ポールとのコラボレーターの中でやや控えめな(そして
実のところ、あまり知られていない)アーティストの一人が、
ミュージシャンでありプロデューサーのユースとの仕事である。
ユースは本名をマーティン・グローヴァーと言い、最初に頭角を現したのはポスト・パンク・バンド、キリング・ジョークの
ベーシストとしてだったが、彼のダンス・ミュージックに惹かれたポールは、1993年のアルバム『Off The Ground』制作時、
数曲のリミックスを依頼したのだった。
このパートナーシップは、まず同年のアルバム『Strawberries Oceans Ships Forest』という形で実を結んだものの、
これはザ・ファイアーマンという名義でリリースされた作品で、スリーヴにはポールの名前もユースの名前もクレジットされて
いない。それから現時点までに、更に2枚のアルバムが
具現化されているが、1枚は1998年、もう1枚は
それから10年の時を経て世に出た。
ユースはこう回想している。
「ある日、ポールがリンダと一緒にどこかへ行かなきゃ
ならなくなって、俺はひとりでザ・ミル(サリー州にある
ポールのスタジオの名称)に残って作業してました。
彼らのヘリコプターが戻って来たのはかなり深い時間で、二人は既にシャンパンを何杯か引っかけてて、子供たちも一緒でした。ポールが俺に向かってこう言ったんです、
『僕ら、もうちょっとここらで観ててもいいかな?』って。
まるでそこが彼のスタジオじゃないみたいにね。
結局彼らはみんなそのまま居残って、
太陽が出るまで音楽に合わせて踊ったりしていました」
ファイアーマンのセカンド・アルバム『Rushes』は、
リンダが1998年4月、56歳の若さでこの世を去る直前に
ポールが録音作業を行なっていたプロジェクトのひとつだった。ユースはこう説明する。
「俺たちがそのアルバムをレコーディングしてたのは、ちょうどリンダの癌治療が最後の段階に差し掛かってた時でした。
彼女はまたプロジェクトに積極的に関わり出していたんです。
彼女が亡くなった時はもの凄く悲しかった。
今アルバムを聴くと、まるで彼女へのとても美しい
レクイエムみたいに感じられます」