吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。


「おーし、いくぞ。そっちしっかり持ってろよ。せーのっと。」
 

「あ、ちょっとまって下さい、ちよっと、あ、っと。」
 

反対側を支えていた佐々木があたふたした
 

「なんだよ、若いのに情けねーなー。 もっと気合い入れねーと。 ほら、いくぞ。 せーの。」

 

2つ並んだギョーシェマシンの重量は、それぞれが裕に100キロを越える。
 

おまけに土台に比べて頭が重いから、いい加減に動かすと倒れる恐れがあって危ない。
 

結局、辻本と私、佐々木に真下の4人でちょこちょこと少しずつ移動して、応接スペースはいくらか広くなった。
 

「これでよし、と。」

 

店の改造をはじめて数週間。
 

これでようやく一段落ついた感じになったかな。
 

事務スペースの拡張やパソコンの増設にはじまり、腕時計用ショーケースの新設に、辻本と私の作業場の改造。
 

一気に進めれば2~3日で片付く作業だろうけど、仕事のキリを見ながら少しずつやったから、思いのほか時間が掛かった。

 

「寺田くん、ヴィンテージの腕時計、準備進んでるかな?」
 

「ええと、、まずはインターが2本仕上がってます。あとは、佐々木君がやったオメガは、今画像撮ってます。」
 

「そうか。じゃ、出来上がった順に少しずつ出品してもらおうかな。」
 


前にも書いた通り、ヴィンテージ腕時計の商品化は20年ぶりだ。
 

たからお客さんの反応は全くの未知数だが、、まあ良品が見つかったらその都度入手してという感じで、ポツポツやっていくつもり。
 

始めるからには数を揃えないと!なんて力み過ぎると、どうしても粗っぽい品揃えになってしまうから。

 

「あー、これ、結構めんどくさいな、。」

 

移動したばかりのギョーシェマシンで文字盤を作りはじめた辻本が、ガチャガチャと顕微鏡の土台を外しながらつぶやいた。
 

ストレートエンジンが稼働するようになってからの一作目は、パテックフィリップのカスタム腕時計。

 

ダイアルの中央は、ストレートのピラミッドパターン。
 

そして周囲との境界線やロゴの回りの線はローズエンジンを使う古典的なスタイルだが、、どうも段取りに厄介な点があるようだ。
 

 

「それ、毎回動かす必要あんの?」

 

「ええ。 これ、ローズで彫ってからストレートで彫って、最後にまたローズに戻って彫ることになるんですけど、、、どうやってもその度に顕微鏡を土台ごと移動させてセットし直さないといけなくて、、」

 

「なるほど、そりゃあ確かに面倒だな。 機械同士をもっとくっつけて真ん中に顕微鏡セットしても無理かな?」

 

「んー。 正面から真っすぐ見るならなんとかなるんですけど、、、ギョーシェやる時はこんな感じで斜めから見るようになるんで、、。」

 

そう言いながら、辻本はかなり斜め左方向から顕微鏡を覗き込む格好をしてみせた。

 

「んー、、そうかー。」

 

 

「どれどれどれ。 なにー。」

 

私たちのやり取りが聞こえたとみえて、奥から岩田が出てきた。

 

「こんなのこのステーを延長したらできんじゃないの? これ、こんなステーなんか既製品の鉄棒買ってちょっと加工したら、、ん、これ寸法どんなだ?」

 

そう言いながら、かなりごついニコン純正の土台のステーをマイクロノギスで測ると、

 

「直径が27.94mm、、いや、場所によって27.95mmか、、やられたなー! 30mmだったらいくらでも売ってるのに、、手軽に延長できないように、メーカーもよく考えてるわー。」

 

うちにある一番大型の旋盤でも、これは加工出来ない。 太さは問題ないが、、、長さが無理だ。

 

 

「ミスミで30mmの買って、27.94mmまで加工してもらったら?」

 

「あー、それ全然ムリっす。 この長さで頼んだら、相当な加工賃になりますよ。 この間のニッケル棒も何センチ刻みかでカットしてもらうだけで、ありえない見積もりになっちゃったから。  純正品とどっちが安いか分かんないレベルっすよ。」

 

大袈裟に手を振りながら、吐き捨てるように岩田は言った。

 

なるほど、それなら最初から純正品を買った方が面倒がないということか、。

 

 

この数か月、新人用の顕微鏡とスタンドが2セット、新設した私の旋盤台に取り付ける顕微鏡1セット、そして今回更にスタンド1セット。

 

それ以外にも、このところパソコンや工具、その他の備品やなんかで出費だらけだが、、必要な物だから仕方がない。

 

諦めた私は、ニコンにいる知り合いに注文を頼んだ。

 

 

ガガー、ブイーン。

 

持ち場に戻った岩田はフライス盤でなにかの部品を作っていたが、、、「いやー、まいったなー、、、どうやらキマしたねー、、。」

 

「ん? なにが?」

 

「5年くらい前に取り換えたこいつのベアリング、、、昨日ちょっとおかしな音がするなーと思ってたら、今日になって音がデカくなってきたんすよ。 そろそろまた交換しないとダメかもしんないです。」

 

「あー、そう言えば前に先方に来てもらって交換したなー。 しかしよりによってこのタイミングで、、。」

 

ちょうど、今月初めに注文いただいたカスタム腕時計の材料がようやく届き、岩田は来週あたりからケースの製作に入ろうとしていたところだったのだ。

 

「まあこればかりはしょうがないな。 先方に連絡して、修理の段取りしてもらって。」  

 

 

「あー、そうですか。 まー、確かにそうでしょうね。 分かりました。 ちょっと社長と相談してまた電話します。」

 

電話の内容は、想像がついた。

 

本来なら、メーカーの技術者が2人ほど出張してきて、うちで修理をすることになる。

 

ベアリングの交換には、フライス盤の分解や組立後のZ位置の再設定など結構な作業が必要になるので、前回も2人掛かりで1泊2日の作業になったのだった。

 

しかし、今回はコロナの問題で出張が難しく、、できるとしても、もう少し東京の感染状態が落ち着いてからになりそうだとのこと。

 

「くそー! コロナの野郎!」

 

 

なんとなくムシャクシャしてきたぞー。

 

パソコンの前から顔を上げると、3年生の佐々木も真下が、顕微鏡を覗き込んだまま固まっていたように見えた。

 

佐々木はその2日前から、針の製作に掛かりっきり。

 

分針以外が後家さんになっている時計の針、つまり時針と秒針を作り直す仕事。

 

ちなみに後家さんとは少々言葉が悪いようだが、、、一部の部品が他のものに取り換えられている品物を、骨董屋の業界ではそう呼ぶのだ。

 

 

「どうだ? ずいぶん苦労してるけどそろそろ仕上がりか?」

 

振りむいた佐々木の目は、かなり赤みを帯びていた。

 

「いやー、、時針はもうほとんど出来てたんですけど、、焼きを入れてから磨いていたら、、ヒビが入って。」

 

「ヒビ? どれ、見してみ。 あーあ。 お前、これ力入れ過ぎだよ。 こんなところにヒビが入るのは。」

 

ヒビの入った時針は、なかなかの出来栄えで完成しかけていた。

 

「うーん。 そんなに力入れたつもりなかったんですけど、、へへ。」

 

「ったく、しょーかねーなぁー。 こういうのはな、あと少し、もうちょっと完成、っていう時が一番危ないんだよ。 まだ秒針もあんだろ? 同じ失敗はしないようにな。」

 

 

「真下君は、ウォルサムどうなった? まだ天真切ってんのか?」

 

「あ、ええ。 もう少しで天真は終わりそうです。 あとはローラーテーブルの穴潰れてるのを直して、、」

 

「ん? ちょっと待った。 ローラーの穴を直す前に天真切ってんのか? もし綺麗に広げたローラーの穴が、天真に対して緩くなったらどうする? 天真は作り直しになるよな?」

 

「あー、でもまあこれくらいなら、大丈夫かなぁと、、。」

 

「どうして順番を逆にしない? 先に穴を直しといてからそいつに合わせて天真を切りゃー、失敗のリスクはないだろ? 同じことすんでも順番が変わるだけで、時間やリスクは半分にも倍にもなる。 手を動かす前に頭を動かせって、いつも言ってんだろ!」

 

「え、あ、はい。」

 

 

実のところ、佐々木に言ったことも真下に言ったことも、、私が30年以上の間ずっと、自分自身に向かって投げつけてきた言葉だ。

 

だから、パワハラだとは微塵も思っていない。

 

私や店のためだけではなく、間違いなく、彼らの将来に役立つことだから。

 

「いいか。 2人ともな、もうすぐ新人が入ってきたら、これはこうしてこうやるんだよ、って教えてやる立場になんだぞ。 自分がモタモタしてたんじゃ、みっともねーだろ!」

 

 

おまけの小言を食らった佐々木と真下は、、、振り返って再び固まり、顕微鏡と同化していった。

 

 

 

(続く)

 

 

 

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「中島さん、どうですかね?これ?」
 

しばらくギョーシェマシンにへばりついていた辻本が、小さな銀盤を持ってきた。
 

そこには、無数の格子模様が彫ってある。
 

「ん、、ちょっと待った、よく見えないから。 キズミ、キズミはと、、」
 

「あ、首に付いてますけど、 笑」

 

キズミをつけて改めて見ると、一見格子のように見えていた模様は、実際には規則正しく並んだ小さなピラミッドの集合体。

「左側のは限界まで細かいピッチで真ん中の方はもう少し荒くしたやつですけど、、そのくらいの方がいいですよね? 細かすぎると、もうなんだか分かんなくなっちゃうから。」 と辻本。
 

確かにあまりにも細かいと、曇りガラスに見えて、なんだかわからない。
 

でも真ん中に彫り直した方のピラミッドは、まさに19世紀初頭のアンティークウオッチのギョーシェと同様。
 

全く違和感がなかった。

 

「いいじゃん。これならいけるよ。」
 

「やっとですねー。」

 

そう。 確かに 「やっと」
 

思い返せば、回転系のローズエンジンに続いてこのストレートエンジンを入手したのは、8年前だった。
 

アメリカ東部のロードアイランドから、西海岸のサンフランシスコまで大陸横断。
 

そこから船で大平洋を渡り、横浜→そして吉祥寺まで。
 

ロードアイランド州から横浜までの輸送料より横浜から店までの方が高いというバカバカしさに、驚きを通り越して笑ってしまったっけ。

 

 

もちろん100年以上経っている機械だから、そのままさあ稼働とはいかない。
 

ガタのきている部分にちょこちょこ手を入れ続け、ようやっと使用できるレベルになったのだった。


馴染みのない方のために解説すると、、 「ギョーシェ彫り」 は、18世紀末~19世紀初頭にフランスをはじめ欧州や英国で流行り、後にアメリカにも伝わっていった、機械彫りの装飾。
 

時計のケースや文字盤を始め、ジュエリーや万年筆のボディなんかの装飾にも使われていた。
 

機械彫りといっても自動で動くものではなく、職人が様々なカムを組み合わせ、手動式のハンドルを回しながら刃物を指で押して彫る、つまり熟練の必要な手作業の技術だ。

 

ギョーシェには二通りあって、一つはカムが回転運動する 「ローズエンジン」、もうひとつは、直線的に上下する 「ストレートエンジン」

 

それぞれの仕事に向き不向きがあるが、時計に関して言えば、外装(ケース)にはローズエンジンが使用されることが多く、文字盤にはローズ、もしくはローズとストレートが併用される。

 

つまりうちでは今までローズエンジンのギョーシェダイアルだけだったのが、これで2つのコンビネーションが可能になった訳だ。

 

 

 

「よーし、キターっ! どうよ、これ!」

 

岩田が大声を上げると、反射的に、真下と佐々木が後ろを振り向いた。

 

チンチンチンチン、、、チンコン チンコン チンコン。

 

こっちの方にも、微かにリピーターの音が聞こえてくる。

 

「どうこれ? どう? んー?」

 

「おお!」 「スゴイですね、へへへ」

 

満足そうな岩田がリピーターのスイッチを入れると、オートマタの動きを覗き込み、2人とも驚いている。

 

どれどれ、と私も覗きに行くと、、、金属板に写真の切り抜きを取り付けた、おもちゃチックな文字盤。

 

でも、、ハンマーを振り上げ、振り下ろすオートマタのアクションは、完全に動作しているではないか!

 

 

「これ、腕時計にできる?」
 

今月の始め、そんな感じで岩田に渡したのは、スイス製の1/4リピータームーブメント。
 

それは10年以上前、ある韓国の時計師が腕時計にしかけ、未完成のままオークションに出展したスイス製のムーブメントだった。
 

 

ちょっと専門的になるが、、懐中時計のリピータームーブメントを腕時計にコンバートする場合、一番問題になるのはスライドの位置だ。
 

懐中時計と違い、腕時計にはラグ(バンドの取り付けられる足)がある。

 

大抵の場合、このラグに、スイッチであるスライドがまともに干渉してしまうのだ。
 

その韓国の時計師は、スライドの代わりに回転式のベゼルを回してリピーターを起動させようとしたあげくにギブアップしたようだったのだが、、岩田ならなんとかするのでは?

 

サイズも小ぶりで、腕時計にするにはちょうどいいし。

 

そう思って買っておいたのだが、。

 

 

「これダメ。 ムーブメントのレバーの位置が悪すぎますよー。 ケースの9時位置にスライド持ってこうとしたら、ありえないほど中で延長しないと。 これはちょっと無理があるかなー、、。」

 

予想通り、岩田はムーブメントを一目見て難色を示した。

 

でも、これはいつものことで、こっちも最初から織り込み済み。

 

「無理なら無理で、懐中時計にしてもいいし、、まあちょっと見てみて」

 

そんな感じで手渡してしらばっくれていたのだが、、、出来上がったケースをみると、内部を加工してスライドのストロークを遥か彼方に延長するような格好で、実にうまく解決してあった。

 

 

こうなると、あとは文字盤だ。

 

この紙細工のモチーフを、どんな細工の完成品にするか?

 

 

「おーい、辻―! ほら、出番だぞー!」

 

「はいはい。 なんですか?」

 

岩田が呼ぶと、ニヤニヤしながら辻本がやってきた。

 

 

「これ、文字盤作りたい? 人形作って、彫りたい?」

 

「あ、いいすねーっ。 人形作りはやったことないけど、面白そうっすね。 」

 

彫れると聞けば、黙ってはいない。

 

新たな試みに、辻本は食いついた。

 

 

文字盤の製作にあたって、私が辻本に伝えた希望。

 

向かい合った天使が鐘を叩くような、西洋の宗教的なモチーフのものでないこと。

 

もちろん西洋で作られたアンティークの時計ならそれでいいのだが、、せっかくうちで作るのだから、日本人が作ったことを感じられるものにしてもらいたい。

 

そうかといって、鶴や亀、桜や富士山を前面に出した、、いうなれば、「外国人向けのお土産品のような和風」 とは違ったもの。

 

確かに、簡単ではない。

 

 

「お疲れさまー」 「お先に失礼します」 「ほい。 お疲れさん」

 

時刻は7時を回り、早番の岩田と辻本は仕事を上った。

 

 

なんだろうなー。

 

私自身、頭の中にはっきりとした絵があるわけではないし、、、そもそも作るのは、私ではない。

 

どんな文字盤が出来上がるのか?

 

どんな方が身に着けることになるのか?

 

 

旋盤に向かってぼんやり妄想していると、閉店時間はじきにやってきた。

 

 

 

 

 

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2月に入り、節分の豆まきが終わると、いくぶん寒さが和らいできた。

 

残念ながら緊急事態宣言の解除は成らなかったけど、それにもかかわらず来店される方は多くなり、ちょっと活気がでてきたよう。

 

このままどんどん陽気が良くなって、コロナ騒ぎなんか収束してしまえばいいのだが、、。

 

 

「中島さん、これどうしましょうか?」

 

目の前に、最年少の佐々木が立っている。

 

なんだ? ああ、そのインターか。 そういやぁ、ぼちぼち仕上がる頃かな?」

 

ちょっと前の真下のインターに続き、もう一点インターナショナルの腕時計を入手した私は、そのレストアを佐々木に任せていた。

 

 

「えーっと、天真も3番車の上ホゾも新品にして、もう精度はいいんですけど、、ゼンマイを巻き上げる時に、たまにカリっと滑るんですよー。」

 

「なんだ、 じゃあダメじゃん。」

 

「ですよねー、、。」

 

「どれ、 ちょっと見せてみ。」

 

 

文字盤がはずしてあったインターのムーブメントを手に取って軽くリューズを回してみると、、、なるほど何回か巻いたところでカリッと滑る。

 

「あー、、なるほどね。」

 

原因は、明らかだった。

 

 

通常、巻き上げ中の滑りの原因になる要素を挙げると、、、クラッチになっているキチ車とツヅミ車の歯の欠損や摩耗、それらを押し付けているカンヌキのテンション不足、裏側でキチ車と90°に噛み合う丸穴車の摩耗や固定不良、それでもなければ巻き芯の寸法・形状の不良といったところが大半で、ゼンマイ自体が原因になることはまずない。

 

このインターの場合、それ自体がテンションスプリングを兼ねている一体型のカンヌキの根本がちょっと削られていて、明らかにテンションが弱い。

 

だから巻き始めのうちは平気だけど、ゼンマイが巻き上がってきて抵抗が強くなってくるとクラッチが離れ気味になり、滑りが出る。

 

ちなみにカンヌキが削られた理由に関しては考察する必要があるが、、、この時計の場合、欠損したカンヌキを誰かが新規で製作し、その強さを調整してゆく段階で、削り過ぎたというのが正解に思えた。

 

 

「お前、これ、何が悪いか分かるか?」

 

この春で4年目に入る佐々木が、それをどう理解しているか?

 

私にとっては巻き上げの不調より、そこが問題だった。

 

 

「あー、これ、巻いてくとだんだん離れてくのは、カンヌキが弱いですよね。 ちょっといじってあるみたいですし。 それに、キチやツヅミは特に減ってないですから、そこだけかと。」 

 

正解。 内心ホっとした。

 

「そうだな。 で、どうする?」

 

「うーーん、タガネで叩いて少し曲げればなんとかなりそうなんですけど、でも結構汚くなっちゃいそうで、、それに後々折れたりしたら困るから、やっぱり作り直した方がいいのかなーと。 またちょっと時間掛かかっちゃいますけど、、へへへ。 」

 

「そうだな。 まあいいよ。 1時間くらいは仕方ない。」

 

「えーーっ!、、1時間はちょっと、、。 せめて3時間くらいは掛かるかと、。」

 

 

もちろん、これは冗談だ。

 

生の鋼の板から形を削り出し、ネジ穴をもんだりしてから、焼き入れ、焼き戻し。

 

青焼きになった部品を研磨しつつ、適度なテンションになるようにまで太さを慎重に削り込み、、視覚的にも周りの部品と違和感がないように仕上げる。

 

これを真面目にやったら、1時間で終わるわけがないのだ。

 

 

「ハハハ、嘘だよ。 そのかわり、後から作り直した感じの部品にならないようにな。 懐中時計の高級品みたいに、ガンガン磨いて面取りしたら周りと合わなくなっちゃうから。」

 

「あー、、、わかりました。 」

 

 

「おつかれさん。」 「おつかれさまー」

 

閉店時間になると、他の連中はみんな帰っていった。

 

「おう、どうする? お前も今日はもう上がるか?」

 

「あー、、ボクは、もうちょっとやっていきます。 もうちょっとなんで。」

 

 

カンヌキが出来上がったのは、翌日、つまり昨日。

 

自分勝手に仕上げ過ぎていない、つまり、もっと磨きたい、もっと手を入れたいという気持ちを抑えたカンヌキは、、、周りの部品とうまく調和していた。

 

「どれどれ。 ちょっと、巻かせてみ。」

 

ジリジリジリ、、「うん、いいな。」

 

 

たかが3年。

 

でも、石の上にも3年という。

 

 

指先に伝わる小気味よいテンションを感じながら、、、私はひたすら、3年という時間を考えていた。

 

 

 

 

 

 

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