「ところで」という言葉、英語ではどう訳しますか?
学校では by the way と習った方が多いと思います。
しかし、いざ技術文書や特許・法律文書などを翻訳するとき、私は by the way を使うことに強い躊躇(ちゅうちょ)を覚えます。
映画のセリフなどでもよく耳にする通り、会話でカジュアルに話題を変えるイメージが非常に強いからです。
では、固い文書で「ところで」が出てきたら、どう訳すのが適切なのでしょうか。
話題の転換:「ところで」の落とし穴
日常会話やメールなどでは、別の話題に切り替える表現として
On another note(話は変わりますが)
Apart from...(〜は別として)
といった表現がよく使われます。
日本語の「ところで」は大変便利で、全く別の話題に移るときだけでなく、関連する話題の深掘りや横展開の際にも使われます。
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例1(関連した話題)
「文化祭には多くの来場者が予想される。ところで、屋台の数は足りるんでしょうか。」
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例2(別の話題へ転換)
「文化祭には多くの来場者が予想されます。ところで、運動会の来場者はどうなのでしょうか。」
例1のように文脈が繋がっている(同じ文化祭の)場合、英語では接続詞的な言葉をあえて「何も訳さない(削る)」方が自然になるケースも少なくありません。
日本語ネイティブが無意識に使っている「単に次の文へつなぐ『ところで』」は、翻訳者泣かせと言えます。
AI(ChatGPT / DeepL)に訳させてみると?
では、以下の文章はどう訳すべきでしょうか。
「ところで、近年は、職業に対する個人の考え方も多様化している」
ChatGPTとDeepLにそれぞれ訳させてみました。
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ChatGPT
By the way, in recent years, individuals' perspectives on careers have become more diverse.
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DeepL
By the way, in recent years, individual attitudes to the profession have diversified.
やはりどちらも素直に By the way と訳してしまいます。
特許や技術翻訳としては、文脈に応じた別の表現を検討したいところです。
主要な名詞や動詞の選定についても、両者で差が出ています。
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考え方
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ChatGPT:perspectives on~(〜に対する視点、見方)
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DeepL:attitudes to~(〜に対する態度、考え方)
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職業
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ChatGPT:careers(経歴、職業)
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DeepL:profession(専門職、職業)
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多様化している
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ChatGPT:become more diverse(より多様になった/形容詞+現在完了)
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DeepL:have diversified(多様化した/自動詞+現在完了)
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文字数をコンパクトに抑えたい場合、diversify を自動詞として使うDeepLの選択(受動態にせずワード数を減らす工夫)は理にかなっています。
推敲とリライト(Claudeでの検証)
上記を踏まえ、まずは「ところで」を On another note に置き換えてリライトしてみます。
リライト案1
On another note, in recent years, individuals' perspectives on careers have diversified.
表現としては引き締まりましたが、特許明細書や論文などのフォーマルな文章としては、On another note でもまだややカジュアルな印象が残ります。
AI(Claude)にフィードバックを求めたところ、フォーマルな文書では「削る」か「適切な論理接続詞に変える」のが望ましいとの回答でした。
リライト案2(「ところで」を訳さない選択)
In recent years, individuals' perspectives on careers have diversified.
特許や文脈に応じて補足したい場合は、
Additionally
Further
Moreover
などの加える接続詞を使うと、より自然で格調高い文章になります。
さらに、individuals' perspectives on careers の部分を career perspectives among individuals と表現をまとめることで、よりスッキリとした知的な訳文にブラッシュアップできます。
まとめ
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by the way は会話的すぎるため、フォーマルな技術・特許翻訳では避ける。
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日本語の「ところで」は、必ずしも英語の話題転換(By the way / On another note)と一対一で対応しない。
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フォーマルな文書では、あえて訳さない(削除する)か、Additionally / Further などの論理接続詞に置き換えるのがスマート。
