「地上最強の傭兵が異世界を行く-2-21-58」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「最後の戦い」

王都を取り囲んだスタンピードと帝都の帝聖騎士団、各師団との戦いはまだ続いていたが騎士団の方に優勢が傾いていた。

 そして王子も無事。残るはこの王城を攻めようと言う本体のみとなった。恐らくこのチャンスに最大戦力でここを攻めてくるだろう。

 ゼロの予測は当たっていた。北に潜伏していたマトリスト公爵軍は総勢3万、しかもその中には強制強化された兵士達が300名余りもいた。それは途方もない戦力となる。しかも向こうにはまだ二人の勇者がいる。

 迎え撃つはアントン・ホフマン、帝都の帝聖騎士団総団長その人と数名の騎士団員、それに帝都を守る軍隊だった。

 敵軍進攻の知らせを受けて帝都軍も用意していた軍を迎え撃たせた。こちらは総勢5万、数では帝都軍が上回る。しかし中身の問題もある。5万と言えども難しいのではないかと帝都に着き戦場を見ていたゼロは考えた。

「マーカス、俺達は後ろに回るぞ」
「何だ正面じゃないのか」
「正面は帝都軍に任せてやれ。俺達は殿を叩く」
「わかった」
「クリア、俺達の姿を敵から隠せ」
「了解しました。ゼロ様」

 こうしてゼロ達は少し遠回りになるが敵軍の後ろに回った。勿論3人の姿はクリアの隠蔽魔法で見えなくなっていた。

「マーカス、これを使え」
「ん?何だこれは。ああそうか、前にも使った手榴弾とか言うやつだな」
「そうだ。焼夷手榴弾だ」
「じゃーあのスタンピードの時に使ったのと同じだな」
「そう言う事だ。これを使って後ろを潰す」
「了解」
「クリア、怪我をしない様に離れてろ」
「わかりました。ゼロ様」

 ゼロは袋に入った50ほどの焼夷手榴弾をマーカスに渡した。そしてゼロ自身も50の手榴弾を手に後ろから攻撃を仕掛けた。

 戦場の正面では帝都軍とマトリスト公爵軍とがぶつかり合っていた。帝都軍を指揮するのはアルベルト・アドルフ将軍、総大将としてアントン・ホフマン、帝聖騎士団総団長がいた。

 総大将のアントンは戦力的には悪くないと思ってた。勿論ここに自分の部下、帝聖騎士団の隊長達の戦力が揃っていれば言う事ないのだが、それでも何とかなるだろうと言う自負はあった。

 ただ彼は知らかった。向こうの軍勢の中に強制強化された兵士が混ざっている事を。彼らの力は優にAランクの冒険者に匹敵する。それが300もいれば流石のアントンとて苦戦するだろう。

 こちらはマトリスト公爵軍で総大将となっているカーネルだ。今回の計画は失敗だらけだった。

 最初の獣魔人計画から魔物強化計画、そして強制強化による最大最強の魔物、アンデット・ドラゴンによるスタンピード計画、しかし要約人に対する強制強化による超人兵計画は成功した。

 王子殺害計画の成果は気になる所だがそれはあの愚かな二人の勇者に任せておけばいいだろう。馬鹿だが力だけはある。

 あの二人に勝てる者などここにいるアントンを除いてはいないだろうと思っていた。いやアントンと言えども良くて互角。ならばここにいるあと二人の勇者とこの300の超人兵を加えればアントンなど物の数ではない。勝利は確実だと。

 この時自軍の後方で何が起こっているのか知る由もなかった。それはゼロ達による殿殲滅作戦だ。焼夷手榴弾による広範囲攻撃。

 しかしその実情はクリアの障壁魔法によって音も状況も軍の中央部からは隔離されていた。その為カーネルはただ前方の帝国軍にのみ意識を集中していた。いやむしろアントンただ一人に。

ゼロ達の奇襲によって殿1万の兵が潰された。残りは2万だ。始めは拮抗を保っていた前線もやはり数でマトリスト公爵軍が押され始めた。

 しかしそれは軍の最前線部隊が潰れるまでだった。そこに現れた軍団により急に大勢が変わった。それこそが超人兵軍団だった。彼らの力は物凄く、数を物ともせずに片っ端から殺戮を始めて行った。

「カーネルさん。あれは何なんですか。人間じゃないですよね」
「あれかね、あれは我が軍団が誇る超人兵だよ」
「そんな、でもあれってどうやって作ったんですか」
「あれこそが神のご加護と言うものだよ。君達と同じにな」

 正木裕也は信じたような感じになっていたが、岬裕子は断じて違うと思っていた。

 あれは正常なものではない。本当に神があのようなものを作り給うたのか。いやそれはない。あれは人ではない。もはや狂人、殺人マシーン、一種の悪魔だ。

 岬裕子はそう思うと今回の戦争そのものが本当に正義の為の戦いなのか。それにすら疑問が生じて来た。

 悪魔人から救ってくれたゼロと言う人物は王の側についている。そして黒崎達のやっている乱行、いや殺人さえ行っているかも知れない行動。

 その黒崎と金森がここにはいない。カーネルは特殊任務遂行中だと言っていた。それは何だ。そんな中で私は何をしているのかと。

 そんな中で勝敗の行き先はこの二つの大きな戦いに集約されていた。それは帝聖騎士団総団長アントンと300の超人兵軍団だった。

 岬裕子はまだ知らないこのアントンと言う総団長の力を。しかし自分が戦った師団長達の力は知っている。そしてこの人物はその彼らの上に君臨する人物だ。

  弱いはずがない。いや、もしろ自分達すら凌駕すかも知れない。しかしそれでもこれだけの数の超人兵を相手に勝てるのか。裕子は無理だと判断した。

 その時その場に二つの陰が降り立った。

「よう大将。元気か。この相手ちょっと厄介だぜ。俺達が手伝ってやるよ」
「何じゃお主は。お主、普通の人間じゃないな。それに隣にいるのは無能者か」
「俺達はミューラー侯爵様に雇われた冒険者だ」
「その冒険者風情が何をする気だ」

「簡単な事だ。こいつらをぶっ潰す。それだけだ。いいよなゼロ」
「ああ、構わん。思いっきりやれ」
「ボスの許可も出た事だしよ。そんじゃーやるか」

「何、あ奴がそちのボスだと言うか。わははは、面白い。なら一部くれてやろう。ただしワシの分に手を出すでないぞ」
「わかったよ。大将」

 アントンを中央に左翼にマーカス、右翼にゼロと言う陣形が出来た。それを見た裕子は困ったと思った。まさか本当にあのゼロと敵対する事になるとは。

「岬、さっきから何を考えてるんだ。ここは戦場だよ」
「だからよ正木君。私達がやってる事はこれで正しいの?」
「正しいに決まってるじゃないか。相手は悪魔に魂を売った奴らだよ」
「ねぇ正木君、今現れた二人知ってる?」

「一人はゼロさんと言って私達と同じ世界から来た人なの」
「何だって、じゃー僕達と同じ異世界人だと言うのか」
「そう、しかも日本人よ」

「日本人。何故日本人が悪魔の味方をするんだ」
「違うのよ。君は良く覚えてないかも知れないけど、あの暁のダンジョンで悪魔人から私達を救ってくれたのは彼、ゼロさんなのよ。あの人がいなかったら私達は全員死んでたわ」

「そんな、じゃー何故彼は敵側にいるんだ」
「正木君、彼らは本当に敵なのかしら」
「何だって、それはどう言う意味だよ」

 その時二つの陣営の戦いの火蓋が切って落とされた。アントンは自らが持つSランクの力を開放した。

 マーカスもまた獣魔人としての力を四体に集中し半獣魔人化して戦いに挑んだ。ゼロだけがそのままで対峙してた。しかし手には手榴弾を持って。

 この戦いもまた熾烈を極めた。超人兵は精神がコントロールされてるとは言え、この興奮状態ではそれも長くは続かなかった。やがて容姿さえ変貌し人としの形状も崩れていた。正に歪な魔物だった。

「おい、お前、あれはなんじゃ」
「何でも強制強化された人間らしいぞ」
「要はバケモノと言う事か。なら容赦はいらんな」
「そう言う事だ。思いっきりやってくれ」
「よかろう。ワシの本当の力を見せてやろう」

 そう言うと同時にアントンの魔力が膨大に膨れ上がった。もはやそれは人の領域を遥かに超えたものだった。流石はSランクと言うべきか。

 その力は凄まじく、触れるもの全てを破壊していた。彼の持つ大剣はもはや切る剣ではなかった。触れるもの全てを粉砕する。

 まるで超振動のミキサーに触れるが如く。この力の前には流石の超兵士と言えども対抗は出来なかった。

 そして半獣魔人と化したマーカスの十文字槍は魔獣の威力を上乗せし、力もスピードも急上昇し普段の威力を数倍する破壊力を持って全てを斬り割き突き破っていた。

 ゼロは平然と超兵士に対峙し、今度は通常の焼夷手榴弾ではなくゼロが開発した、最終兵器、分子核手榴弾を用いた。

 それは全ての残存物を残さないためだ。ゼロは敵兵の中心に飛び込み中央から破壊して行った。

 ゼロのいる中心に向かって攻撃を掛けて来た超兵士は近づく端から無に返されて行った。ただその様子は爆破の噴煙とゼロが使った煙幕弾で外からはよく見えなかった。

 戦いは終わった。そしてそれはカーネルの想像していものとは全く違った結果になった。

 つまりそれはマトリスト公爵軍の惨敗と言って良いだろう。超兵士も全員が殺された。ゼロはその死体を全て焼き尽くした。同じものを作らさないためだ。

 カーネルは現状を信じられないと言う目で見ていたが流石は策士だ。残り全員に直ちに退却命令を出した。

 もう後先の事など考えている余裕などない。全員が命辛々逃げ出した。残った兵力は恐らく1万にも満たなかっただろう。

「よう若いの、お前大したものだな」
「大将には敵わないがな」
「当たり前だ。まだワシに追いつくには100年早いわ。ははは。しかしお前のあのボスと言うのは何者だ」

「何者ってただの冒険者だが」
「嘘をつくな。ただの冒険者に、しかも魔力のない者にAランクのバケモノを100体近くも殺せるか」
「ああ、あれは魔道具を使ってるからだ」

「魔道具だと。あの爆発は魔道具だったと言うのか」
「そうだ。彼はそう言うのが得意なんだ」
「魔道具な、まぁいい。そう言う事にしておこう」

 その時戦いを終えた帝国軍達もアドルフ将軍の元に集まって来た。

「みんなご苦労だった。我々は勝ったぞ。勝利の勝どきだ」
「エイ・エイ・オー!!!」

 その時二人の分隊長が駆けて来た。

「おい、お前マーカスじゃないのか。そしてそっちはゼロさんだよな」
「なんだ、ケリンとバーストか。お前ら生きてたか」
「何言ってる。死んでたまるかよ」

「その方らこの者を知っているのか」
「はっ、総大将殿、この者はマーカスと言いまして元帝国軍の軍曹で我らと同期の者でありました」
「ほー、元帝国軍とな」
「マーカス、もうその仮面は取っていいぞ」

 そうゼロに言われてマーカスは仮面を取った。別に顔には怪我の痕も何もない。ただ素性を隠していただけの仮面だ。

「やっぱり、マーカスだ。変わらんなお前は」
「お前らだって、いや、お前ら分隊長か、偉く出世したものだな」
「マーカスとゼロとやら、その方らには話がある。後で王城に来い。待ってるから必ず来いよ」

 この間クリアは姿を隠し様子を見ていた。みんなが引き上げた後でリスの姿になってマーカスの肩に乗った。

「何でお前また俺の肩に乗る」
「そりゃー楽だからじゃないですか」
「なんだそれは。まったく面倒な奴だな」

 しかしゼロはまた浮かぬ顔をしていた。

『またまた厄介事かよ』