第二部「地上最強の傭兵が異世界を行く-2-10-47」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

pegasusnotsubasa3383のブログ

ファンタシー小説です

「暁のダンジョン」


 今回のスタンピードに疑問を持っていたのは何もギリゲンのギルドマスターばかりではなった。マトリスト公爵家の魔法使いグレハーンも別の意味で疑問だらけだった。

 今回のスタンピード計画は完璧だったはずだ。確かにあの眠れるアンデット・ドラゴンにスタンピードの統率魔法を掛けるのは至難の業だった。

 古代の魔導具がなければとても叶わなかっただろう。何十人、何百人の魔法使いを使ったとしても。何故なら相手の魔力が大き過ぎたからだ。

 しかしやっとそれが出来た。今度こそギリゲンの町を壊滅させあわよくば周辺の町々も壊滅させたかった。スタンピードでなくてもアンデット・ドラゴン一体の力だけを持ってしてもそれは可能な事だったはずだ。

 それがどうしてかスタンピードが消えた。そうだ消えてしまったのだ。大半の魔物が姿を消した。あのアンデット・ドラゴンさえも。

 結果は小規模なスタンピードとなりギリゲンの町の冒険者達によって制圧されてしまった。そんな事があっていいはずがない。グレハーンはそう思った。しかし現実は事実としてスタンピードが消えた事だった。そしてギリゲンの町は助かった。

 一体何があったのか。様子を見させる為に送っていた間者達も帰っては来なかった。グレハーンはこれからの先行きに何か嫌な感じがしたが、そんな事はあるはずがないと首を振って自身を鼓舞させた。

 しかしとグレハーンは思った。もし誰かがあのアンデット・ドラゴンを倒したのだとしたらそんな事の出来る者がこの国に、いやこの世界にいるのだろうかと。

 いやそれはない。500年前、最強の勇者と言われた男でさえあのアンデット・ドラゴンを倒す事が出来ずあの地に封印したのだ。ましてや帝都の帝聖騎士団などではそれは叶わぬ事だろうと思った。

 もし誰かが倒したのあれば死体くらは残るはず。それが死体一つ残らず多くの魔物達が消失していると言う。これはきっと何かの特殊な自然現象に違いないと思った。

 この事をもっと重く考えていたのは帝都の帝王だった。何故なら帝王もまたあの不死の森にはアンデット・ドラゴンが眠っている事を知っていたからだ。

 あのバケモノを封印したのは500年前にこの国に現れた勇者だった。しかしその勇者の力を持ってしてもドラゴンを殲滅する事は出来なかった。そこで苦肉の策として不死の森に封印したのだ。

 ただし一つの保険としてあのギリゲンの町の地下にはドラゴンに傷を与える事の出来る爆裂魔法が仕掛けられていた。それを知っているのは王家と歴代のあの地の冒険者ギルドのギルドマスターだけだ。

 その秘密は代々引き継がれてきた。もしその爆裂魔法を稼働させたら上に乗る町も周囲も共に吹き飛ぶ。だからギリゲンの町はドイケル帝国に取って最重要箇所の一つだった。幸い今回のスタンピードが小規模だったと報告されて帝王は安堵していた。

「ねぇねぇ、ゼロさんマーカスさん聞きました。この町がスタンピードから救われたって」
「そうらしいな」
「俺達も手伝いたかったですよ。でも俺達はまだCランクだら緊急依頼にも入れてもらえなくて」

「しかしなあんなのロクなもんじゃないぞ。命が幾らあってっも足りん」
「そうかも知れませんが冒険者として一度はあんな大きな事してみたいと言う気はするんですよね」
「それなら出来る様に特訓しろ」
「わかりました。頑張ります」

 今の彼らなら緊急依頼には十分な実力はついている。後はその実力を何処で発揮するかだ。そのうち無駄死にしないで発揮出来る場所を探してやるかとゼロは考えていた。

 このギリゲンから北に5日ほど行った所に「暁のダンジョン」と言うのがある。何故「暁」と言うのかは知らないが、そこは中級者レベルのダンジョンだと言う。「竜峰の剣」の肩慣らしには丁度いいだろうとゼロは彼らを連れてそのダンジョンに向かった。

 馬車で移動する事丸5日、途中何事もなく無事そのダンジョンの町ローテンに辿り着いた。

 そこは本来町ではなかったのだが多くの冒険者達がやって来るのでそれ目当てに宿屋が建ち、食べ物屋が建ち、飲み屋が建ち、色々な関連店が建ち、やがては娼婦館まで建つと言う宿場町になってしまった。

 ダンジョンの難度はそれ程でもないが、中が相当広いらしい。だから多くの冒険者が集まるのでそれ目当ての商売が成り立つ場所となった。

 ここは特に何処かの領地と言う訳ではない。強いて言えば帝都の国有地と言った所だ。だから問題は治安だ。特に衛兵や領兵がいる訳でもない。唯一町で作った自衛団の様もので何とか治安を維持していた。

 領主がいないので町長も町の監督官もいない。商業組合で作った管理事務所の様なものがあるだけだ。

 もし犯罪が起こった場合はここで一時的に確保し最寄りの領主か近くの町の官権に引き渡す。だから正直な話、揉め事や犯罪も多い。特に多いのは強盗や性犯罪だ。それでも冒険者から落ちる金目当てに人が集まる。

 唯一ここで公共の物と言えば冒険者ギルドだろう。何故こんな所にと言う所だが魔物の回収や買取と言った分野での仕事がある。ただしこの冒険者ギルドにクエストの依頼はない。ダンジョン専門の冒険者ギルドだ。

 町ではないが町並みに賑わっている。だから周りの領主や町長からも目を付けられている。取り込めばかなりの税収が見込めるからだ。

 町の自衛団もそれは阻止しようと躍起になっていた。ここで公権に支配されてしまうと余計な規則や法律や支配階級の上下関係など面倒な事を押し付けられてしまう。この町はやはり自由が良い。それがこの町に住む者達の偽らざる気持ちだ。

 そんな内情など何も知らないゼロが全員を引き連れて町に入ったのはもう夕暮れ近くだった。

 ともかく全員の宿を決め活動は明日からと言う事にして食堂に入った。ここは町自体がまだ新しく活気に満ちたいい町ではあったがその歴史の浅さがまた粗雑さも作り上げていた。

 ゼロ達は6人だったの大きなテーブルについた。それぞれのテーブルには客が付き店は満席状態だった。殆どの客は冒険者だがそれに繋がる者達もいた。

 そこにまた新たに4人のグループが入って来た。男が3人と女が一人だ。ゼロがそのグループを見た時、ある種の記憶が蘇って来た。

 黒目黒髪、まさに東洋人の典型、それに彼らの顔つきからするとほぼ日本人だと思った。

『俺以外にもこの世界に日本人がいるのか』

 そしてその4人はみな若かった恐らく16・7の高校生と言った所だろう。しかし彼らの有する魔力量は突きん出ていた。

 少なくともBランク上位には匹敵する。訓練次第では更にその上を目指せるだろう。ほー面白いとゼロは思った。一番魔力量が多いのはあの女か、次に背の高い男、そしてガタイのいい男に細身の男、そんな所か。

 彼ら勇者がこの町の暁のダンジョンに来たのは特訓の一環だった。マトリスト公爵家の正規騎士団の隊長クラスにより散々鍛えられ今回はその延長としてこのダンジョンを踏破して来いと言われていた。

 今の訓練はそれまでの訓練とは比べ物もないほど厳しく、日々の行動も厳重に管理され殆ど自由が許されなかった。

 その事で黒田や金森達はかなり頭に来て不満が溜まっていた。元々努力などと言うものには縁遠い二人だ。楽をして好きな事をしたい。その程度の意識しか持っていなかった。

 だから今回マトリスト公爵領を離れてこの地に来た時に今までの溜まりに溜まった鬱憤を晴らすつもりでいた。それにここには気を使わないといけない4人もいない。やりたい事が出来ると考え、そしてもう既に何件かは実行していた。

 彼らがこの店に入って来た途端に周りが騒めいた。口々に何か小声で話している。正直いい反応ではなった。あいつらは嫌われてるのかとゼロは思った。

 すると店の中央にやって来たガタイのいい男が中央のテーブルについていたグループに「邪魔だ、出て行け」と言った。

 ゼロはテーブルの者達が何か言い返すのかと思った。歳も冒険者としてのキャリアも4人のガキどもよりは上だう。しかし彼らは何も言い返さずすごすごと席を譲って出て行こうとした。

 流石にグレノフが頭にきたようで立ち上がってその男に言った。

「おい、それはちょっと横暴じゃないのか。みんな正規に店に入って席についてるんだ。後から来て席を立てはないだろう」

 グレノフは結構正義感の強い男だ。こう言う事は許せないのだろう。

「何だお前、死にたいのか。死にたくなかったら黙ってろ。三下が」
「何だと。言って良い事と悪い事があるだろう。謝れ」
「おい、謝れだとよこの俺に。お前誰にもの言ってるのかわかってるのか。俺達は勇者だぞ」

「やめなさいよ黒崎君。謝るのは君の方じゃないの」
「おめーは、いつもいつもうるせーんだよ。俺達は特別なんだよ。この世界の為に働いてるんだ。多少優遇されたって文句はねーだろうがよ」
「やり過ぎなのよ君はいつも」

『ほーあれが勇者様御一行と言う事か。アンデット・ドラゴンの言った通りだったな。ガタイのいいのが黒崎と言うのか、まんまの日本人の悪ガキだな。それとこの4人あんまり仲が良くない様だ。まぁ無理ないか。あんな馬鹿がいたんじゃな』

 そこにゼロが割って入って「悪いな余計な口出ししてしまって。向こうのテーブルで良かったら使ってくれ。俺達は出て行く所だったんだ」
「ゼロさん、何言ってるんですか。俺達だってまだ・・・」
「いいから、いいから。行くぞ、みんな」

 そう言ってゼロは全員の背を押して店から出て行った。その出口の所でその中の紅一点の女が、
「すみません、気を使っていただいて」と言った。
「いいって。だがあんたも苦労するな、あれじゃよ」
 店を出たゼロの後姿にその女は頭を下げていた。

「ゼロさん、どうしてですか。何故何も言わなかったんです」
「なぁーマーカス、もしこいつがあのガタイのいい男とやったらどうなると思う」
「そうだな、瞬殺だろうな」

「な、何が瞬殺なんですか」
「お前は殺されてたと言ってるんだよ」
「ま、まさか」
「あいつの力はざっとBランク中位と言った所だ」
「まぁ、そんな所だろうな」
「本当なんですか」
「ああ、あれでも勇者だからな」

『面白い、少しは遊べるかな』