第一部第一章「地上最強の傭兵が異世界を行く-35」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「聖教徒法国」

 大武術大会終了の翌日、ミレは完全に普通の状態に戻っていた。ソリエンから来た仲間達とその夜は懇親を深めたのち再会を期して別れた。そしてセロ達は次の目的地である聖教徒法国に向かった。

 聖教徒法国と言うのはクリアナ神を崇めそれを国教とする国だ。教皇がいて国王もいるが国の実権を握ってるのは教皇だ。だから国全体が教会を中心に動いている国だと言っても過言ではない。

 教会の力は強く独自で聖騎士団なるものを持っている。これは邪悪を退治する神聖なる騎士団だそうでその実力は王都の騎士団を遥かに凌駕すると言われている。

 そして各地の教会にも護神教会騎士団なるものがある。つまり本部の聖騎士団の下部組織だ。彼らはアンデットや邪悪な魔物や悪魔に対する兵力として働いている。

 ただ悪魔は強力なので悪魔担当は本部の聖騎士団になる。そしてその対象の中には魔人も含まれると言う。

 聖教徒法国の正門と言うのは西門になる。そこでゼロ達は正規の手続きを終えて町に入った。この国は領主や町が散らばっていると言うのではなく、一つの大きな町が国になっていた。中心に本部教会があり支部教会が町中に散らばっている。

 国王や貴族もいる事はいるがそれは形式に過ぎずこの国は教会を軸に動いている。正門近くはやはり人の出入りが多いのと色々な商取引も行われるのでこの国第二の大きさを持つ地区となっていた。

 勿論この国にも冒険者ギルドはある。しかし他の国とは少し違う。ゼロ達は早速この地区の冒険者ギルドに寄ってみた。

 そしてそこで冒険者カードの登録をし依頼の掲示板を見てみるとやけに依頼が少ない。まるで医療の町クレミノールの様だった。

 ゼロがその辺りの様子を聞いてみると、ここでは教会の騎士団が多くの魔物の退治やアンデットの退治をすると言う。

 この国では魔物は悪魔の一部と解釈されているようだ。勿論冒険者でも魔物退治は出来るが騎士団との力の差が圧倒的で冒険者では相手にならないと言う事だった。だからこの町では冒険者ギルドは有名無実の様な存在らしい。

「それは困ったな。ではここでは魔物討伐で生計は立てられないと言う事なのかな」
「そうですね、森などに現れる魔物に関しては難しいかも知れませんが、幸いこの国にはダンジョンがありますので冒険者の皆さんはみなダンジョンに潜っておられるようです」
「そうかダンジョンがあるのか。それならまだ何とかなりそうだな」
「ええ、ですからダンジョンに潜られる事をお勧めします。そこで得たものはこちらで買い取らせていただきますので」
「わかった、ありがとう」

 なるほどそれならここの冒険者達の生活も何とかなりそうだ。そして自分達もと思った。勿論ゼロ達には今まで稼いだ十分な貯えがある。しかしそれはそれだ。

 日々の生活はやはり日々の生活の中で何とかしたいと考えていた。それが冒険者として冒険して行くと言う事だ。ゼロはこの世界に来て冒険する事と世界の町々を旅する事を楽しんでいた。

 先に宿の予約を入れておいて冒険者ギルドが推薦してくれたダンジョンに向かった。ここのダンジョンは初級から中級、上級とオールアラウンドのようだ。

 低層部では新人の冒険者でも何とかこなせるが10階層以下では中級冒以上でないと難しいらしい。つまりそれだけ強い魔物が出てくると言う事だ。

 教会の面々がここをあまり敵視しないのはここは限られた空間で魔物達がこのダンジョンから外に出て人々に害を与えないと言う事が前提になっている。

 しかしここは教会の騎士団のメンバーに取っても魔物相手に戦う訓練をするには良い場所なので教会の騎士団も適宜潜っているようだ。

 幸いダンジョン内でならばいくら魔物を狩っても狩り尽くすと言う事はないので冒険者達も安心して潜れると言う事になる。

 ただ魔物を倒すとダンジョン内では自動消滅するので魔物の体売ると言う事は出来ない。だから冒険者達は魔物のコアと言われる魔石を集めてそれを冒険者ギルドで売る。

 それと各フロアーの最終段階にいるラスボスと言われる魔物を倒すと何かしらのアイテムがドロップされる。中には金銀宝石と言う事もあるのでそれを目当てにと言う冒険者もいるが流石にラスボスは強い。「取らぬ狸の皮算用」自分が先に死んでしまっては元も子もないのだが。

 ともかくゼロ達もそのダンジョンに潜ってみた。ギルドの受付は閑散としていたがこのダンジョンの低階層ではかなり多くの冒険者達がいた。恐らくはEランクやDランクが多いのだろう。

 そんな様子を横目にこの辺りでは敢えて魔物狩りはせずにゼロ達は10階層に辿り着いた。すると、

「おっさん、子供連れでこれ以上は進まない方がいいぞ。ここいらはDランクでもそろそろきつくなる辺りだからな」
「そうかい、それはご親切にどうも。でもそのおっさんはないだろう。俺はまだ若いんだ」
「けどあんた、その子の親だろう」

 そう言って来たのは若い4人組の冒険者達だった。声を掛けたのがきっとこのパーティのリーダーだろう。

「あんたらは何処まで行くんだ」
「俺達は今15階層を目指してるんだ。この前は12階層まで行ったんだ」
「それは大したもんだ。と言う事はCランクパーティと言う事か」
「ああ、俺とこいつがCランクでよ、残り二人はDランクだ」
「なるほどな、じゃー健闘を祈るよ」
「おい、おっさん、行くなって。危ないって言ってるだろうが」

 そんな話をしている時に岩猿がいきなり襲って来た。きっと岩陰にでも隠れていたんだろう。彼らにはわからなかったようだ。そのリーダーが振り返った時には岩猿の牙が目の前まで迫っていた。

「座って」

 そう言ってミレがそのリーダーを座らせた時にはミレの宙を飛んだ回転廻し蹴りが岩猿の頭を粉砕していた。

「えっ、えっ、ええっー!」

 リーダーが驚きの声を上げた時にはミレは既に岩猿の魔石を回収していた。

「そうだな、危ないから気を付けた方がいいよな」とゼロが言った。

 リーダーの名前はコレルと言い、もう一人がCランクのワレス、そしてDランクのコマレユとワーシャだった。

 彼らもまた同じ村の幼馴染だと言った。この国に村などと言うものがあるのかとゼロが聞いたら、村と言う名前にはなってないが事実として周辺地区にそんな村落は幾らも点在すると言っていた。そしてそれらは地区番号で呼ばれるんだとか。

 彼らの村はE24番地区らしい。A地区になるほど中心になり大きな規模になると言った。Eともなるとかなりの辺境地区で人口も少ない。だから村にいては食えないので都心に出て稼いでいるんだと言った。

『なるほど、内情は何処とも同じと言う訳か』

「それにしてもこの子凄いな。あの岩猿を一撃だなんて」
「こいつはミレと言うんだ。Aランクだからな」
「え、えっ。Aランクってまさかこの子が」
「うそだろう」

「そうよね、そんな。こんな小さな子がAランクだなんて」
「嘘だよな」
「嘘じゃない。正真正銘のAランクだ」
「じゃーおっさんは」
「おっさんじゃない。ゼロさんと言え。俺はCランクだ」

「じゃー何、俺と同じ。それじゃー娘に食わしてもらってるの」
「おいおい。それはないだろう。まぁ外れてもないがな」
「それって何かやばくない」
「うるさい。先に進むぞ」
「進むぞ」
「あっ、はい」

 それから雑魚を倒しながら進んで行いると12階層に辿り着いた。

「ここがお前達が前に辿り着いたと言う所か」
「ああ、そうだよ。でもこの前は俺達はここまでだった」
「どうしてだ」
「強い魔物が出たんだ」
「強い魔物」

「ああ、ここはアンデットの階層でたまに出るんだよ強い奴が」
「所で向こうにいるキンキラしたものを着てる奴らは何者だ」
「ああ、あれはここの教会の護神教会騎士団の連中だな」
「護神教会騎士団?それがこんなとこで何をしてるんだ」
「訓練だよ見習い騎士の。特にここはアンデットが多いから丁度いいんだって」
「なるほどアンデット討伐の訓練か」

 白地に青い刺繍の多くは言った上着に同じく白いズボン、腰に片手剣をさした数人の男女がいた。みんな頭には揃いの縦に長い丸に帽子のような物をかぶっていた。

 恐らくそれが教会のシンボルなんだろう。それに服には魔除けの護符寄与がされている様だった。つまり今回は剣技と魔法の訓練と言う訳か。ゼロとミレは面白そうなのでその訓練を見る事にした。

 コレル達もこの状況を無視して次の未開の階層に突入するのは危ぶまれたので少しここで様子を見る事にした。ただ彼らの邪魔にならない様に離れた所に陣取っていた。

 流石はレベルが高いと言われる教会の騎士団だ。良い連携でアンデット達を倒してた。とても見習いとは思えないいい動きだ。

 そこに一人修道服を着た女性がいた。彼女は倒れたアンデットを成仏させ傷ついた騎士達に回復魔法を掛けていた。

「なーコレル、あの女性は何者だ」
「ああ、あれは準聖女のマロエール様だね」
「準聖女」

「ああ、教会本部には聖女のジョセーフィーヌ様がいらっしゃるが、マロエール様はジョセーフィーヌ様に次ぐ聖女様だ。物凄い回復魔法をお使いになるそうだよ」
「なるほどな」

 確かに彼女の回復魔法は素晴らしいものだった。多少の傷も一瞬にして治してしまう。これなら騎士達も安心して闘えるだろう。

 騎士達も優勢の内に討伐を進めていた。しかしそのアンデット達の後ろから現れた3体の魔物の出現によって状況は一変した。

 その3体と言うのは2体のアンデット・ソルジャーと全てのアンデットをまとめ指揮するリッチだった。

 アンデット・ソルジャーはBランクの魔物だ。更にリッチは上位のAランク。如何に優秀とはいえ、とてもここにいる見習い騎士程度に相手の出来る魔物ではなかった。

「ゼロさん、ミレさん、あれはまずいですよ。俺達がこの前勝てなかったのがあのアンデット・ソルジャーなんです。一体でも命辛々に逃げたんですから。それなのにその上のリッチだなんて俺達まで絶体絶命じゃないですか」
「かも知れんな」
「かも知れんって、そんな呑気な事言ってる時ですか。早く逃げましょうよ」
「あの者達を置いてか」
「だってどうしようもないじゃないですか」

 そう言うコレル達をおいてゼロとミレは騎士達の方に歩んで行った。

「こう言うとこで横槍を入れるのはマナーに反すると思うんだが、ちょっと荷が重くはないか。何なら手伝おうか」
「貴方達は?」
「俺達はただの冒険者だ」
「親子の冒険者ですか。でも貴方達こそ重荷では?」
「俺達なら大丈夫だ。それにあんただって一人なら何とでも出来るだろうが、怪我人を守りながらではそうもいかんだろう」
「確かにそうですね。ではお手伝い願いますか」
「了解だ」

 そう言うとゼロとミレは正面に出てアンデット達と対峙した。

「ミレ、お前はあのリッチをやれ。前に俺の戦い方を見せたな」
「うん、大丈夫。今なら倒せる」
「そうか、なら任せた。俺はこっちの雑魚をやる」

 マロエールはこの男を信じてもいいと思っていた。アンデットと私との彼我の差を一瞬にして見抜いた。

 そしてこの親子二人の戦いは凄まじかった。リッチと対等以上に渡り合う少女。そして親はアンデットをいとも簡単に解体していた。

 普通は叩き潰しても並みの攻撃ならアンデットは復活する。だからDランクの魔物でも数が集まれば脅威となる。しかしこの男にはそれが全く通用しない。片っ端から叩き潰しているがそれっきりだ。アンデットは復活しない。完全に解体されていた。

 それは恐らく魔力の差だろう。強い魔力の前では復活も無効化されてしまう。そしてその男はまるで無人の荒野を行くが如く一切の力みも滞りもなく最低限の動きで全てのアンデットを倒していた。

 もはや達人の域さえ超えている様に思えた。しかもあの2体のアンデット・ソルジャーですら路傍の石を拾ってポイと捨てる様に2体を潰した。

 娘の方もまた凄い。あのリッチの魔法を全て弾き返していた。そして自らの拳で作った風の螺旋魔法でリッチを吹き飛ばした。しかしそこはリッチだ。一応は復活して来た。

「よくも小娘、ワレの体を傷つけるとは。許さぬ、許さぬぞ」
「リッチってしゃべるんだ」
「ぬかせ、数百年を生きたワレを倒すことなど叶わぬわ」
「それじゃー行くよ、リッチ」

 ミレの放った烈風螺旋拳はリッチの体を粉々にした。もはや復活も出来ないだろう。それを見ていた気騎士見習い達も4人の冒険者達も唖然として動けずにいた。二人の戦い方はあまりにも桁外れだった。みんなは彼らこそバケモノだと思った。

「ありがとうございました。貴方方のお陰でみんな助かりました。お礼申し上げます」
「いや、それほどでも。これ位の事はその気になればあなたでも出来るでしょう」
「貴方は冗談のお上手な方ですね。もし良ければお名前を聞かせてはいただけませんか」
「俺はゼロで、こいつはミレです」
「この可愛いお嬢さんはミレさんと仰るんですか。もし良ければ近くで顔を見せてはいただけませんか」

 ミレは何気なくそのシスターに近づいてお互いの顔を見合った。するとシスターの目が大きく見開かれた。

「あなたはもしや!」