらこそよろしくね、クリア君」

 そこで正木達は今までの経緯を大雑把に話した。帝国を離れこの国に来て今は何とか生活していると言う。しかし暮らしは楽ではないようだ。

 勇者と言われ帝国で贅沢な暮らしをしていた頃とは雲泥の差と言えた。それでも人の領分を弁えて生きていると言うだけでも随分と進歩したものだとゼロは思った。

「あのー良かったら食事して行きませんか。さっき近くの森で野兎を狩ったんです。直ぐに料理しますから」

 狩って来たばかりの野兎が二羽の軒先に置いてあった。血抜きもしてないのかとゼロは思った。

「クリア、あのウサギの料理手伝ってやれ」
「わかりました。ゼロ様」

 そう言ってクリアは裕子を伴って炊事場に行った。そこで綺麗に血抜きをし、皮を剥いで内臓を取り出し、必要な物とそうでない物とに振り分け、肉を切って一部をシチュウとスープにそして一部を串焼きにした。味付けも実に上手く出来ていた。これには裕子も驚いていた。

 食事の席で裕子がどうしてこんな小さな子が野生の動物をさばいて料理が出来るのかと聞いていた。

「それは俺が教えたからだ。森の中で生活する為に、草を食べ果実を食べ獣を食べ、小川で魚を釣り、水浴びをし、薬草を取って薬にする。そんな生きる為のサバイバル・スキルを教えた」
「こんな小さな子供にですか」

「戦争地域では大人も子供も関係ない。生きて行かなければならないからな」
「なんか僕達が今まで地獄だと思ってた事なんで大した事ないって感じですね」

「それはそうだろう。お前達にはまだ日本での緩ま湯の感覚が残っているんだろう。生きる基本は時給自足だ。それが出来れば生活が貧しいとか金がいるとかは関係なくなる」
「参ったな。こんな子供にも勝てないなんて」

「しかしまぁ、よくやれてるとは思うぞ。あの日本から来たにしてはな」
「そう言われても嬉しいんだか嬉しくないんだかわかりませんよ」

 正木達は町で雑用のような事をして金を稼いで生活している様だった。いくら国が違うとは言え、やはり元勇者と言う名称と経歴がちゃんとした職業には付けないらしい。

 それに冒険者ギルドでは登録時に犯罪歴が出てしまい冒険者にすらなれないと言う。まぁ無理はない。

「ならどうして魔物を狩らない。狩って冒険者ギルドに持ち込めばいい金になる。お前らの力なら容易い事だろう」
「だって僕達冒険者ではありませんから」

「何だ知らないのか。冒険者ギルドには買取と言う部署がある。魔物を直に買い取ってくれるんだ。それには冒険者である必要はないと言う事だ」
「そ、そうなんですか。知りませんでした」

「やはりな、お前らはまだ世間の常識を知らな過ぎるようだ。ただし言っておいてやる。あまり大物の魔物を倒すな。お前達の評判が表に出る。そうなるとまた住み難くなるぞ」
「わかりました。ほどほどにと言う事ですね」
「そうだ」

 その時裕子が言った。私達にそのサバイバル・スキルと言うのを教えてはくれませんかと。

「本気か」
「はい、本気です。多分私達には必要になるスキルだと思います」
「お姉さん、流石ですね。でも死にますよ」
「えっ、ええっ!」