ポール・マッカートニー 語録 906 取るに足らないことでも | ポール・マッカートニー 語録

ポール・マッカートニー 語録

Paul McCartney In His Own Words

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* ポール・マッカートニーとリック・ルービンの両者は
Zoomでの3者インタビューに応じ、ドキュメンタリー
『マッカートニー 3,2,1』の制作過程について語った。

― 『ザ・ビートルズ:Get Back』についても聞かせて

ください。当時取るに足らないと思われていた瞬間の数々が

大きな意味を持つことになったわけですが、
人々が今それを求めているという事実に驚きを感じますか?

ポール:そうだね。どうでもいいと思っていたことに、

皆が興味を示しているわけだからね。
失われたはずの自分の物語の一部に関心を持ってもらえる

っていうのは、やっぱり嬉しいよ。

作品に使われているかどうかわからないけど、ビートルズの

初期のセッション(「One After 909」)でこんな事があった

んだ。僕らがみんな階下にいて、プロデューサーは上階にいた。

その日、僕は自分のピックを持ってくるのを忘れて。
僕とジョンが好んで使っていたやつで、僕らはプレックって

呼んでた。プレックを持って来るのを忘れたと僕が白状すると、

彼は「どこに置いてきたんだ?」って言った。
「ホテルに置いてきちゃったんだ。

スーツケースの中かどこかだと思う」って僕がいうと、

彼はこう言った。「まったく、おっちょこちょいだな」。

当時の自分たちの姿が見られるのはいいものだよ。

取るに足らないことでも、僕らが歩んできた道のり全体の

一部として捉えれば、それが重大な意味を持ったりするんだ。

リック:いちファンとして、ビートルズのことを少しでも多く

知りたい。それはもう絶対に。何かを好きになると、

どんな些細なことでも知りたくなるものだから。
情報源が限られているものだと、その思いは一層強くなる。
ビートルズの場合だと13枚のアルバムしかないわけだから、
それ以外のものはまさに天からの贈り物です。
私は若い頃からビートルズのブートレグやアウトテイク、

スクラップなんかを集めていますが、

もはや外典のようなものです。

ポール:そういう人々にはきっと、ピーター・ジャクソンが

撮ったあの映画を楽しんでもらえると思う。

彼が厳選したそういったものが、

あの作品にはたくさん使われているから。
あれを観れば、あるストーリーが完結するのを感じると思うよ。
当時の日常の取るに足らない瞬間の数々が、

物語の欠けていた部分を補完するんだ。
60時間にも及ぶ映像の編集作業にも音を上げなかったのは、彼が僕らの物語とそれらの素材に敬意を払ってくれていた証拠だよ。
その60時間をまるまる経験したいっていう人も、

きっといるんだろうけどね。

(リックとインタビュアーの両方が手を上げる)

リック:ここに2人いますよ。

ポール:でもリックが言ったように、

これは限られた素材から作られたものだ。
こういう時、僕はよくピカソの作品を引き合いに出すんだ。
彼の歴史はある時点で始まり、ある時点で終わっている。
青の時代の作品を好む人もいれば、

キュビズムの作品の方が好きだという人もいる。
僕は両方好きなんだ、どちらも彼の作品だからね。
彼のちょっとした落書きみたいなものにさえ、僕は魅力を感じる。それってビートルズも同じなんじゃないかと思うんだよ。

リック:取るに足らないものがヒントになることってありますよね。ピカソのちょっとした落書きを見て、

彼の絵画からは知り得なかったことを理解したり。

ポール:その通りだね。

『Get Back』のルーフトップ・ライブのシーンで、
ジョンが曲の歌詞を忘れてしまう場面があるんだ。

適当にごまかそうとする彼のすぐ足元で、
誰かが歌詞を書いた紙を彼の方に向けてる。

僕はあのシーンが好きなんだ、
彼だって完璧じゃないんだってことを示しているからね。
撮影しているにも関わらずああいうものを用意させたのは、
ジョンが自分の不完全さを敢えて示そうとしていたからだ。
こういったディティールからジョンの素顔が浮かび上がって

来ると思うし、それはバンド全体にも言えることだ。その意味

でも、こういう部分に光を当てられたことを嬉しく思ってるよ。

(ポールの妻である)ナンシーによく話していることがある

んだ。初めて会ったのは10年前で……話していて思ったけど、
出会ってからもう10年も経つなんて信じられないな。
とにかく出会ったばかりの頃、

「さっき妹に会ってきたの。楽しかったわ」っていう彼女に、
僕はこう言ったんだ。「もっと詳しく話してよ。

妹に会いに行って、そこで何があったのか教えて。
何か食べたかい? どんなことを話したの? 

ディティールが知りたいんだ」。
僕はそういうタイプなんだよ、

ストーリーの詳細まで知りたくなる。
それはもう無数に存在するんだよ、気の遠くなるほどにね。
幸いなことに、僕はそういうのをよく覚えてるんだ。

リック:あれだけの映像素材が残されていたというのは、

本当に素晴らしいことですよね。
『ザ・ビートルズ・アンソロジー』を初めて観た時、
携帯電話のなかった時代にこれだけの映像が残されていたって

いうことに、ものすごく驚かされたんです。

非現実的で、目を疑うとはこのことだなって。

ポール:きっとまだどこかに眠っているはずだよ。
ビートルズが忘れ去られないのは、

それも理由の1つなのかもしれないね。
知られていない一面がまだ残されていて、

人々がそれを発見し続けてる。僕はいつも、

みんなが全部知っているものだと思い込んでしまいがちなんだ。
人は年をとると、

「僕は同じストーリーを延々と繰り返しているのだろうか?」
って自問するようになる。

そういう時、僕はいつも自分に

「君はどうやってジョンと出会った?」って問いかけるんだ。

適当に話をあつらえることはできない。もしかしたら、

過去に話した内容と少しだけ違うことを言えるかもしれない。

いずれにせよ、僕は誰かに語りかけることをやめない。
「えっ? 君は夢の中で『Yesterday』を聴いたの?」

みたいな反応が相手から返ってきた時には、

そのストーリーをまた繰り返してる。

「この話、本当に聞いたことないの?」って感じだけどね。

でも本当に、まるで知らない人もいるんだ。
若いリスナーも増えているけど、

彼らが知らないことってたくさんあるんだよ。
だからこそ、『3, 2, 1』みたいな作品に意味があるんだ。
アーティストのリチャード・プリンスは音楽が好きなんだけど、

昨日彼に会った時にこう言ってたよ。
「あんな風にテンポを下げることで『Come Together』が

生まれたなんて、まるで知らなかったよ」。

あれは素晴らしい企画だったと思う。

リックと膝を交えて話すことができて、とても楽しかった。
あれなら何時間だって続けられるよ。デフ・ジャムのこととか、

リックが初めてプロデュースしたレコードのこととか、

その時のセッションの様子とか、

聞きたいことも聞けずじまいだったけど、

それはまた次の機会にとっておくことにしよう。

( ポールとリック・ルービンが語る、

 『マッカートニー 3,2,1』とザ・ビートルズの普遍性 /              2021/12/28 Rolling Stone Japan )