ワゴンに積まれた靴下は、無地、チェック、ストライプ、ドットの4種類。そして、それぞれにカラーバリエーション。
組み合わせが重要と思った。
組み合わせを間違えてはいけない。
これが、合図でメッセージになるのだ。
きちんと正しい組み合わせを選択できた者だけが、助かるに違いない。そして、安心で安全な場所へと。

私には、わかった。
同じ物を選んではいけない。
すべて違う柄、異なる色を選ぶ。
それが合図で、ルールだ。

私はソックスを手に取りレジへ向かった。
高鳴る胸を必死に抑えながら、店員の顔を見つめた。
その時。

もし、これがワナだったら?

恐怖で張り裂けそうになった。

やっぱり、けっこうです。

店員にそう言うと、私はきびすを返し、店を飛び出した。
マンションから路上に飛び出た。途端に眩しい日差しが、私を照りつける。
セミの鳴き声が聴こえる。
恐怖に包まれながら、少しだけ安堵した。

間に合った……。

後ろを振り向かずに、歩き続けた。
できるだけ人が多い場所へ。
何故か街中のほうが安全な気がした。

表参道を歩き、原宿へ。
夏休みの原宿は、たくさんの人で賑わっている。
すれ違う人たちは、みんな愉しそうに歩いている。
私だけがおそらく表情を固くして、でも平静と無意識を装って歩いている。
暑い。歩き続けて汗が出る。
交差点のところで、私は足を止めた。
目の前には、大きなビルがそびえ建っている。
洒落たカジュアルブランドの大型路面店。
白いビルの壁面は、大きなガラス窓と、外人モデルのファッションフォトがディスプレイされている。
私は誘われるように、中に入った。

エアコンがきいた店内に入り、少しホッとする。
広いフロアを見回す。
この店に入ったことに、きっと意味がある。
答えを探そうと店内をウロウロした。最後に目についたのは、ワゴンに積まれたソックスだった。

3足で1000円。組み合わせは自由。

これだ。
蒼白く光る満月が、夜空に輝く。
星の煌めきが伝える、遠くからのメッセージ。
もうすぐ会える……

私は部屋でひとり、ずっとパソコンの画面を見続けていた。
クリック。
クリック。
クリック。

時の流れが止まるネットサーフィンの時間。
その時、突然に世界が歪んだ、変化した。
今まで見つめていた同じ画面が、違う意味をもって私に語りかけてきた。

アナタハ、ジブンノコドモノタメニ、ジブンノイノチヲ、ギセイニデキマスカ?

私には子供はいない。
まだ結婚もしていない独身だ。
恋人はいても結婚の予定もないし、する気も全くない。
でも、私はクリックした。
YES。
息を呑み、心臓が停まりそうなくらいドキドキしている。

すると、パソコンが突然、フリーズした。
何度クリックしても、もう画面は静止したままページは変わらない。
そして突然、声が聴こえた。

逃げて!

ダークスーツ姿の男たちが、マンションの非常階段をかけ上ってくる姿が、脳裏に浮かんだ。

逃げて!早く、逃げて!

私は慌てて、机の引き出しを開けて、中に入っていた万札をありったけ掴んで、バッグに押し込んだ。
パスポートは見当たらない。でも、時間がない。
私はバッグだけを掴み、慌てて靴を履いて、鍵もかけずに部屋を飛び出した。