「・・何だこれ」
最初にその食べ物の写真を見た時の感想である。
その食べ物は、「三不粘」(サンプーチャン)という名前のスイーツであった。
サンプーチャンという名前は、
箸にも皿にも歯にもくっつかない、という意味らしい。
くっつかないということしか情報がない。
料理の名前としてどうなのだろうか。
>おい
私の頭の中は、サンプーチャンでいっぱいになった。
***
YouTubeには、サンプーチャンの作り方動画がいくつかあげられていた。
どの動画を見ても、とにかく中華鍋を叩きまくっている。
7分間もずっと鍋を叩き続けるらしい。
・・・シェフは大丈夫なのか?
こんなに手間をかけた割に、完成品オレンジの丸だけど、それでいいのだろうか?
これで本当に完成なのか?
もう少し何かできることがあるんではないか?
>ほんと何言っちゃってんの
***
くっつかないことしか情報がないこのスイーツに興味津々の私は、めっちゃくちゃネットで調べまくって、
「もうサンプーチャンのことなら何でも聞いて!!!!」という状態で、サンプーチャンを食べる日を迎えた。
最初にテーブルに置かれていた料理の説明の紙には、
すでに頭に入っている知識以上のことは書かれていなかった。早く本物を見たい。
***
いよいよコース料理の最後、サンプーチャンが運ばれてきた。
うわぁ・・!
これは・・!!!
すごい・・!!
ぐでたまを実写化したら、こんな感じかな・・!!
>おい
***
お店の人はこのスイーツがいかにすごいのか、丁寧に説明をしてくれた。
「北京にはサンプーチャンを作れるシェフが二人しかいないのです。そのうちの一人が当店におります。」
と言った。
私は「やっぱり手間がかかる割に完成品がオレンジの丸だし、皿にも箸にも歯にもくっつかないという名前の料理ってあんまりみんな作ろうと思わないのかなぁ?」と思った。
>そういう意味ではない
お店の方は続けた。
「youtubeにも作り方の動画がいくつかあがっておりますが、どれも本物とは違います。
わたくしどもも大体のことは分かりますが、その全てについてはシェフしか知らないのです。
・・・秘伝なのです。」
秘伝!!
私は、秘伝と聞いて、すごくかっこいいなぁと思った。
>小学生男子
秘伝なら、オレンジの丸が完成系でも仕方ないなぁと思った。
***
お店の人が、サンプーチャンを持ち上げて、皿にくっついてないことを見せてくれた。
私たちは
「わぁ本当だ!確かにくっついてないね!」と言った。
そして、取り分けてもらったサンプーチャンを食べて、
「歯にくっつかない!」
「箸にもくっつかない!」
「くっついてないね!」
「確かにくっついてない!」
「本当にくっつかない!」
と、くっつかないことの確認をした。
***
無事、幻のスイーツを食べることができて大満足した。
確かにくっつかなかった。
>名前以上の情報ないんかい