「マサズ劇場」 その6 | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。


1月15日。
 

早いもので、もう1月も半分が過ぎた。
 

1年の24分の1、、1日に例えると、1時間が過ぎたということになる。

 

昨年末に注文したパソコン台はようやく到着し、満身創痍のボロ机を放っぽりだすと、事務スペースはいくらかシステマチック(?)になった。
 

パソコンも一台増えて3台になったから、「まだかよー」 なんて順番待ちしなければいけないこともなくなるだろう。

 

「なんだこれ? なんでこんなところにいらないタオルが一杯入ってんだ?」 「時計の箱がたくさん段ボールに入ってますけど、どうしますか?」 「ん? セイコー、、シチズン?、、 いらねー! どんどん捨てちゃっていいいよ。」

 

机、イス、段ボールその他のガラクタを廃棄するついでにスタッフルーム(小狭い収納部屋)の不用品整理を始めると、、出るわ出るわ、まあよくここまで捨てずに溜め込んだと思うほどの、ガラクタの山ができた。

 

 

片っ端からゴミ袋に放り込んでいると、

 

「あ、ジャンクヤードって書いてあるのがありますよ。 昔っぽいですねー。」

 

真下の声に顔を上げると、、腕時計を並べて収納する、ロール型のケースが2つ。

 

ジャンクヤードがパスタイムになったのはもう20年以上も前のことだから、確かに古い。

 

 

「これなー、、、」

 

そのロールに腕時計を巻いてはしまい、しまっては広げを繰り返しながら、あちこちの骨董市をドサ周りしていた頃。

 

若き日の記憶が、一瞬、懐かしく蘇った。

 

「捨てちゃっていいんですか?」

 

「ああ、、、いいよ。」

 

残念ながら、感傷に浸っている暇はない。

 

 

一通り片付いて、一服している頃

 

「どうも、おめでとうございます。 今年もよろしくお願いします!」

 

この春から研修に入る、新人の篠原くんが新年の挨拶にやって来た。

 

もう一人の新人の清水くんと彼はともに時計学校の同期で、現在、研究室に残って卒業作品を製作している。

 

2人とも昨年11月までは毎週のように店に顔を出してアンティーク時計をいじり始めていたが、年末からは研究室の方が忙しくなって、顔を出せなくなっていた。

 

 

「どう、卒業製作の方は? 何とか展示会までに終わりそう?」

 

「ええ、、まあなんとかしないといけないんですけど、、コロナで遅くまで研究室に残れなくなったので、結構ギリギリで、、。」

 

無理もない。

 

だいたいこの手の作業はやり出すと予定より時間が掛かるのが常で、、思ったより早く終わるなどということはまずないのだ。

 

その上緊急事態宣言の発令で作業時間が削られることになれば、苦しくなるのは当然。

 

清水くんの方からも、数日前同じような状況の報告がメールで来ていた。

 

 

まあ、それもよし。

 

プレッシャーの掛かった場面をどうにかやり越す力は、うちに入れば当然必要になる。

 

若い2人にとっては、いい経験になるに違いないのだ。

 

 

「いててて」

 

最近、目薬がやたらに目に沁みるようになった。

 

商売柄、疲れ目は日常的だが、沁み方が尋常でなく、しばらく目を開けられなくなることがあるほど。

 

さすがにちょっと心配になって近所の眼科で眼底検査をしてもらうと、、「年齢なりの白内障ですね。 でも緑内障の兆候はないから大丈夫。 もっと進んだら、手術もできますよ。」

 

 

緑内障がないならまあいいか、とホッとするも、、、年齢なりの白内障ねぇ、。

 

そう言えば、来月で58になるんだっけ。

 

そう言えば、上の奥歯も一本グラグラしてるのがあるし。

 

まったく、いつのまにそんな時間が経っちまったのか、、。

 

 

周りを見回すと、、古参の岩田が40代半ば、辻本が30代半ば、三十路に入ったばかりの寺田と真下に続き、佐々木は20代前半。

 

春に加わる新人二人も20代だから、、、世代交代の気配は、パスタイムにも訪れている。

 

隠居してのんびりとした老後を過ごす願望のない私だが、どうあがいても、時計をいじっていられなくなる時がくるのは間違いない。

 

いつだか買い付け先のアメリカで、震える右手を左手で押さえつつ作業をしている老時計師を見たことがあるが、(笑)

 

これはハッキリ言って危ないし、そのうち時計を傷つけて、顧客にも迷惑をかけることになるだろう。

 

そうなる前に、なんとか店の態勢を整えておかないと。

 

 

「ほらーっ、ダメだよこれじゃあー。 オジサン、塗装の腕悪いんじゃないのー!?」

 

ガスマスクをした寺田が、岩田にイジられてうなだれている。

 

辻本の文字盤は、あいかわらず悪戦苦闘続き。

 

毛彫りした線に入れた焼き付け塗料の一部が、薬剤の沸騰や超音波洗浄で剥がれるトラブルは先週も触れた通り。

 

今週は新たな塗料を取り寄せ、鉄道模型をやっていた寺田が自前のエアーブラシで塗料を吹き付けたが、塗料の粒子が細かい線の奥に

 

到達する前に乾いてしまい、どんどん上に厚くのってしまう。

 

 

「、、塗料をもう少し希釈して、粘度をもう少し落とさないとダメですね。」

 

と寺田。

 

「テストピースではうまくいったんだよな? だったら同じ割合で希釈すればいいんじゃないの? うまくいった時に、塗料どんだけに対して溶剤どんだけってちゃんと数字にしとけばいいだろ。」

 

と指摘するも

 

「あー、でも、塗料の粘質って室温や湿度ですごく敏感に変わるんで、、、単純に数字にしても同じにならないんですよ。 毎回実際に吹いてみて、確かめないと、、。」

 

「ふーん。 そんなもんかねぇ、、。」

 

もともと塗装屋ではない寺田にそれ以上言うのは、無理があるか。

 

 

とりあえず、出来るまでやるしかない。

 

今までだってそうだったんだから。

 

うまくいく方法が確立するまで、こうしてこうなればうまくいくとハッキリ分るまで、ひたすら粘る。

 

近道はないのだ。

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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