「地上最強の傭兵が異世界を行く-2-22-59」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「マーカスの試練」

 翌日ゼロ達はまた帝城にいた。そしてその王の拝謁の間では論功行賞が行われていた。

 殊勲を立てたのは言うまでもなく四つのスタンピードを殲滅した4人の帝聖騎士団の四人の師団隊長達である。

 そして帝都軍を率いて戦った将軍にも何がしの殊勲はあったがやはり軍の数を減らしたのでその殊勲も少し小さいものとなった。

 そして最大の殊勲は何と言ってもマトリスト公爵軍の本体を殲滅させた帝聖騎士団総団長のアントン・ホフマンであった。ただしこの後に例外の特別殊勲賞と言うものがあった。

「ゼロとマーカス、両名の者前に出よ」

 帝国宰相の言により二人は王の前に出て拝謁の礼を取った。

「この者達は我が軍の者ではないが、特に優れた働きによりアントン・ホフマンを助け敵の中枢部を殲滅せしめた殊勲により各自報奨金、金5000枚と男爵位を叙勲しようと思うがどうじゃ」

 この一言で部屋中が騒めいた。彼らはゼロ達の活躍を見てはいない。それなのにこの叙勲は過分だと思った様だ。

「どうじゃアントン、これは過分か」
「いいえ、王よ。彼らの働きは我が軍団の隊長クラスに匹敵いたしますでしょう。正に一騎当千。過分どころか少な過ぎる位でございます」

 このアントンの言葉で更に部屋が騒めいた。今度は不満の騒めきではなかった。驚きの騒めきだった。

「良い。どうじゃ両名の者」

この時マーカスは迷っていた。この先どうすべきかと。

「王、一言申し上げてよろしいですか」
「よい、何でも申せ。ゼロと言ったな」

「言葉遣いは失礼します。俺は一介の冒険者です。一所に腰を落ち着ける気はまだありません。ですがこのマーカスはこの国の民、そして元帝国軍の軍曹をやっていた者です。出来ればこの男をもう一度軍に復活させてやってはもらえませんか」
「ゼロ、それは」

「それでいい。この国の王を守りこの国の民を守るのがお前の夢だったんじゃないのか」
「それはそうだが、俺はあんたに返し切れない恩がある。まだその何分の一も返せてはいない」

「いや、もう十分返してもらったよ。後はお前の目指す道を進め」
「よくぞ申したゼロよ。どうじゃマーカス、今一度余の為に働いてはくれぬか」
「ははぁ、御意のままに。ありがたき幸せにございます」

 その時一言の横槍が入った。

「王よ、願わくばこの者を私めにいただけませんでしょうか」
「アントン、お前の元にとは」
「私の本体の副官の一人として使いたいと思っております」
「帝聖騎士団本部の副官とな。それは面白い。お主ならきっと有意義な使い方をするであろう。どうじゃマーカス」
「御意のままに」

 こうしてマーカスは帝聖騎士団に入隊すことになった。そして軍位は大尉となった。そしてゼロは更にこう言った。

「王よ、もう一つ進言があります」
「何じゃ申して見よ」

「敵将マトリスト公爵の事です。如何に敵将と言えども王には従弟にあたる御仁、王自ら手を下したとなれば差し障りもあるでしょう。幸い俺は部外者の冒険者です。この始末俺に任せてはくれませんか」
「何とお主が始末をつけると申すか。どうじゃアントン」
「そうですな、まぁ無難な選択でしょう。それにこの者なら信用出来ます」
「さよか、わかった。この後始末その方に任せる」

 ゼロは無言で承諾の礼を取りその場を離れた。この後ゼロとマーカスには報奨金が各金貨5000枚が与えられた。

 ゼロ達はミューラー侯爵の所に行き今までの礼を言った。

「そうですか貴方方は去りますか。惜しいですね。もう少し私の元で働いてもらいたかったのですが」

 既に仮面を外していたマーカスの顔を見て、その時警護隊隊長のヨルゲンの隣にいた警護隊副隊長のケシーナが

「もしかして、貴方はゲルダンおじさんではありませんか」
「覚えていてくれたかい、ケシーナ」
「忘れる訳がないじゃないでかおじさん。でもマーカスって」
「マーカスと言うのは俺の本名だ。ゲルダンはお前の親父グレゴリーが勝手につけた俺のあだ名だ」

「そうだったんですか。私はゲルダンが本名だとばかり」
「まぁ、それもいいがな。あいつの形見だからな」
「そうですか、貴方方は知り合いだったのですか」
「はい、領主様、このおじさんには小さい頃に色々お世話になりました」
「あんなに小さかった女の子がこんなに大きく育て、美人になって、それに胸もこんなに大きくなってるとはな」

その時ケシーナの廻し蹴りがマーカスに炸裂した。

「胸は余分です」
「あはは、すまん、すまん。それに強くなったな」

「話の途中で悪いがな、俺はこれからマトリスト公爵の所に決着を付けに行く。そこでだケシーナ、お前も来い」
「私もですか」

「そうだ。お前の本当の親の仇を教えてやる」
「私の父の仇」
「そうだ。それはカーネルと言う執行官だ。これまでの魔獣化計画からはじまり人体強化に至るまでの全ての計画を遂行して来た男だ。お前の親もあの男の犠牲になったと言っても過言ではないだろう」

「本当ですか。わかりました必ず父の仇を取ります。よろしいでしょうか領主様」
「正直な所あまり進められた話ではありませんが、ゼロ殿と一緒に行くと言うのならいいでしょう。頑張りなさい。でも必ず帰って来るのですよ」
「はい。感謝いたします」

「ではゼロ殿、ケシーナの事宜しく頼みます」
「ゼロ、俺からも頼むぜ」
「承知した」

 ただこの話が纏まる少し前、帝城で一つのイベントがあった。アントンによってマーカスは帝聖騎士団に召し抱えられた訳だが、スタンピード殲滅に出かけていた隊長達は誰一人としてマーカスの働きを見てはいない。そこでマーカスの実力を見せろと言う事で各隊長達と模擬戦をやる事になった。

 順番は前に勇者達がやったのと同じ順番でまずは第一師団隊長のハインリッヒからだった。

 ハインリッヒは両手剣を使う。剣に冷気を纏わせ無駄のない美しい動きでマーカスの槍を捌いて行く。

 ただこの時先の勇者との戦いでは見せなかった魔法付与を使った冷死剣を使った。これは剣から出る冷気を浴びると動けなくなり最悪死を招くと言う厄介な魔法剣だった。

 マーカスはこの冷気を感じた時このままでは勝てないと悟り、半獣魔人に変身した。

 半獣魔人の機動性を生かして冷気を捌き十文字槍の長さの利点を生かして上手く戦っていた。結局は時間切れで引き分けと言う事になった。

 二番手は第二騎士団隊長、エミリアだ。エミリアは片手剣で風魔法を剣に乗せて飛ばして来る。

 マーカスの槍の長さもこの飛燕剣の前には利点にはならなかった。しかしこれもマーカスは自らの機動性を生かして上手く逃げていた。

 そこエミリアは更に上の風魔法で全方位からの螺旋烈風の攻撃に来た。これでは逃げ場がなくなる。

 そこでマーカスは槍を回転させ、自らも回転して竜巻を発生させて相殺した。そしてこれもまた引き分けになった。

 三番手は第三騎士団隊長、ルイスだった。ルイスもまた片手剣を使うがエミリアの片手剣とはまた違う。

 こちらは捉え処がない。いくら薙いでも突いてもそこに実態がないが如く消えてしまう。これでは勝負にならない。

 何が何でも実態を捕まえなければならない。そこで唯一ゼロから教えてもらった魔力法、威圧を使ってみた。しかもそれは一瞬の威圧だ。魔力を凝縮させた威圧と言えば良いのか。その一瞬だけルイスの幻影が消えた。

 そこにマーカスの槍が突き込まれた。流石にこれは剣で受けなければならなかった。この戦いもまた引き分けになった。しかしルイスはまだ必殺技を出してはいなかった。

『なんて奴だ。みんなと互角だと。恐らくこの後レオンとも互角に持ち込むだろう。まったく冗談じゃねーな。それでもまだあの男には敵わないだろうな。ゼロと言ったか。あれは別格だ。うちの総団長とタメを張れる本物のバケモノだ。俺の幻影剣の本体を見抜いて受け止めやがった。何であんな奴が野にいるんだ』

 この後ルイスが予測した様に第四騎士団隊長のレオンとも互角に持ち込んだ。レオンの得意技は駿脚だ。

 物凄い移動スピードで相手の攻撃を許さない。その上その拳脚は岩をも砕く。しかしそれはマーカスとて同じだった。共に剛の技を持って甲乙が付け難く、これもまた引き分けに終わった。

 内容は引き分けだがマーカスは四人と連続で戦っての引き分けだ。文句のつけようはないだろう。

「よう、どうだ今回の新人は。使えるだろうが」

このアントンの一言で全てがまとまった。

 マーカスが帝聖騎士団に引き抜かれた事で、かっての同僚や上司の間には妬みや嫌悪感を持つ者もいた。

 しかし帝聖騎士団の隊長達全員と互角の戦いをしたと聞いては何も言えなくなった。

 ただしマーカスとしても全てを出した訳ではなかった。精々が半獣魔人化までだった。

 もしマーカスが全開して完全獣魔人化になっていたらどうなったか。それはマーカスにもわからなかったし、まだ完全に自分の精神をコントロール出来るかどうかの不安もあった。だからこれはまだ出せない最終兵器だった。

 しばらくして城内を歩いていると近衛兵から声を掛けられ王子様が会いたいと申されていると告げられた。何事かと王子の部屋に行ってみると、

「あなたはやはりあの時僕を助けてくれた仮面の英雄殿だったんですね」
「何の事でしょう」
「先日軍の教練を見ている時にケリンと言う分隊長から聞きました」

『あの野郎、口の軽い野郎だ』と思いながらも

「いえ、俺はただあの場所にたまたまいただけで」
「そう謙遜しなくてもいいですよ。それよりもお願いがあります」
「はい、なんでしょうか王子様」

「あなたは槍が得意だそうですね。僕にその槍を教えてくれませんか」
「槍をですか」
「そうです。僕も何も出来ない王子ではなく、自分の身位は自分で守れる王子になりたいのです。ですからお願いします。マーカス」

「いやー教えると申しましても俺はそんなに教えるのは得意じゃないし」
「その槍は誰に教えてもらったのですか」
「俺のパートナーのゼロと言う者です」

「ああ、あのゼロさんですか。偉くアントンが認めていると聞きました」
「そうでしょうね、ゼロなら」
「ならそのゼロさんに習った事をそのまま僕に教えてくれたらいいじゃないですか」

『あんた死ぬぞ』と言いかけたがそれは止めた。

「わかりました。何処まで出来るかわかりませんが、時間のある時にお教えいたします」
「約束ですよ」
「はい」

『ゼロじゃないが厄介事は避けたいもんだな』

 後にこの王子は槍王とまで言われる槍の達人となる。