翌朝。
主人たちの朝食前。
使用人たちが広間前の廊下に整列している。
その中には、かすかに目を赤く腫らした菜月(なつき)の姿があった。
しばらくすると、屋敷の主人である元治(もとはる)と若旦那夫妻の姿が見えた。
元治が一同に挨拶すると、続けて花梨那(かりな)が口を開いた。
「おはようございます、皆様。」
若旦那の妻である花梨那は、いつになく明るい表情で使用人たちに挨拶した。
そしてそのまま、嬉しそうに言葉を続けた。
「実は皆様に、とてもおめでたいお話がございますの。 このお屋敷の使用人である入野菜月さんが、この度私の実家の使用人である上條昂希(かみじょう こうき)と結婚されました。 入籍後の報告で急になってしまったことを、深くお詫び申し上げますわ。」
すると使用人一同の列の一番端にいた昂希が、一歩前に出て頭を下げた。
それを見た使用人一同は、一瞬互いに顔を見合わせたが、すぐに皆一斉に拍手をした。
大勢の拍手の音の中で、菜月はただ一人顔面蒼白で、今にも倒れそうになっていた。
まるで地獄に突き落とされたような、そんな感覚を味わっていた。
「(………すさまじい、仕打ちですね、花梨那さま……。)」
そう思いながら俯く菜月を、花梨那は満足気な笑顔で見ていた。
一方元治は、動揺しながら花梨那を見やり、次に菜月を見て口を開いた。
「……いやあ、ずいぶんと急だね、驚いたよ。 私に一言ぐらい言っておいてくれても、良かったんじゃないか?」
穏やかな口調で元治が花梨那に言葉をかけると、彼女は少し残念そうな顔をして義父を見た。
「申し訳ございません、お父様。 実は菜月さんには前々から結婚の話を持ちかけていたんですよ。 うちの上條とは年も近いからどうかなって。 そしてついに、両人から承諾を頂けたんですの。 善は急げと言うじゃありませんか? ちょっと驚かせたかったんです。 」
流暢に話す花梨那に、元治はまだ戸惑いを覚えていたが、菜月に対する祝福の気持ちを述べた。
「……そうか、それはめでたいお話だ。 おめでとう、菜月さん。 どうか幸せになってほしい。」
元治の言葉に、菜月は唐突に現実に引き戻された。
自分の恩人でもある優しき主人の祝辞を、無下にすることは出来なかった。
「……あ、有り難き幸せにございます。」
なんとか主人に言葉を返した菜月は、いまだに自分が意識を保てていることに驚いていた。
一方、花梨那と元治の影に隠れたように佇む和雄(かずお)は、何も言わずにただ眉一つ動かさず、真っ直ぐに菜月を見つめていた。
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その日の夜、業務を終えた菜月は放心状態で自室に戻った。
To be continued
~追伸~
TATSUさん、メッセージありがとうございます
確かに最近ブログの更新早いかもです
本当は定期的にあげたいんですけど、なかなか上がらない時もあれば、たくさん上がる時もあります(笑)
小説、楽しんでくだされば幸いでございます
偶然にも来週息抜きできるので、楽しみにしてますよ
皆様、ここまで読んでくださりありがとうございます
主人公・入野菜月さんの夫である上條昂希さんの登場で、これからどのように、物語が進んでいくのか
どうぞ、次回もお楽しみに
浅田 瑠璃佳