「地上最強の傭兵が異世界を行く-3-03-63」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「教会の未来」

 ゼロは教会の地下の実験室を綺麗に片付けてまた作業が出来るようにした。これには子供達にも手伝わせた。

 始めは嫌だ、面倒だ、疲れるとか言っていたが食べ物をやると言ったら子供達は喜んで手伝った。実に現金なものだ。いや、腹に正直と言えば良いのか。

 それからここには商業ギルドもあると聞いたので簡易店舗の申請をアストリーゼにやらせた。

 名目は教会支援の為、教会グッズや薬草及びその精製品の販売とした。これで申請は通るだろうとゼロは言った。

 申請費と言うのが少しいるがそれはゼロが立て替えておいた。そしてその申請は直ぐに降りた。実に簡単なものだった。ゼロはこの結果に満足していた。

 まずは庭の手入れのやり直しからだ。ちゃんと『月影草』が育つように水をやり、肥料を与えて育成した。

 「月影草」はかなりデリケートな草で育成に手間暇はかかるがちゃんと手入れをしてやればしっかりと根付く。ともかく今あるある『月影草』を採取し、実験室で粉末状にして精製を始めた。

 その間に教会の前に小さな店を作った。土産物売り場のような物だ。そこにまずは教会関係のグッズを置いて誤魔化しておいた。

 その内に薬草も置く。更にその次と言うのが本命になる。ともかくそこまで準備している頃に例の不動産屋の連中がやって来た。

「よう姉ちゃん。腹は決まったかい。そろそろ決めないとみんな餓死してしまうぜ。あんたなら俺らが面倒見てやってもいいんだがな。はははは」
「何度も言ってるじゃありませんか。私はこの教会を売るつもりはありません」
「いいのかい。そんな事を言ってて。子供が事故にでも合ったらどうするんだい」
「それは脅してるのですか」
「いいや。もしもの事を言ってるだけだ」

 そろそろ頃合いだと思ってゼロが出て来た。

「よう、ゴキブリども。もうその位にしとけ。お前らに用はないから今直ぐ消えろ」
「何だとこのやろう。てめーは誰だ」
「ここの共同経営者だ」

「共同経営者だー。馬鹿か、ここはこの娘一人のものだ。知らねーのか」
「お前こそ何処に目を付けている。あそこに店が出ているだろう。あの店は俺とこのシスターの共同経営と言う事になってるんだよ。ちゃんと届も出してある」

「何だとクソがー。あんなものぶっ潰してやらー」
「あちら風に言うと『器物損壊罪』で軽犯罪法違反だな」
「何だとうるせー」

 威勢が良かったのはそこまでだった。ゼロの前に立った瞬間、ゼロの威圧に触れて全員腰を抜かしてしまった。

 しゃべる事もままならず、手足も動かず、ただ息をしてるだけ。しかも心臓の鼓動が速くなる。今にも死にそうだ。全員が冷や汗を垂らしながら金魚のように口をパクパクさせていた。

「もう少し今の状態が続くと本当に死ぬがどうする。大人しく帰るか」

 みんなはただただ激しく首を上下に振っていた。それでゼロが威圧を消すと、その途端あまりの安堵の為に漏らした奴もいた。後はみんなほうほうの体で逃げて行った。

『これであいつらはしばらく来ないだろうが、別口が来るかも知れんな』

「あのー一体何があったんですか。みなさん帰られたようですが」
「何か急用でも出来たんじゃないか」
「そうですか。急用ですか」

「ゼロ様、威圧を使うなら使うって言ってくださいよ。僕までちびりそうになったじゃないですか。彼女までちびったらどうするんですか」
「ガツン!」
「痛いです」

 さてしばらくして全ての準備は出来た。教会グッズに薬草に薬(熱さましと風邪薬)、それと下級ポーションを並べた。

 ポーションも中級以上だと庶民には手が届かないだろう。だから下級ポーションで十分だ。後は売るだけだ。

「でもゼロ様、これをどうして売るんですか」
「そうですよゼロさん。ここは辺鄙な所ですから人なんか来ませんよ」
「なら来たくなるようにすればいい。クリア誘導して来い」
「えっ、ええっ、僕ですか」
「お前しかいないだろう。しっかり誘導して来いよ」
「そんなー」

 クリアは町に行って適当に誘導魔法を使って人々を誘い出した。すると人々はゾロゾロと教会に向かいだした。まさに「ハーメルンの笛吹き男」だ。

 手段はともかく教会に着いた人々は必要な薬やポーションが安価で手に入ると知って喜んだ。

 そしてそれはやがて噂が噂を呼びその教会が評判になって来た。子供達も大わらわで販売の手助けをしていた。

 その合間にゼロはアストリーゼに薬草の知識と薬の作り方、そして父親が果たせなかったポーションの作り方を伝授した。

 勿論上級ポーションは作れないが下級ポーションなら作れるようになってきた。このまま研鑽を積めば中級位までなら作れるだろうとゼロは思っていた。

 勿論精度はゼロよりも遥かに落ちるがそれは仕方がない。一般大衆には十分なポーションだ。これなら将来的に教会の運営も十分やっていけるだろう。

 そう思っていた頃、やっぱりと言うか予定通りに医療ギルドの1級薬師が取り巻きを連れてやって来た。

「やはり君だったか。ここで何をしているんだ。これは違反行為だ。領主様に言って取り締まってもらわなければならんな」
「どう言う事かな」

「医療ギルドの気許可なく薬やポーションを売る事は出来ないんだよ」
「それは違うな。それは薬屋に対する規則だ。一般の屋台や出店に対する規則ではない。こっちはちゃんと商業ギルドの許可を得て商売してるので文句言われる筋合いはないはずだ」

「しかし売って良いものには制限がある。薬やポーションはその範疇にはいらないんだよ」
「それも違うな。俺達の申請書をよく読んでみろ『教会グッズや薬草及びその精製品の販売』となっている。つまり薬やポーションとは一切明記していない。薬草の精製品だ。薬もポーションも薬草の精製品なんだよ。これはどんな規則にも違反しない事になる。文句があるなら商業ギルドに言うんだな」
「そ、そんな馬鹿な。それは言葉の綾だ」

「言葉の綾か何だか知らないが商業ギルドが認めた認可に文句があるなら文句を言う所が違うだろう。さー商売の邪魔だ。出て行ってもらおうか。それに俺にポーションを作れと言った時、材料は直ぐに手に入ると言ってたがあれはどうした」
「そ、それはまだ・・・」

「つまりこの教会を立ち退かせて裏庭に生えている『月影草』を狙っていたんだろう。それが出来なくなって材料が手に入らなくなった。それなら俺もお前達の為に作ってやる必要もない訳だ」
「こんな事をしてただですむと思ってる訳ではないでしょうね。みんなやってしまいなさ」

「おいおい、1級薬師さんが今度は脅迫に暴力か。困ったもんだな。しかしそいつらは何もしないよ」
「何をやっているのですか、たかが一人ではないですか、早くやってしまいなさい」

「薬師様、申し訳ありませんが俺達ではとても敵いません」
「何ですって。そんな馬鹿な。今まで何故高い金を払って来たと思ってるんですか。もういいです。あなた方にはもう頼みません。みんな首です。そしてあなたどうなるか覚えていなさい」

 そう言って頭から湯気を立てて1級薬師は帰って行った。

「ゼロ様、なんか怒って帰って行きましたけどあれで済みますかね」
「まぁ済まんだろうな。次はきっと影の大物が出てくるだろう」
「大丈夫なんですか。そんな余裕で」
「まぁいいんじゃないか。面白そうで」
「はー、まったく。こっちの身にもなってくださいよ」

 それからしばらくして予想していた事が起こった。突然衛兵が現れゼロを取り囲み領主の館まで来いと言い出した。

 しかしこれはもう完全な拘束連行に他ならなかった。ゼロはクリアに後を頼むぞと言った。つまりそれはアストリーゼと子供達を守れと言う事だ。

『ゼロ様、もう無茶苦茶ですよ。僕は弱いんですからそんな事出来ませんて。でもやらないと殺されますかね。まったく』

 ゼロは領主の館に連行された。ここの領主と言うのはヨーゼフ・クライン子爵と言った。館の中庭の中央に膝を付かされた形で領主と面会と言う事になった。

「その方、違法薬やポーションを売っているそうだな」
「それは何かの間違いでしょう。俺は正規の商売をやってますしちゃんと商業ギルドからの認可も受けてますが」
「商業ギルドが何を許可したか知らんが医療ギルドに違反する者は全て違反者なのだ」

「つまりそれだけあんたに賄賂が効いていると言う訳か、領主さんよ」
「貴様、領主様に対して何と言う口の聞き方だ。今直ぐ成敗してくれるぞ」

「そうなると誰も上級ポーションが作れなくなるし、効率のいい下級ポーションも作れなくなるがそれでもいいのか」
「ま、待て。確かにそ奴の言う通りだ。残念ながらそ奴よりも腕のいい薬師がおらんことも事実だ」
「しかし、ご領主様、それでは」
「そうじゃのーこ奴を牢にでも閉じ込めて一生ポーションを作らせると言うのはどうじゃ」
「それはよろしゅうございますな。そういたしましょう」

 そこでゼロは立ち上がり、伸びをするように体に巻き付いていた縄を全て解いた。

「き、貴様何をした」
「こんな茶番劇はもう終わりにしようぜ。俺も飽きたしな」

 3-4人の衛兵がゼロに掛かって行ったが一瞬にして全員が吹き飛ばされてしまった。残り十数人もジリジリと間合いを狭め一気に掛かって行ったがこれも同じだった。

「これで全部か。もうちょっとましな兵隊はいないのか」
「おのれーこんな事をしてただで済むと思っておるのか。貴様は帝都に逆らう反逆者となるのだぞ」
「それはどっちかな。これが何だかわなるか」

 そう言ってゼロは一つの紋章を見せた。それは正に帝国の帝王の紋章。帝王代理の紋章だった。国でただ一人、特別任務に就いた者のみが持つ事が許される紋章であり、その権威は帝王に匹敵する。

「これに敵対すると言う事はすなわちお前は帝国の敵になると言う事だ。それを承知で敵対するんだろうな」
「そ、それは帝王代理の紋章。で、では貴方様は」
「この俺に対する非礼、この場で処刑してもいいんだがな」
「ど、どうかご勘弁ください。知らなかったのです」

「医療ギルドに唆されて俺を束縛した責任、どう取るつもりだ。一族郎党打ち首になるか」
「お許しください。お許しください。このお詫びはどの様にでもいたしますので命ばかりはお助けください」

 ゼロはさっきまで偉そうにしていた領主の副官に目を向けて、
「おい、そこのイソギンチャク。さっき何とか言ってたな。俺の口の聞き方がどうのこうのと。でどうなんだ。まだ文句があるのか」
「い、いえ。とんでもございません」

「貴様の様な奴を虎の威を借る狐と言うんだ。おい領主、こいつを何とかしろ」
「は、はい。誰かこの者を牢に放り込んでおけ。後で処分を言い渡す」
「いいか、このまま何事もなく生きていたければ俺の言う事を聞いて誓文に署名しろ。拒否は許さん」
「は、はい。何でもいたします」

「それと今までくすね取った賄賂を吐き出せ。嫌なら屋敷を叩き壊す」
「はい、仰せの通りに」
「それとあの教会の補助金を差し止めしたのはお前だろう。直ぐに戻せ。二度とやったら今度こそお前の命はないと思え」
「は、はい。直ちに対処いたします」
「いいか、俺の間者をこの町に放ってある。勝手な事をしたら最後だと思え」
「はい、仰せの通りに」

 今回のゼロは厳しかった。精神的に徹底的に叩きのめしていた。ここまでやれば余程の事がない限り逆らう事はないだろうとゼロは確信していた。さて後は医療ギルドだ。

 ゼロは一旦教会に戻った。みんな無事かどうかを確認する為に。するとどうだ。ゼロがしょっぴかれたと聞いてまたぞろろくでもないない奴らが集まっていた。

 それをクリアが精一杯、誘導魔法と幻影魔法でのらりくらりと相手の攻撃をかわしていたがそろそろ限界に近づいて来ていたようだ。

「クソガキが、モヤモヤと訳の分からない魔法なんか使いやがって。捕まえてぶっ殺してやる」

『わー、参ったな、これじゃー本当にもう直ぐ終わりですよ。僕はどうしたらいいんでしょうかね。やっぱり逃げますかね。でも逃げたらゼロさんに殺されそうだし困りましたね』

「ようクリア、よく頑張ったな」
「えっ、ええっ、ゼロ様ー。もう死にそうですよー」

 その時現れたゼロに全員の動きが止まった。特にクリアを殺そうとしていた荒くれ者達は。

 まさかゼロが再び帰って来るとは思ってもみなかったのだろう。領主に捕まったんだ。よくて牢獄または打ち首だろうと思っていた。それが何故と思っていた。

「ようクソども、よくも俺の弟子に手を出してくれたな。覚悟は出来てるんだろうな」
「てめー何故ここにいやがる。領主様に捕まったんじゃねーのか」

「どうせお前らのボスがチックったんだろうが生憎だったな。今度は俺の番だ。そっちこそ覚悟は出来てるんだろうな」
「クソーこうなったらもう破れかぶれだ。野郎どもやっちまえ」

「クリア、中に入ってドアを閉めとけ。誰も出すなよ」
「はいです。ゼロ様」

 それから起こった事は子供達には絶対に見せられるものではなかった。いや大の大人ですら吐き気を催しただろう。

 手足が千切れバラバラになった遺体がそこいらに中に散らばっていた。最後に残ったボス格の男は片足を失い後ろにずり下がりながら涙を流し震える声で助けてくれを繰り返していた。

「お前らは運が悪い。せっかく眠っていた『死神』を揺り起こしてしまったんだからな」

 その声を聴いた瞬間男の顔が吹き飛んだ。それからゼロは焼夷手榴弾で全ての死体を骨も残さずに焼き尽くした。

「クリア、もういいぞ。みんなは無事か」
「はい、大丈夫です。誰も怪我はしてません」
「そうか、よくやったなクリア」
「あはは、僕褒められたんですか」

「ゼロさん大丈夫でしたか、領主様に召し出されたと聞きましたが」
「ああ、大丈夫だ。それから補助金も今まで通りに出るから心配しなくていいぞ」
「本当ですか。でもどうしたらそんな事が」
「きっと神様の助けじゃないのか」
「まさか」
「神に仕える者がまさかはないだろう。俺はこれからちょっと寄る処があるのでまた後で会おう」

 そう言ってゼロは単身医療ギルドに向かった。医療儀ギルドの中では酒盛りの最中だった。

 厄介な奴が領主に捕まりもう邪魔をする者は誰もいなくなった。これから先は今まで以上に好き勝手が出来ると喜んでいた。

 ただ一つ残念な事があるとすればあの男のポーション作りの腕だが、問題を抱える事から考えればなくても何とかなる。また別の方法で稼げばいいだけどと思っていた。

「そんなに人生最後の酒は美味いか」
「誰だ。お、お前が何故ここにいる」
「ようく見ろ。領主様からのお達しだ」

 そこには今後医療ギルドの権限から薬屋への認可の許可を排除し、薬の販売は各薬商の自己責任において行う事と書いてあった。

「何だこれは、こんな事が容認できるか」
「容認するもしないも領主の決定だ。誰も意義の申し立ては出来ないと思うぞ。言っとくがお前の賄賂ももう効かないぞ」
「そんな事がある訳がなかろう」

「嘘だと思うなら領主に直に掛け合ってみるんだな。ただしその前にだ。お前には借りがあったからな返しておこうか」
「何んの事を言っている」
「お前が嘘八百並べて俺を領主に訴えた事だ」
「わ、わしは何もそのような事はしてはおらんぞ」

 ゼロは1級薬師の両上腕を軽く中指と親指で押さえ各指から気を流した。すると薬師の腕は動かなくなってしまった。ゼロは秘孔のツボに気を流したのでもうお前の腕は動かないと言った。

「貴様、こんな事をしてどうなるかわかってるのか。わしは上級薬師だぞ。領主どころか帝都の中枢にも顔が利く、貴様など帝都重鎮の力で打ち首にしてやるわ」
「そうか、それは結構な事だ。楽しみにしてるぞ。一言いっておいてやる。その腕は多分俺しか治せないと思うぞ。しかし不便を感じる時間はそんなにないと思うから安心しろ」

 ゼロが消えた後、1級薬師のベルガーが領主の館に飛び込んだ。そしてゼロの無礼について文句を言おうとしたら縄を打たれて束縛された。

「領主様、これは何の真似です」
「貴様は何をした。ゼロ様は王家の代理人だ。その代理人に対して無礼にもほどがあるだろう。直ちに打ち首じゃ」
「何をおっしゃっているのです。あんな者が王家の代理人だなんて」

「本当じゃ、ゼロ様は本物の王家の代理紋をお持ちじゃった。それに無礼を働いたお主は万死に値する。直ちに処刑場に連れて行け」
「そ、そんな。お待ちください領主様、それでは今での金子は」
「うるさい、即座に処刑じゃ」
「領主様ーーー」

 ゼロは領主は1級薬師を処刑するだろうと思っていた。何しろそれは賄賂の証拠隠滅にもなるのだから。

 ただもしその1級薬師が処刑を逃れたのなら一生両手の動かない不自由を感じて生きて行かなければならない。どちらに収まっても自業自得だろう。

 これだけの事をしておいてゼロは教会に帰って来た。

「もういいんですかゼロさん」
「ああ、これで全部終わった。後はあんたがあんたの父さんの後を継いでしっかり生きて行くだけだ」
「それはどう言う意味ですか。もう助けてはくださらないと」

「俺は助けたはずだ。後はあんたの努力次第だと言っている。どう生きて行くのか、あんたの背中が子供達の道しるべになるんじゃないのか」
「そうですね、本当にお世話になりありがとうございました。このご恩は一生わすれません。貴方様もどうぞご健勝で」
「ああ、あんたもな」

「それではです。お姉さん」
「ええ、クリアちゃんもね」
「はいです」

アストリーゼと子供達に別れを告げてゼロとクリアはまた新たな冒険に向かって行った。