1.「自由な時間」は増えているのか、減っているのか?
本日は、「自由な時間」を獲得するには何が一番大事かというテーマです。
相変わらず、日本共産党の志位議長は、こう言っているようです。
志位氏は、現行の綱領路線を確定した1961年以降、日本共産党は国政選挙で3度の躍進をしてきたが、そのたびに「共産主義には自由がない」などの激しい反共攻撃にさらされてきたと指摘。「自由の問題は日本共産党が多数派になるためには避けて通れない論点だ。マイナスイメージがまだ強いが、それを巨大なプラスに転換させたいという思いが最初の動機だった」と話しました。
さらに、研究を進める中で視野が広がり、「自由に処分できる時間」が人間の発展や生き方にとっても重要な意味を持つ普遍的な課題であることが見えてきたと強調。「若い世代の結集や現代の労働運動にも生かすべき課題として、より広い意義をもつものではないか」と述べました。
さらに、「共産主義と自由」「自由に処分できる時間」の問題は、マルクス理解の根本にかかわる問題であり、「国際的な理論交流も進めていきたい」と語りました。
でも、ちょっと論理が飛躍していませんか?
資本主義体制のなかで、労働時間がむちゃくちゃ奪われて、この体制ではどうしようもないから「共産主義」へ、っていうのならわかりますが、資本主義体制のなかで労働時間は減っているんじゃないでしょうか?
日本の労働時間の統計の取り方はふたつあって、パートタイマーも含んでいるので、「労働力調査」というもので比較する人もいます。
上の図は、その両方が記載されています。パートタイム労働も含めば、日本はアメリカより労働時間は短いということになりますが、パートタイム労働を除けば韓国の次に長いということになります。
それでも1970年代の年間2600時間から、いまでは700時間も短い1900時間になっています。
この推移をみる限り、共産主義革命が必要には思えません。
2.労働時間が減ったのはどうしてか?
しかし、どうして労働時間は減ってきたのでしょうか?
それは労働生産性とその要因を考える必要があります。
労働生産性は、この図のように付加価値額(売上額ー生産にかかる経費)と労働投入量(労働時間×労働者数)で計算できます。
労働生産性を上げるには、付加価値を上げ商品の値段を上げるか、同じ額のものなら労働時間や労働者数を減らす方法があります。
1970年代以降、先進資本主義国ではどこも労働生産性は伸びています。
日本も1990年代までは着実に伸びていたのですが、その頃から停滞し、2010年くらいまで再び伸びたのですが、その後下降し、停滞したのです。
〇1970年のGDP/労働時間(労働生産性)ランキング
1970年頃は労働時間が長く、低価値商品を作る「大量生産・大量消費」の時代でした。
日本の労働時間の長さが問題になっていましたが、労働生産性もOECD諸国の平均以下でした。
〇1997年のGDP/労働時間(労働生産性)ランキング
それに比べ、1997年はOECD平均を超えています。
ただ、こういう見解もあります。
日本は当時34.9ドルで、OECD34か国中13番目の水準です。
確かに、平均値26.2ドルよりも大きく、ドイツやフランス、イギリス、アメリカとも遜色のない水準まで向上していることがわかります。
この時の為替レートは、110円/ドル(年平均)です。
思い出していただきたいのは、平均給与や1人あたりGDPは当時もっと上位だったということですね。
1997年で平均給与はOECD中3位、1人あたりGDPは同4位でした。
それに対して、労働生産性は13位に過ぎないようです。
労働時間あたりの指標である労働生産性を十分に高めることができなかった、というのは非常に大きなポイントだと思います。
最近の2019年はどうでしょうか?
〇2019年のGDP/労働時間(労働生産性)ランキング
為替レートは109円/ドル(年平均)で、1997年の時点とほとんど変わりません。
しかし、日本は平均所得も、1人あたりGDPも、労働生産性もOECD中20位と同一順位で、下位グループに属することになります。
いやこれは為替の問題にすぎないという人もいると思いますので、下の図は、主要先進国の労働生産性(労働時間あたりGDP)の為替レート換算値について、2022年の最新データまでのグラフです。
やはり、日本は為替レートを考慮しても、労働生産性の伸びに問題がありますね。
3.労働生産性を上げ、「自由な時間」を獲得するにはイノベーションが最重要!
日本は1970年代以降、高度成長のために大量生産・大量消費の生産でGDPを伸ばしてきました。
しかし、やがて、その時代は終わり、多品種・高付加価値の時代になりました。
諸外国は、イノベーションにより労働生産性を上げ、長時間労働を解消していきました。
しかし、日本と韓国はその例外だったといえます。
相変わらず、他国に比べて長時間労働で、高付加価値商品を作ろうとしたのです。
その結果、労働生産性が上がらず、アメリカ以外の他国に比べて労働時間がOECD平均より長い結果になっています。
これを解決するにはイノベーション(技術革新)によって、労働に投入する労働者と労働時間を減らすしかありません。
経済がグローバル化し、国際競争が激化している時代に日本が沈み込まないにはそれしかないのです。
では、今イノベーションを起こす条件はどうなっているのでしょうか。
まず、起業数です。
これは、世界の多くの国が参加する「Global Entrepreneurship Monitor(グローバル・アントレプレナーシップ・モニター)」5(以下、「GEM調査」という。)ですが、起業活動者の割合は米国、中国、オランダ、英国、ドイツの順で、その次が日本になっています。
いまや、起業家の比率は社会主義国・中国に抜かれているのです。社会主義国にはふつう起業家(資本家)はいないはずなんですが...。
次にイノベーションのための特許出願です。
これは、2010年代から中国がダントツの1位になり、アメリカが2位、日本や韓国、EUがそれに続いています。
その特許を支える研究開発費はどうでしょうか?
研究開発費は、アメリカが1位、中国が2位、EUが3位、それから差が開いて、日本となっています。
これからわかるのは、人口と国家予算でとてもアメリカと中国にかなわない日本ができることは何なのかということです。
それは起業家を増やし、そこに研究開発費を投入することくらいでしょう。
つまり、「自由な時間」を増やすには、志位氏がいうように「共産主義」の国を目指すのではなく、全く逆の小さい資本家をたくさん増やす道なのです。
社会主義であるはずの中国が向かっているのはそういう国なのです。