第九話「復活と再出発」① | 秘蜜の置き場

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「ふっっかあああつ!」
 心からの叫びはベッドで仁王立ちしている巧のものだ。ミドルタウンに入ってから四日間、彼は浄化弾の撃ちすぎによるガス欠でほとんど動けなかったのだ。
 三葉の私刑にも無抵抗で耐えたり、葉月に看病してもらった瞬間に一也に問答無用で殴られたりと、主に後輩二人のせいで散々な日々だったがそれももう終わった。拳を高々と突き上げながら、彼は無意識のうちに涙を流していた。
「おいおい、さすがに泣かなくてもいいだろ」
「リオモン、俺にとっては地獄の日々だったんだよ。……常に三葉から殺意を向けられてたんだぞ」
「……お前が悪い」
 どうやら三葉は結構根に持つタイプのようだ。もっとも、この部屋にいる全員が理解していたことだが。ちなみに、充が巧の部屋に集合するように言っていたので、結局はともに行動している全員のことである。
「僕も三葉に同意するよ。ただ巧が馬鹿だっただけだから」
「充、てめっ」
「じゃ、とりあえずこれまでに集めた情報をまとめようか」
 どうやら充も根に持つタイプのようだ。巧を当然無視し、本来の目的に移る。その脇で巧が体育座りをして俯いていても気にはしない。
「まず、この世界はデジタルワールドという異世界だということ。この世界にはガルモン達のようなデジモンという生命体が生物界の頂点として、さまざまな場所でさまざまな生活様式を取っていること。これに関しては確認の必要もないね」
 全員が同意する。これらは最初にロップモンから聞いた最低限の情報だ。巧も首を軽く動かして意思表示をしている。
 それを確認し、充は再び口を開く。
「さて、みんなも何となく分かっていると思うけど……僕らの世界への帰り方は残念ながら不明だ」
 充自身予想はしていたが、やはりそれは分からなかった。異世界に飛ばされるなどというファンタジーな事が起こったのだ。そんな簡単に見つかるはずがない。それでも、一番年上で責任感のある身としては、早急に知りたかったのが本音だったのだ。
「そっか……まあ、いんじゃね」
「軽いね!」
 だから巧のその台詞は思わず叫んでしまうほどに驚いてしまった。実際、言葉の調子の軽さは直前まで体育座りで小さくなっていたとは思えないほど明るく気楽なものだった。
「そーね。ま、のんびりいきましょーよ」
「そうですよ。葉月先輩の言う通りです」
「……先輩がいればそれだけで構いません」
 巧以外の仲間もそんな風に言ってくれる。それも決して慰めるために取り繕ったものではなく、心から自然と言っているのだ。
「君らって……ふふっ」
「どうしたんだよ、充」
「いや、なんでもないよ」
 彼らといると、危機感がいまいち感じられなくなる。でも、だからこそ充は彼らと十年近く親しくしていたのだ。彼らといると本当に何とかなりそうな気がするから。
「それにリオモン達と別れるには早すぎるだろ」
「巧ぃ! お前ってやつは……」
 巧の言葉に思わずリオモンは涙ぐむ。見詰め合う二人の間には男同士の友情という熱い言葉が似合っていた。
「……むさ苦しい。死ね」
 もっとも、三葉の言葉で二人とも固まって小さくなっていたが。
「まー、私達も巧と同じような気持ちあるからねー。やっぱりのんびりでいーじゃない」
 実際、その気持ちはパートナーデジモンを持つ彼ら全員が持っていた。パートナーデジモンがいるからこそ、こんな状況でも心に余裕ができたのかもしれない。
「そうだね。それに帰れる方法が絶対に無いって決まったわけじゃないからね。……いや、方法がある可能性のほうが高いか」
「えっ? どういうことですか」
 一也は思わず尋ねる。充がなぜそんな風に言えるのだろうか。そう言える根拠が何かしら彼にはあるはずだ。
「ああ。それは単純に、僕らの前にこの世界に来た人間がいたからさ」
 なるほど。自分たち以前にこの世界に人間が来ていたのか。だったら多少は納得できる。なるほど、なるほど……
「「って、はあああっ!?」」
「そ、そうらしいよ」
「おお……ナイスリアクション」
「煩い、黙れ、巧死ね」
「仕方ありませんよ、三葉。それに余計なことまで言いすぎです」
 分かりにくいが、充の発言に驚いたのは、巧、葉月、一也、リオモン、ピクシモン、テリアモンだ。他の面々はここに来る前に知っていたので驚く理由が無かった。しかし、驚いた面々を責めることもできない。自分達以前にこんな異世界に来ていた人間がいたなどと誰が予想できただろうか。いや、そう簡単にはできない。
 とはいえ、充もこれほどのリアクションをされるとは思っていなかった。若干後ずさりしながらも、何とか答える。
「いや、この話は僕もアシュラモンから聞いたんだけどね――」
 彼曰く、十年前にも四人の人間がこの世界に迷い込んだらしい。彼らは巧たちよりもかなり幼く非力な存在だった。しかし、この世界でパートナーデジモンを得て、自らの力としたのだ。そして、当時暴力的な支配をしていたデジモンを封印して、英雄と語られる存在になったらしい。
「この話にはちょっと面白いところがあってね。その人間達は封印した直後にこの世界から姿を消したらしいんだ。……果たして、彼らはどこに行ったんだろうね」
「自分たちの世界に帰れた~、とか?」
「かもしれない。そのデジモンのアジトが崩壊した瞬間、高速で上空に何かが飛んでいったのを、目撃したデジモンがいたらしいから。恐らくその飛んでいったのが彼らなんだろう」
 タイミングから考えると恐らくそうなのだろう。だとすると自分たちの世界に帰る方法も存在しているはずだ。
 充が再び口を開く。彼の話はここからが本題なのだ。
「十年前の人間たちはこの世界を暴力で支配していたデジモンを封印することでこの世界を脱出した。そう仮定すると、僕たちも何らかの理由でこの世界に呼ばれた、ということくらいは考えられるんじゃないかな」
「呼ばれたって……誰が何のために?」
 話を聞いていればまるで誰かが自分達に何か目的を果たさせるために呼んだというふうに。
「誰かは分からない。けど、何のためかは自分達の状況を見ればなんとなく分かると思うよ。……例えば、これとか」
 充が取りだしたのは彼のD-トリガー。初めて悪霧に操られたデジモン、スナイモンに襲われたとき、どこからともなく現れて彼らの手に収まった彼らの武器だ。
「これは僕らにその何かをさせるために与えられたものだろう。では一体どういうことをさせたいのだろうか」
「そーねー。D-トリガーを与えたのは、私たちがそのことを成すのに必要だからじゃないのかなー」
 言い換えればD-トリガーにはそれができる力が秘められているということ。D-トリガーが持つ力の中から、自分たちを呼びよせた者の思惑が少なからず読みとれるということだ。
 現段階で分かってるD-トリガーの力は三つ。一つ目はデジモンの技をデータとして記録し、弾丸として放つ力。二つ目はパートナーデジモンを進化させる力。――そして、三つ目は悪核や悪霧の支配から解き放つ力。
「恐らく鍵を握るのは三つ目だろう。悪核があるのもこの地域だけじゃないらしいし」
 ここまでくれば、おおよそ見当がつく。顔も知らぬ誰かが自分たちをこんな世界に呼びよせた理由が。
「心の力を注いだ浄化弾で悪核をこの世界から消し去ること。――より端的にまとめるなら、十年前の人間のように英雄になれ、ってことだね」
 まあ憶測に憶測を重ねた穴だらけの理論だけどね、と笑って充はまとめた。充自身、まったくその通りであるとは思っていない。完全に間違ってはいないと思うが、あくまでこれからの指針を決めて鼓舞するために、言ったに過ぎない。
「英雄……なんかいい響きだな、巧」
「ああ、なってやろうぜ。俺たちが!」
 まあ、思いっきり少年の心をくすぐられ、予想以上の反応を見せ者もいたが。