平成30年5月30日公布の改正商法法(本年6月9日施行日)第10条(分割出願の要件) | 商標登録の館

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 平成30年の通常国会に於いて不正競争防止法、特許法等の産業財産権法が改正されました。

 この内、商標法の改正点は、分割出願の要件を強化(要件追加)することで、商標登録出願の手続を適正化するというものであります。

 ここで、「商標登録出願の分割」とは、既に申請している商標登録出願(親出願と言います。)の願書に記載した複数の指定商品又は指定役務の内の一部を補正により削除する一方で、親出願に於いて削除対象となった指定商品又は指定役務を指定商品又は指定役務とする新たな商標登録出願(子出願と言います。)を上記補正書の提出と同時に申請する手続行為を言います。

 

 そのメリット、即ち、その法律効果は、子出願の出願日が親出願日の出願日に遡及する点にあり、その結果、親出願の出願日を基準に子出願の登録要件(実体要件)の具備の有無に関する特許庁に於ける審査が成されることになります。

 

 この分割出願の申請が成される、通常の乃至は典型的な場面としては、特許庁に於ける最初の審査結果が一部の指定商品又は指定役務について拒絶理由があると指摘する「拒絶理由通知書」である場合であります。

 ⇒この場合には、斯かる拒絶理由を回避しつつ拒絶理由に該当しないと判断された残りの指定商品又は指定役務に関して商標権を発生させ、他方で、拒絶理由の対象となった指定商品又は指定役務については、その権利化を図るべく、分割出願として新たな商標登録出願を申請することで、手続的には「仕切り直し」とすることとなります。この様な中間応答事件に於いて、手続遂行のテクニックとして、商標の分割出願が利用される場合が多いと、言えます。

 

 公布後、間もない本年6月9日より早期に施行される改正商標法第10条第1項は、従来の要件に加えて、遡及効という法律効果を得るためには、

 分割出願の申請時に親出願に関して既に出願手数料が納付されていることを、

追加の要件として規定しております。

 その趣旨とするところは、「分割の子出願が親出願の出願日にまで遡る」というメリットを子出願が得られる以上、その前提となる親出願に関してその出願手数料が既に特許庁に納付されていることという当然の要件を満足しておくのは手続の公平・適正化の観点から見て当然のことである、という考え方に根差している点にあると、思料致します。

 

 とは言え、この追加の要件の規定は、一見、変に感じます。上記の通り、分割出願が利用される典型的なケースは、親出願について実体要件に関する審査結果である拒絶理由が出願人に通知された際の応答のstrategy(戦略)として成される場合であります。この場合には、審査官の実体審査が親出願について行われている以上、親出願についてその出願手数料が納付されていることという方式的要件は既に満足されているからであります。若し、親出願について出願料が未納付ならば、その前に親出願に対して特許庁より「手続補正命令」が出される筈であり、その場合の応答が必要となるからであります。

 

 思うに、本件の改正事項(分割出願の追加の要件)は、数年前から生じている、一部の不適切な出願人による分割出願の濫用を防止する政策的観点から導入された法律要件ではないかと、思えます。その様な一部の不適切な出願人は、親出願を申請しておきながら、その出願手数料を払うことなく、分割出願の申請を乱発しているのです。これにより、特許行政は大いに乱され、且つ、適切な後願の出願人の商標登録出願の申請に対して不利益をもたらしております。

 

 尚、分割の子出願の出願日が施行日である本年6月9日以降である限り、親出願の出願日がその前の日であろうとも、子出願に関して本改正商標法第10条第1項が適用されることとなります。

 

                                                                          <以上>