吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。

 

 

「中島さん、、スイスの脱進機のパーツ、買っていいですか? 今見たら、去年買った残りがそんなに無いんで、、。」

 

地下のストックルームに潜ってごそごそやっていた篠原(那由多)が、お小遣いのおねだりをする子供みたいな調子で切り出した。

 

 

あんな工具が欲しい、こんな材料を買いたい、っていうのはうちでは日常のこと。

 

そういう時、普通はみんなそれぞれ欲しいものをリストアップして、まずは時計学校の先輩格の寺田に伝える。

 

あっちで買うと早いけど割高、こっちだと時間は掛かるけど安いしポイントも使える、なんてことに滅法詳しい寺田は一通りの購入先を決めてから私のところに来て、「中島さん、カードいいですか? みんな色々欲しいみたいなんで。」といった感じになる。

 

でもそれとは別に、篠原は那由多モデルの製作に必要な工具や材料を私に直接頼みに来ることがあって、、これが最近非常に頻繁で、感覚的にはほぼ毎日?なんだかしらを注文している感じ。

 

だから奴が私の方に忍び寄って?くると、、私は「あ、またカネか!」と身構えた感じになってしまうのだ。

 

もっとも無駄なものを買っているわけではなくて、ほとんどは必要なものなんだから、まあ仕方がないんだけど、。

 

 

「ん? ああ、いいよ。何個くらい? あれ確か、一つ¥30,000くらいだったよな?」

 

「ええ。確かそのくらいだったと思います、、、じゃあ、20個くらい買っていいですか?」

 

「うん、まあいいよ。」

 

 

¥30,000×20個で、¥600,000か、、まあ必要なんだからな。

 

それにしても、何年か前まで¥7~8,000だった部品が¥30,000か、、ずいぶんと高くなったなぁ、、なんて思いながらMP1のテンプを調整していたら、「中島さん!」

 

顔を上げると、、浮かない顔をした篠原が立っていた。

 

 

「ん? どした?」

 

「頼もうと思って今見たら、、あのパーツ、値上がりしてます!」

 

「あ、そう。でもまあしょうがないよな、昨今、なんでも値上がりしてんだから。 俺がアトレで買ってくる弁当だってよ、最近はもう1000円以下なんてほとんどなくなっちゃったしな、タバコも来月値上がりだし、ははは。 で、いくらになってんの?」

 

「えーと、日本円にすると、、¥80,000くらいです!」

 

「えっ、ホントかよ!」

 

「高いですよね。」

 

「ありえねー、去年の3倍近いじゃん!」

 

60万くらいの出費だと思ってたのが、、なんと160万!

 

まあ無いものはしょうがないけど、、しかしスイスは滅茶苦茶だなぁ。

 

 

ご存じの通り、わが国の物価も日々、上昇している。

 

金をはじめとした資材、食材、電気、燃料、、値上がりしているものは枚挙にいとまがないが、このインフレに対応すべく、賃金も上昇している。

 

賃金が上がらなきゃみんな生活ができなくなるからこれは当然だけど、、こうなると厳しいのは、うちのような零細事業を営んでいる者、つまり給料を払う側にいる私だ。

 

まあそれはともかく、、やっとデフレから抜け出しかけた日本の値上がりは、まだまだ緩やか。

 

 

一方、アメリカやヨーロッパのインフレは桁違い。

 

うちの主な取引き先はスイスやアメリカ、イギリスあたりの業者だけど、向こうはなんの前触れもなく倍々ゲームみたいに値段が上がるから、まったく気が抜けない。

 

次買う時はいくらになっているか分かったもんじゃないから、どうしても一回に買う量も多くなりがちで、支払いが大変なのだ。

 

 

なんてしょうもない嘆き節はこのくらいにして、、ここからが本題。

 

 

ご多聞に漏れず、今月末に抽選応募を開始する「那由多モデル 2025」も、新価格になった。

 

昨年550万円(税抜き)だったModel Aは650万円(税抜き)に、275万円(税抜き)だったModel Bは300万円(税抜き)に。

 

実のところこれは、去年から今年にかけて実際に一年間やってみて、各種コストの上昇分が一本あたりの実質的コストにどの程度影響したか、試算し直した結果なのだ。

 

実に頭の痛い話しだけど、、来年にかけて更にコストが上がっていけば来年もまた試算のし直しが必要になるし、那由多モデルだけじゃなくてMPシリーズに関しても同様に、おそらく今後、値段が上がることはあっても下がることはないんじゃないかと思う。

 

 

初年度より2年目、2年目より3年目。

 

製作を続けることで、それまで気が付かなかった点を改良したり、材料を変えたり、より良い時計にしていくことは可能だし、その努力を惜しむつもりは毛頭ない。

 

でもインフレという流れに逆らって時計の価格を据え置こうとすれば、仕上げの手間を省くか、材料の質を下げるか、あるいは従業員の給料を据え置いて意欲を削ぐか、、いずれにしても、より良い時計にはならない。

 

そもそも、安くて実用性の高い時計は、世の中にいくらでもあるのだ。

 

 

作りたいのは、一点一点気持ちを込めて、入念に仕上げた特別な時計。

 

耳障りの悪い話で恐縮ながら、時計愛好家の皆さん、この点に関しては、何卒ご理解いただきたい。

 

 

このところ、夜半は急に涼しくなった。

 

夏の間蹴っ飛ばしてあった掛布団を引き寄せて掛け、丸まって寝ている今日この頃。

 

気がつけばあっというまに9月も末で、来週の週明けからは10月に突入だ。

 

 

前回ご紹介した通り、来月には、いよいよ2025年度分の那由多モデルの注文受付けが始まる。

 

去年発表したModel A, Model Bに加え、今年は新モデルのModel B-2が加わり、、年間の製造数も少しだけ増えるかな?

 

去年の応募で抽選に漏れてしまった方からの「バックオーダー」がかなり入っていることを考えると、去年と同じ製造数では話にならないわけだ。

 

 

「今年は少し増やせると思うんですけど、、あとは佐々木さん次第なんですよねー。」

 

以前にもお話ししたが、那由多モデルの製造には、那由多(篠原)本人以外に、部品の仕上げ担当の佐々木、ブリッジの面取り担当のアレックス、文字盤担当の辻本が関わっている。

 

辻本とアレックスはもともと那由多モデルもMP1シリーズも並行して担当しているけど、部品仕上げの佐々木は一応?那由多モデルの専任という形になっていた。

 

ところが、那由多モデルから半年遅れでMP1シリーズの発表が迫ってくると途端に手が足りなくなって、「おーい、佐々木君、ちょっとMPのピニオンの研磨手伝って。」みたいな感じになってどっちの仕事も並行するようになり、、、那由多モデル専任なんて言ってられなくなっちゃったワケ。

 

篠原の言う「佐々木さん次第」というのはまったくその通りで、佐々木が他の仕事をしなくて済めば、那由多モデルの製造数はそれなりに増やせる見込みがついているようだが、。

 

 

とはいえ、春に受注したMP1の方の納品時期も、、ジワジワと迫ってきている。

 

ご注文いただいた方には「2025年の4月までに納品」という話になっているけど、、そんなにギリギリまで持ち越したくはないのが正直なところ。

 

出来れば私としては、年内に数点は完成させて納品差し上げたいともくろんでいるのだ。

 

となると、、どうしても「おーい、ちょっと佐々木君」という場面がでてくるのが困ったところで、、これを何とかするべく、先日、急遽時計学校に連絡して、部品の「下仕上担当」のアルバイトを募集した次第。

 

 

仕上げというのは、マシンで削り出した部品をある程度の段階まで下仕上げするところから始まるのだが、ここに結構な手間と時間が掛かる。

 

せめてそこだけでも誰かにやってもらえれば、こっちは最終仕上げに専念できるから、時間も大幅に短縮できるのに、。

 

幸い昨日、就職課のS女史がうちの近隣に住むKくんを連れてきてくれて、、、話し合いの結果、さっそく近日中に作業を開始する予定になったのだ。

 

 

さてさて、例年のことながら、夏が過ぎると年の瀬はもうすぐそこ。

 

11月にはオークション関連の仕事で香港出張も入っていてなにかと慌ただしいが、とにもかくにも、ここからは全力投球で突っ走ります!

 

 

 

 

「おはよー」

 

釣り三昧だった私の夏休みも終わり、店はいよいよ後半戦に入った。

 

出てくるなりMPシリーズの製作でバタバタしているのは、休み前と同様。

 

一方で、このところ、篠原のNayuta Modelの方は、納品が続いている。

 

 

Nayuta Model A&B をリリースしたのは去年の9月だったから、かれこれほぼ一年経った。

 

新作を作って納品するという試みは初めてのことだったから、本当に無事製作が済んで納品できるのかどうか、本人や私を含め、皆んな不安な部分があったのは確かだ。

 

だいたいにおいて、こういうことはやり出してみると、やれ外注先のケースが遅れたり、仕上がりが今一つでやり直しになったりとか、何かとトラブルがおきて時間が延び延びになってゆくものだけど、、Nayuta Modelに関して言えば、比較的トラブルはなく、受注した時計はすべて期限内に完成した。

 

こうして実際に一年やってみるとある程度のペースの目安がつくから、来年は何本か多く作れるかな?みたいになってゆくんだろう。

 

 

今日もついさっき、Nayuta Model Aのお受取りにいらっしゃったHさんとお話しした。

 

これはHさんに限ったことではないが、去年の9月に受注してすぐに代金の50%をいただき、以降1年近く大して進捗状態のお知らせも差し上げていなかったから、私としては、その点に関して申し訳けない気持ちがあったのだけれど、、、Hさんは特に心配していなかったとのこと。

 

何百万円ものお金を払った上に、時計の完成前にうちが倒産でもすれば、、?

 

考えてみるとかなりリスキーな話しだけど、なぜか時計業界はそれで普通に回っているところがあるようで、スイスあたりでは、一年どころか最初に代金を全額支払って何年も音沙汰無しなんてケースもあるようで(笑)、、こうなるともう、一般的な他業種とはまったく違った業界といえるだろう。

 

 

いずれにせよ、神妙な面差しの篠原から手渡された時計を腕に着けてみたHさんは、その出来栄えにご満足された様子で、、私も篠原もホッと一息。

 

実際、この時計の製作に直接関わった篠原も佐々木も辻本も一年間本当に真剣勝負をしていたから、その結果にご満足いただけたとなれば、掛け値なしに嬉しいだろう。

 

大きな仕事をいただいた上に喜んでいただけて、、考えてみれば、こんなに有難い話しはないのだ。

 

 

ということで、今年も第二回目のNayuta Modelの受注抽選を、10月に行うことにしました。

 

昨年発表したModel A, Model Bに加え、今年はもう一つ新しいモデルもラインナップ。

 

日にちその他の詳細は、後日、ホームページや各SNSでお知らせしますので、ご興味のある方は是非ご覧ください。

 

 

 

 

 

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