「地上最強の傭兵が異世界を行く-2-23-60」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「二つの旅立ち」

 これが最後の仕事だとケシーナを連れたゼロは敵陣のど真ん中マトリスト公爵家に乗り込んだ。

 中ではマトリスト公爵が喚いていた。これだけの準備をして何故勝てない。何故負けたと。

「公爵様、お腹立ちは御もっともですがやはりアントンの力量を見誤っておりました。あ奴はやはりバケモノでした」
「奴がバケモノな位はわかっておるわ。その為に獣魔人や強制強化魔獣や超兵士をこしらえたのではないのか」
「はっ、おっしゃる通りです。されどまだ少し研究の精度が足りませんでした。しかし今度こそ文献を紐解いて最終兵器を完成させてみせます」

 そこで岬が言った。

「最終兵器とは何ですか。私達は魔王を倒す為に召喚されたんでしょう。何故人間相手の戦争に最終兵器が必要なんですか」
「それは魔王の手先を先に倒すためだよ」
「ならその兵器を魔王や悪魔を倒す為に使ったらいいじゃないですか。あの王様は貴方の従兄なんでしょう。何故争わなければならないんです。巷の話では権力闘争だと言ってますが」

「うるさい、そんな事はどうでもいいんだよ。お前達はわしの命令通り戦ってればいいんだ」
「つまりそれが本音と言う訳ですか。私達を覇権の道具にしたいと」

「それがどうした。どっちみちお前達は戦う事しか能のない異世界人だ。黙って戦っていればよい。もし逆らうならこの場で命を取ってやってもいんだぞ」
「ちょっと待ってくださいよ。僕達はそんな目的でこの世界に来たんじゃないでしょう。神様の意思で」
「神の意思とはわしの意思と言う事だ。黙って命令にしたがってろ」

 その時ドアが蹴り飛ばされゼロとケシーナが入って来た。

「どうだわかったか。お前達が勇者と煽てられてどんな都合で道具にされていたか」
「ゼロさん」
「しかし僕達は・・・」

「何だ貴様は。ここを何処だと思っておる。マトリスト公爵邸だぞ。頭が高いぞ」
「俺は冒険者だ。王の依頼により帝都の転覆を狙う反逆者のお前を処刑に来た」
「馬鹿な、王が身内のわしを処刑だと。そんな事をしたら民衆が着いて来ぬぞ」
「そう言うお前はどうだ。従兄の王を殺そうとしてるだろうが」

「うるさい。奴の施政のやり方は間違ってる。ただからわしが正してやろうとしておるのだ」
「私利私欲の為にな」
「もうよい。カーネル、こ奴を殺せ。勇者、お前達もだ」
「カーネルとか言ったか。お前の相手は俺ではない。ここにいるケシーナだ。ケシーナ、こいつがお前の親の仇だ」
「わかりました。カーネル、父の仇。覚悟」

 こうしてカーネルとケシーナの戦いが始まった。

「さて今度はお前達だが俺と戦うのか」
「私はゼロさんと戦う気はありません」
「お前はどうだ。正木とか言ったか」
「僕は、僕はわからない」
「何をしておる。早く奴を倒さんか。さもなければお前達を殺すぞ」

 ゼロは腐ったリンゴでも見るような目でマトリスト公爵を眺め、
「正木、お前もあの黒崎とか言う外道と同じになりたいのか」
「黒崎君と金森君はどうしたのですか」
「そいつらの首ならここにあるぞ。俺が殺した」

 そう言ってゼロは二人の首をテーブルの上に置いた。それを見た岬裕子は嘔吐してしまった。正木裕也もまた吐き出しそうになるのを堪えて死んだ二人のクラスメイトの顔を見つめていた。

「貴方は日本人じゃないんですか。なのに何故同じ日本人を殺せるのです」
「馬鹿かお前は。お前は今何処にいると思ってる。まだ平和ボケした日本にいるとでも思っているのか。ここは弱肉強食の世界だ。生きたければ相手を殺さなければ殺される。そう言う世界なんだよ。いつまで極楽トンボでいるつもりだ。いい加減に目を覚ませ」

「しかし、しかしです。殺人は許される事ではないでしょう」
「なら聞くがお前の馬鹿な仲間が今までどれだけの人間をこの世界で殺して来たと思ってる。あいつらは欲と快楽の為にこの世界の人間を殺していた事を知っていのるか」
「それは・・・何かの間違いでは」

「そう思いたいだけだろう。お前はこいつらのクラスメイトだったらしいからな。だからと言ってこんな人殺しを許せるのか。証拠も証人もいくらでもいる。俺の人殺しはだめでお前のクラスメイトの人殺しは良いとでも言うつもりじゃないだろうな」
「そんなつもりは・・でも僕達は契約紋で束縛されているから逆らう事が出来ないんです」
「なら何故自殺しない」
「えっ」

「契約紋で束縛されてるからやれと言われれば人殺しもしなくてはならないと言いたいんだろう。なら人を殺す前にお前が死ねばいいじゃないか。そうすれば多くの人が死なずに済む。違うか」
「そ、それはそうかも知れませんが・・・」

「要するにお前は怖いだけだろう。臆病で殺す事も死ぬ事も出来ない腰抜けだと言う事だ」
「違う、僕はそんな臆病なんかではい」
「なら何故あいつらの乱行を止めなかった。お前があいつらを殺してさえいればここまでの殺人は起こらなかったんじゃないのか。それを出来なかったお前も同罪だ。つまりお前も殺人の加害者だと言う事だ。そんな事もわからずに勇者だと、世の中を舐めるのもいい加減にしろ」

「いや、そうじゃない。人が人を殺してはいけないんです。それは正しい事ではない。正義ではないんです」
「あいかわらすお目出たい奴だな。正義だと。この世に絶対の正義などあると思っているのか。人を一人殺せば殺人者だと言われる。しかし戦場で大量に人を殺せば英雄と呼ばれる事を知ってるか。正義なんてものはそんなものだ。それが人の性であり人類と言う種の在り方だ」
「そんな事は極論です。僕達日本人はそんな事は考えません」
「お前の考え方が人としての代表みたいな言い方だな」
「貴方だってそうでしょう。日本人ならそんな考え方はしないでしょう」

「お前は俺の仕事を知らないようだから教えてやる。俺は傭兵だった。中東エリアでの戦争やその他の紛争地域が俺の職場だ。殺す殺されるは日常茶飯事だ。生きたければ殺さなければ殺される。世界中の兵士はそうやって生きているんだ。また戦場の民間人もな。死とは隣り合わせだ。生きたければ民間人でも銃をとる。それが世界の実情だ。日本人だけが限られた生ぬるい世界で生きてる平和ボケした人種じゃないのか」
「そんな事は、そんな事はありません」

「ならお前はこの世界に召喚されて何をした。勇者と言う名を借りて悪魔を魔人をそして人を殺す訓練をしていたんじゃないのか。まして騙されてこの国の王とその一族を殲滅しようと戦争に加担したんじゃないのか」
「僕達はただこの世界が平和になるようにと思って」

「それはここでも元の世界でも同じだ。平和は御託や紙切れではやっては来ない。力で勝ち取るしかない。その為にお前らは戦い方を学びそれを邪魔するものは排除、つまり殺す方法を習ったんだろう。ただお前の元のクラスメイトのように平和など関係なく人を殺していたやつらもいたがな。そしてお前らに平和の為だと教えた奴らこそ国賊、帝国に反旗を翻して王族を殺そうとした犯罪人だった。お前達はその手先になって働いていた事実をどうするんだ」
「そ、それは僕達も間違っていたと・・・」

 その時ドアを激しく開けて入って来たのはマスリスト公爵の娘ナターシャだった。

「何も恥じる事はありません。勇者様は正しい事をなさったのです。彼ら王家こそ邪悪の根源なのですから」
「お前は邪魔だ。消えろ」

 そう言ってゼロはナターシャを気功剣で一刀のもとに切り捨てた。

「ゼロさん、貴方はなんて事をするのです。こんなまだ若い女性を殺すなんて」
「こいつが今まで何人、人を殺して来たか知ってるか。100人は下らないと言われてる。死んで当然だろう」
「それでも許せません。こんな形で殺すなんて」
「ならどうする。お前が敵を討つか、ならやってみろ」
「僕は僕の正義において貴方を成敗します」

 そう言って正木裕也はゼロに斬りかかって行ったがその全てを払われてしまった。全くレベルが違う。まるで大人と子供が戦ってるようだ。

 いやゼロからすれば子供とじゃれてるようなものかも知れない。そして正木裕也の剣が弾かれゼロのパンチを顔面にモロに食らって壁まで吹っ飛んで行った。

「まだまだだ。こんなもんで終わると思うなよ。お前のその腐った根性を叩き直してやろう」

 そう言って後はもうタコ殴りだった。裕也の顔は元の形すらわからないくらい腫れ上がっていた。

「もう、もう止めて下さい。それ以上やったら裕也が死んでしまいます」

 裕子の必死の嘆願でようやくゼロは拳を収めた。正木裕也は辛うじて息をしている。そんな感じだった。

「おい糞坊主、ようく覚えておけ。これが現実と言うものだ。力がなければ正義も平和も勝ち取る事は出来ない。正悪なんて事は後でいくらでもこじつけが出来る。大事な事は自分の心が必要と感じた時に直ぐに実行する事だ。正しいか正しくないかは誰かの作り上げた解釈ではなく自分の心で感じ取って行動する事だ。悔しかったらいつでも俺を殺しに来い」

 そう言ってゼロは二人の勇者の前から離れた。

「さて次はお前だな、マトリスト。王の勅命だ。死ね」
「馬鹿な、馬鹿な。わしが死んでたまるか。グレハーン、おるか」
「はい、お側に」

 まるで陰から現れた様にその場に傅いた側近の老魔法使いがいた。

「グレハーン、こ奴を殺せ。よいな」
「はは、確かに。小僧悪いが死んでもらうぞ」

 グレハーンは魔法杖から邪悪な妖気を持った魔方陣を描き出した。しかしゼロはそれが完成するまでは待たなかった。瞬時にその手にした気功剣でその魔法使いを一刀両断にした。

「ま、まさか。一撃だと。あの最高峰と言われた魔法使いのグレハーンを」
「俺に言わせれば最低レベルの屑だな」
「そ、そんな馬鹿な。お前は一体何者なのだ。勇者か、本物の勇者なのか」
「俺はただの冒険者だ。依頼を達成する為のな」

 そしてマトリストの首もまた刎ねた。そこにカーネルと戦っていたケシーナが帰って来た。

「どうだ仇討ちは終わったか」
「はい、見事に討ち果たしました。ありがとうございました。これで父も安心して眠れるでしょう」
「そうか、良かったな。では帰ろうか」
「はい」

 それから数日が経ち、裕也の顔の傷もようやく治まった。もうこのマスリスト公爵家には誰も残ってはいない。

 自分達を召喚した中心人物はもう誰もいなくなった。そう言う意味では例え契約紋があっても自分達を束縛する者はいなくなったと言える。それは自由でもある。

「裕也、これからどうする」
「そうだな、どうしようか。ここにはもう僕達の居場所はなくなった訳だから」
「そうね、どう二人で旅に出てみない。私達召喚されてから隔離ばかりされてこの世界の事何も知らないじゃない」
「そうだな、それもいいかも知れないな」

「うん。そうしようよ裕也」
「そうするか」
「ねぇ裕也。あなたまだあのゼロって人に恨み持ってるの」
「どうかな、持ってないと言えば嘘になるけど。でもどっちにしても僕じゃ勝てないしな」
「そうね、確かにこの顔じゃね。あははは」
「笑うなよ」

 ここにも一つの旅立ちがあった。

「ゼロ、これからあんたはどうするんだ」
「俺は冒険者だからな。これからも同じだ。また旅に出るさ。おい、クリア行くぞ」

「いいんですかゼロ様、僕も一緒で」
「当たり前だろう」
「そうか、やっぱりあんたは変わらないんだな」

「じゃーなマーカス。いや、マーカス大尉。頑張れよ」
「貴方もお元気で」
「頑張れ、マーカス」
「ガツン!」
「最後まで痛いじゃないですか」
「ほんとお前はブレない奴だな。クリア」
「はいです、マーカス」
「死ぬなよ」
「え、ええっ!」

 そしてマーカスは心の中でこう言っていた。

『この度は本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません師よ。どうぞ良き旅を。遊撃の将軍閣下殿』

そして背筋を伸ばし見事なほどの敬礼でゼロの後ろ姿を見送っていた。

(第二部完)