ポール・マッカートニー 語録 過去録 楽曲制作での独自の見解 | ポール・マッカートニー 語録

ポール・マッカートニー 語録

Paul McCartney In His Own Words

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 全世界で愛されたビートルズが解散後、

ポール・マッカートニーのソロ活動45年の集大成となる

“究極”のベストアルバム『ピュア・マッカートニー ~オール・

タイム・ベスト』を発売。同作にはビートルズがポールの脱退で事実上の解散となった1週間後1970年4月に発表された

『マッカートニー』からシングル「ホープ・フォー・ザ・

フューチャー」までの中から名曲を厳選。

ポール本人も選曲に参加したベスト盤のエピソードや、

自身の楽曲制作での独自の見解について語った。

 

――アルバムの企画はどのようにして生まれたのですか?

 

ポール:ニューヨークにいた時に、僕のニューヨーク・オフィスの女の子たちの中でトップの子が、車で旅行をしたときに

僕の曲をずっと聴いていたと言ってきたんだ。

彼女は「このアイディアをひとつの形にしたらいいと思いますよみんなもこんな形で楽しめますからね」と言っていて。

そのアイディアを気に入って、

「わかった、じゃあ僕に提案してみてよ」って言ったんだ。

で、実際に彼女がそうしてくれた……チームと一緒に、

普通はあまり聴くことはないけれど、長時間の車の旅だったり、家でのんびりしていたり、お風呂に入ったりする時に聴くのに

いい僕の曲のセレクションをまとめた。BGM的なものなんだ

けど、主役にもなれればいいなっていう感じのものだね。

 

――幅広い楽曲ですが、リストを作ることは難しかったですか?

 

ポール:確かにそれは難しいことだよね。

本当に曲がたくさんあるから。

でも、客観的な視点を持つことは大事だと思ったこともあって、まず彼女に提案をしてもらい、車の中でどの曲を聴いていたか

説明してもらった。そのリストを見た上で、付け加えたり、

いじってみたりした。彼女自身の客観的な視点があったことで、そういう大変さは軽減されたよ。

 

――車の中でのプレイリストをかけたりしますか?


ポール:ああ、好きだよ。

ラジオ局を切り替える手間が省けるよね。

 

――自身の昔の曲を再訪することは好きですか? 

曲を聴くと、その当時していたことを思い出したりしますか?


ポール:そう、そういうのはあるよね。

しばらく聴いていなかったものを聴いて、

“あれ? 悪くないね”って思えると、

今度は“ライブでやろうかな?!”となる。

そのようにひとつの形になったものもあるよ。

最近ライブでは「ラヴ・ミー・ドゥ」をやっているんだけど、

曲を聴いたら、最初のレコーディング・セッションを

思い起こした。でも、また演奏しようかなって気持ちを掻き立ててくれたのは、実際にそれを聴いたっていうことだったわけで、そういうことから結果的にやることになったんだ。

自分自身の古い曲を聴くのはいいことだよね。

だって一度レコーディングしちゃったものは、

何年も、あるいは二度と聴かないから。

次のことに気持ちが向かうからね!

 

――古い曲のリストを見て、

「こんな曲あったっけ?」っていうようなことはありますか?


ポール:(笑) 実はあるんだよ! そうだね、

タイトルを見て「どんな曲なんだろう」って思うんだけど、

そういうのってイヤになっちゃうよね。アルバムの中には、

あまり頭に残ってない、たいして良くない曲で、

今となっては穴埋め的な曲だなって思う曲があったりもする。

でもね、結構クレイジーかもしれないけれど、「まったく、

あの曲本当に酷いな、あんなのやるんじゃなかった!」

って人に言っちゃうこともあるよ。

 

一度トレヴァー・ホーンに、「『ビップ・バップ』っていう曲があるんだけど、空っぽな曲なんだよね」って言ったことがあるんだ。すると彼は、「えっ、それは僕のお気に入りの曲のひとつ

なんだよ!」と言ってきた。だから実は、そういう可能性も

あるから、何もはずしちゃいけないって言うことなんだ。

 

その時は好きじゃなくても、それを気に入ってくれている人もいるかもしれないし、「だからこれをレコーディングしたんだ!」って思わせてくれることもあるからね。自分で見極めるのは

とても難しいから、そういうのをもう一度聴いて、特にそれに対して誰かが「ああ! これ好きだよ……」って言ってくれれば、その曲をもう一度好きになるきっかけになる。

 

――折衷的な曲のセレクションですが、それをひとつに束ねて

いるのがあなたの音です。曲を書く時に、あなただけのユニークなサウンドがそこに存在していると認識していますか?


ポール:それはどうすることもできないことだよ。駆け出しの

ころ、エルヴィス(・プレスリー)を真似していたんだけど、

結局それはエルヴィスをポール・マッカートニーが真似しているのであって、エルヴィスではない。僕なんだ。若い子たちには、人を模倣するっていうことは悪くはない、モノマネタレントで

ない限り同じにはできないからねって、よく言うんだ。

 

単に誰かにとても触発されているっていうことだけだし、

僕自身も実際にそうだしね。僕の高い、振動する声はリトル・

リチャードに影響を受けているけれど、リトル・リチャード

みたいな音は出せてないよ。

彼ほど上手じゃないし、本当に最高だからね。

 

――音楽を書くとき、メガヒットを書こうと思って着手するのか、あるいは単に曲を書いているという意識なのでしょうか?


ポール:本当に特別な曲になればいいな、と期待して曲作りを

する。ある意味、そうだね、これまでの中で一番の曲を書こう

っていう意識だよね。そうやって書き始めるっていいことじゃ

ないかな。そこまで凄い曲にならなくても、

うまくいけばそれでも結構いい曲になったりもするしね。

そう、だから僕は常に最高峰を目指すんだけれど、

そうならなくても結構いい曲になったりする。

 

――これはヒット曲になるっていうのは自分で分かりますか? それとも思ってもいなかった曲がヒットすることもあるので

しょうか?


ポール:両方だね。曲を書くと、“これはとてもいいね、

この曲はとてもいい仕上がりだし、うまくいくな”って思うこともある。「マイ・ヴァレンタイン」を書いた時、

そういう気持ちが強かったね。演奏はとても簡単で楽しめた。

しかも(妻の)ナンシーのために書いたので、

「できたぞ! これいいね」って思えた。

 

でも、わからないこともあるよ。例えば「ゲット・バック」は、当初いろいろ詰め込み過ぎているっていう感じだったんだ。

最初からそうで、“まぁ悪くはないけれど、

ちょっと詰め込み過ぎだな”ってずっと思っていた。

すると皆が「結構いいね」って言ってくれて、

シングルになってアルバムに入っても信じられなくて、

友人やいろんな人に披露するようになった。

 

ツイギーがべた惚れしていたね。「最高! この曲大好き!」

っていうもんだから、みんな間違ってなかったんだ、

いい感じの曲になってるって思えた。

でもそうだね、わからないこともあるよね。

 

――「夢の旅人」は? 当時あんな怪物的ヒットになるなんて

誰も予測していませんでしたが。

 

ポール:あれはヒット曲を狙っていたわけじゃない。

新しいスコットランドの曲がないな、古いものばかりだなって

思っていただけなんだ。バグパイプ・バンドが「アメイジング・グレイス」という古い曲を演奏していた。そこで、

誰かが新しいものを書けばいいんじゃないかって思った。

僕もスコットランドに住んでいて、かなり長い間スコットランドで時間を過ごしていたこともあって、

「僕がやるべきだ、やってみるか!」ってなったんだ。

そこでやってみた……ヒットするなんて思っていなかった。

 

ただ、レコーディングが本当に素晴らしくて、

さらにバグパイプ・バンドの特に若い連中が皆

「これ最高だ、ヒットするよ」って言ってくれていたからね。

この時もやはり彼らがヒットになるよって言ってくれたことに

影響を受けて、それを信じられるようになったけれど、

それでもそこまでじゃなかった。

だってあの当時はパンクの時代だったし、

そんな時代にスコットランド・ワルツが発売されても

誰も聴かないんじゃないかって思っていたんだ。でも、

その頃パンクに浸りまくっていた娘のヘザーがタイミングよく、「この間パブにいたら、パンクの友だちが『夢の旅人』をかけていたのを見せてあげたかった」って言ってくれた。だからそう

いうものだよね……どうすればうまくいくのかわからないよ。

 

まだわからないこともあるんだ。リバプール総合芸術大学で

学生に作曲の話をするとき最初に言うことは、

「正直に言おう、どうすればできるのか僕にはわからない。

物理の授業で先生が教えてくれるように、こうすればできるよ、とは言えない」なんだ。でも同時にいつも、

「どうすればいいのかはわからないけれど、

君たちと曲を書くなら、僕だったらどうするかは伝えられるよ」っていう免責事項は付け加える。

でもこれこそが真実だから、こう言うのが好きなんだ。

曲を書くための方程式のようなものは習ったことがない。

だから曲を書くっていうのは、まるで山高帽から兎(うさぎ)を出すようなもので、特別で、まるで魔法のようなものなんだ。

 

――曲を書く時に必ずする、

一風変わったことは何かありますか?


ポール:特にないかな。家の周りの一角を10周して、

熱いお風呂に入って、今度は氷だらけのバスタブに入って、

立て続けにコーヒーを3杯飲むけど、

決してそれが儀式みたいなものじゃないからね!! 嘘だよ。

結構楽しんでもらえたっぽいから、そうしておこうか! 

そんなことはしないけど、ギターかピアノでとにかく書き始める(もちろん、熱いお風呂の後に)。

 

――技術、あるいは音楽を提供するフォーマットの

変化を通して、物事へのアプローチは変わりましたか?


ポール:いや、全く変わらないね。

影響を与える可能性があると前は思っていたし、

音楽に影響を与えるものだとみんな思うみたいだけれど、

それは媒体、音楽をのせる手段にしかすぎないし、

曲を作るのは自分自身だしね。

だからアナログレコードだろうと、カセット、CD、

ダウンロードだろうと、曲は変わらないし、それによって

自分のやることを変えるなんていうことはしないよ。

 

――未発表のオリジナル曲のアーカイヴはあるのでしょうか? または、上手くいかないと思ったら、

そういうものにはその後手を付けないのでしょうか?

 

ポール:昔の作品のリマスタリングをやるときって、

保管庫を掘り起こすわけだけれど、時々僕の制作チームが

「見て! こんなの見つけたよ!」って言ってくることがある。そういうことがあると僕は、「そうだよ、気に食わなかったから埋葬したんだ!」と答えるんだ。

 

すると、その曲が好きだって言われたりして、

説得されてしまうこともあるんだよね。

いくつかちょこちょこしたものもあるけれど、

リマスタリングをやっていると、すり抜けちゃうことが大半で、最終的にはボーナス・トラックになったりする。

そこまでいくと、もうどうでもよくなるんだ。

 

でも、もともとは曲にして完成させるつもりだったような、

アイディアみたいなものが結構ある。

メロディみたいなのがたくさんあって、あのメロディは

好きだけど曲にはしていないな、というものがあるんだ。

 

次のアルバムのために今それらを手掛けていて、

いくつかは曲として仕上がりつつある。

メロディの断片を本来とは違うほかの曲の中で

使っているものもあるけれど、それも結構面白いよね。

だから現時点では、そういうもので色々試しているところだね。

 

――新しいアルバムに取り組むとき、コンセプトやタイトルを

念頭におきながら作業するのでしょうか? それとも、

制作過程の後半でそのようなものが思い浮かぶのですか?

 

ポール:大半は後半かな。

実際のところ、いつも後で浮かぶかな。作品を手掛けるとき、

できるだけ良いものにしてそこから気に入った曲を選んで、

順番を決める。その頃には、

「じゃあこれはどんなものに仕上がっているんだろう」

っていうことになるんだ。

 

時には、『メモリー・オールモスト・フル』のように、

携帯電話に表示されたフレーズが目にとまったりして、

これは短いけれど最高の表現だなって思ったりする。

我々の生活ってまさにそういうものだよね。

本当にいろんなものが僕らに向かってくるわけで、

僕らのメモリーもずっと一杯一杯だよね。だから、そのことも、携帯電話のそのフレーズも皆に理解してもらえる。

 

『NEW』については、候補タイトルはたくさんあったんだ。

でも、しっくりくるのがなかった。

そこである日、そういえば新しい粉末洗剤を買う、

新しい掃除機を買うっていうことを考えていたら、そうだ!

 ニューだ!ってなったんだ。そこで新しいアルバムを『NEW』と命名することにした。古くてもそれでも新しいからね!

 

――その時点で書いてあったものはありましたか?


ポール:曲はあったよ。ナンシーと僕が一緒になるっていうアイディアだったし、僕たちも新しいっていうところから始まった。それに、NEWっていう言葉もクールだよね。あまり見かけないものだし、ぴったりなんじゃないかって思ったんだ。

 

2016-06-08 ORICON NEWS