→続き
3
(1)
次に、問題文の最初から最後まで登場している、Aという人物がとにかくすごい。
Aが、あまりにも無敵すぎる。
(2)
まず、Aは、甲に素手で殴りかかり、甲から包丁を突き出される。
普通の人であれば、突然包丁を出されれば、少しくらいは驚く。
しかし、Aは、「ひるむことなく更に甲の顔面を殴打しようと」する。
刃物がAには効かない。
(3)
ア だからもちろん、Aは、乙からナイフで刺されても、
すぐに振り向き、乙を蹴り付ける。
強すぎる。
イ もちろん、これだけでは終わらない。
Aは、乙に刺され、
全治3週間の右上腕部刺創の傷害を負った状態で、
叫びながら走って乙を追いかける。
これがとんでもなく速いのである。
乙は、逃げながらAの追跡を見て、
すぐに追いつかれて暴力を振るわれてしまうと思っている。
Aは、甲に右手で攻撃をしていることから、恐らく利き腕は右である。
その右腕に、大怪我を負っている。
乙は、この状態のAに追いつかれればやられる、と思っている。
A、強すぎる。
ウ そして、最後が予想外である。
乙は、原付に乗って逃げるが、
この、乙が原付に乗って逃げるという行為は、
乙がAの追跡を振り切るために採り得る、唯一の手段、というのだ。
これだけのダメージを負っていて、原付じゃないと逃げきれないほど足が速い。
Aは一体何者なんだろうか。
(4)
Aという、最強の人物が、問題文の最初から最後まで登場している。
これが、甲と乙を、更に魅力的に見せている。
さすが司法試験の問題である。
4
(1)
もちろん、この問題文の凄さは、登場人物だけではない。
問題文に出てくる、「小道具」の使い方が非常に洗練されているのだ。
そもそも、この問題文には、小道具が4つしか出てこない。
(2)
ア まずは、いわゆる凶器は2種類。
甲が持っている「本件包丁」と、乙が持っている「本件ナイフ」。
どちらも刃物にして、2本だけ登場させる。
イ 次に、乗り物。これも、2種類に絞られている。
甲が隠した「本件バイク」と、乙が乗り逃げた「本件原付」。
いずれも二輪車にして、2台だけ登場させる。
(3)
甲も、乙も、異なる凶器と異なる乗り物を使うが、
共通点はある。
これらの小道具を添えて問題文が流れていく。
何と洗練されているのだろう。
5
(1)
もっとも、私がこの問題文で1番感動したのは、
西暦を明記せずに、時代を伝える手法である。
(2)
この問題文は、日にちが出てくるものの、西暦は明記されていない。
時代が特定されるアイテムは出てこないものの、
普通に読み流してしまえば、少し昔の話なのかな、と思ってしまう。
なぜなら、
Aの
「いい度胸をしているじゃないか。」「覚悟しておけよ」
「何をしやがる。」「まて。この野郎。」
などの発言が、何だか古臭いからだ。
(3)
しかし、さすがは賢い方々である。
問題文後半に出てくる「本件原付」。
これは、飲食物の宅配業者に従事していたDが一時的に停めていたものであるが、
本件原付の前に「D所有の」と書かれている。
ここで全受験生が気づいただろう。
「はいはい。Uber eatsね。」
これが「店所有の」であれば、これまでにも存在したデリバリーサービスであるが、
「D所有の」とつけることにより、
ここ数年で日本でメジャーになった飲食宅配の業者であることを理解させる。
さすがとしか言いようがない。
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この問題文の凄さは、
受験生に、絶対に無駄なことを記載させない、
という様々な配慮(最後の1文等)をしながら、
それでいて、なお、
魅力的な登場人物、
洗練された小道具の使い方、
時代の伝え方、
と、これだけのこだわりを見せつけてくるところにある。
来年の司法試験の問題文を読むのが、今から楽しみだ。