第二部「地上最強の傭兵が異世界を行く-2-09-45」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「アンデット・ドラゴン」

 今日のギリゲンの朝、もしかするとこれが目にする最後の朝日かも知れないと思った人も多くいただろう。目の前に迫る恐怖、東から死の足音が近づいて来ていた。

 しかもその死神の数が12000にも達しようとしていた。滅多に起こらないと言われるスタンピードが今このギリガンの町の目の前で展開されていた。

 町を守る要壁の上に立つゼロとマーカス、
「なるほどこうして見ると壮大なものだな」
「ゼロ、感心してる場合じゃないだろう。どう見てもあれはまずいぞ」
 するとよっこらしょっとゼロが大きな袋を二つストーレッジから取り出した。

「ゼロ、何だそれは」
「これか、お前見覚えないか」
 とその中の一つを取り出した。

「それって、お前があの獣人の実験場で使った手榴弾とか言う奴か」
「そうだ、今回は特別製のを40個作って来た。こっちの20個はお前の分だ」
「こんな物をどうするんだ」
「当然これであのスタンピードを粉砕する」
「いや、たった40個で12000は無理だろう」
 そう言ってマーカスは1個の手榴弾を手に持って宙にかざして見た。

「これは特別製でな、爆発と同時に物凄い燃焼を起こす焼夷手榴弾だ。だが通常の焼夷手榴弾とは規模が違う。俺の気を一杯詰めておいたからな」
「しかしそれでもこれだけであのスタンピードを殲滅する事は無理だろう」
「そうだ、これは分断用だ」
「分断用?」

「これで前の部分と本体とを分断して動きを一時的に止める。前の部分はそのままここに突入させる。それはここにいる冒険者達の分だ。こいつらの稼ぎをふいにする訳にはいかないからな」
「ははは、優しいんだな。で俺達で残った本体をやろうと言うのか」

「そうだ。それとそこに黄色い色のついたのが別に4個あるだろう。それは煙幕用だ。分断した後本体の前で煙幕弾を破裂させて視界を塞ぐ、それは町からの視界も塞ぐと言う事だ」
「俺達の正体や技を見せずに戦うと言う事か」
「そう言う事だ。出来るな」
「わかった。任せてくれ」

 そしてゼロはマーカスに手榴弾の使い方を教え、要壁から外に飛び降りて大地に立ちスタンピードに向けて走り出した。
「おい、あいつらは何だ、たった二人で何をしてるんだ。馬鹿が死にに行く気か」

 要壁を背にスタンピードから町を守ろうとしている冒険者達は口々にそう言いだした。その知らせは物見櫓の上で町の中の様子を見て差配していたギルドマスターにも届いた。

『いよいよあいつら本気を出すのか。見せてもらおうかお前らの本当の力を』
 ギルドマスターも要壁の上に移動して彼らの戦い方を見ていた。

 スタンピードの手前で止まった二人は何かを投げた。するとスタンピードの先頭部で物凄い爆発音と共に強烈な炎が舞い上がった。

 その爆発音が連続して今度は大きな炎が一つの壁を作り出した。炎の後ろは動きが一時的に止まったが前の魔物達はそのまま町に向かって突進して来た。そして今度は白煙が舞い上がりの炎の先がよく見えなくなった。

「クソ、あいつら目隠しを使いやがったな。これでは奴らの力がわからん」
 そう喚いていたのはギルドマスターだった。

 そのギルドマスターの言葉通り、煙幕の中では逆殺戮が繰り広げられていた。マーカスは力を全開し完全獣魔人と化してその力を爆発させていた。

 ゼロは妖刀黒阿修羅を持って全てを切断していた。その斬撃は半径300メートルに及ぶ。彼らの前には魔物のランクも何も関係なかった。あるのはただの殲滅対象物だけだった。

 後部の中心に一際大きいアンデット・ドラゴンがいた。ゼロはこいつがスタンピードの原因だと見抜いていた。そのアンデット・ドラゴンから放出されている魔力が魔物の意識を狂わせ暴走に駆り立てていた。

 アンデット・ドラゴンには魔法が効かない。つまり魔法無効化能力を持ている。その上に瞬間再生能力を持つ不死のバケモノだ。だからこそこのバケモノはSランクの魔物と言われている。

 一旦このバケモノが暴れ出すと町どころか国すらも消滅すると言われている。もし今回のこのスタンピードの中のこのアンデット・ドラゴンがいると知ったら町の冒険者達は戦う前に死を受け入れていただろう。

 ゼロはこのアンデット・ドラゴンを見て面白い魔物だなと唇の両端を釣り上げた。どちらがバケモノなのか。アンデット・ドラゴンの前に立ちはだかったゼロはアンデット・ドラゴンを見上げた。

「お主は誰だ。人か。小さき力なき者よ。何しに来た」
「ほーあんたは人語を話すのか」
「ワレは2000年をも生きたものだ。そのような事容易いわ」
「2000年とはまた長生きだな。と言うかあんたはもう死んでるんじゃないのか」

「馬鹿な事を言うな、ワシはアンデッドじゃ、死ぬか。しかしワシを500年間眠らせた奴がおったの」
「ほーあんたを500年も眠らせるとは大したものだな」
「忌々しき勇者よ。しかしあ奴はもういまい。これからはワレの時よ」
「それは困る。もうちょっと眠っててもらおうか。それも永遠に」
「小さき者よ。言葉が過ぎよう。今ここで塵にしてくれるわ」

 そう言ってアンデット・ドラゴンは死の息吹たるブレスを放った。それは大地を無に帰すとまで言われたブレスだ。ブレスの後には何も残ってはいなかった。スタンピードの魔物達さえも。ただしゼロを除いて。

「何故じゃ、何故お主は生きておる」
「生憎とそれは俺には効かないんでな」
「馬鹿な、ワシのブレスから無事でおられる者などおるはずがない」
「ここにいるだろう。ではこっちから行くぞ」

 ゼロは地を蹴って左に飛び更に右横に飛んでアンデット・ドラゴンの左に出てそこから宙で踏み込み強烈な右廻し蹴りをアンデット・ドラゴンの左頬に炸裂させた。

 アンデット・ドラゴンの顔は吹き飛び殆ど顔の原型を留めてはいなかった。しかし急速な再生能力によって復元されてしまった。

「やっぱり普通の蹴りでは効かないか」
「お主は一体何者だ。今の勇者か」
「俺は勇者じゃない。勇者ならもう4人、この世界に現れてるぞ」
「何、4人もじゃと」

 アンデット・ドラゴンは顔を上げとまるで空気の匂いを嗅ぐように魔力の意識を広げた。

「なるほどの、確かに4人の魔力は感じるがあれではワシの足元にも及ばんぞ。前の勇者とは比べ物にもならんわ」
「やっぱりそうか、あいつら修行をサボりやがったな」
「それよりお主だ。お主からは何の魔力も感じぬ。なのに何故そんなに強い」
「俺は元々魔力を持ってないんだよ」
「何じゃと、この世で魔力を持たぬ者などおるのか」
「俺がそうだ」

「ふふふ、わははは。これは面白い。お主飛んでもない事をしたの。例えワシから逃れる事が出来てもあやつに狙われるぞ」
「あやつとは?」
「お主のような者を許さぬものの事じゃよ」
「そうかい、それはご親切にどうも。それとな言わせてもらうが俺はあんたから逃げる気も逃がす気もない。倒させてもらう」
「ほざけ、若造が、死ぬがよい」

 ゼロ目掛けてアンデット・ドラゴンの尻尾が薙いで来た。この一撃は当たれば城をも崩壊させるだろう。ゼロはそれをかわして宙に飛んだ。それを狙っていたかのように、

「かかったな若造。空中では逃げ場がなかろう」

 今度はさっきよりも強力なブレスがゼロを襲った。まともに食らえばゼロと言えどもただでは済まないだろう。ところがそのブレスの中、忽然としてゼロの姿が消えた。これはゼロの残像拳だ。

 空中にいるはずのゼロがアンデット・ドラゴンの真正面にいて片手の掌をアンデット・ドラゴンに向けていた。そこから放たれたのは最強レベルの発勁だった。その無音の衝撃波はアンデット・ドラゴンを貫き原型も残さずにスケルトンの体を崩壊させた行った。

「このワシが負けるか。この世にこれ程の者がいるとはの。お主ならばもしかするとあやつにも」

 その言葉を残してアンデット・ドラゴンは消えて行った。そしてゼロは残った魔物達を黒阿修羅で全て切り裂いた。

「マーカス元に戻れ。撤退するぞ」
「了解した」

 二人は全ての魔物を殲滅し町の正面でまだ戦っている冒険者達の加勢に向かった。その時ゼロは大きめの手榴弾を数個この戦場に巻き散らした。

 それはまるで燃えるタールが野原に広がるように全てを焼き尽くすまで炎が収まる事はなかった。そして魔物の骨さえも灰にしてしまった。後に残ったのは焼け野原だけだった。

 町に向かった魔物の数は凡そ500。たった20人のBランク以上の冒険者でこの数は流石にきついだろう。一人で25匹は倒さなければならない勘定になる。

 ただ幸いな事に一人Aランクの魔法使いがいた。その彼女が殲滅魔法を使ったおかげでその数は半分ほどに減った。これなら何とかなりそうだ。しかしその殲滅魔法を使った魔法使いは魔力が枯渇してしまい戦線を離脱しなければならなかった。

 色々あったが要は町がスタンピードから救われたと言う事だ。しかし今回のスタンピードは謎だらけだった。

 普通スタンピードになるにはそれなりの兆候と言うものがある。少しずつ魔物の数が増える。もしくは出てくるはずのない所に強力な魔物が現れるとか。しかし今回は全く何の兆候もなくスタンピードが始まった。これもおかしい。

 スタンピードには何か軸になる大きな魔物が存在するのだが今回はその詳細が全くわからなかった。

 何故なら町を襲った500余りの魔物以外の存在が全て消えてしまっていたからだ。一体何が起こったのか誰にもわからなかった。まるで大規模のスタンピードなどなかったかのように。

 焼け野原を調査に行ったギルドの職員達も何の痕跡も発見する事は出来なかった。ただただ黒焦げになった大地があるだけだった。

 町の前で戦った冒険者達も自分の命を守るのが精一杯で周りで何が起きたのかなど気にかける余裕すらなかった。

 そして結果として小規模なスタンピードがあったとだけギルドマスターは冒険者ギルドの本部に報告を上げた。そしてギルドマスターの部屋にはまたゼロとマーカスが呼ばれていた。

「やってくれたな、お前ら」
「何の事を言ってるのかよくかわからんが、俺達はちゃんと魔物の撃退に協力したぞ」
「確かにやってくれたよ。俺達の町の前ではな。ではあの爆発と白煙は何だったんだ」
「さー何の事だか。しかし町は無事だったんだ。それでいいじゃないか」

「確かに町は無事だった。それが何よりだ。それには感謝する」
「では俺達はこれで。ただし約束は約束だ。守ってもらうぞ」
「そうだな、お前達を敵に回せば今度こそ本当に町が消滅しそうだかなら。わかった。約束は守ろう」
 これで話はついたとゼロ達はギルドマスターの部屋を出た。

『奴らの正体は一体何なんだ。勇者か、英雄か、悪魔か、それともバケモノか』