第二部「地上最強の傭兵が異世界を行く-2-19-56」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「帝都へ」

 ゼロ達ミューラー侯爵の警護隊は全員で15名だった。隊長が一人、副隊長格が二人。それと隊員が12名となる。

 それがミューラー侯爵の馬車を囲むように6名ずつ左右に分かれて先頭に一人の副長、そして最後尾にも副長、馬車の横には隊長が伴走していた。ゼロ達も隊長の後ろに付いていた。

 帝都まではもう少しと言う所まで来ていた。

「どうだマーカス、懐かしいか」
「そうだな、帝都を離れて大分経つがやはり俺にはあそこは古巣だからな」

 このマーカスも帝都の兵士として当時は軍曹の地位についていた。それを3人の仲間と共に獣魔人の実験の為に拉致され、ゼロに救われここまでやってきたのだ。だからその懐かしさも一入だろう。

 しばらく進んでいると帝都の方から騎馬隊がやって来てミューラー侯爵の馬車の近くで止まった。馬車に付けられた紋章を見れば誰の馬車なのかは一目瞭然だ。しかも帝都の騎士ならば。

 下馬した騎士は帝都の王城を守る帝聖騎士団の隊長の一人、ルイス・シュナイダーだった。

「これはミューラー侯爵様、帝都へのご帰還でございますか」
「おぉ、シュナイダー殿か。そうだが貴殿は」
「はい、ハミルトン王子様の17歳の誕生パーティを筒がなく行う為の見回りでございます」
「さようか、それはご苦労な事だな」
「所で侯爵様、警護を増やされましたか。見慣れない顔振れがおりますが」
「ああ、彼ら二人は私が雇った警護の冒険者達だよ」

 そう言ってミューラー侯爵は彼らゼロ達に目を向けた。

「珍しいですね、用心深い伯爵様がご自分の手下以外の者をお雇いになるとは。余程頼りになるのでしょうね」

 そう言ってシュナイダーはゼロ達二人に目を向けた。そしてゼロに近づきいきなり剣を抜いて突き出した。

 その動作は速く誰の目にも止まらなかった。ここでそれが見えたのはゼロとマーカス、それと警護の隊長とミューラー侯爵自身位のものだろう。

 そしてシュナイダーのその切っ先はゼロに向かっていた。避けなければ確実に怪我をする。いや死ぬ事すらあり得る。そんな攻撃だった。

 そんなシュナイダーの攻撃をゼロは顔色一つ変える事無く人差し指と中指の二本の指でシュナイダーの剣を挟み止めた。

 しかもその剣は押しても引いてもびくともしなかった。シュナイダーは唇の先を吊り上げて微笑み力を抜き、ゼロは指を放してシナイダーは剣を収めた。

「失礼した」
「いや、どうと言う事もない」
「では公爵様、私目はこれにて役目に戻ります」
「ではまた帝都で会いましょう」
「はい」

 そしてその場を離れたシュイナイダーは、
「何だあのバケモノは。総団長と互角だとでも言うのか。あははは、面白い」

「マーカス、あれは」
「あれは帝聖騎士団第二師団隊長のルイス・シュナイダー殿だな」
「強いのか」
「ああ、強い」
「なるほどな、流石は帝都と言う所か」

 こうしてゼロ達は帝都に入りミューラー侯爵家の屋敷に入った。ここもまた領地の屋敷に勝るとも劣らぬ大きさと豪華さだった。ゼロ達は一応警護の一員と言う事で騎士達と同じ建物に住む事になった。

 この間にゼロはクリアに探索任務を与えていた。それは最近帝都に出没すると言う無差別殺人の通り魔の事だ。

 ゼロはその事が少し気になっていた。だからクリアに出来るだけ詳細を探れと言い渡していた。

 警護隊長のヨルゲンはゼロ達を初めて見た時に彼らの強さを見抜いていた。反発を持って迎えた部下達も今では二人の力量を認めている。いや認めざるを得ないだろう。

「どうだゼロ殿にマーカス殿、この帝都は初めてであろう。今夜はわしが帝都の夜を案内しようか」
「いいのか、警護の方は」
「ああ、大丈夫だ。屋敷の内外には至る所に罠が仕掛けてある。それに警護の兵もいるしな。外からの敵には地獄が待ってるだけだろうさ。わははは」

 このヨルゲンと言うのは意外と豪快なタイプだった。もしかするとマーカスと気が合うかもしれないなとゼロは思った。

 外に出たのはゼロとマーカスそれにこのヨルゲンと一人の副隊長のケシーナと言う女性騎士だった。女性でミューラー侯爵家の警護副隊長を務めると言う事は相当優秀なんだろうとゼロは思った。

 警護の時は頭に顔だけ出したアーマーを被っていたのでよくわからなかったが素顔は結構な美人だ。その顔を見たマーカスは少し驚いていた。

「どうしたマーカス。彼女の顔に何か付いてるか」
「いや、そうじゃないんだが。どうやら俺の知ってる者のようだ」
「ほーマーカスにあんな美人の知り合いがいたとは隅に置けないな」
「茶化すなよゼロ。俺の旧友の娘だ」
「ほーそれはそれは」

 こうして4人は夜の帝都に繰り出した。とは言えまだ警護の最中だ。あまり羽目を外す事は出来ない。その上にお目付けとも言える副隊長がついている。

 行けるべき場所はある程度限定される。そんな中、ヨルゲンが贔屓にしてると言うレストランに入った。何となく気さくな雰囲気の店でヨルゲンの気性に合ってるような気がする。ケシーナもこの店の雰囲気は気に入っていた様だ。

 ゼロ達はそれぞれに好きな物を頼んで陽気に話をしていた。特にマーカスとヨルゲンはやはり気が合うようで戦談議に話が弾んでいたようだ。

「ゼロ様、貴方達はどうしてそんなに強いのですか」
「様はいらない。俺達は言ってみれば今は仲間だ」
「そうですね。では教えてください。強くなる方法を」
「あんたは強くなりたいのか」
「はい」
「何か目的でも」
「仇討ちです」
「仇討ちか。誰の仇だ」
「私の父です」

 その話が聞こえた時、マーカスが驚いたように話に割り込んで来た。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。あんたの親父さんは殺されたのか」
「はい」
「何時の事だ」

「王子様が獣の魔物に襲われた時、父も警護についてました。そしてあの魔物に殺されたのです。ですから私はあの魔物を操っていた者を殺してやりたいと思ってます。でもあの魔物達を相手にするにはそれなりの力がいるのです」
「まさか、あのグレゴリーが・・・」
「あのー、あなたは私の父を知っているのですか」
「ああ、昔ちょっとな」
「そうでしたか」
「よし俺も手伝ってやる。必ずお前に仇をうたせてやる。任せろ」
「マーカス、お主は優しいの」
「いや、そうじゃないって」

 その時扉を蹴破るようにして一人の男が飛び込んで来た。

「誰か助けてくれ。人が、人が襲われている。きっとあの怪人だ」
「怪人?怪人って何だ」
「今評判になってる通り魔だ」
「よし行くぞ」

 四人は通報人の言う方向に駆け付けた。するとそこには何人もの死体が転がっていた。

 中には高貴な身分と思われる者の死体もあった。生き残った何人かが戦っていたが全く相手にならなかった。相手はまるで嬲る様に一人一人殺して行った。

「待て、そこまでだ。それ以上の勝手はさせん。覚悟しろ」

 そう声高々に言ったのはヨルゲンだった。

「ほーまた新手か。お前ら俺達を楽しませる事が出来るのか」
「ほざけ」

 そう言うなりヨルゲンは大きな両手剣を振りかざして掛かって行った。怪人は二人。二人共おかしな仮面をつけていた。

 一人は隻腕、もう一人は魔法使いの様だ。その二人を見た時ゼロにはあれが誰か直ぐに分かった。

 しかし何だあれは日本のアニメキャラの仮面のつもりか。とゼロは思った。やっぱりガキだなあいつらはと。

 黒崎は今度も簡単に捌き殺せると思っていた。しかしその剣士の剣は重く鋭く中々捌き切れなかった。しかしやはり地力が違った。徐々にヨルゲンは押され切り傷が増えて行った。

 金森に向かったケシーナは金森の土魔法に翻弄されていた。攻撃をしようと思うと土壁に邪魔をされ引くと下から土槍が襲って来る。中々間合いに踏み込めないでいた。

 そこに雪崩れ込んだのはマーカスだった。土壁もマーカスの獣魔の腕の前には砂上の城如く簡単に打ち壊されそのままマーカスの拳は金森の顔面に飛び込んだ。

 金森は数メートルを弾き飛ばされそれでも立ち上がってきた。体力もかなり上昇して来ているようだ。やはりそこは勇者と言うべきか。

「クソがー、調子に乗りやがって、もう許さねーお前らみんな切り刻んでやる。特にそっちの女は散々弄んでから殺してやるよ」
「やれるもんならやってみるんだな、クソガキが」

 ヨルゲンの方も苦戦を強いられていた。

「何なんだ一体こいつは。並みの相手じゃねーぞ。まるで帝聖騎士団の隊長クラスを相手にしているようだ」

 ヨルゲンがバランスを崩し地面に転がった所を狙て剣を振り下ろして来た黒崎にゼロは指気弾で黒崎の顔を弾いた。

 黒崎はその衝撃で後ろに倒れたが上手く後ろ回転を利用してまた立ち上がって来た。

「大分腕が上がったようだな、ガキ」
「何だと、てめーは誰だ」
「誰だはないだろう。命の恩人に向かって」
「命の恩人だと。何を言ってやがる」
「もし俺がいなかったらお前ら全員死んでただろうが、あの暁のダンジョンで」
「何、暁のダンジョンだ。やべートンガ撤退だ。急げ」

 そう言って二人の怪人は急に姿を消した。後に残ったのは数名の衛兵の死体と貴族と思しき人物の死体だった。

 ヨルゲンはその貴族の死体に近づき驚きの色を隠せなかった。それは紛れもなくミューラー侯爵と親交のあるフィッシャー男爵だった。

「どうしたヨルゲン、知り合いか」
「ああ、この方はフィッシャー男爵だ。我が主とは昵懇の間柄だ。また一人やられたか。先月も一人殺されたばかりだと言うのに」
「それってもしかしたら無差別殺人を装ってミューラー侯爵の陣営の者を殺して回ってるのかも知れんな」
「どう言う事だ、ゼロ」

「ともかくここを片付けてミューラー侯爵の所に戻ろう」
「そうだな、ケシーナ、大丈夫か」
「はい、マーカス殿が助けてくれました」
「そうか、では行くぞ」

 ヨルゲンはここの後始末を町の衛兵に任せて急いでミューラー侯爵の館に戻った。夜の時間だったが直ぐに執事に連絡をとり公爵への目通りを願った。

「どうしたのです、ヨルゲン」
「ミューラー様大変です。今晩フィッシャー男爵様が例の怪人に襲われてお亡くなりになりました」
「何ですって、フィッシャー男爵殿が」
「私が現場にいながら申し訳ありません」

「いや、あんたは悪くない。俺達が現場に駆け付けた時にはもう殺されていたんだ。どうする事も出来なかったさ」
「しかしなー」

「彼の言う通りです。自分を責める必要はありません。しかし大事なのはこれからの事です。で犯人はどの様な者でした」
「はい、相手は二人、一人はがっちりした体格の隻腕の男でした。もう一人は中肉中背の少し細身で魔法使いでした。それはケシーナが対処いたしました。しかし我々二人では力が及びませんでした。もしゼロ殿とマーカス殿がいなければ我々は殺されていたかも知れません」

「それほどの者だと言う事ですか。それは聞き捨てなりませんね」
「ゼロ殿、その相手、どう見ますか」
「恐らくは相手陣営の送った刺客ではないかと。真の狙は帝王派閥の殲滅でしょう」
「無差別殺人はカムフラージュだと」
「恐らくは」
「やはりそうですか」

 ただゼロもマーカスも相手が勇者の生き残りだとは言わなかった。恐らく間違ってはいないだろうがこれと言った証拠がない。ここでああだこうだと言っても仕方ないとゼロは思っていた。

「しかしミューラー侯爵様、やはりゼロ殿とマーカス殿は頼りになります。私達はお二人に助けられた様なものです」
「やはりそうでしたか。今後とも宜しく頼みます」
「はい、仕事ですから」
「ははは、仕事ですか。流石ですね」

 こうして後日、ゼロもマーカスもハミルトン王子の17歳の誕生パーティの席に警護班としてついて行く事になった。ゼロにしてみればまた厄介事かよと言う所だ。

「どうだったクリア、何かわかったか」
「何かきな臭いですね。今度の誕生パーティの日に何かあるかもしれません」
「どう言う事だ」
「彼ら隠密達が話していた事を総合すると、どうやらその誕生パーティの日にスタンピードを仕掛ける感じです」

「なるほどな、人の集まる時にスタンピードが起こったら民衆の手前何が何でも治めなければならんだろう。そうなると主戦力を投入する。そうなるとどうなる」
「どうなるって。ただそれだけの事だろう」
「城内は」
「そうか、城内は空とは言わんが戦力が減る」
「そうだ。そこを狙って王の命を取ろうと言うのだろう」

「しかしスタンピード位ならあの時の帝聖騎士団と師団隊長クラスの実力があれば何とかなるだろう」
「ああ、スタンピードが一つならな」
「じゃー何か、複数のスタンピードが起こるとでも」
「そうでなければ城を狙う意味がないだろう」
「なるほどな、それは厄介だな」
「全く厄介だ」