ヤツが宿泊しているホテルの近く、上野の店で、私達は集まることになった。
Kenと彼のフィアンセ、Gと私の4人に、少し遅れて私のカミさんと長女も合流する運び。
カミさんがKenに会ったのは、私たちがロサンゼルスで最後に会った時たった一度だけだけど、そのカミソリのような目に強烈な印象が残っていたようだし、今年25になったばかりの長女は当然本人に会ったことがないが、子供の頃からKenのことは何度も話して聞かせていたから、連絡すると間髪入れずに「行きます」と返事が返ってきた。
先に店に入った私とGは小さな個室に案内され、ビールを飲みながらKen達の到着を待つ。
まだ顔を見ていないGは、事の経緯に興奮が収まらない。
ほどなくやってきたKenと通路で出くわすと、、一瞬、互いに驚いたような様子を見せながら、人目もはばからず、ガッチリと乱暴に抱き合った。
35年ぶりの3人は、最初こそお互い不思議なものを見るような様子になったが、しばらくすると、不思議なくらいにあの頃のままに戻った。
最初から飲みっぱなしの私とG、そしてほとんど酒をやらないKenのグラスには、いつまでも一杯目のビールがずっと残ったままオーバーアクションで話す。
思い起こせば、老朽化した借家に棲んでいたあの頃の私たちは、いつもそうだった。
「でさ、なんで急に連絡取れなくなったんだよ。周りも誰も居所を知らなかったぞ。」
「うん。実は子供ができたのがきっかけだったんだ。マサが日本に帰ってから、しばらくした頃だったかな。」
「ん、子供?」
「うん。35になる息子がいるんだ。台湾にいて、オレの会社を引き継がしている。カミさんとはとうに別れたけどね。」
「そうなんだ。でも、それとこれと、いったい何の関係があんだよ?」
「うん、まあ。あの頃、オレがどういう連中と付き合い始めてたか、知ってるよね?」
「ああ知ってるよ。 最後に会ったときに連れてきたスティーブっていうヤツ、、オレは悪いけど好きになれなかった。 俺とカミさんが泊ってた安宿に拳銃持ってきて、ニヤニヤしながらカチャカチャ玉を込めてたヤツな。」
「スティーブは死んだよ。」
「あ、そうか。いや、悪かったな。 まあ、ヤツ自身が特別に嫌いだったってわけじゃないんだけど、、、なんていうか、あういう連中とお前がつるみ始めたのが心配だったんだ。」
「わかってるよ。 他の仲間もほとんど死んだ。 生きてるヤツは、みんな刑務所だ。2生涯の終身刑なんてのもいるよ、ワハハ。」
「ところで、マサはなんでまた時計屋になってんだ? 時計をしてるのなんか見たこともなかったし、いつもGと海の話しばっかりしてたのに。」
「まあな。いろいろあってさ。 Gだって、あれからしばらくしてメキシコの娘と結婚して、何年か前に帰ってくるまで、メキシコに25年もいたんだぜ。」
「へー、メキシコのどこ?」
「ラ ・パズってとこ。 バハカリフォルニアの先端のあたりだよ。」
「そうなんだ。 なるほど、、あのあと、みんないろいろあったってことだな。 なにしろ35年だからな。」
しばらくすると、カミさん、それに続いて長女もやってきた。
二人を紹介しながら、みんなで乾杯のやり直し、しばし賑やかな時間が過ぎたが、、まだ、私の中の「謎」 は解けないまま。
フィアンセのMさんは慣れない日本酒がかなり回ったようで、、彼女をいったんホテルに送り届けに行ったKenが戻ってきてしばらくすると、「申し訳ございません。そろそろ閉店のお時間ですので、、。」
時計の針は、とっくに12時を回っていた。
「まだまだ話し足りないけど、部屋にいる彼女が心配だし、明日は出発前に観光の予定があるんだ。 そのかわり、近々改めてどこかで集まろうよ。 必ず。」
フィアンセと翌日帰国するKenを、これ以上引き留めることはできない。
別れを告げた私たち4人は裏手の居酒屋に移動して、Kenの話しの続きに思いを巡らせつつ、朝方まで安酒を飲み続けたのだった。
(続く)




