「地上最強の傭兵が異世界を行く-3-02-62」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「医療ギルドの陰」

 ゼロは宿屋に戻り夕食の時に宿の主人や客達からあの教会に関しての情報を集めてみるとどうやら不動産屋があの土地を求めて蠢いていると言う話があった。

 しかし不動産屋に補助金を止めるだけの力はない。そうなるともっと上の方で何かが行われていると言う事になる。

 冒険者ギルドにも探りを入れてみたがそこからでは大した情報は引き出せなかった。そう言えばこの町には確か医療ギルドがあると聞いた。

 この町は果物栽培を中心とした温厚な町だ。さほど荒々しさもない。なら一般的な医療はどうなっているのかとまずは町の薬屋を訪ねてみた。

 薬の量はそこそこには揃っていた。ただ質のレベルとしては中の下と言う感じだろう。特に効能のある薬はなかった。

 ゼロがストーレッジから取り出した自作の熱さましと風邪薬を見せたら驚いていた。この町にはこれだけの薬の作れる薬師はいないと言う。

 この世界では薬の質は特殊な魔道具で判別出来るようになっている。ゼロが出したのは正に上級に値するレベルの物だった。

 ただこれだけの物になると一介の町の薬屋では取り扱いが難しいので医療ギルドに行って欲しいと言われた。

 つまり各店で扱える薬の質と量を医療ギルドが指定しているらしい。そして上級薬は医療ギルドが一手に取り扱う事になっていると言う。

 それならとその店主に教えてもらった医療ギルドに行ってみた。その時にゼロはクリアに隠密魔法を使って中を探れと指示した。

 医療ギルドで店主から教えられた担当者への面会を求めた。受付は不審者を見る様な眼差しで見ていたが冒険者ギルドの薬師と言うカードを明示し、自作の薬を見て欲しいと言う事でやっと面会の許可が取れた。

 医療ギルドの薬担当をしているヤヌホーヤと言う2級薬師が出て来た。

「君かね、薬を見て欲しいと言うのは」
「そうだ。この二つの薬なんだが熱さましと風邪薬だ」
「いい加減な薬なら承知しないよ。私は忙しいのだからね」
「まぁ見ればわかる。そちらで調べてみてくれ」

 そう言われて差し出された薬を鑑定機にかけて鑑定してみた。するとどちらも上級と言う値が出た。これには担当者がびっくりした。

 このレベルの薬を作れるのは上級薬師と呼ばれる1級薬師以上しかいないからだ。

 このギルドには1級薬師は一人しかいない。今目の前にいる人物はその1級薬師に匹敵すると言う事になる。

「この薬を少し貸してもらっても良いかね。1級薬師様に見せたいんだが」
「それならここでやってくれ。裏に持っていかれて真似されてはかなわんからな」

「馬鹿な、そんな真似を我々がすると思うかね」
「何しろ俺はこの町に来たばかりなんでね、用心の為だ。それが嫌なら他の町の医療ギルドに当たろう」
「ま、待ってくれ。1級薬師様に伝えてくる。ここで待っていてくれ」

 正直な所ゼロの作った薬は真似をしようとしてもそう簡単に出来るものではなかった。だから盗まれる事はないのだがまずは大物を引き出す必要がある。これはその為の駆け引きだ。

 ヤヌホーヤは慌てて裏に飛んで行った。その時に隠密魔法でついて来ていたクリアに奥を探れと指示した。

 そのヤヌホーヤと一緒に現れたのはどっぷりとした肥満体の1級薬師だった。しかし薬師ともあろうものがこの体では薬の効果も疑われるだろう。

「わしは上級薬師のベリガーじゃ。君かね、上級薬を作ったと言うのは」
「疑うのならまずは調べてくれ」

 1級薬師ともなれば道具を使わなくとも鑑定眼で見抜く事が出来る。そしてその薬が間違いのない上級薬だとわかって驚いていた。

「では一つ聞きたいのだが、君はポーションは作れるかね」
「ポーションか。ああ、作れる」
「どのレベルのポーションだ」
「一応ピンからキリまでだが、一つサンプルを見せよう」

 そう言ってゼロが取り出したポーションはこれもまた上級ポーションだった。それを見た1級薬師はうなっていた。

「これよりも低いレベルの物は?」
「それはもっと簡単だろう。これを薄めれば済む事だ」
「どの位の割合で薄められる」
「そうだな、中級で上級の5倍、下級なら10倍と言った所か」

 つまり一本のポーションが質さえ落とせば10倍になると言う事だ。しかしポーションとしての質を保ったままこの確率で落とせる薬師はこのギルドにはいない。

 それだけ技術がいると言う事になる。普通で中級で2本、下級なら4本に落とせればいい方だ。それがけ薄めると効能までなくなってしまうからだ。

「本当に10倍に落としても大丈夫なのか」
「自分で確認してみればいいだろう」

 そう言ってゼロは中級ポーションと下級ポーションを取り出した。それは正に本物のポーションだった。

 しかもこれが上級ポーション一本から精製されたポーションだと言う。正に天才的な技術だ。この1級薬師はこれはと思った。

「どうだろう君、うちのギルドで働く気はないかね。報酬は弾むよ」
「生憎と俺は冒険者でもある。一所に落ち着く気はないんだ。このポーション買ってくれるのか」
「いいだろう、買わせてもらおう。何本持ってる」
「今は上級が2本と中級が30本、それに下級も30本と言う所か」
「いいだろう。ではそれをみんな貰おう」

「いいのかそんなに。この町は平和だろう。戦争もない。ポーションなんてそんなにいらないだろう」
「何だ君は知らないのか。北の北欧連合国では今戦争が起こている。ここは地続きの場所だ。だからポーションを求めて来るんだよ」
「なるほどそう言う事か。わかったでは今回はこれで頼む」

「もっと作れるかね」
「それは出来るが材料がいる」
「材料の事は気にしなくていい。その内一杯手に入る。その時はまた作ってもらえるかね」
「わかった。冒険者ギルドに連絡してくれ。俺はCランクのゼロと言う」
「そうしよう」

 ゼロが医療ギルドを離れるとクリアが現れた。

「どうだ、中の様子は」
「何か凄いのがいましたよ。暴力団と言うか札付きと言うか。とても医療ギルドにいる様な者じゃありませんでしたね」
「そうか、これで少し線が繋がったな。恐らくそいつらは不動産屋かその裏で仕事をする奴らだろう」

「それって強制立ち退きとかをやってると言う」
「まぁ、そんなもんだ。問題は何を目的にと言う事だな。あの土地にそれだけの価値があるとは思えんのだが・・・ん?もしかすると。おいクリア、教会に行くぞ」

「ええっ、また彼女に会いに行くんですか」
「ガツン!」
「痛いです」

 ゼロ達はまた教会にやって来た。シスターのアストリーゼは合い変わらず申し訳なさそうな顔をしていた。

「何をいつまで気にしている。もう終わった事だ。忘れろ」
「ですが」
「みんなお前や仲間の事を思ってやった事だろう。もっと子供の事を信用してやれ」
「そう言ってもらえると本当に助かりますし嬉しいです」

「ゼロ様って本当に美しい女性には優しいですね」
「ガツン!」
「痛いです」

 ゼロは教会を見渡してこう聞いた。

「この教会は以前はあんたの父親が運営していたと言ったな」
「はい、そうです。先祖代々の土地でしたのでそこにこの教会を建てたのです」

「教会の土地はここだけなのか」
「はい、裏に少し庭地があるだけです」
「そこを見せてもらってもいいか」
「はい、どうぞこちらです」

 ゼロは敷地の裏に回って庭地と言うのを見た。今は子供の遊び場として使ってるようだがそれなりの広さはあった。ただ手入れはされてなく雑草が生え茂っていた。

「これだけの広さがあれば野菜や果物でも育てられたんではないのか」
「それがだめなんです。何度も試したんですが何も育たないんです。あの雑草以外は」
「ん?あの雑草」

 ゼロはその雑草に近づいて手に取って見てみた。それは「月影草」だった。まさにこれこそが治癒ポーションの原料だ。

 そして土地そのものをセンサーしてみると実に上手く「月影草」だけが育つように改造されてあった。なるほどこれでは他の作物は育たない訳だ。

「あんたの父さんは何かやってなかったか」
「何かいつもこの雑草を集めては、煮たり焼いたり湯がいたりやってましたが食べられませんでしたよ」

「何処でそんな事をやってたんだ」
「地下に作業場があるんです。父はいつもそこに籠っては訳の分からない事をやってました」
「そこを見せてもらってもいいか」
「はい、どうぞこちらです」

 アストリーゼに連れて行かれた地下室には実に様々な研究機材があった。それらは今は全て埃をかぶり部屋自体が物置のようになっていた。

 それらを一つ一つ調べたゼロは驚いていた。よくぞこれだけの機材を集めてものだと。

「あんたの父親はこれについて何か言ってなかったか」
「さー何か言ってましたかね。そうだ。まだまだ遠いなとか」
「まだまだ遠いか。確かにな。これではまだまだ遠いだろうな」

「何なんですかそれは」
「この雑草は『月影草』と言ってな、治癒ポーションの材料なんだよ。しかもあんたの父親はあの土地にこの『月影草』だけが育つよ言うに細工したんだ。だから他の作物は何も育たなかったんだ」

「そんな事を父がしてたんですか。でもポーションなんて一度も作れませんでしたよ」
「それはそうだろう。作り方が間違ってたからな」
「そうなんですか。可哀そうな父ですね。人生の大半をこれに費やしたのに」

 アストリーゼの父親は死んだと言った。どうして死んだのか。

「あんたの父親はどうして死んだんだ」
「山に薬草を取りに行って崖から足を踏み外して死んだと聞いてます」

「薬草を取りに行く。そんな必要はないだろう。ここに材料があるのに。この裏庭の事について誰かと話をしてなかったか」
「そうですね。生前一度医療ギルドの偉い方がお見えになって、父と口論になった事を覚えていますが何で口論になったかまではわかりません」

「なるほどな。これで全てが繋がったな」
「ゼロ様、それって」
「ああ。これから反撃だ」

『また厄介事になるか。まぁ仕方ないか』