第二部「地上最強の傭兵が異世界を行く-2-18-55」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「ミューラー侯爵との会見」

 ゼロ達の知らせを受けて冒険者ギルドが動いた。ギルドマスターが衛兵に連絡を取って娼館は閉鎖され地下室の見分が行われた。そこにあったのはまともな形をした魔物ではなかった。もはやバケモノに近い。

 そして娼館の地下にこの様な実験室が作られて居た事にギルドマスターも驚いていた。しかも自分の足元でだ。

 例の老魔法使いの正体はわからなかったが恐らくはマトリスト公爵の息の掛った者だろうとギルドマスターは思っていた。この事は当然領主の元にも知らされた。

 翌日ゼロ達はまたここのギルドマスターと顔を合わせていた。

「いや、申し訳ない。我々が責任を持って調査すると言っていたのに君達に先を越されてしまったようだ。礼を言う。そして今回の事に対する報酬は払わせてもらうよ」
「いや、別に要請があった訳じゃないし俺達が勝手にやった事だ、気にしないでくれ」
「いや、そうもいかんのだ。今回の報酬は領主様から出てるんでな」
「領主様って、ここのミューラー侯爵の事か」

「そうだ、それでお前達にも是非会いたいと仰ってる。どうする」
「どうすると言われてもな。断れるのか」
「それはまぁ、断れない事はないが・・・」
「角が立つか。ギルドマスターとしては辛い所だな」
 ギルドマスターはその通りだと言う顔をしていた。

「普段はミューラー侯爵様は帝都に詰めておられるのだが今回は使用でこの領地に帰っておられたのだ。それで今回の事件を聞いて是非とも詳細を聞きたいと仰ってる」
「まぁ、そうだよな自分の領地で起こった事だからな。マーカス、お前はどうだ」
「俺はどっちでもいい。ゼロに任せる」
「そうかわかった。じゃー会いに行こう」
「そうか会ってくれるか。助かる」

 ゼロとしてもマーカスの事を考えればここで少しでも顔つなぎをしておいた方が後々の事を考えれば良いかも知れないと考えた。

 ただ今回は領主の館でと言う事だっのでクリアは連れて行かない事にした。子供を連れてと言うのもどうかと思うしクリアの正体の事もある。

 そこはこの町コークブルクの北にあり、途方もなく大きな屋敷と言うよりはもう御殿だった。冒険者ギルドのギルドマスターのアインシュレートに付き添われてゼロ達はミューラー侯爵の館にやって来た。

 アインシュレートが門番に来訪の目的を告げると既に連絡が行っていたのか直ぐに連絡がつき迎えの者が馬車でやって来た。

 何故馬車なんだと思うと確かにこれは馬車がいると思える程正門から館までは遠かった。

 その途中ので騎士達が訓練をしている風景が見えたがそれなりに鍛えられた騎士の様に見えた。マーカスもあれなら合格点だなと言う顔つきをしていた。

 立派な正面の入口の両サイドにはズラリとメイドとその先頭に執事がいてメイド共々深々と頭を下げていた。

「よくいらっしいました。お客様。領主様がお待ちでございます」

 そう言ってゼロ達は屋敷の中の一階にある応接間に通された。またどれだけ大きな応接間かと思ったが意外と余裕はあるもののこじんまりとした感じの部屋だった。

「当家には会議の出来る部屋もございますが、こちらの方がお客様も落ちつかれるだろうとの領主の仰せでした」

 成程それなりに気配りの出来る領主と言う訳かとゼロも納得した。

 待つ事しばし奥のドアから現れたのはすらっとした感じの中年の貴族だった。やはり位の高い貴族だけの事はある。そこには気品もあった。

 中肉中背、特に筋肉質と言う訳ではない。むしろ文官が似合いそうな体付きではあったがゼロの目にはかなりの剣の使い手に見えた。

 ギルドマスターのアインシュレートが立ち上がって挨拶をしたのでゼロ達もそれに倣った。

「お久し振りでございます。ミューラー侯爵様」
「これはアインシュレート殿、今回はご足労をおかけしましたね」
「いいえ、とんでもございません。それで今回はこちらにはどれ位ご逗留されるのですか」
「10日ほど先に王子ドイケル様の17歳の誕生パーティが催されるのです。それまでには帝都に帰らなければなりません」

 ゼロはこのミューラー侯爵と言うのは随分と角の取れた貴族然としない人当たりの良い人物に見えたがその瞳に光るが眼光はただ者ではないとないと思っていた。

「ミューラー侯爵様、こちらが今回手柄を立てた冒険者達、ゼロとマーカスです」
「そうですか、貴方方が我が領地の危機を救ってくれたのですか」
「まだ危機と呼べるほどの物ではなかったと思いますが」
「ですがあれを放置していたらどうなりましたかね」
「そうですね、そうなるとかなりまずい事になったかも知れませんね」
「ならばやはり貴方方は我が領地の救世主ですよ」

 話しやすい領主を装っているが相手を誘導する手管は大したものだとゼロは思った。

「まずは非礼を詫びておきます。俺のパートナーが公爵様の前でこのような面を付けている事ですが、彼は顔に怪我を負っておりますのでそれを隠す為だとご了承ください」
「わかります。理解しておりますよ」

「で本題ですが、今回俺達をここに呼んだ本当の理由はなんでしょうか」
「やはり貴方は物わかりのいい方ですね。実は今回の事を含めた一連の事について貴方方の意見を聞きたいと思いました」
「俺達の様な冒険者が伝えられる様な事は何もないと思いますが」

 やはりこの男、それが目的だったかとゼロは感心した。

「貴方方がギリガンの町のスタンピードを収めた事は向こうのギルドマスターから聞いています」
「でもあれは町の冒険者全員で収めたものです」
「いいえ、表向きは500ほどのスタンピードとなっていますが実際には12000はいたそうですね。その大半を倒したのは貴方方二人だと聞きました」
「何かの間違いでしょう」

「それともう一つ、これはここにいるアインシュレート殿から聞いたのですが貴方方はゴブリン・ロードにゴブリン・チャンピオン、ゴブリン・パラディン等も倒したとか。みなAランクの魔物達です。でも貴方方はマーカス殿が今度Bランクになったばかりだし、貴方ゼロ殿はまだCランクだと伺いました。何故そこまで実力を隠しているのですか」
「いや、俺はただ厄介な事が嫌いなだけでして」
「厄介な事が嫌いで色々な厄介事に首を突っ込まれる。面白い方ですね」

 このミューラー侯爵はゼロ達が屋敷に入って来た時から様子を窺っていてBランクのマーカスよりもCランクのゼロの方が格上だろうと読んでいた。それからふと過去を振り返るようにして、

「そう言えばこんな話があります。過日我が帝国の王子様が成人の儀式の折に獣魔人らしき物に襲われたのですが、その時に王子様を救ってくれた者がいたそうです。その者は顔に仮面をつけていたとか。こちらにおられるマーカス殿のように」
「そうですか。それはまた偶然ですね」
「偶然でしょうかね。まぁそれはいいとしましょう。ところでそれら一連の事からゼロ殿はどう推察されますか」

 やはり知りたい事はそれかととゼロは思った。そしてこの公爵はどこまで把握しているのかと言う事だ。

「正直言って、帝都ないし帝王様に何らかの意図を持つ者の意思が裏で働いているのではないかと思います」
「やはりそう思いますか。でその見当はつきますか」
「俺はこの国の人間ではないので。そう言う事はそちらの方が詳しいのではありませんか」

「そうですね。わかりました、それは私の方で精査してみましょう。そこで一つお願いがあるのですか」
「お願い?何でしょうか」

「これは私からの個人的な依頼と申し上げてもいいのですが、今度王子様の17歳の誕生パーティが催されます。その後王子様を帝都の私の屋敷にお招きして個人的な祝賀会をやる事になっています。その時の警護を依頼したいのです」

 これまた厄介事の以外の何物でもないなとゼロは思った。

「ここに来る途中、騎士の方々が随分と熱心に訓練をしていたようですし、かなり練度の出来た訓練だと思いました。あの者達ではだめなんですか」
「勿論、彼らは頼りになる警護隊です。しかし用心に越した事はありませんから。それに貴方方の実力なら文句はありません」
「マーカス、お前はどうだ」
「俺は構わんが」

「わかりました。ではその依頼を受けます」
「それはありがたい。ただ一つお願いがあります。彼らも警護を専門にしています。外から警護要員を入れると言う事であれば彼らにも納得させなければなりません」
「つまり俺達にその実力を示せと」
「そう言う事になりますね」
「わかりました」

 そう言う事でゼロ達はミューラー侯爵家の警護隊と対峙する事になった。マーカスは得意の十文字槍を構えて立っていた。それを迎え撃つのは動きやすい鎖帷子の様な物を中に着込んだ騎士だった。

 ただマーカスはそれを見て、悪いが少なくとも5人程で掛かって来てくれと言った。それは彼らを刺激し怒らせた事に違いないが隊長は理解し5人に当たらせた。どうやら隊長はマーカスの実力をある程度は理解したようだ。

 戦いはあっけないものだった。マーカスの槍に翻弄され近づく事も出来ないまま全員が倒された。

 次にゼロが練習場に立った。今回も相手は5人だ。ゼロは手に何も持っていない。隊長はそれでいいのかと聞いたが、ゼロはこれで十分だと答えた。

 これまた相手を馬鹿にしたような答えだと騎士達はいきり立ったがゼロの拳法の前にはゼロに触れる事も出来ず全員が意識を失った。

「ヨルゲン隊長、どうかね彼らの実力は」
「はっ、申し分ないかと思います」

 ただこの後ミューラー侯爵の話として最近帝都では無差別殺人の通り魔が出没していると言う話だった。

 それもかなり腕が立ち衛兵辺りでは相手にならないとか。しかも何人かの貴族も襲われ命を奪われたと言う事だ。だから用心に越した事はないのだと。

 こうしてゼロ達は正式にミューラー侯爵家の指名依頼として帝都に向かう事になった。ただクリアは今回はリスの形で連れて行った。