第一部第一章「地上最強の傭兵が異世界を行く-36」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「ミレの過去」

 12階層での戦いの後ゼロとミレと4人の冒険者達は一旦冒険者ギルドに戻って回収した魔石を買い取ってもらった。

 勿論ミレが倒したリッチの魔石は大きく最高の値が付いた。しかしゼロも数では負けてはいなかった。しかも2体のBランクの魔物と合わせてミレと同じくらいの金額になった。4人の冒険者達はそれなりにと言う所だった。

 ただギルドの職員が言うには12階層でリッチが出るのはおかしいと言う事だった。B ランクの魔物はたまに出る時があるがそれも稀だと。

 4人が遭遇したのがその時に当たる。それ以外では滅多になかったと言う事だ。ましてリッチなど40階層でも出て来るかどうかと言う話だ。

 もしかするとダンジョンの中で何かが起こっているのかも知れない。職員は冒険者に警告を出しておくと言った。

 その後ゼロは4人の冒険者達とは別れたがもう一件面倒な話があった。あの時会った準聖女のマロエールがミレの事で大事な話があるので是非とも教会に寄って欲しいとの事だった。

 ゼロとしては厄介な話は避けたかったがミレの事と言われれば断る訳にも行かず行く事にした。

 その教会は正門のある地区の内側の地区にあった。正門のある地区がC地区で教会のある所はB1地区だそうだ。

 A地区の一つ手前と言う事はそれなりに大事な地区なんだろう。しかもそこのシスターは準聖女様とまで呼ばれる。その教会はかなりの地位なんだろうと思われた。

 ゼロとミレが教会に着くと教会のシスターによってマロエールの所に案内された。

「ようこそおいでくださいました。お待ちしておりましたゼロ様、ミレさん」
「俺達は招待される程大した者じゃないんだが」
「いいえ、私に取っては大事な方々です。ところでミレさん、これを見てはいただけませんか」

そう言ってマロエールは懐から小さい長方形の薄いお守りの様な物を取り出した。

「ミレさん、これれに見覚えはありませんか」
「えっ、それって・・・私の持ってる物によく似てる」

 紫の表面に灰色の縁取りがあり中央に何の紋章の様な物が描かれていた。ミレは森で意識を取り戻した時、何も持っていなかったがこのお札の様な物だけは体に付けていた。それが何なのかはわからないまま。

「良かったらミレさんのも見せてもらえませんか」
「これかな、これって何ですか」
「中央に紋章が付いてるでしょう。そこを中指と親指で挟んで魔力を流してみてください」

 ミレが言われた通りにするとその板が二つに開いた。中には「ガレンド/シレーヌ」と書いてありその下の中央にミレウと書いてあった。マロエールの方には同じく「ガレンド/シレーヌ」と書いてありその下もミレウと書いてあった。

「ミレさん、いえミレウさん。この「ガレンド/シレーヌ」と言うのは貴方のお父様とお母様の名前なんです。そして貴方が娘のミレウさん。こちらは貴方のお母様が持っていたものです。勿論それは私ではありません」
「何で、何で私がその人達の子供なの」
「そうですね、少し長い話になりますが聞いてくれますか」

 マロエールの話によればミレはハイルレーン伯爵家の長女として生まれ、その家系は代々女系に神託を受ける巫女の能力が受け継がれていたと言う。

 母親がそうだった。そしてミレにもその能力が芽生え出していた。そう言う家系だった。だからこのハイルレーン伯爵家では代々養子を取り女系の系列を保って来た。

 そう言う家系なので母親は教会に毎日の様に顔を出し、ミレもいつも教会で預かってる子供達と遊んでいたと言う。ところがある日その教会の子供達が誘拐されその中にミレもいた。

 父親や衛兵達が後を追ったが誘拐犯達は転送魔法の魔法俱を持っていたようでこの国からミレらと共に消えてしまった。両親は四方八方に手を尽くして探し回ったがその行方は杳として知れなかった。

 この話を聞いてゼロは後日の事を想像してみた。恐らく誘拐犯達はミレ達をヘッケン王国に連れて行きそこの闇業者に手渡すつもりだったのだろう。

 ところが隙を見てミレがその誘拐犯達から逃げ出した。そしてそれはカルビアの森の近くだった。

 ミレは恐らく必死で逃げたて助けを呼ぼうとしたんだろう。しかし所詮は幼女の足だ。近くに人の住む所もなく捕まるのは目に見えていた。

 それなら身を隠せる森にと逃げ込んみ、森の中を駆け巡っているうちに何かの事故に合い意識を失った。もしかすると谷か何処かに落ちたのかも知れない。

 そしてその時に記憶をなくした。そして意識を取り戻したミレは生きる為に森でのサバイバル生活を始めそしてゼロと出会った。そんな所ではないかと思った。

 ともかくハイルレーン伯爵家はその後も諦める事なくミレの捜索を続けたがどうしても見つからずそこに悲劇が襲った。

 1年前、神の神託を受ける家系を邪魔だと思っていた悪魔はその系統を抹殺するべくミレの父と母は殺されてしまった。その時の実行犯が悪魔と合体した悪魔人だとされていた。

 もしかしたらその時のイメージをミレの母親がミレの意識に飛ばしたのかも知れない。だからミレが魔人を憎んだ可能性がある。そもかくその後継者を失ったハイルレーン伯爵家は没落となった。

 これが現在までの経緯だ。そしてこのマロエールはミレの母親の妹、つまりミレの叔母に当たると言う。マロエールの持つお守りはミレの母親が息を引き取る時に最後の力を振り絞って魔法でマロエールに託したものだった。

 マロエールがダンジョンでミレを見た時あまりにも幼い頃の面影にそっくりだったので驚きもしやと思いここに来てもらったらしい。そしてそれは当たっていた。

 普通貴族と言うのは相続人がいないとその家は取り潰しになるが、神託を受け継ぐハイルレーン伯爵家だけは特別で継承出来る人間が現れれば当主死亡後少し時間が経っても再興出来るのだそうだ。

 だからミレの帰還を期待して屋敷もまだ残っているらしい。そしてその屋敷を維持する為にミレを知る当時の使用人達もまだ一部残っているらしい。だからマロエールは両親を弔い是非ハイルレーン伯爵家に戻って家系を継いで欲しいと言った。

 ただマロエールも今のミレが冒険者として確固たる地位を築いている事はわかっていた。Aランク冒険者など本当に数えるくらいしかいないのだから。

 ましてミレはそのレベルすら凌駕するとマロエールは見ていた。そしてこのゼロと言う男も。後はミレがどう考えどうするかだ。

「でも僕そんな事を言われてもわからないよ。だって僕には何の記憶もないんだから。それに僕を今まで育ててくれたのはゼロだから僕のお父さんはゼロだよ」
「分かるわミレちゃん。それを承知でお願いしたいの。いえ、考えてはもらえないかしら」

 正直ミレはいきなりこんな話をされて混乱していた。自分には両親がいて小さい時に誘拐されたなんて話をどう信用しろと言うのか。ミレにはその記憶がなくミレの人生は森から始まったのだから。

「ミレ、急ぐ事はない。ゆっくり考えれば良い。そうだな少し自分の記憶を探ってみるのもいいかも知れないな。どうだお前が住んでいたと言う家に行ってみるか。何か思い出すかも知れん」

 ゼロは最近ミレがよく教会に行き教会の子供達と遊んでいるのはもしかすると当時の記憶の一部が戻ってきているのではないかと思った。

 まだ時間はある。そこでマロエールがゼロと一緒にミレをハイルレーン伯爵家に連れて行った。それは大きな屋敷だった。流石は伯爵家と言う所か。当主のいなくなった家なら少しはさびれているかと思ったが家は綺麗に維持されていた。

 マロエールが引率して家のドアを叩くと中からどちら様でしょうかと返事があった。マロエールだと答えるとドアが開けられた。

 そこは玄関先のホールだったが天井には豪華なシャンデリアが飾られ床の中央には二階の階段の所まで豪華な絨毯が敷かれてあった。

 応対に出たのは年の頃50代半ばの執事のクロールだった。彼は先代からこの家で働いていると言う事だった。

 その彼がミレを見て目に一杯涙をためてミレの前で跪き、よくぞお戻りになられましたと言った。共に出て来たメイドの二人モレーネとユーリも同じように泣いていた。この3人はミレが小さい頃世話した者達だった。ミレは記憶をなくしてるんだとマロエールが教えた。

 そしてマロエールは3人にミレが誘拐された後どんな人生を送って来たかを語ったら更に涙を誘った。

 歳羽もいかない幼女がたった一人で森で生き抜く難しさと厳しさなど想像しただけで胸が張り裂けそうになった。そしてそれを救ったのがゼロだと聞いていくら感謝しても感謝したらない気持ちだった。

 執事達はそのミレが今ではAランク冒険者だと聞いて驚いた。冒険者のトップクラス、あの小さかったミレがだ。今でもまだ子供には違いないがそれにしてもこの驚異的な成長には驚かされるばかりだった。

 ミレは家の中を見て回り両親の部屋に行った。そこにはミレの写真や両親と一緒の写真が飾ってあった。勿論この世界に写真などと言うものはない。

 これは魔法を使った念写の一種だ。そこでミレは初めて自分の両親の顔を見た。そこには優しそうな母の顔があった。父もまた優しく清爽な感じの人だった。そして自分の部屋には数々のぬいぐるみが置かれていた。

 ミレは、そうかこれが僕の前の世界だったんだと思った。残念ながら感慨はない。しかし心に中に何かほわっとした感じがあった。

 これは何だろうとミレは思った。執事とメイドはミレが今冒険者として生活してると知ったが是非この家にお戻りくださいと嘆願していた。

「ゼロ、僕はどうしたらいい」
「そうだな、これはお前の人生だ。お前が決めればいい。ただ今直ぐここで結論を出す必要はないだろう。俺はまだしばらくこの町にいる。俺と一緒にいるもよし、またしばらくこの家で過ごしてみるのもいいだろう。お前はこれまでずーっと俺との二人だけの生活して来た。だからお前はこの世界の知識や常識と言うものをあまり知らない。俺はお前に読み書きや計算とサバイバル・スキルは教えたがそれ以外の事はあまり教えてやる事は出来なかった。だからそう言う物を身に着け今までお前に欠けていたものを得るにはいい機会かも知れんな」
「ねぇゼロ、ゼロは僕をおいて黙ってどっかに行ってしまわないよね」
「それは大丈夫だ。俺がもしお前と別れる時があったとしても納得して別れたいからな」
「わかった。それならいい」

 ミレは一つの妥協案を出した。しばらくゼロと一緒にこの家に住みたいと言うものだった。ここでどの程度ミレの記憶を取り戻せるか、そしてミレの母がいつも行っていたと言うマロエールのいる教会にも通ってみたいと言った。

最初の妥協案としてはまぁこんなものだろうとマロエールも執事のクロールも納得した。