ポール・マッカートニーは、史上最も偉大な成功したミュー
ジシャンであるだけでなく、熱烈な音楽愛好家の一人でもある。
彼は他のアーティスト、特にソングライターに対して賛辞を
惜しむことがない。大衆が口ずさみたくなるような曲を
創作することが、いかに難しいかを知っているからだ。
英国の音楽雑誌『Mojo(モジョ)』は、ロック界のスーパー
スターたちに、史上最高のソングライターの一人として認知
されているボブ・ディランへの敬意を表すことを求めた。
彼らは各々、ディランがこれまでリリースした楽曲の中から
最も好きな曲を選び、その曲がなぜ自分にとって
特別な意味があるのか、その思いを語った。
この企画に参加したアーティストは、シンガーソングライターのデヴィッド・クロスビーやシェリル・クロウ、パンクの女王と
して知られるパティ・スミス、U2のボノ、そしてラッパーの
Nas(ナズ)など。マッカートニーもその中に含まれており、
彼がどの曲を選んだのか、気になる人は多いに違いない。
元ビートルズのマッカートニーが最も好きなディランの曲として挙げたのは、『Mr. Tambourine Man(ミスター・タンブリン・マン)』だった。そして彼は、それが最もクールな選択だとは
思わない人々がいることを知っている。しかし、気にしていないようだ。いつものマッカートニーらしく、ジョークを交えながら、少々自嘲的に語った話は「陳腐な選択だということは承知
している」と認める言葉から始まっている。
続いてマッカートニーは、なぜ『ミスター・タンブリン・マン』が彼にとって一番の曲であるかを説明する。「ロイヤル・アルバート・ホールでディランが演奏するのを聴いた」。『Mojo』はそれが1965年5月9日のコンサートであると記している。
「私は彼がその曲を演奏するのを切望していたけれど、ディランのことを知っているから、やらないかもしれないとも思った。
やっかいで、強情な男だと思っていたからね」
それからマッカートニーは、彼が観たこのコンサートが、
ディランのファンとロック歴史家の間では、このフォークミュージシャンに多くのファンが腹を立てたコンサートとして記憶
されていることを暴露した。ディランは、コンサートの前半には伝統的なサウンドとスタイルの曲を演奏したが、後半はプラグを差し込み、エレクトリックなパワーのあるロック調の曲に
進出して、多くの反発を招いた。
ディランのこの決断に批判的な人々の中に、マッカートニーは
いない。「あれは悪名高いショーだった。フォークミュージックの支持者たちは皆、ディランが魂を売り渡したと思った」。
ツアー中のマッカートニーはそう語り、
「なんてくだらないんだ。すばらしかったよ」と続けた。
話を『ミスター・タンブリン・マン』に戻すと、
マッカートニーは「彼はあの曲を演った。ライブで聴いたのは
初めてだった。本当に良い曲で、あの時代そのものだ。完全に
あの年と合っていた。その場にいられたことは幸運だった」
と語っている。
『ミスター・タンブリン・マン』はディランの最もよく知られた曲の一つだ。彼はこれまで正式にシングルとしてリリースした
ことはないが、ディランがこの曲を書いたのと同じ1965年に、新進気鋭のバンドだったザ・バーズがこの曲に独自のアレンジを加えてカバーし、The Billboard Hot 100チャートで1位を
記録。フォークとロックを融合させた「フォークロック」と
呼ばれるサウンドの確立にひと役買い、2つのジャンルの
溝を埋めた。
( 2024.06.22 Forbes JAPAN )