(写真は今年行われた小田原提灯祭り)

小田原駅から20分以上離れた町はずれ、私の散歩ルートにある黒板塀の古い平屋の一角。

暗渠や、道の曲がりくねり方からしてほかにはない何かがあると常々思っていました。

ひょんなことから最近そこがかつての赤線であったことを知りました。


調べてみると、そこからそう遠くない一角には料亭が並ぶ遊郭街もあったらしい。

今、私が毎日のように歩いているごくあたりまえの街に、そんな非日常があったとは…

それも引っ越してきて3年もたってから知るなんて。




実は昔からそうした地域になぜか心惹かれます。

いろいろな地方に忘れ去られたように残り、気づく人だけ気づく独特の区画、道路や古い建物のわずかな造作。

全国同じような景色になっていくなか、そんな街を歩くひそかな喜び。





その小田原の赤線を舞台にした小説があるというので読んでみました。


川崎長太郎「抹香町 路傍」

文学に憧れて家業の魚屋を放り出して上京するが、生活できずに故郷の小田原へと逃げ帰る。生家の海岸に近い物置小屋に住みこんで私娼窟へと通う、気ままながらの男女のしがらみを一種の哀感をもって描写、徳田秋声、宇野浩二に近づきを得、日本文学の一系譜を継承する。




後日歩いたその界隈に、町名の石碑が。


読みながら、主人公が歩く街の空気や夕暮れの空、街路の木などが現地そのままにありありと浮かびました。


そしてリアルだと思ったのが、主人公が出会う女性が、地元小田原や神奈川県内の人ではなく、静岡の富士駅の出身で蜜柑畑を語るというところ。

私も実際に小田原で富士駅出身の人に知り合ったことがあるし、小田原ではもっと西の真鶴や湯河原に住みそこから働きに通ってくる人にたくさん出会います。

新幹線も東名も走っているこの時代に、川崎長太郎の時代とそう違わない地域圏が残っているのが面白いなと思います。


長太郎は、今観光名所となっている小田原郵便局近くの料理店「だるま」に毎日ちらし寿司を食べに通っていたらしい。

物置小屋に住んで「だるまに毎日」は、今じゃ無頼なんだか贅沢なんだかわからない笑

長太郎の物置小屋跡は近いうち見に行ってみようと思います。