【34話】ある豪勢なお屋敷で【web小説】 | 浅田瑠璃佳@物書きブログ✡✡言の葉の楽園✡✡

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突如左頬に与えられた痛みに、菜月(なつき)は我に返った。



菜月の頬を打った花梨那(かりな)は、青白い顔をして菜月を睨んでいた。

「……恐ろしい女ね。」

あらゆる感情の入り交じった、花梨那の声。

いまだかつて見たことのない彼女を、菜月はただ呆然と見つめるほかなかった。

「……和雄さんは私の夫なのよ。」

燃えるような花梨那の目には、菜月への憎悪がありありと感じられた。

「……はあ、一体、一体どうすればいいの……?」

しかし突然、花梨那は先程とは打って変わって弱々しく言葉を吐いた。

その様子に、菜月は目を見張った。

「……跡継ぎである子を、もうけなくちゃいけないの。」

一筋の涙が、花梨那の頬を伝った。


彼女の涙する姿は、悲壮感を湛(たた)えてもなお美しい。

か細く震える声で、花梨那は言葉を続けた。



「私は私の義務を果たさなくてはいけないのに、和雄さんは私に触れようともしない……まさかこんなことになるなんて……お母様にも、天国のお父様にも顔向けできない……。」

菜月はハッとした。

「(まさか、和雄さん、花梨那様と初夜を過ごしていない………!?)」

花梨那は虚ろな目で、口元にだけ笑みを浮かべて菜月を見やった。

「あなたには分からないでしょうね、こんな気持ち。」

悲しみに打ちひしがれた花梨那の姿に、菜月の心は痛んだ。

「いつだって次期社長夫人の義務を負わされて追い詰められている、私の気持ちなんか……。」

「……若奥様……。」

菜月は愕然とした。

目の前の美しい令嬢は、自分が手に入れたくても手に入れられないものを何でも持っている。
ものすごく恵まれた女性だと。

そう思っていたのに。

「(……私、何も、知らなかった……。 )」

とてつもない罪悪感に襲われた菜月は、思わず花梨那に向かいその場にひれ伏した。

「……若奥様、申し訳ございませんでした……。 私………、貴方様の苦しみを、何も分かっておりませんでした……。」

泣きながら懺悔する菜月を、花梨那は冷たく見下ろしていた。

そしておもむろに、口を開いた。


「……あなたにも、同じ苦しみを味あわせてあげるわ……。」


花梨那の言葉に、菜月の体は凍りついた。

「……若奥、さま……?」

菜月が恐る恐る問いかけるも、花梨那は何も答えずに背を向けてその場を後にした。



「(……同じ、苦しみ……?)」

遠ざかっていく背中を見つめながら、菜月は先程の花梨那の言葉を思い返す。

「同じ、って、どういうこと……?」

彼女は妙な胸騒ぎを覚えた。

これから何かが起こる。
恐ろしい、何かが……。

菜月は思わず両手を組み、目を閉じた。

「……ああ、神様、どうか……どうかお救いくださいませ、どうか……。」

孤児院にいた頃、これでもかと言うほど神に祈りを捧げてきた菜月だが、この時ほど心から神にすがったのは生まれて初めてであった。



To be continued



~登場人物紹介~


菜月:入野菜月(いりの なつき)。屋敷の新人メイド。20代前半の地味な容姿の女性。幼少期から両親がおらず修道院付属の孤児院で育つ。屋敷の御曹司であり次期社長・和雄(かずお)に身分違いの恋をし、本人にも想いを伝えている。その恋心は、和雄の妻である花梨那にも知られてしまっている。


花梨那:神山花梨那(こうやま かりな)。旧姓は院上寺(いんじょうじ)。屋敷の御曹司・和雄の妻であり次期社長夫人。20代前半の栗毛色の髪を持つ、華やかな美しい女性。父は早くに病死し、母がやり手の経営者となる。裕福な屋敷で育つ。神山家に嫁ぐ前に、自分の屋敷の使用人・前島健吾(まえしま けんご)に想いを打ち明けられている。



ハート小説「ある豪勢なお屋敷で」第1話はこちらから→ 



~追伸~

TATSUさん、メッセージありがとうございます花束

カラオケとボーカルの違い、共感してくださって嬉しい限りですおねがい

ありがとうございますびっくりマーク

不定期更新ですが、これからも小説をご覧になってくださると嬉しいですほっこり


カメrurikaカメ