「地上最強の傭兵が異世界を行く-3-01-61」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

pegasusnotsubasa3383のブログ

ファンタシー小説です

[ハミングトーンの町」

「ゼロ様、これから何処に行くんですか」
「そのゼロ様と言うのは何とかならんのか」
「だめですよ。ゼロ様はゼロ様なんですから」
「面倒な奴だな、お前は」
「はいです」

 ゼロ達は更に北を目指して進んでいた。
「まずは森での生活だな」
「も、森ですか。何でまた。もっと環境の良い所に行きましょうよ」
「目的はお前を鍛える為だ。お前は精神系の魔法は凄いが、物質系や肉体系の戦闘能力は全然駄目だからな。まずはそれからだ」
「あのー僕死にませんか。何か嫌な予感しかしないんですが」

「あのマーカスだって耐えたんだ。お前にだって出来るだろう」
「あんな筋肉馬鹿と一緒にするのは止めて下さいよ。僕はもっとデリケートなんですから」
「おい、始めるぞ」
「ま、待ってくださいよ。え、ええっー、死ぬー、死にますよーゼロ様ー」

 その頃没落を決めたマトリスト公爵領の片隅に日本から勇者として召喚された正木裕也と岬裕子がいた。ただし彼らは今お尋ね者になっていた。

 無理もないだろう。王家に反旗を翻して王権の転覆を狙って侵略戦争を始めたのだ。それで負ければ賊軍だ。

 マトリスト公爵家はお家取り潰し、一族郎党死罪、関係者も犯罪人として指名手配された。その中に正木裕也と岬裕子も含まれていた。

 勿論勇者と言う名目はない。ただの指名手配犯だ。だから二人は逃亡生活を余儀なくされていた。

 服装や髪形を変え、怪しげな薬師に教えられた薬草で髪の毛の色も変えた。

 当座はまだ良かったが貯えもいつまでも持たない。そうなると自足自給の生活にならざるを得ない。

 または身分を胡麻化して何とか仕事にありつき日々の糧を得る。そんな生活だった。正木はストレスの為、いっそう強盗でもやるかと言う始末だ。

 勿論腕力では誰にも負ける事はないだろう。しかしそれでどうなると言うでもない。益々自分の生きる範囲を狭くしてしまうだけだ。

 そうなると後は落ちる所まで落ちるしかなくなる。流石にそれはまだ自尊心があり出来なかった。

 空き家になった見すぼらしい木こり小屋の様な所を見つけ二人で住み肩を寄せ合って生活をしていた。日本での生活から考えれば地獄の様な生活環境だ。

 しかしまだ生きて行ける。これがこの世界での現実の生活だ。いつまでも日本の平和ボケした極楽トンボでは生きては行けない。本当に生きるとはこう言う事なんだと思い知らされた。

 今更ながらあの時ゼロが言ったが言葉が蘇って来る。自分の甘さに嫌気がさす。

 僕は、いや僕達日本人はあまりにも恵まれた環境の中でのほほんと生きて来た為に、本当に自らの手足で生を勝ち取ると言う生き方を忘れてしまったのだと。

 しかし今更元に戻る道はない。ならばここで生きるしかないだろう。生きてやろう。いやどんな事をしても生きて生き抜いてやると二人は決心した。しかしそれでも正義への希望は失わないと。

 ゼロ達は森での野宿を繰り返しながら北を目指していた。もう森で寝起きするようになって何日になっただろうか。クリアにはその日数すらわからなくなっていた。

 森の中を駆けずり回り、草を食べ果実を食べ獣を食べ、小川で魚を釣り、水浴びをし、薬草を取って薬にする。

 服だって傷んで来れば獣の骨で作った針や蔦を割いて鞣した糸で裁縫もさせられた。そんな原始の生活だった。

 これこそがゼロがミレに教えていたサバイバル・スキルだ。それを今クリアに課している。

 ゼロはクリアを第二のミレにするつもりなんだろうか。いや違う。ゼロに取っては誰でも良かった。ただ生き延びる方法を学びたい者には教える。それだけの事だ

 しかし俺も随分変わったなとゼロは思った。今のゼロには「戦場の死神」の片鱗もない。

 かって戦場でゼロが立てば全てが地に這うと言われた非情の戦闘マシーン。その面影は今はない。

『まぁここにはここの生き方があってもいいだろう』

 その様にして鍛えられたクリアの面影はかってのノホホンとしたものから精悍さが少し滲み出ていた。

 しかし本質は変わらなかった。やはりクリアはクリアだ。ゼロはそれでいいと思った。クリアにはどんなに厳しくなっても人の心を持ていて欲しいと思った。

 少なくともゼロの様に人の心を持たなくなった戦闘マシーンにはなって欲しくなかった。

 朝の日課はゼロと一緒に瞑想だ。流石は精神系の魔法が得意と言うだけあって気のコントルールの仕方は速かった。

 体の周囲に気功円を築けるようになってきた。これが出来れば色々な事が出来る下地になる。

 今ゼロが教えようとしているのは気と魔の合体だ。クリアには魔気闘法を教えようとしていた。

 これは魔力を使った気功闘法の様なものだ。恐らくクリアには打って付けの闘法だろう。

 それから瞬くしてようやく町の近くまで来た。この町は何と言う町なのか。まずはクリアに町の情報を探らせた。

 クリアは町と聞いて喜び勇んで飛んで行った。大分森の生活に疲れて来たか。そこはミレとは違うなと思った。ミレはむしろ町を避け森を好んだ。

 クリアが帰って来てその町はハミングトーンと言う町だとわかった。ここはまだ帝国の国境内だがもう少し北に行くと北欧連合国に入るらしい。

 言わば帝国最北の町だ。この町でも帝国の政変の噂は流れているらしい。しかしこれだけ離れていれば実生活に影響はないだろう。

 それだけわかればいい。まずは冒険者ギルドだ。そこで冒険者カードの登録をする。

 そしてここでの初仕事と行こう。ここでも冒険者ギルドは町の中央付近にあった。そこに入って冒険者カードの登録をした。

「あなたはクレニングスからいらっしゃたんですか」
「そうだが何か」
「いえ、あそこの代政官は失脚したと言う話でしたから今はどうなってっるのかと思いまして」
「そうか、俺はそれが起こる前に町を出たんでな。詳しい事は知らん」

「そうでしたか。それは良かったですね。こちらにはしばらくご逗留を」
「一応はそのつもりだが。ここには何か観光するような所でもあるのか」
「この町は果物の栽培で有名な所でして果物園ならたくさんあります」
「なるほど果物ね。まぁそれは見るよりも食べるだな。その内見に行ってみるさ」

「ところが最近その果物を盗みに来る者がいるとかで依頼が出てます」
「果物泥棒か。それは獣なのかそれとも人か」
「それはまだ何ともわかりません」
「そうか、ではその依頼受けてみるか」

「お受けになりますか。助かります。ではこちらにサインを」
「随分手回しがいいんだな」
「実は依頼主が急いでいるものでして」
「なるほど、わかった」
「では宜しくお願いします」

 まずゼロ達は宿を取り、それから以来のあった果樹園に出かけてみた。

 そこは町から南東の方角に徒歩で2時間ほどの所だった。これなら別に馬車に乗る必要もないだろうと徒歩で行った。

 ついでにクリアには走法の練習をさせた。
「ゼロ様、だから死にますって」

 その果樹園ではリンゴに似たカリンゲと言う果物が取れるらしい。それを最近夜の内にごっそり持っていかれると言う。

 なるほど、それではこれは徹夜の仕事言う訳か。その割には依頼金が少ない様に思える。ともかく一晩寝ずの番をしてみる。

 果樹園の前にテントを張って交代で見張りをする事にした。ゼロが見張りをしている夜中の12時頃ゴソリと言う音がした。

 ゼロが音のする方に行ってみると三つの頭の陰が見えた。それもかなり小さい。松明に火をともすとそこには3人の子供がいた。彼らがカリゲンを盗んでいたのだ。

「おいガキどもそこで何をしている。カリゲン泥棒は犯罪だぞ。わかってるのか」
「ケンゴ、逃げろ」

 一人の名前で全員が一斉に同じ行動を取った。よく訓練されている。しかしゼロから逃げ延びる事は不可能だ。

3 人共捕まえてテントの前で事情を聞いた。その時、外の音でクリアが起きて来た。

「ゼロ様、もう交代ですか」
 と寝ぼけ眼で言っていた。
「クリア仕事だ」
「はい」

 この3人は近くの教会の子供でケンゴ、ガミ、サルと言うらしい。何故果物を盗んだかと言うと教会の経営が苦しいらしく食べ物も満足にないので食事の足しに盗んだと言う。

 教会は領地か町から補助金が出るのではないのかと聞いたがそう言う事はわからないと言う。これでは埒が明かないので朝を待ってこの3人を教会に連れて行く事にした。

 当の教会では夕べから3人の子供が行方不明だと大騒ぎだった。そこにゼロ達がその3人の子供を連れてやって来た。

 シスターは大喜びしたが事情を聞いて青くなっていた。シスターはすみません、すみませんを繰り返すばかり。

 そして自分が罪を被るからどうか子供達は許して欲しいと言った。シスターは親からこの教会を引き継いだアストリーゼと言う娘だった。

 しかしそれでは事情が良くわからない。セロ達は官憲ではないので詳しく話を聞かせて欲しいと言ったら、要するに今までもらえていた補助金が出なくなったので経営が苦しくなったらしい。

 ではどうして補助金が出なくなったのか。その理由が良くわからないと言う。そんな馬鹿な事があるかとゼロが言ったがシスターは泣くばかりだった。

 取りあえず今回の実害はなかったので子供は引き渡す事にした。しかし次回またやったら容赦なく逮捕すると言っておいた。シスターは泣いて喜んでいた。

 今回が二回目だと言うので果樹園には以前の被害額を聞いてその分は今回の依頼金から差し引いておいた。

 それにしてもおかしな話だ。何故かその理由がわからない。これは調べてみる必要がありそうだとゼロは思った。

「ゼロ様、厄介事は嫌いじゃなかったのでは」
「まぁそうだがな。何だか興味が湧いて来た」
「あのシスターが美人だからですか」
「ガツン!」
「痛いです」