平成30年5月30日公布の改正意匠法第4条第1項及び第2項(本年6月9日施行) | 商標登録の館

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 平成30年改正の知的財産権法の中核は不正競争防止法の改正点にありますが、発明、考案、及び意匠に関する特許法、実用新案法、及び意匠法の改正法に於いても、実務上の観点から重要な改正事項があります。それは、新規性喪失の例外規定の適用を受けるための例外期間(グレースピリオド(grace period))の延長化が挙げられます。即ち、新規性喪失の例外期間が、従前の6か月から1年に延長となりました。このグレースピリオドの延長化は、特許法、実用新案法及び意匠法の各々の新規性喪失の例外の規定に共通しております。意匠法に関してみれば、意匠法第4条第1項及び第2項に定める例外期間の改正となります(6か月⇒1年)。

 

 今回の法改正による意匠法等の「グレースピリオドの延長化」は遅きに失したと言える面があります。それは、世界の主要国の多くが、新規性喪失の例外を受け得る例外期間を既に1年間と定めているためであります。世界で最初に特許制度を法定した米国の特許法(意匠特許を含む。)は、従前からグレースピリオドは1年間であると規定しておりますし、日本国の特許法の影響を受けている台湾の専利法に於いても昨年の改正によりグレースピリオドが6か月から1年間に延長されております。その意味では、我が国の平成30年改正の意匠法第4条、特許法第30条等の改正は、グレースピリオドの期間に関する世界の特許法及び意匠法(専利法)の潮流に従ったものであると言えます。良い意味では、本件改正法は、我が国の特許制度及び意匠制度等の「国際的調和化」を漸く実現化し得たものとして、評価に値し得ます。

 ⇒ そのため、平成30年改正の意匠法第4条、特許法第30条等の施行期間は本年6月9日と定められており、改正法の両院可決(成立)日が本年5月23日であって、当該改正法の公布日(本年5月30日)から起算して短い期間に定められております。この様に、グレースピリオドに関して我が国の特許法・意匠法等が世界各国の法律と早期に同様の規定となる様に、本件改正法の可決から急いて本件改正法を公布し、急いで本件改正法を特許出願及び意匠登録出願等に対して適用可能とした点が、表れております。

 

 ここで、「新規性喪失の例外適用」とは、発明者・考案者・意匠の創作者が自己の創作に係る発明・考案・意匠を自己の意思に反して公開されたこと或いは自己の意思によって公開したことにより一旦新規性を失って出願の申請を行えなくなったとしても、その公開日が出願日から遡って法律が定める例外期間内にあるならば、その様な公開された発明・考案・意匠は新規性を失っていないと擬制される結果、特許出願・実用新案登録出願・意匠登録出願の申請を行うことが可能となり、その様な出願の審査においては公開された発明・考案・意匠は拒絶理由の引用対象から外されることとなる制度を、言います。要は、救済制度であると言えます。

 

 この様な「新規性喪失の例外適用」の出願人による主張は、意匠登録出願の申請に於いて多く見られます。それは、意匠の本質に起因していると思われます。即ち、発明・考案の対象は自然法則を利用した技術的な「アイディア」であって、現実に物が無くても「アイデア」として成立し得、しかも、その「アイデア」は一般的に直接的に視認され難いものであるのに対して、意匠の対象は物品のデザイン、即ち、「物品の美的な外観」であるので、通常は、創作されたデザインが施された物品が、その形態(外観)が視認し得る状態で、創作完了時に存在し得ます。そのため、デザイナー(意匠の創作者)は、出来上がった試作品等の物品を直ぐにHP上に公開したり、或いは、市場調査のために(実際に売れるか否かを見るために)物品を展示・販売したりして営業活動を行い、意匠の新規性を自ら失わせてしまう行為を行い易いからであります。この様な意匠創作者の心理・取引実情を踏まえて、救済規定である、「新規性喪失の例外適用」を定める意匠法第4条第2項の規定が存在するのであり、当該法規は実務面から見て本当に有難い規定であるのです。その規定で定める例外期間が、6か月からその2倍の1年間に延長されたという改正法の規定は、実に重要であり、出願人にとってフレンドリーであって、より利用し易い規定になったと言えます。

                                                                            <続く>