「………なんの騒ぎだ………?」
落ち着いたその声に、菜月(なつき)ははっと息を飲む。
久しぶりに聴いた、声。
菜月の口から、その声の主の名がこぼれる。
「………和雄、さん………。」
開け放たれたドアの先には、まぎれもなくこの屋敷の御曹司・和雄(かずお)が立っていた。
その姿を見た菜月は、安堵の涙を流した。
「(愛する、貴方様……。)」
一方、昂希(こうき)は片眉を上げ、身を起こして菜月から離れ和雄を見やった。
そして静かにベッドから降りて和雄へ近づき、うやうやしく頭を下げた。
「これは若旦那さま、夜分にお騒がせして大変申し訳ございません。 少々夫婦の営みが盛り上がり過ぎたようです。」
そう淡々と話す昂希を、菜月は強く睨みつける。
そんな彼女の様子を見た和雄は、静かに昂希に言葉を返した。
「泣き叫ぶ相手に襲いかかることが、夫婦の営みなのか……?」
その言葉に、昂希は苛立ちを覚え和雄に強い眼差しを向けた。
一方の菜月は、目の前の和雄にただただ心を奪われていた。
「(助けに、きてくれたんですね……。)」
菜月の目はもはや、和雄しかとらえていなかった。
そんな菜月の様子を一瞥した昂希は、静かな口調で和雄に言葉を述べた。
「分かりました、今夜は花嫁にこれ以上触れないように致します。 それで勘弁してもらえませんか?」
「……そうか。 そうするがいい。」
静かに返された和雄の言葉に、昂希は反応を示さずそのまま部屋を出て行った。
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自室に残された菜月は、涙で滲んだ視界の中で和雄と見つめ合った。
そして禁断の一言を言ってしまう。
「……愛しています。」
「……。」
「愛しています、和雄さん、あなたのことをずっと………。」
菜月の言葉に、和雄は表情一つ変えずに踵を返した。
向けられた背中に、菜月は思わず叫んだ。
「待って!! 行かないで!!」
しかしその叫びもむなしく、和雄が足を止めることはなかった。
和雄の姿が見えなくなった菜月は、愛しさと悲しみが入り交じり、永遠の奈落の底に突き落とされたかのような絶望を味わった。
引き止めることなんか、許されないのに。
なんて、諦めの悪い私。
「……許して、ください。」
いまだに、和雄さんを愛していることを、
どうか、どうか、許してください。
「……神様……。」
菜月はただむなしく天井を見ながら、涙を流し許しを乞うのだった。
To be continued
~追伸~
TATSUさん、メッセージありがとうございます
そしてお誕生日おめでとうございます
名だたるアーティストさんたちのライブ、楽しんでくださいね
またお気軽にブログにお立ち寄りください
ついに40話、皆様ありがとうございます
これからもどうぞお楽しみに
浅田瑠璃佳