真珠のドラゴン

真珠のドラゴン

ブログの説明を入力します。

$銅の馬の背に乗って

トラといふ現象は/直交されたでんしんばしらを繋ぎとめる/ひとつの黄色い碍子です/風景やみんなといっしょに/せまいステージを/せわしくせわしく踊り続けながら/いかにもたしかに踊りつづける/銀河交流電燈の/ひとつの輝く黄色い碍子です/

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

北海炉団長<履き違えるという行為は、実は大切なことなのかもしれません。いまだ真実には達することのできない自己を、『履き違え』と見なし、肉体と精神のあらがいを、必死にとらえようとしているんですから。でもこの『履き違え』のあらわれ『そのもの』は、あなたたちの『飯をおごる』という優しさから始まったものなんですよ。そうだ、あるお百姓が描いた詩を読んであげましょう。

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*

こんなにみんなにみまもられながら/

おまえはまだこのステージで踊り続ける/



おまえはじぶんにさだめられたみちを/

みんなで楽しく往こうとするのか/

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*




(冠羽瑠璃)


冠羽瑠璃 著

ミーハー豆腐物語
誤注文の多い料理店
○竹虎物語 Part1
○誤注文の多い料理店 春編
○誤注文の多い料理店 夏編
○誤注文の多い料理店 秋編
○誤注文の多い料理店 冬編
○竹虎物語 Part2
○トラムポン
○謹賀鉄道の夜(裏街道)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

MEMO

宮沢賢治 森佐一 宛 封書

これらはみんな到底詩ではありません。私がこれから、何とか完成したいと思って居ります、或る心理学的な仕事の支度に、正統な勉強の許されない間、境遇の許す限り、機会のあるたびごとに、いろいろな条件の 下で書き取って置く、ほんの粗硬な心象スケッチでしかありません。(自己の主体と、自己をつつむ自然や社会や人間の客体との交流や融合を、自己の言語によって、つぎつぎと、しかも印象を鮮明にして記録する方法)

宮沢賢治 「告別」 (末文)



もしもおまえが
よくきいてくれ
ひとりのやさしい娘をおもうようになるそのとき
おまえに無数の影と光りの像があらはれる
おまえはそれを音にするのだ
みんなが町で暮したり
一日あそんでゐるときに
おまえはひとりであの石原の草を刈る
そのさびしさでおまえは音をつくるのだ
多くの侮辱や窮乏の
それらを噛んで歌うのだ
もし楽器がなかったら
いゝかおまえはおれの弟子なのだ
ちからのかぎり
そらいっぱいの
光りでできたパイプオルガンを弾くがいゝ

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

誤注文の多い料理店食事

$銅の馬の背に乗って

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*

$銅の馬の背に乗って



わたしたちは、浄めの塩をほしがるくらい待たずとも、きれいに履き違えたトラといっしょに踊り、さまざまな世界を流浪することもできるのです。(しんさんは舐めることになりますが)
またわたくしは、はたけや森の中で、若々しい夢に胸を膨らませた満ちた少年少女が、宝石が散りばめられた天鵞絨を纏い、声高らかに力試しに行くと周りを揺すり歩き、結局角砂糖牛乳浸しTシャツを着て、宮沢賢治の童話集を大事に抱え、泣きながら帰ってくるのを何回もみました。
わたくしは、そういう家具屋姫のそれからのようなものがたりもすきです。
これらのわたくしのおはなしは、みんな映画館やテレビやワンマン電車やらで、静かに唸る空調の風や、切れかけの照明の光からもらってきたのです。
ほんとうに、旧天城トンネルを、ひとりで通りかかったり、潰れかけの磯よ志の敷地の中に、ふるえながら立ったりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんとうにもう、どうでもいいことなのに、どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、わたくしはそのとおり書いたまでです。ですから、これらのものがたりは、あなたのためになるようなことはないでしょう。

けれども宮沢賢治やトルストイのようにわたくしも、、、いいえ、なんでもありません。

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*
竹虎物語 Part1

   



$銅の馬の背に乗って

(家具屋姫♥)


(ヤマネコ♂)


(夜間幻燈会)







家具屋姫<1ばん、家具屋姫。がーるずえいじ♥♥♥ グーマイクんーくやしいけれどぉぉ~~、なぜかきになるのぉ~~~、あやふやな~ よかんがすりよぉ~って~~ んーそのてにふれたらぁ~ やみはぐいぐ~ すなおになれるぅぅ~~ くすぐったいきせつね~ ら~ら~らぁ~~ら~ら~~~んんんアルル

森の動物たち<わあわあ。うまいうまい。かぐやちゃん、いいぞー♪つぎはあずさだ、いけー!

仲嶋梓<うんにゃ。2ばん、なかじまあずさ!むーんらいとまじっく♪♪♪グーマイクん~むーんらいっまじっ とぅないとぅな~い わがまま~ だけのぉきみに~ ん~むーんらいっまじっ とぅないとぅな~い ぼくがおおかみになれば~ るぅなぁちっくになるでしょ~~トラ

森の動物たち<あずさはもともとトラじゃねえか。いいぞいいぞ。わっはっはっは。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

今は昔、①竹虎の梓といふ者ありけり。野山にまじりて蕎麦をすすりつつ竹はえんりょしつつ、②よろづのことに使ひけり。名をば、テヌキの山と④なむ言ひける。その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。あやしがりて寄りて見るに、竹の中光りたり。それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。梓言ふやう、「我、⑤朝ごと夕ごとに踊る竹の中におはするにて、知りぬ。立派な竹の子になり給ふべき人なめり駅トラ!」とて、手にうち入れて家(ルビヰランド)へ持ちて来ぬ。⑥友の康菜に預けて養はす。うつくしきことかぎりなし。⑦いと幼ければ籠に入れて養ふ。

①ダンシングタイガー仲嶋梓(果たして1匹の猛娘が叢の中から踊り出た、の)
②たくさんの様々なものに使った。ここでは主にハマ虎ファッションを指す。
③(その山の)名前をテヌキの山と
④といったことだ。「なむ」は係助詞で、連体形「ける」で結んでいる。
⑤(原宿歩行者天国、代々木公園に影響を受けた)『馬津お悧巧Sun通り』の中で
⑥川畑康菜<わっほ!みなさんお元気ですか?カタウデ<仲嶋は俺が育てた。
⑦竹虎説話に、家具屋姫の前身が鳥であったと述べられ、籠は鳥の巣に似ていて、それを暗示している

大意(わたしなりの-ようやく-のことです)

がっさがっさきのがっさ きのこのぼうしかぶらせて
らんららんららんたーん きのこのほうしねむらせて 

いつもこんなぐあいです。釣鐘状の形をしたフウリンソウの中にホタルたちが入り込んで、歌い手の音調に同調しながら光りを明滅させています。動物たちは今夜、その淡い光を電燈代わりに幻燈会をひらいているんですね。えっへんかっか。トラが開会の辞を述べると、ソニーのホームシアターシステムが起動し、トロロアオイのネリで貼り付けたハンゲショウの葉のスクリーンに『-Life Of Pai- トラと踊躍した365日』が流れ出しました。まーた、-Life Of Pai-かよぉ。半円形状に立派に成長したウチワダケにだらしなく腰掛けていたノウサギとキツネが、みみをぴんとたててぶうぶう不平を漏らしましたが、トラは適当にあしらって尻尾で2匹の頭をぽんっとやりました。

仲嶋梓<今日は新しいおともだちを紹介しますトラ。竹の子族の家具屋姫ちゃんだトラ。

家具屋姫<うぃ~っす!みんな、夜露死苦な!触ったら殺すぜ☆

第四次延長のなかで主張される物語ですので、昔と今と未来が符号する点のあたりに、と言うべきでしょうか。まあ、そんなところに竹虎の梓(たけとらのあずさ)という踊り好きのトラがごろついていました。テヌキの山に分け入って他人の奢り飯で蕎麦をすすりながら、がっぽがっぽした金で横浜まで出かけていき、それをハマ虎ファッションに惜しみなく費やしていました。そんなある日のことです。祭日により歩行者天国となった「馬津お悧巧Sun通り」から、竹虎の梓はかわいらしいお姫様を見つけ出しました。お姫様はHOT BLOODを中心とした奇怪ディスコを聴きながら大切に育てられ、このうえなく美しくなりました。森に住む動物たちや、街に住む人間たちも、お姫様のために盛大な成人式を巳島大社であげて、なよ竹バリバリ竹の家具屋姫と名付けて祝いました。

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*2か月後☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*

PiPi 4F SHINEMA SUNSET 馬津
SHINEMA4 座席298 デジタル6ch W13.0m×5.6m
12:35~ 『かぐや姫の物語』(上映前)


L-6=ヤマネコ  O-11・O-12=カップル
E-13・E-14=女子高生  J-18・J-19=親子(母親・娘)
C-15=おじいさま   
L-10=仲嶋梓   Q-17=家具屋姫

ヤマネコ<へえ!映画も面白いもんだなあ。友人と休日が合わないもんで退屈していたけれど、単調なルーティンのガス抜きに映画鑑賞も取り入れてみようかな。平日のこの時間帯は客足もまばらで、自由に館内を歩き回れるしな。まあ、カップル連れの中にひとりポツンと置かれるのは寂しい気もするんだけど。その分L-10の女性は、指定制の座席表を注意深く観察して、敢えて俺と同じ列に座ったんだろう。上映の5分前に館内が暗くなるのにもかかわらず、支障なく着席したことから推測できることは、自分を目立たせずに、且つ、観賞するためのベストポジションを最後まで念入りに調べていたから。それが却って自分を目立たせているんだけどな(笑)って、え?

L-10&Q-17<シクシク シクシク なまねこ なまねこ かなしいよ かなしいよぉくま
※なまねこ(※念猫のこと) ※念猫(山猫大明神のおぼしめしのこと)

ヤマネコ<なんだあいつら。上映前から泣いてるじゃないか・・・。

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*上映中☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*

ヤマネコ<成程。思想を生(なま)の形で表すのではなく、素朴な田園生活を交えて物語を展開していくのか。あれ?J-18・J-19の親子が、自分たちの影がスクリーンに映らないように身をかがめて移動しているな。トイレ休憩かな?あんまり気をつかわなくてもいいことだけど、思慮深い行動だよな。まあ、右手にも出口はあるんだけどな(笑)おや?


☆キュピーン  びゅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお  ☆ジャッッ
L-10→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→A-10


ヤマネコ<あいつは予測不能すぎる・・・。

仲嶋梓<ちっ。雉に反応しちまったトラ。自分の罪の意識にさえ抗えない出歯虎が、どうして家具屋姫を助けることができようかトラ。表面的な安定ばかり求めて、このままあちきは骨の髄まで浮薄なトラに変身しちゃうのかトラ?ううん、あちきには大切な友たちが・・・。

語り手<(その割には、よだれたらしながらスクリーン引っ掻いてる挿絵があるんだけど)

仲嶋梓<あっ!そろそろ月人達が来るシーントラ!OK。デモンストレーショントラ!!

語り手<(誤魔化したな^^)

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*感想文☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


O-11<この世に生まれてきたことの喜びや悲しみを沢山感じることのできた作品だったと思う。そんな愛情や、愛憎の感情さえも満ち溢れた地球をかぐや姫は愛したんだろうなと感じた。

O-12<翁と媼のかぐや姫を想う心情が伝わってきて、胸がいっぱいになりました。上映時間は長めでしたが、いつまでも物語の風景に浸っていたいようなそんな作品でした。

E-13<清らかな月の世界に住んでいたかぐや姫が、色彩に満ち溢れた地球に憧れた意味が分かった気がする。限りある命だからこそ、地球はいろんな色に染まっていて、沢山の喜怒哀楽や愛情があるんだと感じた。

E-14<かぐや姫の無理難題に挑む、5人の貴公子たちが滑稽で面白かった。それと帝のアゴwwwDVDもゲットしたいです!

J-18<誰の言葉や理論や理性にも悟られず、ただ一心に自然を愛したかぐや姫に心を打たれました。私はもうかぐや姫という年齢ではないけれど(笑)一生懸命生きようと思いました。

J-19<おもしろかった!

C-15<わたくしめは夢うつつの間に、少年の頃出逢ったアドリアンヌという貴族の娘を想い起こしました。スクリーンに映し出されたかぐや姫はまさにアドリアンヌそっくりで、恋の面影をそこに見たのです。わたくしが心に抱いた女性たちはことごとく失われてしまいましたが、わたくしは心の真実を思い出の中にとどめておくことこそ、幸せだったのだと感じることができました。この映画を製作なされたみなさま、ありがとうございました。

語り手<(わっ(ノω・、))

L-6<水彩画のような柔らかな絵柄がとても綺麗でした。原作に忠実であるけれども、かぐや姫の心情をたよりに、成長過程を精彩に描いていることが挑戦的であると感じました。誰もが抱く「なぜ地上に舞い降りたのか、何故月へ帰らねばならなかったのか」という疑問に対して、あくまで推測ではあるものの、人間の生の内面を克明に照らし出し、真相にせまるような見解をした野心的な作品であったとも思います。ちなみに私が観賞した映画館では、かぐや姫の思いを自分の影と重ねたのか、ラストシーンで号泣する女性も見受けられました。

L-10<なまねこなまねこ(涙)
Q-17<悪霊退散悪霊退散(涙)

語り手<((#^ω^) ピキキ・・・)

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*帰り道☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


ヤマネコ<あれ?いまさっきのL-10じゃん。なにやってんだあんなところで。

仲嶋梓<綺羅メッセ馬津で展示会やってますトラ~。お立ち寄りくださいトラ~。

ヤマネコ<げ!あいつエウリアだったのかよ。ああ、俺はいやだね、ああいうやり方は。価値以上の想いや愛慕の情がある画家が描いた絵画そのものを、高い値段で量産的に売りつけるってやり方はさすがにいけすかねえな。それじゃあ未公開株や医療債、水利権なんかの投資を煽った利殖法となんら変わらねえし。

仲嶋梓<お立ち寄りくださいトラ~。どうぞ、トラ~。

ヤマネコ<(まあ、チラシだけもらっといてやるか。)ありがとう。・・・どれどれ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ちらし◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


スライディングタイガー 古典バーゲン
暇人、集まれ~♥

あのトラ(暇人)をみてごらん 天国なんて無いんだと
ねえ 簡単なことなんだ
竹の中に黄金が眠っているわけでもないし
僕たちの上には ただ月が昇っているだけ
さあ想像してごらん みんなが
暇人になる姿を

<<for the Tiger>>
人とトラをアートで繋ぐハートフィールドへ、クマリスチャン・タケトラッセンが来場!

来場記念最新作をはじめ、
新しい世界へ羽ばたくフォレストアート
100余点を一挙公開!
展示販売もしております。
1点500円以下!

(仲嶋梓)

幼いころからテヌキの山に親しみ、陸上動物たちと遊びながら山の大きさや懐の深さを感じてきたクマリスチャン・タケトラッセン。フォレストアートの確立を目指しながら、山と自然と生物たちへの想いがその想像力、制作の支えになってきたことは言うまでもありません。常に新しい視野と斬新な技法を取り入れながら、多くの絵画を世に送り出しました。クマリスチャン・タケトラッセンは、新たなスタートラインに立ってさらなる新しい創造、独創的な作品を制作するために一歩を踏み出そうとしています。それはクマリスチャン・タケトラッセンがフォレストライフを愛する家具屋姫のために、『家具屋姫 奪還阻止計画』を企て、月の聖人たちを迎撃するという果てしなく無謀な挑戦のことです。皆様のご意見・アイデアも是非お寄せください。お待ちしております。

会場|綺羅メッセ馬津

ヤマネコ<なんだこいつ・・・。『家具屋姫 奪還阻止計画』?何言ってんだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


エウリア<びえーん。助けてください><

ヤマネコ<え?どうしたんですか?

実質経営者<巡業先の綺羅メッセ馬津がたった今、トラによって陥落させられたんです!実に二百八十万円の損害だ!くそ、竹虎の梓め!あたまがまがっちまいそうだ!

ヤマネコ<ど、どういうことですか?

エウリア<隣のホールの『スライディングタイガー 古典バーゲン』という移動式骨董店の仕業ですよ!(獅子の)ホラ吹き入りの家具屋姫という美しいお嬢様を勧誘スタッフに仕立て上げ、色好きな貴公子たちを招き入れていたんです!私だって容姿には自信あるけれど、月の人にはかないませんわ。びえーん。

実質経営者<実現不可能な難題を押し付けることによって、この地上に存在するはずのない世界の住人(=ファデー)を意識的に認識させるのがタイガーの仕組みです。エスタンプという販売手法はまったく同じで、1点500円以下という誰でも購入可能な範囲で、デザイン性とユニークを売りとしたビジネスモデルのため、テスト段階でありながら市場占有率に於いても、タイガーが当社を上回ってしまいました。今や我々は竹虎の梓の術計に陥りました!と、いうより竹虎は元々価格競争や製品戦略になんの興味もなさそうなのです。もしかしたら竹虎は、家具屋姫の内面的空虚を埋め合わせることのできる人物を探しているのかも知れません。かつてかぐや姫が、『ご愛情』を確かめるために名うての貴公子たちに難題を課したように。しかしながら貴公子たちは乖離された事象の接近を逃すまいと、傲岸な抽象的理想論(=ニセモノ)を展開(プレゼント)するだけで、誰一人として家具屋姫の虚無感を埋められないことが未だに悲劇ではありますが。しかし、まあ。あれを見てください。右大臣が御殿馬の神社で手に入れたという燃やそうとすると勝手に踊りだす(逃げる)偽物の掛け軸の虎とダンスバトルをしております。

虎<よぉ梓、久しぶり!ららめぇの神社以来だな!あすこの神社は定期的なクリーン清掃を交換条件に兼フラダンス教室として開放されることになったんだ。まぁ、元々カギ自体も地域住民が管理してたからな、富士信仰もいいところだよ(笑)どうだ、今日は『DON'T STOP THE MUSIC』で勝負してみないか?

中嶋梓<おお!虎ちゃん久しぶりトラ!望むところトラとら負けたらグッズを買って欲しいトラ!

$銅の馬の背に乗って



虎<さすがに四足ステップを決められちゃ、手も足も出ねえわな。完敗だぜ。そうだなぁ・・・。じゃあこの『HIMAGINE』のペーパーナプキンと『みかんすたー』のランチボックスセットをもらおうかな。

中嶋梓<ありがとうございますトラ。お会計合わせまして300円頂戴いたしますトラ。

虎<え?安っwwwwwえ?安っwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

ヤマネコ<・・・。こいつらいったい何が目的なんです?
エウリア<全く分かりません。
語り手<俺も・・・。
書いてる人<俺も。。。


スライディングタイガー古典バーゲン 売れ残り商品 ピーマンの上海積とオクラ?の断面図
ペーパーナプキン 2円

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

家具屋姫<ホリー・ゴライトリーの役を映画ではオードリー・ヘプバーンが巧みにこなしているけれど、ラストシーンで彼女とポールが結ばれるようになっているのは・・・おかしいよな(笑)一時はブラジル外交官と結婚したいという女心に負けそうになるけど、南米からアフリカへと自由奔放な放浪の旅をつづけるのが彼女の真の姿だろ?もともと籠の鳥になることを望んでなんかいねえんだよ、ホリーは。でもさぁ、ほんとうはさぁ、ティファニーのどっしりとした雰囲気の中に立った彼女は、いやな赤からの恐怖から救われ、いつの日かこんなところに住みついて、朝食を取れるようになればいいんだって思ってるんだよな。ティファニーを日本風に?ああ、そうだな。風情だよ風情。ひどく荒れ果てて、築地塀も開きっぱなしで、池なんかがあるところにも水草が生えていて、庭なんかも蓬が茂らないまでも、ところどころ砂利の中から青草がのぞいて寂しそうな場所で私は朝食をとりたいかな。メニューは、ごはん、味噌汁、納豆、それにネリ梅蒲鉾だ。『葎はふ/下にも年は/経ぬる身の/なにかは玉の/台をも見む』ってな。あれ?それじゃあ、体裁よく手入れされた折り目正しいティファニーとは矛盾しちまうか。だったらPiPiに併設されたローソンで、かまぼことネリ梅チューブを購入して、映画広告が貼り出されたショーウインドウを前にそいつを思いっきり齧ってやるんだ。まあ趣だな趣。それが私の趣。ライフ。んで、他に質問はあんのかよ?糞共?

ヘイ!ヘーイ!パー

典型的な美人のつつましやかなかぐや姫を静的な美人とするならば、軽やかな身のこなしと、生き生きとした才気が印象的な家具屋姫は動的な美人である。興味本位で会場入りしたヤマネコは、取り巻くあまたの男性の間から、自由闊達に議論する彼女の姿を見つけてそう思った。

綺羅メッセ馬津
面積3,875㎡。
(シアター形式時収容人数約4,400人)
(スクール形式時収容人数約1,800人)
ユニット2『スライディングタイガー 古典バーゲン』内部平面図
※清涼飲料水フカラ神殿を摸造したワンショップモール


♥そんでもって質疑応答♥

 Q.バスルームに下着と一緒に草を干したものがあったが、あれは何か?

家具屋姫<てめえら・・・。あとで殺してしんぜようか?ああ?線路沿いの水路付近にシダレヤナギが植えられているだろ。あそこから枝を数本折ってきたんだよ。私の難題によって、風邪を引いちまったカーペットのヨゴレみたいな野郎のためにな!街路樹としての外観は損なっちまうが、こいつは病人なんだから仕方ねえ!このシダレヤナギには、解熱効果があって、熱を伴う風邪のよい薬になるんだ。小枝をとってきて細かく刻んだものを、乾燥させたものがこれだ。これを、そうだな、10グラム300CCの水で三分の一に煎じて三回に分けて飲むんだよ。市販薬に劣らない解熱効果があって、しかも副作用がないから安心なんだよな。ほら、飲めるか?不燃物カス。風邪をひきかけた哀れな子羊共は、ショウガのくず湯を飲むのもいいだろう。熱湯でくず粉を溶いてくず湯を作って、ショウガのしぼり汁を入れてハチミツか砂糖で甘味をつける。それを熱いうちに飲んだら、すぐに寝ちまうと体が温まって、風邪はどこかにいっちまうから。元々風邪を引きやすい体質の田舎臭いムシけら共は、ミカンの皮を利用することをおすすめする。ミカンの皮を干したものは、漢方では陳皮(ちんぴ)と呼ばれていて、薬効の高いものなんだ。カラカラに乾かしたミカンの皮を五~十個、お風呂に入れると、体のしんまで温まり、湯冷めしなくなる。これを長期間続けると、皮膚に抵抗力がつき、風邪を引きにくくなる。体質を改善するには、陳皮を常食することも大切だ。ミカンの皮の内側の白い部分をそぎ落とし、十分に乾かしてすり鉢ですりつぶす。これを食卓にいつもおいておき、味噌汁やごはんにふりかけて食べるんだ。メモしとけよ、排水溝のきたねえ髪の毛共。わたしは二度言わないからな。

家具屋姫にもう一度聞いちゃおっか?
選択肢
はい→アホか!てめえ。ロープレみたいにAボタン連打しまくってたんだろ?またいちいち話を聞かねえといけねえんだぞ!こんな面倒くせえことはねえだろうが!ここにメモしたものがあるからとっておけ!!長靴の裏の泥みてえなくそいまいましいことしやがって!
いいえ→一応メモしたものをもらった!

ヤマネコ<ぷるぷる

 Q.廊下に置いてあった変な雑巾はなんなのか?

家具屋姫<ふき掃除をすると、いちいち雑巾を洗わなくちゃいけねえ。これが意外に面倒くせえんだ。そこで、てめえらが道中汚しちまっていらなくなった衣服を適当な大きさにズタズタにカッターで切り裂いて4、5枚重ね合わせてみた。そして中央を縫い付けて、ノート式の雑巾を作ったんだ。ノートのように1枚1枚めくって使うことができて、いちいちゆすぐ手間も省けるだろ?ふき掃除が終わってから、水洗いして干せば何べんも使えるしな。なにしろ、てめえら大鋸屑共の苦悩に満ちた顔を想像しながら、埃で溢れた床を掃除するのは最っっっっ高に気持ちがいいぜ!輪廻は苦しいか?もっと苦しめ!って悦に浸りながらな(笑)

○え?『しかたねえ、今回は特別だかんな。』って汚れた昼装束をクリーニングに出してもらったけど?
○俺も俺も!!ってか、家具屋姫のノート式雑巾、普通の雑巾を重ね合わせたものじゃん。
○私はあるロックバンドのTシャツを着ながら彼女の難題に挑んでいたのですが、ふとした拍子に衣服が裂けちゃったんです。そのあと彼女から『わたしは『Supergrass』が好きなんだけど、なんか、、、今はこれしかねえからとっておけ、ロックか知らんが』と彼らのバンドTシャツをいただきました。それ以来私も『Supergrass』のファンなのです。

家具屋姫<!?な・・・。うっせーばか。余計なことくっちゃべるんじゃねえ。。

ヤマネコ<ぷるぷるぷる

 Q.我々に持たせてくれたおにぎりには、何故竹の皮で包んであったのですか?

家具屋姫<おにぎりをアルミ箔やラップに包むと蒸れてしまって、細菌が増えやすくなる。おにぎりを長時間持って歩くときは、昔ながらに竹の皮に包むのがいちばん安全なんだ。おにぎりが蒸れないというだけでなく、竹の皮自体に強い殺菌力があるからな。竹の皮には亜硫酸が含まれていて、この亜硫酸がおにぎりについている細菌を殺すんだ。竹の皮の通気性と同じように昔の人の知恵も捨てたもんじゃねえ。てめえらが、道中つまらねえことで頓死することを私はいつまでも願っておりまするから、せめてものはなむけに持たせたまでだ、ふんっ。ばーかばーか!

ヤマネコいい人じゃねえか(涙)
口めっちゃ悪いけど!!!

家具屋姫<?なんだ、そこの顔を洗ったことのなさそうなヤマネコ。私に文句でもあんのか?あ、コラ?

ヤマネコ<(やべ、気づかれた!)

口こそ悪いものの、小さな顔立ちの才色兼備の家具屋姫は、一見きわめて華やかな生活を営む反面、内省的で感受性鋭く、人生のひとこまひとこまをこよなく愛していとおしむ、まさに地球のような女性であった。ただ、彼女の微妙な心の壁になにかしらの不吉な『聖性』が忍び込もうとしていることがヤマネコにも理解できた。でも、俺には全く関係ないことだ。第一、俺は暇人じゃねえし。不可解な彼女の宿命を背負って、必死になって模索する。こんな馬鹿げたことはない。だけど、、、いつからだろうか?破滅をいとわずに真向正面から、何かを救おうという善意に満ちた熱意が消え失せてしまったのは。推測という盲目的で悲惨な自己表現に辿りついたのは。ヤマネコは迷っていたが、思考よりも先に口が動いた。

ヤマネコ<あ、自分もスーパーグラス好きっすね~。

家具屋姫<そうか、そうか。じゃあ、お前はいいやつだ。顔を洗ったことのないヤマネコ。お前も加われ。


竹虎物語Part1 END

誤注文の多い料理店 春夏秋冬編へ続く♥

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

伊豆獣貫道を抜けると伊豆ではなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

『やすな』!どっちへ行くのぉー?

南よ、海が見える方!!

ぼく、ビスビーみたいな街に住みたいな。

『カタウデ』!ラジオつけて!
ロケットパンチぶっ放しちゃったから、手がふさがってるの!はやくぅ!!





$銅の馬の背に乗って

川畑康菜 著

伊豆の踊り虎 ~眠れる虎のvision~

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

$銅の馬の背に乗って $銅の馬の背に乗って


魔女として育てられた『やすな』は、14番目の月の夜に、両親と友達と見知らぬメキシコ人カップルに見送られながら、ネコの『カタウデ』と共に飛び立ちました。お母さんとお父さんが拵えてくれた『東猫イン』の『猫の方の』『田』に跨って、都会への憧れを魔法に抱合させてひたすら南へ進みます。この世界では魔法少女は決して珍しくなく、その中で『やすな』は見知らぬ土地の人々に魔女と認知され、自分の才能を発揮させる課題があります。両親の愛に見守られ、沢山の友達に恵まれ、『イルカのミュージックハーモニー』を聴いて気晴らしをし、分身のネコに付き添われていますが、18歳の『やすな』の心はどこか不安で、ひとりになってみると余計に人肌が恋しくなるのでした。

覚悟の甘さと認識の浅さ、そして妥当性に欠けた魔法の妄執に囚われていた少女は雨にうたれ、遂に、『旧天城トンネル』の手前に墜落します。ゴトランド島のビスビーで太陽の光をいっぱい浴びながら生活するのが夢だった『やすな』と『カタウデ』は、しょんぼり暗い『旧天城トンネル』を歩きます。『やすな』はトンネルの中でこれまでの人生を振り返り、自分の奥底にある自己と徹底的に対話することによって、ようやく依存と自立の狭間に揺れている自分に気づくことができたのです。『元々そういう旅だったのよね。』そう自分自身に言い聞かせると、闇から光へ、その複雑な心を照らすように『トンネルの出口』が見えてきました。少女から大人へ、いまどきの通過儀礼のようだけれど、魔法の力に頼らずに、自分の血で『やすな』と『カタウデ』は屈折していた心の壁を破り、象徴的な光の出口へ走り出しました。

やすな<ねえ、わたし伊豆に行きたい!   カタウデ<『イナトリ』で『射的』してぇ!

しかしながら『やすな』と『カタウデ』は出口まであともう少しというところで立ち尽くしてしまいました。若い踊り子とすれ違ったのです。その踊り子は涙を流していました。可憐ながらも怪しい輝きを放つその踊り子は、『やすな』たちとは反対方向の『入り口』に向かって歩いて行きました。『やすな』が振り返ると、そこに踊り子の姿はなく、静謐な薄暗い闇が広がっているだけでした。『やすな』はあの踊り子が暗闇の中で、何を考えているのか気になりました。

カタウデ<やすな・・・。

やすな<カタウデ たーん ばっく!一旦、伊豆はおあずけだよ!

カタウデ<・・・うん。

やすなねえ、カタウデよく聞いて。あの子にとってはあっちが『出口』かもしれないけど、あっちの『出口』はね、どうも『旅は道連れ』といったものがなさそうなのよ。

『やすな』と『カタウデ』は踵を返して、束の間の大人の姿にさよならをし、さきほどよりも猛ダッシュでトンネルの中に向かいました。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

やすな<魔法を失いかけて、節度を忘れだして、はじめて気が付いたの。相手の気持ちをおしはかることもしないでね、エゴイスティックな欲望をぶつけて空を飛んでいたんだって。

カタウデ<うん○ん。僕△も同じ経験□るよ。でも、魔○の効力が切れか△ってるのはやすなが大人に近□いた証拠さ。に○じんのパイ作りをや△なが手伝った□き、ぼくは人間と○うものが、利他愛に△で発展す□とき、その愛は人○を限りなく美△く、やさ□くさせるんだって感じたよ。やすなは魔法を失ったの○はなく、体験的で内在△な契機から、自分の魔法を犠牲にしてまで好きな人のために使える『本当の魔法』を見つけ始め□んだよ。

やすな<うん。。でも、それじゃあ私の大好きなカタウデとはおしゃべりできなくなっちゃうじゃない!!

カタウデ<やす○は優し△んだ□。でも、ぼく○ちお△ゃべりできな□ても、心ではいつでもつ◇がっているよ。これ○らも一緒に△よう□。

普段愛猫を肩にのせて運ぶメッセンジャーは、今日だけ特別に、半ば強引に自分の胸に猫を潜り込ませました。

カタウデ<○△□◇だね。   やすな<うるさいわね!

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

$銅の馬の背に乗って 

トンネルを抜けるといつの間にか雨が止んでおり、黄金色の光がやすなたちを包み込みました。夕暮れの中に点在する地上の街並みは、普段空から俯瞰するものとは少し違い、生活の在り所を克明に示していました。おなかが空いていたやすなたちは喫茶店のテラスに座って、森永のパッケージそのもののような分厚い二段重ねのホットケーキをたいらげました。テラスから連なる山々を覗くと、紅葉に染まりつつある渓谷から、風が滑るように吹き込んで、秋の訪れを予感させています。そこでやすなとカタウデは、通りを行き交う人々の話し声や、車のクラクションの喧騒にまぎれて、小さな虎の咆哮を聞きました。喫茶店の主人は、俺には虎の咆哮は聞こえなかったし、第一この周辺には虎など生息していない、でも君たちには聞こえたのかもしれないな。それは、モスキート音のようにものさしで選別されるものではなくて、子供の頃誰もが経験する感覚装置みたいに、外のものが入り込めるように孔がいたるところにからだに開けられているからなんだ、とドーデの名分句を引用して言いました。

カタウデ○ゃあ、主△はからだじ□うの穴がぜんぶ塞が◇てしまったんだね。

カタウデの頭に拳骨を喰らわせて、やすなは頭を下げ主人にお礼を言いました。喫茶店の主人は、まあ俺にもまだ3つか4つくらい空いているかもしれない。流石に虎の咆哮を聞けるような穴は、身をすり減らしていく人生の中ではいち早く消えてしまうものなんだろう。君たちはその摩耗される道程の中で、自分の心に通っていく日々のなにげない生活を、感覚によって切り取って保管していくことが大切なんだ。とにかく全力をつくして生きてみなさい。とくに何をするのかは問題ではない、ただ自分の人生と言えるものを持つことだ。と、今度はヘンリー・ジェイムズを用いて愛想よく笑いました。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

$銅の馬の背に乗って  

カタウデの聴覚を頼りに虎の咆哮がした方角へ行ってみると、森の中へと繋がる小さな獣道をやすなたちは発見し、そのぬかるんだ小径を二人は進んでいきました。歩く度に泥の中に足が嵌って、アディダスのフットサルシューズ(トップサラ)に形取られた大きな足跡を残しました。その隣にはオニツカタイガーのランニングシューズをベースにしたタイガーコルセアらしき足跡もありました。かかと部分のソールの厚み部分では、やすなの心は少し揺れ動きましたが、ふと足跡に視線を戻すと、その足跡が徐々に獣のものになっていくことに気がつきました。小径を掻き分けていくと、急に道が開け、竹林に囲まれた場所に出ました。そこにはいかにも怪しげなHIMITSU CLUBという幻想的な雰囲気で彩られた金殿玉楼があったのです。

HIMITSU CLUBは連陳式のコンドミニアムでした。今は旅芸人の踊り子の方が宿泊なさっています。と、コンドミニアムの管理者は言いました。やすなはここに泊まりたい旨と、都会の喧噪から離れたこの場所で、魔女として働き、数日間でいいので居を構えさせてほしい。と、管理者に伝えました。それはありがたいことです。ただ。と、管理者は神妙な表情を浮かべて付け加えました。部屋はあと2つ空いているのですが、生憎です。貸し出すことができないのです。ここのコンドミニアムというものは、区分される一室を貸し出すシステムですが、踊り子が全ての部屋を貸しきってしまったのです。と、申し訳なさそうに言いました。

やすな<全ての部屋を?

3つの部屋全てです。虎が眠っているからなのです。はじめこそは『あちきが宿泊客を傷つけないように』とのことでしたが、近頃はこの屋敷を買い取りたいとの申し出も受けております。確かにこの屋敷は人里から離れたところに立て込めてあり、立地条件も悪く、家主のリゾートステイ以外の集客も見込めない状況ですので、虎(自身)を幽閉するには格好の場所になるのかもしれません。と、管理者はいいました。

やすな<虎が眠っている?

ええ。文字通り虎が眠っております。理由はよく分かりませんが、人間を失いつつあり、虎へと埋没しつつある踊り子が宿泊しております。と、管理者は言いました。泣きながらトンネルを逆走している踊り子を見かけた。と、やすなが説明すると、恐らくその娘に違いないでしょう。覗いてみますか?と管理者が促すと、やすなは見てみたいと一言答えました。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

リネン室を横切り閑寂な広間に入ると、至る所に沢山の書物(童話が多い)が転がっていました。『眠れる森の美女』と『いばら姫』、『白雪姫』に『山月記』。やすなはその部屋の片隅に、ピンク色のビロードのカーテンで覆われた巨大な箱状の物体を見つけました。なんだろう、と不思議に思ってカーテンをそっとめくると、それは無機質な鉄で覆われた檻であることを彼女は認識しました。ひんやりとした鉄の感触が手の甲に齎され、やすなは驚いてカーテンから手を離し、管理者に目を向けました。

理性が人間の側にあるうちに自分で鍵をかけるんです。虎にその比重が傾くと、何をしでかすか分からないことを知っているんでしょうね。その後は睡眠薬を飲んで眠るんです。器用な娘ですよ。私たちは彼女から格別被害を受けたわけではなく、寧ろ彼女の煌びやかで生き生きとした踊りから様々なことを学びました。それだのに、彼女は崖から転がるように日毎に虎に近づいているんです。最終目的地である『下田』で、最高のダンスをしたいと踊り子はおっしゃっておりました。ここにある童話やおもちゃは彼女の内面の光の跡なのです。今となってはこの光の跡でさえ枷になり、行動範囲も狭められ、自らの手で己の存在意義を掩蔽する始末です。

もう一度カーテンをめくると、鉄格子の中でスヤスヤ眠る一匹のトラがいました。
やすなは檻の中へ手を伸ばし、その精緻な縞模様に触れようとしたものの、恐怖を感じすぐさま手をひっこめました。

大丈夫、噛みついたりはしませんよ。バルビツール酸系の強い薬理作用が働いていますからね。たとえ彼女が我々に噛みついたとしても、それは虎が本来持ち合わせている残虐な行為からできる傷ではなく、狷介な性格と、人が恋しくて心の触れ合いを求めようとする気持ちの葛藤から起きるわずかながらの瑕瑾だと思ってください。仲嶋梓はそんなタイガーテンプル出身のトラのような自己を観察し分析する明敏な知性を持った心優しい臆病な娘なのです。

むせび泣きにも聞こえた咆哮は、彼女の慟哭だったんだ。やすなは決意しました。

このトラに寄り添ってあげたい。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

真理にたちむかうとき、宇宙が答えを準備してくれるし、そのとき人間は不死を悟る。

ソローは、イギリス産業革命の余波を受けて人々が富の力に執着し、精神を堕落させることに耐えられず、ウォールデン湖畔に入ることで、最も低い経済的生活に身を置き、最も高い精神を手に入れようとした。野菜を作り、飲酒喫煙をせず、人間や自然、文明を考え、価値ある人生、真理の発見の生活を送った。私もソローのように、魔法の桎梏となりつつある人々を、トラとなりつつある女の子を、自然の仮寓者(魔法使い)という立場から救いだすことができるだろうか。

そんなことを考えながら、やすなはひたすらトラの看病に徹しました。彼女の想いとは裏腹に、仲嶋は日頃に虎に近づいていきましたが、自分に初めての友達ができたことの方が勝っているのか、とても幸せそうに見えました。残り少ない時間を二人は共有し、檻の隣に寝床をつくってトラの夢を聞き、やすなはできる範囲でそれを叶えてあげました。

仲嶋梓<やすな、ありがとうトラ。恥ずかしいんだけど、やすなにお願いがあるトラ。あちきの腕は檻からここまで届くトラ。これ以上は伸びないから  、、、 あちきが眠るまで手を繋いでいてほしいトラ。虎になったあちきに巻き込まれないように、八重歯も削ったトラ。分厚い手袋も用意したトラ。
やすな<オーケー。いいよ~ん。

そろそろなんだ。やすなは溢れる感情を精一杯抑えて、おどけて答えました。そして手袋はせずに、ぎゅっとトラの手を握ってあげました。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

フランスの宮殿様式を模した金殿玉楼から広がる、森の美しい変化を想いながら、やすなは『眠れる森の美女』をトラに読んであげました。

百年眠り続けたお姫様は、王子様の接吻で目覚め、やがて幸せに暮らしました。

トラは王子様がキスしてくれて自分が目覚めたとき、自分の獰猛な醜態を晒すわけにはいかないから、せめて綺麗な着物を着ていたいトラ。と、言いました。やすなはトラのために袖丈の高い振袖を、今日だけ特別に魔法で拵えてプレゼントしてあげました。紅葉を表現した地紋の中央には優しい顔つきをしたトラがいて、それをみたトラは嬉しそうに微笑みました。トラは、お姫様を自分に置き換えて、もう一回『眠れる森の美女』を読んでほしいと言いました。

百年眠り続けたトラは、王子様の接吻で目覚め、やがて幸せに暮らしましたとさ。

$銅の馬の背に乗って

仲嶋梓やすなと出会えてあちきは幸せだったトラ。

やすな<いつでもそばにいるよ。

やすながそう言うと、トラは安心して深い深い眠りにつきました。

やすなは、画用紙を鋏で茨の形に切り取って、ひんやりとした鉄格子に張り付けていきました。受動的で、環境や運命に抗えずにトラになったお姫様に、心優しい王子様が現れますように。刺々しい茨と共に、この冷たい金属をも焼き払ってくださいますように。でも、どうして、どうして・・・、こんなに涙が溢れてくるんだろう。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

昔の習慣のままやすなはトラの面倒をみようとしましたが、比重が虎にほぼ完全に傾いた仲嶋はひどく混乱して、やすなたちがプレゼントした振袖を引き裂き、檻に激突してひどい傷を負いました。檻に張り付けた茨のモニュメントは剥がれ落ち、剥きだしになった鉄格子には飛散した血飛沫がこびりついて、トラがずるずると死の影に引き込まれていくのが、やすなには手に取るように分かりました。それでも彼女はお昼ごはんの支度をして、蕎麦をふたつのお椀に分けて、1つを仲嶋に渡そうとしました。すると、鉄格子の間から爪を立てた巨大な手が伸びてきて、やすなは避けきれずに、右腕に小さな引っ掻き傷を負いました。蕎麦が入ったお椀はひっくり返り、トラは我に返ると、ただひたすらやすなに謝りました。献身的で深い無私の愛を与えてくれるたった一人の友達に、歯牙を向けてしまった己の醜悪さと惨めさが辛くて、自分が虎に変身していたことが怖くて、仲嶋は大声でわんわん泣き出しました。

誰にだってそういう時はあるよ。私にだって・・・。

やすなは散らかった蕎麦を片づけながら、衰弱しきったトラに優しく話しかけました。トラは自分が人間の側であるうちは、もう恐らくこの時間帯しかないから、なんでもいいから話してほしいトラ。と、言いました。

今日のお昼は手作り蕎麦であったことをやすなはトラに話しました。自分流手作り蕎麦の過程には、ポリ袋に入れた蕎麦の生地をかかとで踏みつけるポイントがあること。ところが魔法に依存していたので、すっかり足腰が弱くなっていたこと。本当は、ダンスが得意なトラにその工程を一緒に手伝ってもらって、おいしい蕎麦を作りたかったこと。

あたりを見渡すと、そこにはそばつゆが染み込んだ本が転がっていました。やすなはその本を拾い上げて表題を確認してみると、それは覚え書きを集めて編まれたパスカルの『パンセ』でした。

・・・・・・・

考えることが人間の偉大さをつくる。
(断章346)

人間は一本の葦にすぎない。自然の中で最も弱い者のひとつである。しかし、それは考える葦なのだ。人間を押し潰すためには、全宇宙が武装する必要はない。蒸気や一滴の水でさえ人間を殺すに足りる。しかし、たとえ宇宙が人間を押し潰したとしても、人間は自分を殺す宇宙よりも気高いと言える。なぜならば、人間は自分が死ぬことを、また宇宙のほうが自分よりも優位だということを知っているからだ。宇宙はこうしたことを何も知らない。だから、わたしたちの尊厳は、すべてこれ、考えることの中に存する。わたしたちはその考えるというところから、立ち上がらなければならないのであり、わたしたちが満たす術を知らない空間や時間から立ち上がるのではないのだ。ゆえに、よく考えるように努力しよう。ここに道徳の原理があるのだ。
(断章347)

・・・・・・・

考えることをやめないこと、か・・・。




やすな<自然的存在としての人間は、時間的にも空間的にも無限の拡がりをもつ世界の中にあって自らの卑小さと孤独をかみしめざるをえない。この無限の空間の永遠の沈黙は私を恐怖させるけれど、無限というものは原子や素粒子を考えれば分かるように無限小というものがあり、それと比べれば人間は一個の巨大な世界なのよね。

仲嶋梓<だけど、こうして人間は二つの無限を寄るべくもなくさまよう中間的な存在となるんだトラ。人間は、自分がどうして今、ここにいるのか知ることができないんだトラ。現に意識的存在、社会的存在としての人間だって同じなんだトラ。人生の目標は真理と幸福の追求と獲得にあるけど、振る舞いを醒めた目で見れば明らかなように、真理についても、幸福についてもあちきたちは無能力なんだトラ。

やすな<でもあずさは虎になっても、踊り続けてるでしょ?それはあずさにとって踊りというものがあずさの中での真理や幸福を見出す助けになっているからじゃないの?

仲嶋梓<ううん、あちきは虎になったみじめな境遇をあきらめて甘受することさえできないんだトラ。でも、、、こんなみじめな姿になった今でも、あちきの踊りがいろんなダンサー達やいろんな人に伝えられているのをこのひんやりとした暗い檻の中で夢見る時があるんだトラ。

やすな<時々ね、自分で自分を傷つけてしまう夢を見る時があるの。ひとりぼっちの暗い車庫に何台もの車があって、私の命令に遵奉だった車たちが突然唸り声をあげるんだ。あの大きな波が全てを飲み込んでから、意識的にせよ、無意識にせよ、私が惑溺してきた世界はよりいっそう現実味を帯びて、私に迫ってくるようになった。でもね、そんなうつろな意識の中で、誰かの叫び声がして、ガレージシャッターからまばゆい光と、新鮮な空気がおくりこまれるのを私はいつも感じてた。その人にお礼を言いたいのだけれど、目が霞んで、私はその人を認知できない。そうやっていつも目が覚めるんだ。

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*

やすなは合鍵を強く握りしめて、檻に設置された頑丈な錠前に手を触れました。

仲嶋梓<やすな!!!入ってきちゃ駄目トラ!!!

やすな<それでも私たちは真理と幸福を望まないわけにはいかないの。たとえあなたの踊りが現実世界で発露されずに運命を享受できないまま虎に変身しようとも、誰かの心の中でその花を開かせたのなら、わたしはあなたをナデナデしてあげたいんだ。心の檻を取り去ってくれたのは、あなたのほうなの。だから怖がらなくていいんだよ。



濡れた瞳でやすなはトラを見つめました。

あなただったんだね。

だから・・・

こっちにおいで

一緒にお蕎麦食べよ。



$銅の馬の背に乗って

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


やすなが檻の中に入ると、トラは生まれたばかりの乳呑み子のように甘えだして、お母さんの乳房をまさぐるしぐさをしました。やすなは抵抗せずに、自分の乳房にトラの口を銜えさせ、包み込むようにぎゅっと抱きしめてあげました。小さいトラは、蕎麦をフミフミする前に、もう少しこのまま抱きしめていてほしいトラ。と、甘えた声で言いました。やすなは、好きなだけいいよ。と、一言添えて、今度は頭をナデナデしてあげました。やすなが小さく泣き出すと、今度はトラが蚯蚓腫れになったやすなの右腕を舐めてあげました。そしてもう一度二人は強く強く抱きしめあいました。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



生と死の対蹠された諸相が融化され、踊り続けるという永劫不壊の世界を知った二人は、内面から発する光の跡を感じ取りました。締め切った窓を思い切り開けると、いつしか二人を蝕んでいた檻は陽の光で溶かされ、祝砲をあげるように、電車の汽笛が大きくこだまし、幸せを演出するように、湖畔の水面が僅かに煌めき始めました。二人にはそれが眩しすぎて、目がくらむほどでしたが、湖畔の周遊路からコチラに手を振る人がいたので、手始めにAiwaのカセットプレーヤーに小沢健二の『ある光』をセットして、その人に向かって出鱈目なダンスを披露しました。




眠れる虎のvision End...


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆
『無謀な企て』(1929年)制作後の1930年、パリの雑誌に於いて、ルネ・マグリット
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆

ルネチョイス
ギギチョイス

The cast included:

-Window Washer Station-

GiGI-AI OZATO(大里愛)
RENE-IZUMI ASAGAWA(朝川泉)
NORA-A NAMELESS CAT(野良ちゃん)

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆
『私が愛の中に織り込むことのできる希望のすべては、私に現実を与えたたった一人の女性に属する。』
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆

♥♥♥『GiGI』1-1♥♥♥
madojou☆☆Private Eyes ~ナマズ目ギギ科の女の子~女の子

$a little horse in the blue sky    

 「あのね、ルネ君。万物の根源はセキセイインコだったの。」
とナマズ目ギギ科の女の子は言った。
僕は眩暈がした。メマイ?違うこれは毒だ。毒による作用が眩暈なのだ。

含みのある言葉を読み解くことができない。それは『ルネ・マグリット』の『望郷の念』を鑑賞したときの心情と似通うものがあった。誰もが通りかかる橋梁に、翼のはえた男とライオンがいる。男は印象派絵画のような淡い光を眺め、ライオンは横たわって彼を見守る。ライオンが味方になる迷いと平穏、陽光の日々を懐古する郷愁が混ざり合って作品の印象をさらに深くしている。マグリットは世界が本来持っている神秘、目に見える思考の結び目を描いているのだ。
 
ただ、これは一つの解釈に過ぎない。解釈自体が不必要なのだと僕は考える。それは、神秘の本質は概念によっては説明できないから。あるいは世界や「もの」に対しても同じことが言えるかもしれない。言葉では説明できない何かが伝わり、絵画の前で呆然と立ち尽くしてしまう。マグリットが提示した神秘を我々が暗示的に受け取ることこそ、彼が望んでいたことなのかもしれない。

ギギの場合、それを微量の毒として僕に提示したのだ。マグリットと比べるとちょっと荒々しい気もしたけれど、思考よりもさっさと彼女の毒は僕の神経線維を駆け巡る。

    

彼女は針毒魚『ギギ』を確かに想起させた。ギギの特徴は上顎に二対、下顎に二対、計八本の口髭があり、胸鰭と背鰭に強い棘があることだ。この刺針に毒があると言われているが、実は明確にされていない。刺される人はいても、何らかの症状として表れるケースが少ないのだ。それは、構成するタンパク毒が微量であるからだろう。

そこで一概に、ギギの毒は危険に値しないもの、或いは毒など本来存在しないものとして判断して良いのだろうか?彼女が問いかける

「ねえ、ルネ君。聞いてる?」

僕は毒に侵されたことを誤魔化すために話を進めた。

「あ、ごめん。でもさ、ミレトス学派は神話的要素を遊離させた上で世界を説明したんだろう。生成変化する中にあって変化しない根源的な物質をさ。」

「アルケー?」

「うん。タレスなら水。アナクシマンドロスならアペイロンってね。だけどさ、セキセイインコはどうだろう。」

「そう考えていた人たちもいるわよね。」

彼女はにこっとした笑みを浮かべた。

「セキセイインコが万物の根源だとは思わないな。僕の勉強不足かもしれないけれど、当時の哲学は生活指導の原理というものが要求されていたんじゃないのかな。タレスの水がその例だよ。水は生活に不可欠なものであるし、無限に存在するものと考えられていた。だけどセキセイインコは人間の生活に不可欠なものじゃないだろう。そもそもギリシアにセキセイインコなんていたのかな。」

「そんなことよりおなかすいちゃった♥」


☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆

ロボット (岩波文庫)/岩波書店    対訳 ブラウニング詩集―(岩波文庫)/岩波書店
                  
¥648                           ¥864
Amazon.co.jp                       Amazon.co.jp

イトーヨーカ堂の中庭で物思いにふけることが好きだ。ノスタルジーは幸福に似た憂鬱の老化でしかないけれど、名前を失って困り果てる僕の目の前に、誰かが笑顔で現れるんじゃないかという思案に暮れることも多くなった。そんなセミ・リタイアな生活を送る自分に吉報が来るはずもなく、だらだらと年をとり23歳になった。今日は、仲見世商店街の書店で『カレル・チャペック』の『R.U.R』(岩波版)を購入し、この中庭に立ち寄った。道路へと続く階段の下から6段目のはじっこで、僕はもそもそとその本を読んでいた。

やはり何かが切り取られているのである。

ギギはウインドウォッシャー液のマークがプリントされたTシャツに、白二本線が縦に入ったアディダスの黒ジャージという格好で現れた。象徴的な筆致で描かれた真夜中のプレイガールのように、ギギは中庭の階段で大胆にボロッと靴を落としたのだった。魔法が解けた女の子が普段履いている作業靴はナイキのエアズームペガサスらしい。ガラスの靴を用意してあげる配役にはなれそうにもないけれど、金曜日の8時に開催される音楽会のステップスで躓いたアイドルのシューズを手直ししてあげる端役にならなれそうだ。それがなんだか可笑しくて、僕は本を読みながらクスクス笑った。ペガサスのかたっぽの翼をぴょいと拾い上げて、ビオトープ付近でうろちょろ戸惑っている彼女に僕は話しかけてみた。アン王女(オードリー・ヘプバーン)の様子を伺っていたジョーブラッドレー(グレゴリーペック)みたいにさりげなく。

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆

     $a little horse in the blue sky

-PIAZZA DI SPAGNA MODOKI-

PLINCESS(-?) walks across toward the fountain.She looks around her at the busy scene.Typical glimpses of the street life of Rome(-UMAZU?) - people sitting at little cafe LOTTERIA - scooters flashing past - children playing - tourists, etc.

$a little horse in the blue sky     $a little horse in the blue sky

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆

「こんちは。暑いね。」

「こんにちは。ね、暑いよね!それにしてもどうして真夏なのにインバネスコートなんか羽織ってるの?」

「暑いねと話しかければ暑いねと答える人のあたたかさ」

「ふふ、馬鹿ねえ。汗びっしょりじゃん。それじゃあ灼熱の悲喜劇よ。役者さん?撮影か何かかなあ?」

「ええ。スペイン広場でアイスクリームを齧りながらトリニタ・ディ・モンティ教会を駆けてくるどたばたプリンセスを待っているんです。」

「あ~!ナンパだ~!」

どこからかハクセキレイ(ハクセキレイ)が飛んできて、しめつけられるような胸の痛みと呼応するように尾羽を小刻みに上下させている。僕たちのたたずまいを祝福するために現れたのか、それとも冷かしに訪れたのか、ただ単にエサ(popcorn*)をねだりに来たのか理解できないまま数回コチラ(コチラ)をチラ見(チラーミィ)した後、ハクセキレイ(ハクセキレイ)はカモメ(かもめ~る)のジョナサン(ジョナサン)のように沸き立つ雲の方へ一直線に飛んで行った。ギギ(madojou☆☆)は琥珀色の髪をなびかせて、ギョロッ(キラキラ)としたまんまるの黒目と、鮮やかなピンク色の(うさぎ)のダリア(バラ)の花びらのような唇を僕に向けて返答を待っている。

ローマの休日 [DVD]                 雨に唄えば [DVD]
               
¥433                        ¥1,543
Amazon.co.jp                     Amazon.co.jp

「靴を落としましたね。今日の朝ボルディゲーラから届いた摘み立てのカーネーションと一緒にどうぞ。可愛らしいあなたにぴったりでとてもお似合いだと思いますよ。どうぞお幸せに!」

僕は浜沫から7日前に届いたばかりの『うなぎパイ(ミニ)』をショルダーから1枚取り出して、かたっぽの靴と合わせて、お礼はいりませんよというジェスチャーを交えて彼女に手渡した。彼女はそれを無言で受け取り、うなぎパイの個包装をピリピリ破いて、小動物のようにもぐもぐ頬に頬張ると、ベンチにちょこんと座って靴を履き直した。それから僕の顔をじっと訝しげに見つめると急に、ぷ!と噴出して大笑いした。

「ありがとう。そっか!あなたにはここが『ローマの休日』の舞台に見えてたんだね。」

「おうよ嬢ちゃん!ここがヘプバーンがアイスクリーム齧ってた階段で、ここが何を隠そうトレビの泉で・・」

「え!これがトレビの泉なの?でっかい草が生い茂ってるだけのちーちゃなビオトーブじゃん。そんでもって、あなたはグレゴリーペックのつもりなんだ?ふふっ」

「え?似てないかな?」

「全然似てないよ。いい、よく聞いて。私にはね、ここが『雨に唄えば』の舞台に見えていたんだ。ほら、ここがジーンケリーが傘をさしながら『Singin' in the Rain』をノリノリで踊ってた場所だよ。ね、そうでしょ?」

「・・・。そんな馬鹿な・・・。4点ほど異論があります。ちょっと横に座るよ。よっこらしょういち。」

「宝石貴金属商のティファニーが編纂した『ティファニーのテーブルマナー』という本の『レッツビーシーティッド、着席しましょう』の一番初めには、男性は女性を助けて楽にかけさせてあげるのがならわしということが書いてあるわ。ねえ。初対面の女性に『うなぎパイ』、しかもミニを差し出す行儀作法というものは、私にとってはすんごおく魅力的ではあるけれども、普通の女の子にしてみれば、ちょっとそれは作為的であると私は思うなー。それにさ、グレゴリーペックは撮影の合間にトランプを用意してくれたり、スピンやピルエットをするときに助けてくれたり、彼女の名前をタイトルの上にならべるようにエージェントにお願いしてくれたりもしたんだよ~。」

半べそである。

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆


GiGI-AI OZATO(大里愛)
in
『ぎぎ』
with RENE-IZUMI ASAGAWA(朝川泉)
& NORA-A NAMELESS CAT(野良ちゃん)

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆

「いいですか。アン王女とうなぎには綿密な関係があるんです。ジョーのアパートを出た後、王女が市場を楽しそうに歩いているシーンがあるでしょう?彼女は魚屋の屋台に立ち止まって、きゃっ♥と短く叫ぶんです。そう!王室を飛び出して自分の知らない世界に心を奪われたアン王女が、はじめて触れたのもの(魚)こそ、うなぎだったんです!つまり、シーンはカットされているけれども、アン王女はジョーに対してこんなニョロニョロした魚がさっきいたんだけど、あれは一体なあに?とジョーにはしゃぎながら質問していたことも否めない。だからうなぎは、二人の世界を繋ぎとめる役割も果たしているんです。ぬめらかな赤い糸のようにね。ちなみにジョーはオヤジからすいかを300リラで買わされました。オヤジとジョーを・・」

「う・・・。うにゅ~。無理矢理こじつけているけど、とっても詳しいにゅ。でものんのんニョロ。生身の人間が、身体全体で自分を表現できる舞台はミュージカルに限るにゅ。ちょっとみててほしいウナ!今日はいつものよりもいっぱい雨が降ってるにゅ~!降ってないけど~♪」


彼女は変な語尾でそう言うと、少女のようなあどけなさの残る目を僕に向けてウインクをした。そしてひょいっと立ち上がると、鳩のような小さな翼を広げて視界に浮かぶ青空をまるごと抱擁するように『Singin' in the Rain』踊りだした。彼女のダンスはド根性まるだしの駆け出しスターのように、どこか貪婪でへたっぴではあったものの、リトルカフヱーロッテリアでランチを満喫している人々の目も気にせず、春たけなわの子栗鼠のように楽しそうに踊る姿は、生の感情を懸命に表現する意図がとても強く感じられた。ショーウインドー越しで食事をしていた親子連れは、彼女に手を思い切り伸ばしてエールを送っていた。なんとなくだけど、青空という対象が彼女によって抱きしめられ、抱きしめられた対象が自分の内部世界に染色されていくような不思議なキ・モ・チ♥に僕はなった。とっても晴れているのに、雨に濡れた夜空からひょっこり青空が顔を出すように。ん?彼女はカカトを3回鳴らすと、アットホームできちゃうようなそんな不思議な力を持ち合わせているのだろう。僕は気が付くと彼女に大きな拍手を送っていた。

「おにいさんありがとう!私はこの中庭がね、『雨に唄えば』を楽しむ人達の憩いの場になればいいなって思ってたんだ。新しい演劇を披露するための練習場所や撮影場所にもなって欲しいってね。友達は面白がって馬鹿にするけど、ほんとなんだ。真実の口に入れてくれたってかまわないんだから。」

「むむむ!僕もローマの休日巡りをした友達の自慢話を聞いたとき、大嫉妬したことがあってね。無理矢理ココをローマの休日の舞台に仕立て上げて、意気揚々にここが僕にとっての『バイオールミーンズローマ』なんですと紹介したらドン引きされました。。。」

「んふふ、そんなエピソードがねえ。そりゃドン引きするよね。でも諦めちゃダメダーメ。」

Come rain, come shine, come snow, come sleet・・・とな!」

「その通り!嵐が来ようと、槍が降ろうと、The show must go on!なんだよね!それからそれから?」

「僕も『雨に唄えば』を見たことがある。ジーン・ケリーの『Singin' in the Rain』のシーンは僕も大好きだ。そこの松の木を利用して街灯に飛び乗るシーンと、あっちの階段を利用して歩道と車道の段差のシーンを見立てて再現できれば、まさにココは第二の『雨に唄えば』の舞台になるだろうね。」

「おお!なるへそ~。」

「ただし残念ながらここは第二の『ローマの休日』の舞台ですからね。トレビの泉もスペイン広場も両方揃っていますからね!」

「ちがうもん!ここは私が最初にとっぴーした場所だもん!『雨に唄えば』の舞台なんだもん!」

ここは果たして何をモチーフにしているんだろう?『雨に唄えば』?それとも『ローマの休日』?無論ここは『馬津のイトーヨーカドーの中庭』であるけれども、そういった意識の形を映し出して空想を潤してくれるような不思議な場所でもあった。彼女にとっての『雨に唄えば』であり、僕にとっての『ローマの休日』の舞台なのだ。また、誰かにとっての『Girls Just Want To Have Fun』であり、また他の誰かにとっての『Take Me to Your Heart』であるのかもしれない。それらが浸透し合い水となり、尊重し合うことで太陽となり、新しい演劇や物語の双葉の萌芽が土から顔を出したらなんて面白いんだろうと僕は感じた。すると車窓から覗く優しい風景を眺めるように、空想の中に一瞬の懐かしい回想(みたいなもの)が絡み合ったことを僕は感じた。ココは意識のさまざまな層を映し出し、「きみ」と「ぼく」が溶け合うことで、心理的変貌を齎す新しい物語の出発点でもあるんだ。彼女もそんなことを望んでいるに違いない。

「ココはね、いろんな人のいろんな意識のさまざまな層を映し出しているんじゃないかな?例えば「ぼく」が想像する「ローマの休日」と「きみ」が想像している「雨に唄えば」。この二つの想像が溶け合うことで、心理的変貌を齎す新しい物語の出発点になっているんじゃないのかな?そういった心持ちをなんというか知ってるかい?」

え?どういうこと!?へへ・・・」

しくった!!!それは作為的だ。まるで機械工場に掛けられた時計の秒針をじっーと見ているような退屈な台詞。空間を繋ぎとめるものは軛や独占欲や退屈な台詞であってはいけない!オスカー賞を祝う舞踏会が開かれ、淑女がときめくような夢にあふれたそんないかした言葉を投げかけるべきじゃないか!笑わせる引き立て役。彼女は『雨に唄えば』が好きなのか。そうだ!

「『雨に唄えば』で、もうひとつ印象に残ったのが共演の『ドナルド・オコーナー』の好演技。軽快で自由感に溢れて、よくお喋りして、面白い言葉をロックウッドやキャシーに投げかけて勇気づける。からだ全体が生き生きしていて、動きの一つ一つがとてもチャーミングだと感じた。個人的な感想なんだけれど、コズモの恋物語が描かれた番外編みたいなものもあれば、そーゆーのも面白そうだな~って思ったかな。」

「え・・・。」

「でも相手役はどんな女の子なんだろう?ところで君は『Make 'Em Laugh』は好き?」

「え?う、うん!私が一番好きなナンバーだよ!踊ってくれるの?」

「ふぉっふぉっふぉ。ワシはね、本当はアステアがヘプバーンと一緒に踊った『He Loves and She Loves』みたいなメロウなナンバーの方が物凄く得意なんだ。」

「あ~!絶対嘘だ!それは絶対嘘!めちゃんこ似合わないモン!」

「トホホ、本当ですよ。『ソフィー・マルソー』だってメロウなナンバーが本当は好きなんでしょ?」

そんなんじゃないっスよ~、と彼女は照れくさそうに視線を下におろして両手で顔を覆った。モロバレである。。。『Singin' in the Rain』を披露してくれたお礼です、そういって僕は『Make 'Em Laugh』をとても紳士的に披露した。つもりである。二つの映画(CITY)を結ぶ空間の軸を繋ぎとめるように、浸透し合うように、己のステップを信じて、極めて紳士的にダンスを披露した。つもりである。『ローマの休日』も『雨に唄えば』のロケ地も全部回って、笑わせろ!ぜえぜえ。『ドナルド・オコーナー』の軽快なステップとは対照的な幾何学時代の動乱期みたいなへなちょこダンスを踊ると、彼女はああ可笑しい、ブラボ~と拍手し、お腹を抱えて笑った。『センキュー、ファニーフェイスちゃん!』などといった、きれいごとの造花の言葉にまとめるひまもなく、成功報酬の両足に痣、右手に擦り傷をしっかり握りしめ僕は倒れ込んだのだった。


「ありがとう。こんなに笑ったのは久しぶりだよ。ところで、Do you know my favorite poem?」

「Uh, you already recited that for me.」

「"Arethusa arose from her couch of snows, in the Akraceronian Mountains."Keats.」

「Shelley.」


「実際は?」

「シェリー。1820年の詩。タイトルは『アレッサ』だったかな。スペイン広場の階段右手にはキーツの家があって、キーツとシェリーの記念館になっている。多分マルグッダ街でのジョーと王女の議論はこれを知っていたウィリアム・ワイラーの気の利いた洒落心なんだろうね。」

「ふむふむ。」

「君は好きな詩とかあるの?」

「ブラウニングっていう人の『廃墟の恋』。でも・・・」

「でも、どうしたんだい?」

「うーん。名前と一緒にいつの間にか吹っ飛んじゃったんだ。」

「そうなんだ。実を言うと僕は『ロボット』という戯曲の第三幕が切り取られてる。」

「え・・・。そうなんだ。一緒だね。」

「・・・。うん。僕たちは何をしたらいいと思う?」

「うーんと、まず笑うことかな!あとさっき私はココが『雨に唄えば』の舞台といったけれど、私が今までそうしてきたのの全部、あなたにあげてもいいよって思った!『雨に唄えば』もどきのぜんぶ!」

「そっか!じゃあ僕は『ローマの休日』もどきを全部君に捧げてもいい。トレーミーの泉もスペイナー広場も!このトレーミーの泉は、後ろ向きでコインを投げると願いごとが叶うと言われているんだ。」

あんまり嬉しくなさそうである。

僕らは2枚の5円玉をそれぞれ後ろ向きに投げ合って、邂逅を笑い合った。まるで輪投げの腕前を披露するコガネメキシコインコの動画を見たときのように。最初からめぐりあいなんてものはなくって、宇宙が始まる前から『輪投げ』と『コガネメキシコインコ』が惹かれあっていたかのように。『オードリー・ヘプバーン』と『ドナルド・オコーナー』の共演は、お互いの映画知識をフルに振り絞ってみても接点を見つけ出すことはできなかった。でも、なんとなく、どこかで、ちょっぴりと、『オードリー・ヘプバーン』と『ドナルド・オコーナー』の交流があったんじゃないか。そんな確信が僕たちには持てたのだ。

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆

1-2へ続く♥