第十五話「群青の傭兵」① | 秘蜜の置き場

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 複数折り重なってくるビームを、その少しのあいだに滑り込むかたちでなんとか躱す。が、直後に僅かな時間差を置いて放たれたビームが右後ろ足の内ももを軽く炙った。
 ぐ、と呻くのを堪えつつ五感をフルに稼働させて状況を把握する。
 現在の敵の総数は十五。それも全員同レベルの成熟期だ。こちらが成熟期二人と人間二人ということを踏まえると、恐ろしく健闘している。足下の機能が停止した個体も合わせれば尚更だ。
「技能弾、マッハガオガモン」
「ハウリングキャノン」
 それも、自分のパートナーを含むその人間が持つ、特殊な銃の力と彼ら自身の戦況判断能力があるからかと、強大な衝撃波を咆哮として吐き出しながらリガルモンは納得した。
 だが、これもいつまで持つかわからない。高くそびえる壁面に開いた穴から現れた、このマシーン型成熟期達――メカノリモンというらしい――の増援がまた現れるかわからないのだ。
 緊張感はあったものの、精神的余裕はあった数十分前がひどく懐かしいものに思えた。




 モニタ越しのふざけたゲーム説明を聞いて、すぐに充達二人と二人は先へと進んだ。これ以上無駄な時間を使う気もなかったし、あのふざけたゲーマスもどきも思い通りになるのも癪だった。
「ここみたいだな」
 直進するうちに前方に部屋らしきものが見えた。おそらくそこで自分達の相手が待っているのだろう。
「行きましょうか」
「いや、ちょっと待ってくれ」
「えっと……分かりました」
 拳を打ち付けて先頭に出ようとしたトゥルイエモンを充が制する。一瞬三葉に目配せして対応を求めると無言で頷いたので、ここは従うことにした。
「強化弾、シードラモン――アイスアロー」
 素早く取り出したD-トリガーから氷の矢を放つ。一体何がしたいのかと思った一同だったが、すぐにそも意図を理解した。
「あっ」
部屋の中に放り込まれた矢だったが、そのまま壁に激突するかと思ったそのときだった。突如、壁にいくつかの穴が空き、そこから飛んできたミサイルが氷の矢に向かって飛来し粉々に砕いてしまった。
「さすがにまっすぐ行くのは無用心だからね。案の定仕掛けていたみたいだ」
 笑いながら、再びD-トリガーを操作。閉じつつある前方の穴すべてに狙いをつけたまま再度引き金に指をかける。
「強化弾、ワスプモン――ターボスティンガー」
 引き金を引くたびに銃口からビームが放たれる。連射されたそれらは狙いをつけた穴すべてを正確に撃ち抜く。
「とりあえずはこんな感じで。入ったら多分背後から来ると思うから、迎撃の準備くらいはしておいてね」
 銃口を下げながらニッと笑う。その姿が妙に頼もしく様になって、三葉はとろんとした表情を浮かべて小さく頷いた。
「じゃ、改めて行くか」
「そうですね」
 いつも通りのことだとデジモン二人は割り切り先頭に出る。ここまで来るとスルースキルというものがだいぶ身に付いたようだ。
 入った部屋は縦に長い円柱状で、天井がやたら遠かった。
「ちょっと厄介だね、これは」
 背後のミサイルを迎え撃ちつつ、充は舌打ちを漏らしそうになった。半径三十五メートルほどの移動空間はあるが、前後左右でなく上下に伸びている。バカ筆頭の仲間のような空中戦に特化した面子なら都合はいいが、陸上戦を得意とするこちらは不得手だ。それを踏まえて自分達を三つに分けたのだから、当然といえば当然だが。
「――サすがにこのてイどでは倒せなカったか」
 頭上から降る声はノイズ混じりだが、妙に尊大で不快感を与える。ふと見上げれば曲面の壁の一部が剥がれ、ガラス越しに声の主らしき何かが見えた。
「君が僕らの相手、で良いんだよね」
「アあ、ソうだ。ワたしの名はナノモン。貴様ラのあイテを任されてイル」
 目を凝らしてみればそのシルエットがなんとか見えた。
 ガラスの奥のパネルに直接接続されているそいつは灰色のカプセルのような形だった。それを見ていると、某風邪薬のCMでコミカルに動くオレンジのキャラクターが三葉の頭に浮かんだ。
「で、そんなところでどうやって僕らの相手するつもり?」
 手のひらを返して指をクイッと曲げ挑発してみる。引っかかるなどとは毛頭思っていないが、反応からどのようなタイプかを推し量ることくらいは出来る。
「モッともなぎもンだ。だが安心シろ。――ワたしの端末が相手になル」
 直後、円柱状の壁の上部からいくつかの穴が開き、そこから二十ほどの何かが落ちてきはじめた。緊張感を高めて確認すると、いやでもそれが何かわかった。
「……メカノリモン」
「端末ってそういう意味だったのか」
 一瞬の出来事だったが覚えている。彼らは海岸でカラテンモンを突き飛ばしたあのデジモンと同種のものだと。
 心を読めるカラテンモンが反撃すらできなかったのは読むべき心がなかったから。端末というのはあのナノモンとやらが動かしていたということ。
「賢そうなキャラだと思ったけど、戦法は至って単純な物量作戦か」
「だが、単純ゆエに効果的なノもじジつでハ?」
「ふふっ、確かに」
 多勢に無勢とはまさにこのこと。単純故に対処法に困るのも事実。だが致し方ないと割り切るしかない。
「迎え撃つよ、リガルモン」
「もちろん」
「私たちもいきますよ」
「……ええ」
 正直、状況は全く芳しくない。だが、弱みを見せるわけにもいかないのも事実だ。覚悟を決め、頭をフル稼働させる。
 ――開戦の狼煙は上がった。