第二部「地上最強の傭兵が異世界を行く-2-20-57」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「勇者の最後」

 ハミルトン王子の17歳の誕生パーティは盛大に国民の前で執り行なわれた。王城のバルコニーの前では多くの国民がハミルトン王子の17歳の誕生を祝って手に持った小さな旗を振りかざしていた。

 災難が降りかかったのは正にその時だった。王のもとにスタンピード発生の凶報がもたらされた。

「どう言う事だ」
「はい、王。この王城を中心に四方からスタンピードの魔物達がこちらに向かっているとの報告です」
「何だと、同時のそれも数か所からだと。そんな事があり得るのか」
「いえ、そんな事はあり得ないかずです。本来ならば」

 その声はミューラー侯爵からのものだった。

「ミューラー候、それはどう言う意味だね」
「私の掴んだ情報によりますと、これは敵の仕掛けた罠ではないかと」
「罠と言ったか」
「はい。恐らくはここを襲うのが目的ではないかと推測されますが、
それでもあのスタンピードは押さえなければなりません。そうでなければ国民に多くの被害が出ます」

「確かにそうだな、アントンおるか」
「はっ王よ、こちらに」
「その方は直ちに帝聖騎士団を率いてスタンピードを治めてまいれ」
「承知いたしました」

 帝聖騎士団総団長のアントン・ホフマンは直ぐに4人の隊長を呼び寄せ、スタンピード壊滅を命じた。

 それぞれの騎士団は各スタンピードに向けて出陣して行った。残ったのは中央で指揮を取るアントン・ホフマンと数人の手勢のみとなった。

 勿論城の中には衛兵がおり、外には帝都軍がいる。そう簡単に打ち破れるものではない。

 しかしそれでも最強の軍団を欠いている。そこが狙い目だった。その間に殺人鬼と化した二人の勇者を含めた隠密部隊が王都の中心部に侵入を開始していた。

 後はこの催し物が終わり警護の手が緩むのを待つばかりだった。スタンピードは王城を中心に北東、北西、南東、南西からの四方面からこの王城に向かっていた。

 そして北には残りの二人の勇者を含むマトリスト公爵の軍隊が、そして最後に南から侵入したのがこの隠密部隊だった。つまり王城は六方から囲まれていると言う事になる。ただ北と南の戦力に関してはまだ発覚してはいない。

「どうやらゼロ、あんたの言った通りになってきたな」
「ああ、先ずはスタンピードだ。しかしこれは何とかなるだろう。あの帝聖騎士団の力は大きい。あの程度のスタンピードなら打ち破るだろう」
「では問題は第二弾と言う事か」

「そうだ。だがそれは何時、何処で、どう言う形で現れるかと言う事だ」
「ゼロ見ろ。帝王の隣にいるのがマトリスト公爵だ」
「なるほど、あれが悪の根源と言うやつか」
「ああ、そうだ。今直ぐ叩き切ってやるか」
「慌てるな。そう言う訳にもいかんだろう」
「確かにな」

 ミューラー侯爵は午後の王子のパーティの用意があるので屋敷に引き上げた。その後に続いていたゼロ達に急に声がかかった。

「あのー貴方はあの時私達を救ってくださった方ですよね」
「これは勇者殿でしたか」
「いえ勇者はいりません。もうご存じでしょう。私達が地球の日本から来た高校生だと言う事を」

「なるほど、もう理解していたか」
「あのーもし良ければ名前を教えてはいただけませんか」
「俺の名はゼロだ。この世界ではそれで通している」
「わかりましたゼロさん。私は岬裕子、高校3年生です。貴方はあの後も無事だったんですね」
「きっと幸運だったんだろうな」

「いいえ、貴方は私達よりも強い力をお持ちじゃないんですか」
「君は相手の力をある程度は計れるよね。なら俺の魔力を探ってみるといい。俺は魔力を持たない。そんな者があの悪魔人に勝てると思うかね」
「そんなはずは・・・」
「俺は君達みたいに召喚されてこの世界に来た訳じゃない。だから神の加護とか言う物は持ってないんだよ」

「ではどうやってここに」
「あれは事故だった。たまたま次元の狭間に落ちてしまったんだ。だから素のままだ」
「そうだったんですか。でも私にはそうは見えません。やはり貴方には何かある。ただ出来れば貴方とは敵対関係にはなりたくないと思います」
「そうだな、俺もそう願うよ」

 そう言って二人は別れた。ただこの時岬裕子は一つの疑問を感じていた。私達はこの帝国の王は悪魔に魂を売った人間だと教えられた。だから討伐しなければならないと。

 しかし岬達を悪魔人の手から救ってくれた彼は今王の側に付いている。私達は本当に正しい事をやっているのだろうかと。

 王の命により重鎮や諸侯には各自の持ち場に戻り警護に備える様にと指示された。

 これにより王周辺から人が消え、同時に付いて来ていた各警護も引き下がって行った。これで益々王の周辺は手薄になった。しかし行事はまだ残っている。これは遂行されなければならない。

 表向きは平静を装い、民衆に対する感謝の意の述べた後、みなは平素の状態に戻った。しかし内部では緊張状態が続いていた。

 この時期ミューラー侯爵家での祝賀パーティーの開催も危ぶまれたがミューラー侯爵が大丈夫です、王子の安全は必ず確保しますと言うミューラー侯爵の言葉に折れて王は息子をミューラー侯爵家に送った。

 ミューラー侯爵にしてみればこれにはある施策があった。王と王子、この二人が同じ所にいたら何かあった場合血筋が途絶える。少なくとも別れていればどちらかが助かる確率が高いと言う事だ。

 北東のスタンピードに向かったのは帝都の帝聖騎士団第一師団隊長のハインリッヒ・ミューラー、

 北西のスタンピードに向かったのが帝聖騎士団第二師団隊長ルイス・シュナイダー-、

 南東のスタンピードに向かったのが帝聖騎士団第三師団隊長レオン・ベッカー、

 そして最後の南西のスタンピードに向かったのが帝都の帝聖騎士団第四師団隊長エミリア・シュルツだった。

 どれもこれも一騎当千の強者だ。しかもその配下の騎士達も相当に強い。

 この戦力を持ってすればいくら強制強化された魔物に引き連れられた魔物達と言えども敵ではないだろう。やがて各地で鮮烈な戦いが繰り広げられた。

 片やミューラー侯爵家では祝賀会の準備が粛々とそして手際よく進められていた。そして後は王子を迎えるばかりになっていた。

 その頃暗殺部隊は続々とこのミューラー侯爵家に集結しつつあった。城内に忍ばせてある間者の報告を受けて王子がこのミューラー侯爵家に来る事を知り襲撃の準備に取り掛かっていた。二人の勇者、黒崎と金森は万が一の為の保険だ。

「ゼロ様、ゼロ様の推測通りに来ましたよ」
「そうか来たか。ではあの作戦の決行だ。クリア頼むぞ」
「まかせてください。僕がマーカスより頼りになる所を見せてあげますよ」
「ゴツン!」
「痛いです。マーカス」
「うるせー」

 王子の祝賀会の後は祝賀会場での団欒の時間になった。各自が気軽に飲み食し語らっていた。勿論王子も一緒に。

 その時だ、ドアを蹴破って雪崩れ込んできた一団がいた。それはマトリスト公爵の放っった暗殺部隊だった。勿論その後ろには仮面をつけた黒崎達もいた。

「王子、そしてマトリスト公爵、覚悟!」

 突撃しようとした者達の前に躍り出たのはゼロだった。

「邪魔だ、死にたくなけれ去れ」
「お前達こそ『飛んで火にいる夏の虫』になったな。この意味はわかるんだったか」
「うるさい、死ね!」

 そう言った途端視界が揺れて、今までそこにいた全ての者達が消えた。そして現れたのはマーカスとミューラー侯爵家の警護隊隊長ヨルゲンをはじめとする隊員達だった。勿論これはクリアのまやかし魔法によるものだった。

「ど、どう言う事だ。これは」
「これはまやかしの魔法と言ってな、お前達は幻影を見せられていたんだ。王子達はここにはいない。ここはお前達の墓場になる所だ」
「殺せ、皆殺しだ、そして王子を見つけ出して殺すのだ」

 ここに警護隊と暗殺部隊との壮絶な戦いが始まった。これでは埒が明かないと思った黒崎達二人が前に出た所にゼロとマーカスが立ちはだかった。

「お前達の相手は俺達だ」
「ふん馬鹿が、お前達程度で俺達に勝てるとでも思ったか」
「お前は今仮面をかぶってるようだが、実は俺も仮面を持っていてな、こんな仮面を見た事はないか」

 そう言ってゼロは黒崎を倒した時の仮面を被って見せた。その仮面を見た途端金森は足が震え、黒崎は怒りに震えていた。

「て、てめーはあの時の仮面野郎」
「馬鹿なガキには、やはり相当きつい躾が必要なようだな」
「うるせー、今度こそてめーをぶっ殺してやる」
「ほー今の日本の高校ではそんな事も教えてくれるのか」
「な、何だと、てめー何を」
「まぁいい、馬鹿もここまでにしようか。マーカス、お前はあっちを頼む」
「わかった。そっちのひょろいの。向こうでやろうか」

 こうして二組は改めて対峙した。二人の勇者に対して二人のバケモノ。果たしてどちらが勝つのか。

 黒崎は片腕になってはいたがそれを失ってもまだ余りある戦力を手にしていた。これもまた神の加護と言うものか。

 片腕になったにも関わらず黒崎は両手剣を片手で握っていた。しかも何の負担もない如く。そしてその剣に黒い闇を纏いだした。それは触れた全てを腐食してしまう闇の魔法だった。

「勇者が闇の力を使うのか。神のしもべでは無く悪魔のしもべになったか」
「うるせー要は勝てばいいんだ。力が全てなんだよ」
「確かにお前の言う通り力が全てだ。ではその力とやらを見せてもらおうか」

 この時もゼロはやはり素手のままだった。ただ両手には薄っすらと光る気の幕を纏わせていた。

 そして黒崎の攻撃を全て両腕で受け流した。黒崎の剣に接触したにも関わらずゼロの腕は全く腐食していなかった。

「何故だ。何故お前の体は腐食しない」
「お前が言ったんじゃないのか。力が全てだと。つまり俺の力の方がお前よりも上だと言う事だ」
「そんな、そんな事があり得るはずがない。俺は悪魔から・・・」
「悪魔から力を貰ったか。流石に悪魔も勇者の体は乗っ取れなかったようだな。しかしお前の魔力はもう魔に染まっているぞ」
「なんだと、俺が魔に染まっているだと」
「そんな事もわからずに悪魔と手を結んだのか。馬鹿な奴だ。馬鹿は死ななきゃ治らないと言うがやはりお前は死んだ方が良さそうだな」

 その瞬間、ゼロの手刀が黒崎の首を刎ねていた。宙に飛んだ黒崎の頭をゼロは掴み切口に結界を掛けて血止めをし腐食を防いだ。正直な所、黒崎程度の力ではまるでゼロの相手にはならなかった。正に力の差だ。

 マーカスの方は金森の土属魔法を十文字槍に纏わせた魔力によって全て粉砕していた。金森も既に打つ手がなくなって助けを求めるつもりで黒崎の方を見たら、それは正に黒崎の首が刎ね飛ばされる瞬間だった。

 その光景に金森は戦慄してしまった。自分達が今までどれだけ人を殺して来たかを忘れて自分が殺される恐怖を初めて知ったのだ。

「マーカス構わん、奴の首を刎ねろ」
「了解した」

 金森もまたマーカスによって首が刎ねられた。こうして二人の勇者は二人のバケモノによって討伐されてしまった。

 周りでもまた警護隊によって全ての暗殺部隊が殺されていた。これで南は済んだ。後は北かとゼロは思った。

 全てが終わった後、ミューラー侯爵と王子が現れ事の詳細が説明された。

「ご苦労様でした。今回はゼロ殿達には本当に助けていただきました。感謝します」
「侯爵様、この者達が話されていた冒険者達ですか」
「左様です王子。こちらがゼロ、そしてこちらがマーカスになります」

「両君共良くやってくれました。あなた達は命の恩人です」
「恐縮です、王子。仮面のままでご無礼いたします」
「構いません。あなたはマーカスと言うのですか、僕も以前に仮面をつけた者に命を助けられたことがあります。ですから僕にとって仮面の使者は英雄なんです。いずれ王家からも礼をさせてください」
「もったいないお言葉です、王子」

「では王子様、参りましょうか、王様が心配しておいででしょうかなら」
「わかりました」
「ではゼロ殿、ヨルゲン、後の事は頼みます」
「承知いたしました。領主様」

 後の細々した事はヨルゲンに任せておけばいいだろうと考え、ゼロはマーカスとクリアと共に再び王城へと向かった。

「さてマーカス、では最後の戦いに行くか」
「おおさ、腕が鳴るぜ」
「大丈夫なの、マーカス」
「ガツン!」
「痛いって、マーカス」