吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。

 

今日は、3月28日の土曜日。

 

ご存知の通り、都知事によって 「不要不急の外出自粛」 が要請された、週末の初日ということになる。

 

 

イベント会場や遊園地のみならず、百貨店まで臨時休業している中、、、パスタイムは平常通りの営業。

 

こういった状況で店を開けるのはどうなのかという声もあるだろうが、そもそも私を始めうちの連中にとって週末は休日ではないし、それに、皆やらなければならない仕事は押している。

 

「出歩かないでうちに居る」 という選択は、明日、明後日の定休日にと考えている。

 

 

空き空きの電車に乗り、店に着いてコーヒーを淹れて一服。

 

さすがに今日は来客はないだろうと思いきや、、「こんにちはー」

 

開店一番、すぐ近所にお住いの方が、修理品の時計を幾つかお持ちになった。

 

昼食後に一息ついてアルバイトの真理ちゃんと 「今日はもうどなたもいらっしゃらないだろーねー」 なんて言っていたのだが、、夕方にかけて、修理品のご依頼、時計の御注文、と数人の方が続いた。

 

ちなみに今日の吉祥寺は、東急デパートが閉店、井之頭公園も閉鎖、という状況なのだが。

 

もしかすると、熱烈な時計ファンにとっては、時計は 「不要不急」 ではないのかもしれないか、、。。

 

 

そう言えば、9年前の東日本大震災のことを想い出した。

 

常連のお客さん2人と時計談義をしていると、突然、「ガタガタガタ」

 

皆で店から飛び出すと、建物は大揺れ、一息ついた頃ネットを見ると、、、宮城や岩手、福島あたりを中心に、信じられないほどの被害。

 

そして福島の原発は、、崩壊しかけていた。

 

しかし、確かその僅か2日か3日後に、パスタイムに飛び込んできた、福島のお客様がいたのだ。

 

 

「あー、○○さん! 良かった。大丈夫だったんですね。 それにしても、よく今日いらっしゃいましたね!」

 

「私は大丈夫だったんだけど、、、引き出しが倒れたはずみでこの時計が飛び出して、床に落ちたんですよ! 直りますかね!」

 

「えっ? いや、それはまあ時計は直りますけど、、それより、おうちなんかは大丈夫だったんですか?」

 

「いや、家はダメ。 全壊しましたよ。 でも家はまた建て直せばいいけど、この時計は、、。」

 

それほどまでに、と、話しを聞けば聞くほどこちらの方が驚いた。

 

 

話しを元に戻すと、、この数か月、テレビをつけてもスマホを開いても、「コロナ、コロナ」

 

事実、世界中にこれだけ重大な被害をもたらせている訳だし、わが国日本も 「爆発寸前」 と言われていて、これから先どのようなことになるのかは、誰にも分らない状況。

 

私自身知らず知らずのうちに感染している可能性がゼロではないから年老いた東村山の両親に会うのは避けているし、かみさんや子供たちにも出来る限り人気の多い場所には集まらないよう言い聞かせてある。

 

しかしそれでも、万一私や私の家族が感染、もしくは店のスタッフが感染した場合、店は閉めざるを得ないし、それが長引けばその間に必要な諸々の経費、資金繰りは補償されず、私はたちまち困ることになるだろう。

 

くそ―、30年も頑張って来たのにこんなことでへこたれてたまるか>

 

不安、焦燥、。

 

それは大いにあるが、、、でもそうなったら、それはそれで仕方ない。

 

現実、出来ることを精一杯やって、それでもダメな時は受け入れる。

 

そのつもりでいれば、さほど怖くはないのだ。

 

 

本当に怖いのは、平常心を失うこと。

 

つまり、パニックを起こすことの方だ。

 

こうなると、冷静に、理論的に考えればなんでもないことが、なんでもないことではなくなる。

 

 

ダイビング屋だった若い頃、嫌というほどそれを知った。

 

たった3メートルの水深の潜水プール。

 

その底で潜水講習をしている時、水中マスクにチョロチョロっと水が入る。

 

冷静に考えれば、マスクに入った水くらいどうでもいい。

 

目に入ったってちょっと沁みるくらいでどうということはないし、万一鼻から思いっきり吸い込んだって、ちょっとむせるくらいのもの。

 

でもそれがきっかけでパニックを起こすと、「息が出来なくなるのでは?」→「窒息する!」→「早く陸上に戻らなければ!」

 

結果、すごい勢いで水面まで飛び上がる人が出て来るが、たった3メートルの水深でも場合によっては潜水病に掛かる。

 

幸い私のいたショップではなかったが、実際、そういった死亡事故は何件もあった。

 

 

「買い占め」 もパニックだ。

 

メーカーがアナウンスするように、トイレットペーパーは物理的に充分足りている。

 

でも一たびパニックを起こした人が買い占めを始めると、それによって実際に入手できない人が出て来る、つまり足りなくなるわけだ。

 

冷静に考えれば、なくたってどうということはないではないか。

 

別に手で尻を拭いても洗えばいいし、ウォシュレットもある。

 

 

私の両親のような高齢者、一定の持病を持った方にとって、コロナウイルスは間違いなく脅威だ。

 

万一罹患したら直ぐにでも入院、手当てが必要になるから、そのためにも、医療崩壊させるわけにはいかない。

 

 

普段はピンピンしている私も、充分に気を付けて、むやみに出歩かないように。、

 

それでも万一罹患してしまったら、平常心を失わないよう、努めて冷静に。

 

私は、重症かしない限り病院には行かず、直るまでうちで大人しく寝ているつもりなのだ。

 

 

 

 

 

 

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そんな風にして 「ジミーズ オークション」 は会期中の土日に行われ、ガッチリ稼いだ彼は、ブロンド美人とニューヨークに戻って行く。

一体彼は何者だろうか?

「ヤツはニューヨークで会計事務所をやってるって聞いたよ。 頭のいい男だけど、それだけじゃないな。 度胸もあるよ。」
 

時計屋のボブさんはそう言った。

 

確かに時計屋ではないし、かと言ってコレクターでもない。

 

何しろ買った時計は全部その場で売り払ってしまうのだし、、それに落札者に時計を放り投げてよこしたり、売れ残った時計を床に叩きつけて笑いを誘ったりすることもあって、、とても時計自体に興味や愛着があるようには思えなかった。

 

 

商品も持たずにやってきて、たった一日で数千万円を稼ぎ出す。

 

「いいなぁ。」 とか 「クールだな」 なんて言う連中はいるけど、誰も同じことをしようとはしない。
 

数十から数百点のアンティーク時計をガラスケース越しに値踏みするのは至難の技だし、、、それに、万一買い取った時計が思惑通りの値段で売れなければ、大損することもあり得る。
 

度胸がいいのは、確かだろう。

 

 

あれは確か、テキサスのダラスだったか。

 

会合の最終日、それなりの買い付けを終えて一人会場内をフラフラしていたら、背後から誰かに肩を叩かれた。

 

「時計は要るか?」

 

振り返ると、ジミーが立っている。

 

「今回は昨日今日でそれなりに買えたけど、、、出物があるなら買うよ。」

 

私がそういうと、彼はちょっと待ってろと言わんばかりに人差し指を立ててから、空いているテーブルを見つけて、アタッシュケースを置いた。

 

ケースを開けると結構な数の時計が詰め込まれていて、ジミーはそれをポイポイと無造作にテーブルに放り出す。

 

大半はスイス製の腕時計、いくらか懐中時計もあったが、どうやらさほど特別なものは無さそう。

 

まあ値段が合えば、と言った感じか。

 

 

「今回のオークションの残り物だ。 どれも悪い物じゃないけど、全部まとめてくれりゃあ安く譲るよ」

 

「そうか。 オーケー。」

 

しかしルーペを出して時計を見始めると、ジミーはじきに私を急かしだした。

 

「もういいだろ? もうじき空港に行かなきゃならない。 時間がないんだ。 全部まとめて$10000でいいから。」

 

点数からすると悪い値段には思えなかったが、、なにぶんまだロクに品物を見ていない。

 

「 さあ、どうする? どっちにしても早くしてくれ。 買わないなら急いで他を当たるから。」

 

 

この辺のスピード感には、元々かなり違いがある。

 

私が特別にのんびりとしている訳ではなく、というよりむしろ日本人としてはかなりせっかちな方なのだが、、、概してアメリカやヨーロッパの連中は、取引のスピードが早い。

 

一因としては自国のエンドユーザーの性質の違いもあるのだが、、つまり、一般的に日本人のコレクターは品物の状態に細かい注意を払う傾向があるから仕入れに際して相当に細かいチェックが必要になるが、西洋人はかなり大雑把。

 

時には殆ど品物を見ていないんじゃないかというスピードで金を支払ったら時計はポケットに直接捻じ込んで次に行くという感じで、、今でこそ欧米並みのスピード?を誇る私も、当時は 「早く慣れなきゃ」 と常に意識していた。

 

実際、日本の業者がゆっくり慎重に品物のチェックをしていて、後ろから覗き込んでる奴に 「俺が買うよ」 とやられ、頭の上で商談が成立してしまったケースをみていたのだ。

 

 

「$10000 だね。 オーケー。」

 

ウエストポーチから引っ張り出した100ドル札の束を渡すと、そこだけ慎重に確認し終えたジミーは金をアタッシュケースに放り込み、手を差し出してウィンクした。

 

「Good Luck, Masa.  商売になるといいな。」

 

 

「うわっ、やられた!」

 

帰国した私は、完全に頭に血が昇っていた。

 

ジミーから買った一まとめの時計を改めてチェックすると、、これもダメ、あれもダメ。

 

出てくるは出てくるは、、壊滅的な状態の時計や、偽物、改造品の山。

 

まともな品物はほんの一握りで、、中にはムーブメントが入っていない空っぽのケースにコルクが詰めてあり、そのコルクに文字盤や針が糊でくっつけてある時計なんてのもあった(笑)

 

「妙に急がせるなーと思ったら、やっぱり。 くそ―、、ジミーの野郎、、。」

 

 

しかしこれは、後の祭り。

 

そもそもプロ同士の取引きは完全な自己責任だから、自分で見て買った以上、それがどんなに酷い品物であっても後になって文句は言いッこなしが掟。

 

要は、判らないヤツが悪い。

 

仮に次回の会合で奴に文句を言えば、それは 「素人まがい」 「面倒なやつ」 ということで周りの業者に伝わり、、少なくとも 「とっておきの時計」 を優先して私に見せたりするヤツはいなくなるのだ。

 

ジミーはそれを充分に知っていて、後々面倒のない、極東から来るようになった新入りの私をターゲットにしたのだろう、、。

 

そういう意味では、確かに 「頭のいい男」 か、、。

 

 

部品取り用のジャンクBOX行きとなった 「ジミー'S コレクション」 

 

大半は部品を使ったり新人の練習に使ったりで、見るも無残にバラバラになった。

 

あれは甘ちゃんだった私への試練なのか、素人まがいがプロになるための授業料と言うべきか、。

 

 

アメリカに行かなくなった私は、もうジミーに会うことはないだろう。

 

今でも部品探しで引き出しを開けるとヤツを思い出すことがあるけど、不思議と恨みの気持ちは消えた。

 

時間は、全てを癒してゆく。

 

私より少し上くらいの感じだったから、ヤツも今頃は還暦のオッサンかな?

 

あの目の覚めるようなブロンド美人も、もう結構なオバサンか、、。

 

苦々しかったあの日の記憶は、そんな風に優しいセピア色の一ページに変わっているのだ。

 

 

 

(終わり)

 


 

 

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目の前の時計屋に大量の札束を渡し払い終えたジミーを見て、周囲はソワソワし始めた。

 

そして、これから何が行われるのか知っている連中は、先を争ってジミーの元に押し寄せるのだ。

 

ちょっと遠巻きに見ている私の隣で、シカゴのボブさんがつぶやいた。

 

「マサ、そろそろ始まるぞ」

 

 

充分な人だかりが出来たのを見ると、ジミーは時計屋が座っていた椅子を引っ張り出してその上に立ち上がり、叫んだ。

 

「Hey, guys !! Are you ready !? 」   

 

すると周りの連中も

 

「Yeah !」 「Go ahead, Jimmy !」 

 

 

ブロンドの美女は時計のショーケースの蓋を開け、中から時計を一つ摘まみ出してジミーに渡す。

 

時計を受け取ったジミーはしばらくそれを眺めるた後、皆に見えるように手を高く突きだした。

 

「よし、コイツから行こう.。 ステンレスのロレックス サブマリーナ、$1000スタートだ! ほら$1000だぞ !」

 

「$1200!」 「$1300!」 「俺は$1500だ!」 「$2000!」 「$3000!」

 

大勢が競り合って、、たちまち値段はつり上がってゆく。

 

「どうだ? $3000でおしまいかよ? カモン! オリジナルバンド付のサブマリーナだぜ! もう誰もいないか?」

 

「$3200!」

 

ジミーの足元にいた背高ノッポが、思い切ったように叫んだ。

 

いつも会場で見かける、ドイツのバイヤーだ。

 

「よし、気に入った! $3200。 時計はあんたのだ。 ほらっ!」

 

ジミーが男に時計を放ってよこし、ブロンド美人は男から金を徴収する。

 

「よし、次はパテック フィリップのカラトラバだ。 コイツは、、、$2000 !」

 

 

そんなペースでジミーのオークションは小一時間も続き、ショーケースが空っぽになると皆バラバラと引き上げてゆく。

 

そして、またしばらくしてジミーがどこかのショーケースに貼りつくと、、、皆、ソワソワしだすのだ。

 

 

ちょっと考えると、不思議に思われるかもしれない。

 

ジミーがオークションする時計はそもそも時計屋が会場で売っているものだから、なにも慌ててジミーから買わなくても時計屋から買えばいいのに、と。

 

しかしそこには、妥当性があるのだ。

 

 

仮にショーケースに並んだ時計の販売価格の合計が、5000万円だとする。

 

もっとも大概の場合、プロ同士の売買では時計に値札は付けていないからハッキリとした金額は算定できないが、、、これは大まかな相場の話しだが。

 

ジミーのヤツは一つ一つの時計を見定める。

 

コイツはちょっとキズが多いから高くは売れない。 こっちは物がいいけど、去年から売れ残ってるからそろそろ手放したいだろう。

 

そして個々の時計の 「買取り価格」 を隣のブロンド美人に伝え、合算させる。

 

 

問題はその金額だ。

 

例えばそれが、1000万円だった場合。

 

時計を売っている業者からすると、個々の時計を全部普通に売った場合は5000万円になるが、そいううことはまずない。

 

全てを売り尽くすには何か月も、場合によっては年単位にもなるし、、どうしても売れ残りも出る。

 

売った後のメンテナンスも面倒もなく、その場で1000万円のキャッシュに替わるなら悪くないのでは?、と。

 

もちろんそれが仕入れ値とあまりにもかけ離れていれば了承することはないだろうが、、、ジミーのヤツは、その辺の塩梅も実によく分かっているのだ。

 

 

一方、ジミーのオークションで時計を買ったバイヤーからすると、元々時計屋が売っていた値段の半額くらいで競り落とせたりする。

 

それでも全体を5分の1で買ったジミーは2.5倍で売ったことになるから、全て売り尽くせば、充分な儲けが出る仕組み。

 

その場合、ジミーは一回のオークションで、1500万円の儲けを得る訳だ。

 

 

(続き)

 

 

 

 

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