「回想」 その15 | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。

 

 

二日酔い気味で迎えた、翌日のアンティークバザール。
 

悦ちゃん(今のかみさん)に応援を頼んだ私は、昼過ぎまで掛かって、ディスプレーを大きく変えた。
 

 

 

『君の商品は見易す過ぎるから、お客様はそこに留まる必要がない』
 

 

前夜 「I」 さんに言われたことを参考にして商品の一部を視線から隠し、前に出ていてよく見える商品は、極力値段の安いものに。
 

雑貨の乗ったテープルはブースの端に移して私からの距離を取り、、それから、Gケースの上にはプレートを出し、一部の時計やライターも、お客様が手に取りやすいようにしてみた。
 

 

 

先に昼食を摂った私が売り場に戻り、「どう ?」

 

悦ちゃんに聞くも、、「ダメ。 まだ、、全然。」

 

交代した彼女が食事から戻って来て、「どう?」

 

「いや、、。 まだ全然」

 

結果がそう簡単に出るほど、、、商売は甘くなかった。
 

 

 

あいにくその日は来店者の少ない静かな日だったこともあり、、、夕刻になっても、たまにレジを鳴らすのは 「I 」 さんのアーバンアンティークスのみ、という状況ではあった。
 

「I」 さんは時折私のところにやって来て、「どうだ?」 とか 「ディスブレー、大分いい感じになったじゃん」 などと気遣ってくれていたのだが、、。

 

結局その日も、ジャンクヤードはボーズ(売上げ0)を食らい、、、長い一日を終えたのだった。
 

 

 

帰りの電車は、いつもながらの寿司詰め。
 

売り上げのない日は、これが特に堪える、、。

 

私と悦ちゃんの二人はまたもやヘトヘトになり、、地元の駅で、電車を降りた。

 

 

 

西武新宿線 久米川駅。

 

さっきまでいた銀座とは別世界の、田舎街。

 

歩いているのは、数人連れの酔っ払いかヤンキー、肩で風を切る顔見知りのチンピラ、、。

 

ロータリーを突き切り、ラーメン屋、大衆スナック、焼き鳥屋やパチンコ屋などが点在する一角を抜け、、、年中 「店じまいセール」 の洋品店や、在庫のまばらな自転車屋の並ぶ商店街を曲がって薄暗い用水路の歩道に入ると、、、すれ違う人は人はもういない。

 

何というか、、およそ金の臭いのしない街。

 

 

 

都営団地に向かってトボトボ夜道を歩きながら、、考えた。

 

こんなところでアンティーク屋をやっても、絶対に無理。

 

店を始めるにあたり、何人もの知り合いに、同じことを言われた。

 

確かにそうかもしれない、、。 

 

だからチャンスだと思って、銀座に出店したのだ。

 

でも、銀座に行っても売れないじゃないか。

 

じゃ、一体、どこでどうすればいいんだよ?

 

 

 

直ぐに帰る気がしなくなって、団地の前の公園に入った。

 

街灯がまばらで、薄暗い。

 

確かあれは、、、悦ちゃんとブランコに腰かけている時だったか?

 

 

 

「ミャー、、」
 

「ん?」
 

後ろの方で、、、微かな声を聞いた気がした。
 

 

 

「何か声がしたよな?」
 

「うん。 聞こえた。」
 

「ちょっと、、、シー、、」
 

二人して耳を澄ます。
 

「ミャー、、、」
 

「やっぱり!」
 

 

 

声の元は、ブランコの隣の砂場の方。
 

つつじの植え込みのあたりか?
 

そーっと近づいて目を凝らすと、、、いた!
 

 

 

植え込みの陰にダンボール、、、その中に、、、小さな子猫が一匹。
 

明るいところに運んで、子猫を取り出した。

 

 

 

「わぁ~、、小っちゃい。 トラだね。」
 

「 うん、、、しかし頭に来んなー。 こんなところに捨てやがって!」
 

「どうするの?」
 

「どうするって、、。 まいっちゃうなー、こんな時にまったく、、。」
 

正直、私の頭はアンティークバザールのことで一杯で、、、ニャンコちゃんどころの騒ぎではなかったのだが、、。

 

 

 

 

「置いといたら死んじゃうよね? まだ産まれたばっかりみたいだし、。」
 

「んー、、、、。」

 

「どうする?」

 

「悦ちゃんちは?」

 

「うちは無理だよー。 チャンプ(犬)がいるし、、。」

 

「そっか。 まあ、しょーがねーな。 とりあえず連れて帰るか、。」
 

 

 

結局その晩、、、私たちは子猫を抱えて、うちに帰ったのだった。

 

 

 

 

(続く)

 

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