母親を許せない気持ちが少し変わった日|30年前の手紙 | 天使

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 「真紀へ。

いつか大人になったあなたへ」

 

その文字を見た瞬間、

真紀の手が止まりました。

 

見覚えのある、

少し右上がりの文字。

 

母の字でした。

 

封筒は、

机の一番奥の引き出しにありました。

 

少し黄ばんでいて、

角も丸くなっています。

 

書かれた日付を見ると、

30年前。

 

真紀が15歳の頃でした。

 

「……何これ」

 

真紀は、

誰もいない部屋で小さくつぶやきました。

 

その日、

45歳になった真紀は、

久しぶりに実家へ来ていました。

 

母から、

 

「押し入れを片づけたいから、

ちょっと手伝って」

 

と連絡があったのです。

 

正直、

あまり気は進みませんでした。

 

母とは、

昔からあまりうまくいっていません。

 

子どもの頃から、

 

「ちゃんとしなさい」

 

「もっと勉強しなさい」

 

「そんなことして、

将来どうするの?」

 

何をしても、

否定されているような気がしていました。

 

テストで90点を取っても、

 

「あと10点は?」

 

と言われる。

 

絵のコンクールで賞を取っても、

 

「そんなことより勉強しなさい」

 

と言われる。

 

高校を選ぶときも。

 

大学を選ぶときも。

 

仕事を決めるときも。

 

結婚するときでさえ、

 

母は必ず、

何か一言言いました。

 

真紀には、

それがずっと苦しかったのです。

 

大人になってからは、

必要以上に実家へ帰らなくなりました。

 

電話がかかってきても、

短く済ませる。

 

母から何か言われれば、

すぐに心の扉を閉める。

 

そして数か月前。

 

電話で、

また言い合いになりました。

 

母が、

 

「そんな働き方してたら、

身体を壊すわよ」

 

と言ったのがきっかけでした。

 

真紀は思わず、

 

「もう子どもじゃないんだから、

いちいち言わないでよ!」

 

と怒鳴ってしまいました。

 

母も、

 

「心配して言ってるのに、

その言い方は何なの!」

 

と言い返しました。

 

それ以来、

ほとんど連絡を取っていませんでした。

 

だから今日も、

必要なことだけ話して、

片づけが終わったら帰るつもりでした。

 

母は途中で、

近所のスーパーへ買い物に出かけました。

 

その間、

真紀は古い机の整理をしていました。

 

使わなくなった通帳。

 

昔の写真。

 

年賀状。

 

古いボールペン。

 

その一番下に、

白い封筒がありました。

 

「真紀へ。

いつか大人になったあなたへ」

 

封は、

開いていました。

 

迷いました。

 

読むべきじゃないような気もしました。

 

でも、

自分の名前が書いてあります。

 

真紀は、

ゆっくり便箋を取り出しました。

 

最初の一行を読んで、

目を疑いました。

 

「真紀へ。

 

本当は、

あなたを怒りたいわけじゃありません」

 

真紀は、

その先を読みました。

 

「最近、

あなたに『ちゃんとしなさい』と

言ってばかりですね。

 

言ったあと、

いつも後悔しています。

 

私は、

お母さんになることに、

ずっと自信がありません」

 

真紀は、

椅子に座りました。

 

母が、

そんなふうに思っていたなんて、

一度も考えたことがありませんでした。

 

手紙は続いていました。

 

「あなたが失敗しないように。

 

困らないように。

 

私より、

もっと幸せになれるように。

 

そう思えば思うほど、

 

『勉強しなさい』

 

『ちゃんとしなさい』

 

と、

きつい言い方になってしまいます」

 

真紀は、

昔の母の顔を思い出していました。

 

怒っている顔。

 

眉間にしわを寄せた顔。

 

ため息をついている顔。

 

真紀の記憶の中で、

母はいつも、

不機嫌そうでした。

 

でも、

手紙には、

こんなことも書いてありました。

 

「あなたが寝たあと、

言いすぎたかなと思うことがあります。

 

もっと優しく言えばよかった。

 

もっと笑って話せばよかった。

 

でも翌日になると、

また心配になって、

同じことを言ってしまいます」

 

真紀の胸の奥が、

少しだけ痛くなりました。

 

そして、

最後の方には、

こう書かれていました。

 

「いつかあなたが大人になったとき、

 

私の言葉で傷ついたことがあったら、

ごめんなさい。

 

あなたには、

私が選んだ人生ではなく、

 

あなた自身が、

幸せだと思える人生を

生きてほしいです。

 

うまく言えないけれど、

 

私は、

あなたのことが大好きです」

 

そこで、

真紀は便箋を閉じました。

 

すぐには、

何も考えられませんでした。

 

母に傷つけられたことが、

消えたわけではありません。

 

あの言葉を言われなかったことにも、

できません。

 

「本当は愛していたんだから、

全部許さなきゃ」

 

そう思えたわけでもありませんでした。

 

ただ、

 

真紀の中で、

ずっと一つしかなかった母の姿に、

 

もう一つ、

違う姿が重なりました。

 

何でも正しくて、

何でも決めつけて、

娘を思い通りにしようとする母。

 

その裏側に、

 

どう育てたらいいのかわからず、

 

失敗させるのが怖くて、

 

自分の言葉が正しいかどうかもわからないまま、

必死だった一人の女性がいた。

 

「お母さんも……

怖かったのかな」

 

真紀は、

初めてそんなふうに思いました。

 

玄関の扉が開きました。

 

「ただいま」

 

母が戻ってきました。

 

買い物袋を持った母が、

真紀の手元を見て、

ぴたりと止まりました。

 

「……何してるの?」

 

真紀は少し迷ってから、

言いました。

 

「これ、

読んじゃった」

 

母の顔が、

固まりました。

 

「何を?」

 

真紀は、

封筒を見せました。

 

母はしばらく黙っていました。

 

そして、

少し困ったような顔をして、

 

「……そんなの、

まだあったの」

 

と言いました。

 

「覚えてる?」

 

「知らない。

そんな昔のこと」

 

母はそう言いながら、

目を合わせませんでした。

 

昔の真紀なら、

きっと腹が立っていたと思います。

 

「またそうやって、

ごまかす」

 

と言っていたかもしれません。

 

でもその日は、

少し違いました。

 

真紀は、

手紙を机の上に置きました。

 

そして言いました。

 

「お母さんも、

大変だったんだね」

 

 

母は、

一瞬だけ真紀を見ました。

 

そして、

 

「……今さら何よ」

 

と言いました。

 

でも、

その口元は、

少し笑っていました。

 

それ以上、

二人は何も話しませんでした。

 

昔のことを、

全部話し合ったわけでもありません。

 

母が謝ったわけでもない。

 

真紀も、

 

「もう全部許したよ」

 

なんて言いませんでした。

 

ただ、

一緒に押し入れを片づけました。

 

お昼には、

母が作った焼きそばを食べました。

 

「味、薄くない?」

 

「ちょうどいいよ」

 

「昔はもっと濃い方が好きだったでしょ」

 

「もう45歳だから」

 

「まだ45でしょ」

 

そんな、

どうでもいい話をしました。

 

夕方。

 

真紀は帰る支度をしました。

 

玄関で靴を履きながら、

いつもの癖で、

 

「じゃあ」

 

と言いかけました。

 

でも、

少しだけ言葉を変えました。

 

「また来るね」

 

母は、

驚いたような顔をしました。

 

そして、

 

「……うん」

 

と答えました。

 

車に乗ったあと、

真紀はしばらくエンジンをかけませんでした。

 

30年前の手紙を思い出していました。

 

過去は、

変わりません。

 

言われて傷ついた言葉も、

寂しかった夜も、

なかったことにはできません。

 

でも、

 

過去の見え方は、

変わることがあるのかもしれません。

 

「あの人は、

どうしてあんなことをしたんだろう」

 

その答えを知ったとき、

 

心の中で、

長い間固まっていたものが、

ほんの少しだけ

ほどけることがあります。

 

許すということは、

 

過去をなかったことにすることでも、

 

傷ついた自分に、

我慢をさせることでもなくて。

 

その人を、

もう一度、

違う角度から見てみることなのかもしれません。

 

そして、

それができたとき。

 

一番自由になるのは、

 

相手ではなく、

自分なのかもしれません。

 

もし今、

心の中に、

ずっと許せない誰かがいるなら。

 

無理に許さなくても、

いいのだと思います。

 

ただ、

いつか。

 

「この人には、

この人なりの理由があったのかもしれない」

 

そう思える日が来たら。

 

そこから、

止まっていた時間が、

ほんの少しだけ

動き始めることもあるのかもしれません。

 

※この物語はフィクションです。

 

ここまで読んでくださって、

ありがとうございます^^

 

自由と幸せを届ける

エンジェルセラピストのタカです。

 

僕自身、

許すことって、

「相手を正しいことにする」

という意味ではないと思っています。

 

傷ついたなら、

傷ついたという気持ちも大切です。

 

ただ、

その出来事を

ずっと同じ角度から見続けなくてもいい。

 

別の角度から見たときに、

少しだけ心が軽くなることも

あるのかもしれません^^

 

もしこの物語が、

今日のあなたに

何かひとつでも残ったら嬉しいです。

 

そして、

 

「今の私に必要なメッセージって、

何だろう」

 

と少しでも感じた方へ。

 

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