異常なまでにサッカーができない。
スポーツは苦手ではない。
学生の時のスポーツテストはA判定だったし、
ずっと運動部に所属していたし、
特に苦手なスポーツもなかったし。
ただし、サッカーを除いては。
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高校生の頃の話である。
その日の体育の授業は、サッカーだった。
「なるべくボールから遠いところにいよう」
サッカーが苦手な私は、せめて皆さんのお邪魔にならないよう、
できるだけボールから離れた位置にいることにした。
ところが、
サッカーというものを介すると、私はおかしくなってしまう。
足元を転がるボールが、次々と移動するのを見ていると、
自分の体の動かし方までわからなくなってしまい、
混乱した結果、
何もないところで、綺麗に転んだのだ。
ボールも人もいないところで、漫画みたいな転び方をして倒れている私を見て、
先生を含め、みんなが大笑いしている。
何が起こったのか自分でもよくわかっていなかったのだが、
なぜかお腹を怪我していた。
保健室に行くように言われたので、
むくっと立ち上がり、みんなが笑う中、保健室まで歩いて行った。
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保健室に行き、お腹の傷口を見せると、保健室の先生は言った。
「これはちょっとここでは手におえないわ〜」
保健室では手に負えない怪我をしてしまったせいで、私は、病院に行くことになってしまった。
先生は一緒に病院まで来てくれると言ったのだが、あんな訳のわからない転び方をしておきながら、
先生の貴重なお時間を奪ってはいけないと思い、1人で病院に行くと言い張った。
そして、1人で学校の近くの病院まで歩いて行った(体操服のまま)。
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病院に行き、お医者さんに傷口を見せると、お医者さんは、
「あ〜こりゃ縫わないといけないね〜」
さらっとすごいこと言った。
それまでにも危ないことをたくさんして、
怪我をしまくっていたのだが、縫ったり切ったりしたことはなかった。
私は、何よりも注射を恐れていた。
どうしても注射をしたくない。
「どうしてもどうしてもどうしても縫いたくないです!!!」
頼み込んだのだが、先生は、
「今縫わないと、傷跡が残るし、将来ビキニ切れなくなるよ〜」
と、譲ってくれなかった。
「私の人生ではビキニを着る予定はないです!!!」
17歳にして、今後の人生の寂しい予定まで発表したものの、
結果的に、傷口を縫わなければいけないことになった。
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私は、「麻酔の注射が痛い」ということは知っていた。
麻酔の注射さえ耐えれば、そのあとは痛くない、ということも。
そこで、
「麻酔の注射だけはどうしてもしたくない」
と言い張り、
その結果、
麻酔なしで縫うことになった。
今考えると、本当にバカみたいな話なのだが、
その時の私は、麻酔の注射さえ避けられれば、何でもいい、
という考えだった。
看護師さんに大笑いされながら、氷でしっかりと冷やしてもらい、
感覚がなくなった状態で、お腹の傷口を縫ってもらった。
人生初めての手術、という非日常のイベントのため、
テンションが上がりきっていたためか、
傷がそもそも痛いためか、
(お腹が揺れるから)笑うなと怒られすぎて感情がおかしくなっていたためか、
よくわからないが、意外にも耐えられた。
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あの時、私のお腹を縫ってくれたお医者さんに言いたい。
あれから本当にビキニ着ることなかったよ、と。